【第159話】「ヴァルキリー、発進」
【第159話】「ヴァルキリー、発進」
ヴェルドラコン出航から28日目 — 艦内標準時 23:04~23:17 場所:ASTRAEON VELORIA格納庫 → ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN周辺戦闘宙域 視点:レア・ヴァレン → カリスタ・フェロ → ヴェスペラ・ノクス・オーレル → セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン → レア・ヴァレン
視点:レア・ヴァレン
「レア、最終点検が完了しました。Vector Caliperは出航許可を受けられる状態です」
ヴァルキリーのコックピットにあるスピーカーから、セラフィエルの声が聞こえた。
私は一度深呼吸してから、目の前の画面をもう一度確認した。
格納庫の外では、今も戦闘が続いている。ASTRAEON VELORIAはアルケイオン艦隊の連携を部分的に乱すことに成功していたけれど、接触反応04と表示された艦は、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNの後部へ向けて移動を続けていた。
その部分は、主エンジン二基への攻撃によって、すでに致命的な損傷を受けている。
もしまた砲撃されたら、そこから避難している機関部の乗員がどうなってしまうのか、想像したくもなかった。
「セラフィエル、Vector Caliperには敵の位置情報がもう届いてる?」
「はい。艦載AIは、作戦区域の境界と、引き続き識別確認が必要な標的の一覧を含む、関連する戦術地図を受信しています」
続いて、別の声が聞こえた。
『レア、こちらVector Caliper。航法システム、主兵装、およびミサイル装置の初期点検が完了しました。運用指示を待っています』
私は笑顔になった。
「よし! 一緒に仕事をする初日から、いきなり大仕事だね!」
『本作戦の脅威レベルは高いと分類されています。今後のすべての飛行において、これを標準としないことを推奨します』
「あはは! なんだ、冗談も言えるんだ!」
『先ほどの発言は安全上の推奨事項です』
私はますます笑ってしまった。
「分かった、分かった。ユーモアのセンスについては、あとで話そうね」
右側の画面に、紬からの通信が入った。
『レア、よく聞いてくれ』
「うん、紬」
『ヴァルキリーの作戦を指揮するのはお前だ。Vector Caliperは支援艦であって、敵の陣形全体を強行突破するために使っていい乗り物じゃない。セラフィエルはASTRAEONからお前を支援し、Vector Caliperの艦載AIは自艦の運用を担当する。通信が妨害された場合でも、その役割分担は変わらない』
「了解」
『最初の目標は、ASTRAEAの損傷した側面へ向かっているアルケイオン艦だ。敵が護衛のモビルフレームを出してきても、誘いに乗って防護区域の外まで追いかけないように』
「ちゃんと進路を守るよ」
『それと、もう一つ』
「何?」
『Vector Caliperが撃つのを見て喜びすぎて、自分もまだ戦場にいることを忘れないようにな』
私は唇を尖らせた。
「私だってプロのパイロットなんだからね!」
紬が短く笑った。
『分かってる。だからこそ、この部分をお前に任せるんだ』
通信が終了した。
私はしばらく黙っていた。
それから、自然と笑みが変わった。
「よし。今度は全部、きっちりやり遂げてみせる」
ヴァルキリーのコックピット照明が完全に点灯する。
MOBILE FRAME — VALKYRIE
| システム | 状態 |
| ----------------- | ----- |
| 飛行制御 | 準備完了 |
| 機動システム | 正常 |
| 主兵装 | 準備完了 |
| 救助用装備 | 装着済み |
| ASTRAEONとの通信 | 接続済み |
| Vector Caliperの支援 | 接続済み |
| 発進許可 | 認証待機中 |
私は格納庫との通信を有効にした。
「カリスタ、準備できたよ!」
『知ってる。もう三回も聞いた』
「今度こそ、本当に準備できたの!」
『だったら、ちゃんと座って、あたしに仕事を終わらせてくれ』
私は笑いながら、安全ベルトを締め直した。
ヴァルキリーの隣では、Vector Caliperが出航手順を開始している。
その中型艦はASTRAEON VELORIAと比べればずっと小さいけれど、その姿からは、実際の任務を遂行するために造られた艦だという印象を受けた。船体のラインは力強く、それまで安全構成に置かれていた兵装も、今は作戦計画に合わせて準備されている。
私は格納庫のカメラを通じて、その姿を眺めた。
「ようやく一緒に飛べるね、Vector Caliper」
『あなたの作戦を支援する準備はできています、レア』
「よし。私に置いていかれないでよ!」
『モビルフレームの巡航速度および機動特性は、多目的中型艦と直接比較できるものではありません』
「セラフィエル、この子、本当に真面目すぎるよ!」
セラフィエルが優しく笑った。
「何度か任務を一緒にこなせば、きっと気が合うと思いますよ」
視点:カリスタ・フェロ
「レア、発進ランプが切り替わる前にヴァルキリーを動かしたら、こっちからロックするからな」
『まだ動かしてないってば!』
「よし。そのままにしとけ」
あたしは格納庫の管制室に立ち、二つの端末で進行する準備手順を見守っていた。
左側ではヴァルキリーが発進位置についている。右側では、Vector Caliperが兵装マウントとミサイルシステムの最終点検を終えようとしていた。
MCV-01は確かにさまざまな任務を遂行できるよう設計されている。だが、書類上の性能だけを当てにして外へ送り出すつもりはない。
今回の作戦に先立ち、あたしは中距離支援に適した兵装を搭載しておいた。武装艦と、より小型で機動性の高い標的に対処するため、それぞれ異なる運用プロファイルを持つミサイルも含まれている。
だからといって、全部好き勝手に撃っていいわけじゃない。
ASTRAEAの周囲には、無数の残骸と攻撃艦、それに追加の衝撃を絶対に与えてはいけない船体部分が存在している。
ミサイルの選択を間違えれば、救助作業をはるかに難しくしてしまう可能性があった。
「セラフィエル、Vector Caliperのミサイル搭載状況を全部確認してくれ」
「点検完了です。兵装マニフェストと発射装置の構成に、不一致はありません」
「照準システムは?」
「起動しています。兵装の発射認証には、引き続き紬が承認した作戦上の制限が適用されます」
あたしは頷いた。
「よし。Vector CaliperのAI、よく聞けよ」
『聞いています、カリスタ・フェロ』
「あんたの兵装は、全部あたしが搭載したんだ。だから、発射装置に問題が起きたり、内部圧力が変化したり、電力配分に障害が出たりしたら、状況が悪化する前に報告すること。戦闘能力を維持したいからって、損傷を隠すんじゃないぞ」
『指示を受領しました。安全手順に従い、損傷の点検と報告を優先します』
「そうそう。そういう返事が好きなんだよ」
あたしは表示を格納庫の構造図へ切り替えた。
Vector Caliperの出航経路は点検済みだ。発進区域と艦のほかの部分を隔てる隔壁も安全な状態にあり、気圧の変化が契約貨物の区画へ影響することはない。
最後に、見落としたくない項目をもう一度確認する。
「セラフィエル、C-145-MCの貨物は?」
「引き続き安全です。モジュール式固定装置は作動中、慣性ダンパーも安定しており、貨物群の位置に変化は確認されていません」
「だったら、発進経路を開けるな」
あたしは指揮デッキへ確認を送った。
『紬、格納庫の準備は完了した。Vector Caliperとヴァルキリーは、合意済みの順序で発進できる。貨物区画への影響もない』
『ありがとう、カリスタ。ヴェスペラが機動可能時間帯の最終確認をしてる。彼女から連絡が入ったら進めてくれ』
「了解」
しばらくして、ヴェスペラの声が入った。
『カリスタ、発進可能です。Vector Caliperを先に待機地点へ向かわせ、その航路が空いてからヴァルキリーを続けて発進させてください』
「受信した」
あたしは出航手順を有効にした。
格納庫の警告灯が切り替わる。
すべての点検が完了したことを確認してから、Vector Caliperの固定装置が解除された。
中型艦はゆっくりと発進経路へ向かって動き始め、やがてヴェスペラから与えられたプロファイルに従って推力を上げていく。
端末上では、その位置を示すインジケーターがASTRAEON VELORIAから遠ざかっていった。
『Vector Caliper、格納庫を離脱しました。待機地点への航路に入ります』
あたしは隔壁と発進システムに異常がないか確認した。
問題なし。
「よし。レア、次はあんたの番だ」
『やっと!』
「許可したことを後悔させるなよ」
『させないってば!』
あたしは次の確認ボタンを押した。
「ヴァルキリー、発進経路クリア。出撃を許可する」
視点:レア・ヴァレン
「ヴァルキリー、発進!」
私は操縦桿を押し込んだ。
私のモビルフレームがASTRAEON VELORIAの格納庫を飛び出し、兵装の閃光に照らされた宇宙空間へと躍り出る。
一瞬で、コックピットの画面が無数の位置マーカーに埋め尽くされた。
背後に見えるASTRAEONは、今や戦闘構成を展開した巨大な要塞のようだった。前方の所定の距離には、Vector Caliperが計画どおり待機位置についている。
そして、そのさらに向こうでは、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNが依然として戦闘宙域の中央にいた。
皇室艦船の姿は、見るに堪えないほど痛々しかった。
船体後部はひどく損傷し、主エンジン二基からは、もう正常な推力放射が確認できない。外装の一部は、残された防護構造によって、辛うじて支えられているようにも見えた。
私は、すぐに速度を上げたい衝動を抑えた。
「セラフィエル、接触反応04の位置は?」
「引き続きASTRAEAの後部へ向かっています。ただし、アルケイオンの護衛艦の一隻から、新たに三つの小型接触反応が分離しました」
画面に三つのマーカーが現れた。
「モビルフレーム?」
「はい。機体構成と動きは、戦闘用モビルフレームと一致しています。接触反応04を迎撃するために、あなたが使用すると予想される経路へ向かっています」
私はにやりと笑った。
「つまり、お出迎えに来てくれたわけだ」
すぐに紬が通信へ割り込んできた。
『レア、目的を忘れないでくれ。お前を引き離そうとしても、追いかけないように』
「分かってる。Vector Caliperの支援が届く場所まで、向こうから来てもらうよ」
『よし』
私は少し針路を変えた。
Vector Caliperは所定の距離を保ちながら、私と並行して移動している。ヴァルキリーの機動を妨げない程度には離れ、それでいて兵装による支援が可能な位置だ。
『レア、敵モビルフレーム三機が接近しています』と中型艦のAIが報告した。『ローカル観測による捕捉を完了しました。標的の割り当てを待機しています』
「ミサイルはまだ使わないで。まずは動き方を見たい」
『了解しました』
アルケイオンのモビルフレーム三機が、それぞれ異なる方向から接近してきた。
一機目は私の注意を引こうと、正面からまっすぐ向かってくる。残る二機は左右へ分かれ、私が正面の相手に対応している間に、攻撃角度を確保するつもりらしい。
理にかなった戦法だ。
残念ながら、向こうは私が一人じゃないことを知らない。
「セラフィエル、左へ動いてるやつをマーキングして。Vector Caliperは、私の背後に回ろうとしてる機体を見張ってて。正面のやつは私が相手する!」
「了解しました、レア」
『標的の割り当てを受領しました』
一機目が発砲した。
私はヴァルキリーを横へ滑らせ、短い機動噴射で機体を回転させる。
ほんの少し前まで私がいた場所を、兵装の閃光が通り過ぎていった。
私はヴァルキリーのライフルで反撃した。
初弾が敵機のシールドに命中する。
相手はすぐに方向を変え、距離を広げようとした。
「そう簡単にはいかないよ!」
私は推力を上げ、Vector Caliperの支援を維持できる範囲内で追撃した。
二機目が左側から横切ろうとする。
画面に警告が現れた。
「レア、左側の接触反応が射撃準備に入っています」とセラフィエル。
「見えてる!」
私はヴァルキリーの向きを反転させ、横方向への噴射を使って射線から離脱した。
敵の砲撃が機体の脚部の下を通過する。
同時に、Vector Caliperが支援兵装を起動した。
『右側の護衛機が、ヴァルキリーへの射撃角度を確保しました。制圧射撃の許可を求めます』
「許可する!」
Vector Caliperの兵装から放たれた閃光が、その機体の接近経路を薙いだ。
無秩序な射撃ではない。
中型艦のAIは、アルケイオンのモビルフレームに攻撃位置からの離脱か、直撃を受け入れるかの二択を迫る射線を選んでいた。
相手は回避を試みる。
初弾は肩の近くを通過したものの、続く砲撃が片側の機動装置に命中した。
小さな爆発が発生する。
モビルフレームは姿勢を崩し、制御不能のまま回転し始めた。
「いいぞ、Vector Caliper!」
『標的は安定した機動能力を喪失しました。脅威が再び活動しない限り、追加攻撃は行いません』
「そのとおり!」
私は再び一機目へ向き直った。
どうやら相手も、単独で私を追いかけるのは得策ではないと理解したらしい。二機目に援護射撃をさせながら、母艦の方向へ撤退しようとしていた。
もちろん、私は大型艦の射線へ飛び込むような場所まで追いかけるつもりはない。
「セラフィエル、二機目の射線を見せて!」
赤いラインが表示された。
「一機目を追跡し続けた場合、ヴァルキリーの後方を攻撃できる位置を取ろうとしています」
私は笑った。
「だったら、追いかけないよ」
私は一瞬だけ主推進を切り、ヴァルキリーの向きを変えてから、横方向のスラスターを作動させた。
二機目は、その方向転換を予想していなかったようだ。
私がすでに離れた位置へ向けて発砲する。
私は照準を固定した。
「捉えた!」
ヴァルキリーの連続射撃が、敵機の胴体部分と機動装置の接続部に命中した。
最初の衝撃はシールドに吸収された。
しかし、続く砲撃が残された防護を貫いた。
モビルフレームの中央部から、大きな閃光が走る。
そして、機体が爆発した。
金属片があらゆる方向へ飛び散り、宇宙空間の中央で白みがかった青い光がゆっくりと薄れていく。
私は、ほんの一瞬だけ言葉を失った。
爆発の前に、コックピットの射出信号も、パイロットが機体を離脱できたことを示す反応もなかった。
それが何を意味するのかは、分かっている。
これは訓練シミュレーションじゃない。
あのモビルフレームの中にいた人は、おそらく今、命を失った。
けれど、相手は私を攻撃していたし、ヴァルキリーへ発砲できる位置まで来ていた。
驚きのせいで、戦闘の真っただ中で動きを止めるわけにはいかなかった。
「レア、一機目が再び動き始めました」とセラフィエルが告げた。
「分かってる。引き続き監視して」
私は、まだ動いている金属片から離れるようにヴァルキリーを移動させた。
画面には、再び支援位置にいるVector Caliperが映っている。
『レア、主たる攻撃艦がASTRAEAへ向けて速度を上げ始めました。そちらへの対応を再優先することを推奨します』
私は頷いた。
「そうだね。二機はもう攻撃陣形から外れたし、残りの一機は撤退中。追いかけてる暇はないよ」
私は指揮デッキとの通信を開いた。
「紬、護衛のモビルフレームは制圧できたよ。接触反応04の迎撃経路へ戻る!」
『よし。ASTRAEAの船体側面には近づきすぎないように。Vector Caliperにも、あの艦の進路を遮るのを手伝ってもらう』
「了解!」
私は推力を上げた。
次は、主目標の攻撃艦の番だ。
視点:ヴェスペラ・ノクス・オーレル
「紬、レアはモビルフレームによる陽動から離脱できました」
私は、ヴァルキリーが主経路へ戻っていく様子を示す投影図を拡大した。
Vector Caliperは支援位置にあり、双方の機動の自由を維持できるだけの距離も確保している。
その前方では、アルケイオンの接触反応04がASTRAEAの後部へ、さらに接近していた。
相手に望みどおりの射撃位置を確保させてしまえば、主推進能力を失った皇室艦船は、さらに攻撃を受ける危険に晒される。
「どれくらい時間がある?」と紬が尋ねた。
「迎撃可能な時間帯は狭まり続けています。接触反応04がまだ速度を変化させているため、単一の数値ではお答えしたくありません。ただし、先ほど送信した航路に従えば、Vector Caliperが先に射撃角度を確保できます」
「ASTRAEAへの危険は?」
「現在位置から接触反応04の後部を直接射撃するのは危険です。しかし、Vector Caliperが相手の航跡の外側を通れば、標的の背後にASTRAEAが入らない攻撃角度を確保できます」
セラフィエルが補足した。
「最新データに基づき、ミサイルの飛翔経路を確認しました。回避すべき残骸はまだ存在していますが、限定的な攻撃回廊は確保できます」
私はVector CaliperのAIへ座標を送信した。
「Vector Caliper、こちらヴェスペラ。今送信した航路に従ってください。ASTRAEAの真後ろへ直接回り込んではいけません。接触反応04に、接近を続けるか、外側からの攻撃へ対処するかを選ばせます」
『航路を受信しました。針路修正を開始します』
レアがすぐに尋ねてきた。
『私はどこを取ればいい?』
「内側を維持してください。ただし、Vector Caliperと攻撃艦のちょうど間には入らないように。接触反応04が支援艦から逃れるために針路を変えようとした場合、その動きによって生じる空間を、あなたが塞げるようにしておく必要があります」
『了解!』
私は味方を示す二つのマーカーが動くのを見守った。
Vector Caliperは、短距離での方向転換ではヴァルキリーほど速くない。しかし、中型の武装艦を制圧するには、はるかに適した兵装を備えている。
だからこそ、支援艦のほうが適切に対処できることのために、レアのモビルフレームを危険に晒したくはなかった。
「セラフィエル、接触反応04がVector Caliperを警戒し始めました」と私は告げた。
「こちらでも確認しています。相手のローカルセンサーの活動が増大しています」
紬が近づいてきた。
「撃ってくるかな?」
「その可能性は高いでしょう」
私は回避経路を更新した。
「Vector Caliper、備えてください。攻撃艦があなたへ向けて兵装の向きを変えています」
『警告を受信しました。防御システムを起動します』
しばらくして、接触反応04が連続射撃を行った。
Vector Caliperが針路を修正する。
砲撃の一部は船体の横を通過した。
一発が外側の防護に命中し、シールドのインジケーターが一瞬低下したものの、システムはすぐに電力配分を調整した。
『被弾を検知しました。シールドは引き続き機能しています。重大な構造損傷はありません』
「今の位置からは反撃しないでください」と私は命じた。「射線の先にASTRAEAが近すぎます」
『了解しました』
紬が私を見つめた。
「もっといい角度を取れそう?」
私は接触反応04の針路変更を確認した。
そのとき、一つの好機が現れた。
「可能です。相手はVector Caliperを追うことに意識を向けすぎています。中型艦が次の軌道修正を維持し、レアが内側を塞げば、接触反応04は安全に向きを変えられる余地を失います」
「実行してくれ」
私は通信を開いた。
「レア、今です。内側から、相手が現在の針路を維持せざるを得ないようにしてください。こちらでマーキングした限界より、船体へ近づいてはいけません」
『了解!』
ヴァルキリーが接触反応04の側面へ素早く移動する。
アルケイオン艦はすぐに点防御システムの向きを調整した。
しかし、その動きによって、艦の向きが予測どおりに変わった。
Vector Caliperが、より有利な角度を確保する。
「攻撃角度を確保しました」と私は報告した。「ASTRAEAは主射線の外側にあります」
紬がセラフィエルへ顔を向けた。
「標的を確認してくれ」
「接触反応04は現在も兵装を稼働させており、ASTRAEAへの攻撃経路上に留まっています」
「Vector Caliper、あの艦を停止させるための限定攻撃を許可する。ASTRAEAの方向へは撃たないこと」
『命令を受領しました』
私は航路を維持した。
あとは、二人の連携にかかっている。
視点:レア・ヴァレン
「ほらほら! こっちを見なさい!」
私はヴァルキリーを動かし、接触反応04の進路前方を横切った。
アルケイオン艦は私よりはるかに大きい。支援もなしに、モビルフレームで真正面から相手をするようなことはしたくなかった。
でも、私一人で破壊する必要なんてない。
あの艦長に、ASTRAEAへ向かう航路を維持することが不安になるよう仕向ければ、それでいいのだ。
複数の点防御兵装が、こちらへ向きを変え始める。
コックピットに警告が表示された。
「レア、四つの照準反応が有効になっています」とセラフィエルが報告した。
「見えてる!」
私は方向を変え、一つの兵装群の有効射程の外縁を通過した。
連続射撃が背後を通り過ぎる。
アルケイオン艦が向きを変えようとした。
それこそ、私たちが待っていた動きだ。
『レア、Vector Caliperが接触反応04の外側側面に対する射撃解を取得しました』
私はにやりと笑った。
「よし! やっちゃえ!」
すぐに紬の声が入る。
『Vector Caliper、与えられた制限に従って攻撃してくれ』
『認証を受領しました』
支援位置にいるVector Caliperが、主兵装を発射した。
眩い閃光がアルケイオン艦へ向かって走る。
初撃が外側のシールドに命中し、船体側面の周囲に光が広がった。
敵艦は針路を変えようとした。
しかし、その角度から離脱するより先に、次の砲撃が標的としてマーキングされていた兵装部分へ命中する。
艦の側面で爆発が発生した。
「命中!」
『着弾を確認しました。接触反応04の兵装群の一つが活動を停止しました』とセラフィエルが報告した。
しかし、あの艦はまだ止まっていなかった。
攻撃を受けてもなお、艦首をASTRAEAへ向けようとしている。
私は奥歯を噛み締めた。
「まだ皇室艦船を撃つつもりなの!?」
『レア、近づきすぎて追跡しないでください』とヴェスペラが言った。『新しい航路を送信しています』
「受信した!」
私は画面に現れた航法ラインに従った。
そのとき、突然、新たな脅威マーカーが点灯する。
「攻撃艦からモビルフレームの発進を検知しました!」とセラフィエルが報告した。
接触反応04の側面から、小型の二機が分離した。
一機はまっすぐヴァルキリーへ。
もう一機はVector Caliperの方向へ動いていく。
私はため息を吐いた。
「本当に、いつやめればいいのか分からない人たちだね!」
私は機体の向きを変え、ライフルを構えた。
一機目が発砲しながら接近してくる。
私は下方へ回避すると、機動噴射でヴァルキリーを回転させ、相手が予想していなかった角度から撃ち返した。
砲撃が敵機の外側の防護部分に命中する。
まだ動いている。
「なかなか頑丈じゃない!」
相手は反撃しようとした。
私は安定した射撃位置を取らせなかった。
ヴァルキリーを斜めに滑らせ、敵機が旋回したことで姿を現した機動装置へ、次の連続射撃を叩き込む。
閃光が走った。
アルケイオン機は片側の推力を失い、回転し始める。
「これでもう一機、進路から外れた!」
しかし、二機目はすでにVector Caliperへ向かっていた。
『警告。敵モビルフレームが当艦の後方区画へ接近しています』
私は振り向いた。
「Vector Caliper、対処できる?」
『点防御を起動できます。ただし、標的は短い周期で方向を変更しており、当艦の機動経路にも近接しています』
セラフィエルが続けた。
「レア、今引き返せば、接触反応04が再びASTRAEAへ向かう機会を得てしまいます」
私は唇を引き結んだ。
そうだった。
向こうは、私たちの注意を分散させようとしているんだ。
Vector Caliperを助けたい。
でも、今ここを離れてしまったら、さっきまでの連携が全部無駄になってしまう。
「Vector Caliper、その機体は自分で対処して! 私は接触反応04を抑え続ける!」
『了解しました、レア』
中型艦は、点防御兵装の一部だけを敵機へ向けた。
アルケイオンのモビルフレームは後方から接近しようとしている。おそらく、自分の機体が小さいことを利用して、Vector Caliperに射撃角度を確保させないつもりなのだろう。
初撃は敵機の近くを通過した。
相手は鋭く回避する。
しかし、Vector CaliperのAIは、艦全体を動かして追いかけようとはしなかった。主要な航路を維持したまま、必要な兵装群だけを調整している。
『射撃解を更新しました』
次の連続射撃が、モビルフレームのシールドに命中した。
相手は撤退を試みる。
遅かった。
Vector Caliperの発射装置から小型ミサイルが一発放たれた。その飛翔経路は、爆発がASTRAEAの船体近くで発生しないよう、あらかじめ計算されている。
敵機は最後の回避機動を試みた。
しかし、ミサイルは方向を修正し、その機体に命中する。
画面の一角が、眩い爆発の光で満たされた。
光が薄れたあと、残っていたのは、四方へ散っていくモビルフレームの破片だけだった。
その機体から救難信号は出ていない。
私は一瞬、言葉を失った。
『標的の戦闘活動は完全に停止しました』とVector CaliperのAIが報告した。
「……よし。接触反応04へ注意を戻して」
私は息を吸い込んだ。
戦闘はますます激しさを増していた。
私たちが相手にしているのは、ASTRAEAの生存者を殺そうとしていて、こちらへの攻撃にも躊躇しない人たちだと分かっている。
それでも、モビルフレームが爆発するのを見ると、赤いマーカーの一つひとつの向こうに、二度と自分の艦へ帰れないかもしれない誰かがいるのだと思い知らされた。
長く考え込んでいる時間はない。
接触反応04が再び動き始めた。
そして今度は、Vector Caliperがそれを止めるのに適した位置についている。
視点:アルケイオン士官 — 接触反応04
「外側のシールドが低下! 右舷兵装が応答しません!」
着弾によって指揮中枢が揺れるなか、攻撃艦の艦長は椅子の肘掛けを強く掴んだ。
「主目標へ艦の向きを戻せ! もう少しで射撃角度を確保できるんだ!」
「できません、艦長! 敵のモビルフレームが、まだ我々の進路の内側にいます!」
「ならば追い払え!」
兵装士官は自分の端末を見つめた。
「点防御群は調整中です! しかし、敵の支援艦が外側から攻撃を続けています!」
艦長はメインスクリーンへ顔を向けた。
Vector Caliperは、彼らの艦と直接衝突する必要のない距離を保ちながら、兵装を有効に使用できる位置を移動している。
その中型艦は、彼の予想をはるかに上回る危険な存在だった。
当初、彼らはASTRAEONから発進したモビルフレームこそが主な脅威だと考えていた。支援艦の役割については、装備の輸送と限定的な援護程度にすぎないと予想していたのだ。
しかし今、彼らの兵装群の一つは機能を失っている。
敵を追い払うために送り出したモビルフレーム二機も、もはや支援を行えていなかった。
「護衛機の状況は!?」
「一機目は機動能力を喪失しています。二機目は……」
通信士官が言葉を詰まらせた。
「報告しろ!」
「二機目は、敵支援艦のミサイルを受けて撃破されました。パイロットからの応答はありません」
艦長は画面を見つめた。
その機体のマーカーは、すでに消えていた。
彼はあのパイロットを知っていた。
数時間前には、今回の作戦が終わったあとの交代勤務について話していたばかりだった。
しかし今、通信回線から彼の声が聞こえることはない。
「指揮艦へ支援要請を送れ!」
「送信中です!」
突然、別の警報が鳴った。
「艦長! 敵の中型艦が、再びこちらの兵装側面を照準に捉えています!」
「回避機動!」
「十分な空間がありません!」
艦長は投影図を見つめた。
モビルフレームのヴァルキリーが、まだ内側の位置を維持している。そのせいで、ASTRAEA周辺の危険宙域へ突っ込まずに利用できる針路変更は、限られていた。
そして外側にはVector Caliperがいる。
彼らは、予想をはるかに上回る連携を見せる二つの敵に挟み込まれていた。
「残っているシールドをすべて起動しろ!」
「電力配分を切り替えています!」
しかし、その処理が終わるより先に、接近ミサイルの警告が点灯した。
一つ。
続いて、さらに複数のマーカーが現れる。
艦長は喉が乾いていくのを感じた。
「全部撃ち落とせ!」
視点:レア・ヴァレン
『レア、接触反応04は依然として兵装を稼働させています。ASTRAEAへ向かわないミサイル発射経路を確保しました』
私は画面を見つめた。
Vector Caliperは、すでにヴェスペラが計画した位置についている。
アルケイオン艦は針路を変えようとしていたが、損傷と、航路の内側にいる私の位置によって動きを妨げられていた。
「セラフィエル、射線は本当に安全?」
「ヴェスペラとともに確認しました。ASTRAEAは攻撃回廊の外側にあります。ただし、ミサイルが到達するまでは、引き続き標的の方向変更を監視する必要があります」
私は頷いた。
「紬、接触反応04はまだASTRAEAの後部へ兵装を向けようとしてる!」
すぐに返答が入った。
『見えてる。Vector Caliper、脅威を停止させるため、接触反応04の攻撃システムと推進系への攻撃を許可する』
『命令を受領しました』
私はヴァルキリーの位置を維持した。
外側から、Vector Caliperが、カリスタによって事前に準備されていた一連のミサイルを発射する。
発射装置から、短い光の軌跡がいくつも伸びた。
ミサイルは、すべてが同じ経路を進むわけではなかった。一部はアルケイオン艦の点防御システムに対応を分散させるための経路を取り、残るものはセンサー情報に基づいて選択された標的へと向かう。
敵艦が迎撃射撃を開始した。
一発のミサイルが、船体へ到達する前に爆発する。
別のミサイルも迎撃され、有効な攻撃経路から外れた。
しかし、残りの数発が接近を続ける。
「お願い……!」
アルケイオン艦の外側で、大きな爆発が発生した。
続けて、二度目の爆発。
それまで稼働していた兵装部分から放射反応が消え、推進構造の付近にも新たな損傷が確認された。
接触反応04は、最後の針路修正を試みる。
その直後、損傷していた船体部分の内側から、眩い光が溢れ出した。
私は目を細めた。
「セラフィエル!?」
「接触反応04の内部システムに連鎖的な損傷が発生しています」
セラフィエルが言い終わるよりも早く、先ほどまでとは比較にならないほど大きな爆発が、アルケイオン艦の側面を引き裂いた。
船体構造の破片が外へ飛び散る。
船体が裂け、やがて残された艦は、爆心から遠ざかっていく無数の破片へと姿を変えた。
コックピットの画面上で、接触反応04の表示が活動中の艦から残骸の発生源へと切り替わる。
私は言葉を失った。
「……壊れたの?」
「接触反応04は構造的な健全性を喪失しました。推進機関および兵装システムの活動は、もはや確認できません」
しばらくして、Vector Caliperの声が聞こえた。
『標的は攻撃を継続できなくなりました。外側の宙域へ移動する残骸を検知しています。衝突を回避するため、位置を変更します』
私は、ゆっくりと薄れていく爆発の光を見つめた。
さっきの艦には、きっと大勢の人が乗っていた。
何人いたのかは分からない。
全員が脱出できたと考える理由もなかった。
それでも、あの艦を止められなければ、次の攻撃によって、ASTRAEAの負傷者たちが搬送されている区域が破壊されていたかもしれない。
私は操縦桿を握り締めた。
「Vector Caliper、よくやったね。残骸を避けて、支援位置へ戻って」
『了解しました、レア』
続いて、紬が話しかけてきた。
『レア、大丈夫か?』
「大丈夫。ヴァルキリーに目立った損傷はないよ」
『よかった。ほかの艦を追いかけないでくれ。ASTRAEAの後部へ向かっていた脅威は止められた。今は、その宙域を維持してほしい』
「了解」
私はASTRAEAの映像へ目を向けた。
皇室艦船がひどく損傷していることに変わりはない。
けれど、格納庫を出てから初めて、主エンジン部分へ直接攻撃できる経路上に、アルケイオン艦が一隻もいなくなっていた。
私は小さく笑った。
「少しだけ、道を開けられたね」
セラフィエルが優しく答えた。
「今のところは、そうですね。ただし、救助作戦はまだ始まっていません。これから、その状態を維持しなければなりません」
「分かってる」
視点:セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン
「殿下! 我々の後部へ向かっていた攻撃艦が、撃破されました!」
私は勢いよく振り向いた。そのあまりの速さに、端末の隣に立っていたミレルが少し驚いたほどだった。
「記録を表示して」
ASTRAEAのセンサーが捉えた映像が、メインスクリーンに現れる。
そこには、航路の外側を移動する一隻の中型艦と、内側の位置を維持する救助側のモビルフレームが映っていた。
両者は、別々に戦っていたわけではない。
モビルフレームがアルケイオン艦の機動の選択肢を制限し、支援艦はその結果として生じた攻撃角度を利用していた。
そして、連続するミサイルの軌跡が見えた。
何発かは迎撃された。
しかし、その後の着弾が連鎖的な損傷を引き起こし、攻撃艦は船体の健全性を失った。
巨大な爆発が画面を満たす。
私の背後にいた若い士官の一人が、反射的に息を呑んだ。
「あの艦が……本当に、破壊された……」
私は答えなかった。
軍事作戦について学んできた者として、艦の重要システムへの攻撃が成功した場合に、どのような結果が生じるのかは理解している。
しかし、戦闘後に報告書を読むことと、目の前でそれが起きるのを見ることは、やはり違った。
今しがた破壊された艦の中にも、乗員がいた。
彼らは私たちを攻撃していた側だ。それでも、彼らの艦が破壊されたということは、まだ数さえ把握できないほどの命が失われた可能性を意味している。
それを祝う気にはなれなかった。
私が安堵したのは、ASTRAEAの後部へ向かう攻撃経路から、ようやく直接的な脅威が取り除かれたという事実だった。
「救助側の艦の状態は?」と私は尋ねた。
ミレルがすぐに観測結果を確認した。
「ASTRAEON VELORIAは引き続き支援位置を維持しています。中型艦とモビルフレームも、両方とも活動中です」
「私たちの船体へ接近している?」
「いいえ、殿下。損傷箇所から距離を保っています」
私はゆっくりと頷いた。
正しい判断だ。
攻撃艦を破壊したあと、彼らは隙間ができたという理由だけで、すぐにASTRAEAの周辺宙域へ飛び込んでくることはなかった。
今も周囲の状況を警戒している。
ただ自分たちの力を示したいだけの者なら、逆の行動を取っていたかもしれない。
「ミレル、星崎艦長を呼び出して」
「承知しました、殿下」
救難チャンネルが再び開かれた。
数秒後、以前ASTRAEONを代表して通信を送ってきた女性の声が聞こえた。
『ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN、こちらはセラフィエル・ヴェロリアです。呼び出しを受信しました』
私は端末へ近づいた。
「セラフィエル、星崎艦長と皆さんに、私からのお礼を伝えてください。機関部へ向かっていた攻撃艦は、もう攻撃を継続できなくなりました」
『お言葉はお伝えします、殿下』
「モビルフレームのパイロットと、支援艦の状態はどうなっていますか?」
『どちらも活動中です。現在、交戦後の運用状態を確認しています』
私は安堵の息を吐いた。
「よかった……」
そのとき、ミレルが新しい報告書を差し出した。
私は素早く目を通した。
医療班は今も機関部の重傷者に対応している。しかし、気圧が維持された経路を使った人員搬送は、少しずつ進展を見せ始めていた。
ようやく、わずかに息をつける余裕が生まれた。
「セラフィエル、こちらの技術班が、外部避難アクセスを再評価しています。救助艦を物理的に受け入れる準備はまだできていませんが、近いうちに安全な経路を特定できるかもしれません」
『了解しました。すべての気圧条件と砲撃の脅威を確認するまで、外部隔壁は開かないでください。こちらでも、主な射線を横切らずに済む接近可能な時間帯を探しています』
「分かりました。通信は引き続き維持します」
通信が終了した。
私はもう一度、あの中型艦の映像を見つめた。
Vector Caliper。
救助側からの更新情報に添えられた内部通信識別情報には、その名前が表示されていた。
ASTRAEON VELORIAよりはるかに小さな支援艦。
それでも、ASTRAEAの後部へ到達する寸前だったアルケイオン艦を止めるには、十分な力を持っていた。
そして、それを護衛していたモビルフレームも……。
あのパイロットは、作戦の目的を見失わずに戦う方法を、本当によく理解している。
「殿下」と戦術士官が言った。「星崎艦長は、いったい何者なのでしょう?」
私はASTRAEONの映像を見つめた。
「彼はもう、自分が何者なのか説明してくれています。輸送契約を遂行中の、独立艦の艦長です」
「ですが、あの艦の能力は……」
「分かっています」
私はかすかに微笑んだ。
「どうやら、公開登録情報だけではASTRAEON VELORIAの能力をすべて知ることはできないようですね。でも、今はそのことを考えている場合ではありません」
私は、端末に開いたままの負傷者報告へ目を落とした。
「まだ助けなければならない人たちがいます。そちらに集中しましょう」
視点:レア・ヴァレン
私はヴァルキリーをASTRAEAの後部外側に維持しながら、先ほど破壊されたアルケイオン艦の残骸を見守っていた。
Vector Caliperは、私からそれほど離れていない場所にいる。
『レア、兵装使用後の点検が完了しました。主要システムは引き続き正常に機能しています。残存兵装の情報も、作戦報告へ反映しました』
「よし。さっきシールドに当たった攻撃の損傷は?」
『重大な構造損傷はありません。防護能力は引き続き使用可能ですが、理由なく追加の被弾を受けることは推奨しません』
私は笑った。
「いい助言だね。私も、あなたをいつまでも撃たれっぱなしにはしたくないよ」
「レア」と、メインチャンネルからセラフィエルの声が聞こえた。「ASTRAEAの状況について、新しい報告を受信しました。現在、外部避難アクセスの可能性を再確認しているそうです」
「それじゃあ、もう接近を始められる?」
「まだです。別の方向から攻撃圧力を維持しているアルケイオン艦が残っており、安全が完全に確認できていない射線もあります」
私は頷いた。
「じゃあ、ここで待ってる」
戦術画面では、接触反応04を失ったアルケイオン艦隊が、陣形を調整し始めていた。
私に同行している中型艦が、これほどの支援能力を持っているとは、明らかに予想していなかったのだろう。
けれど、一度の交戦に勝ったからといって、私も相手を甘く見るつもりはなかった。
戦闘はまだ続いている。
ASTRAEAも、まだ安全ではない。
私は、自分が担当する宙域全体を見渡せるよう、ヴァルキリーの向きを少し変えた。
「Vector Caliper、外側の監視を続けて。ほかのモビルフレームが近づこうとしたら、この宙域に入ってくる前に教えてね」
『了解しました、レア』
しばらくして、ヴェスペラの声が入った。
『レア、あまり大きく位置を変えないでください。ASTRAEAへの接近経路を再計算しています』
「何か進展があったの?」
『接触反応04が戦闘から脱落したことで、少しずつ隙間ができ始めています。ただし、利用する前に、ほかの艦の動きを確認しなければなりません』
私は皇室艦船を見つめた。
「だったら、その隙間は私が守るよ」
「私も監視の維持をお手伝いします」とセラフィエルが付け加えた。
私は微笑んだ。
「ありがとう、セラフィエル。Vector Caliperもね」
『引き続き支援する準備はできています、レア』と中型艦のAIが答えた。
再び敵のマーカーへ注意を戻そうとした、ちょうどそのとき。
セラフィエルの声が少し変わった。
「紬、ヴェスペラ。一つ見つけました」
私も背筋を伸ばした。
「何?」
「接触反応04が破壊され、アルケイオンの迎撃陣形が変化したことで、ASTRAEAの防護が残る側面へ、主な射線を横切らずに到達できる短い時間帯が生じています」
ヴェスペラがすぐに答えた。
『こちらでも確認しています。ただし、この状態が長く続くとは限りません』
紬が通信を引き取った。
『セラフィエル、その経路が、まだ動いている残骸の間を救助隊に通過させるものになっていないか確認してくれ。ヴェスペラ、アルケイオン艦が再びその経路を照準に捉えた場合、中止できる接近計画を準備してほしい』
『承知しました、紬』
私は、画面に形成され始めた新しい航法ラインを見つめた。
格納庫を出てから初めて、ASTRAEAの防護がまだ残っている側面へ向かう経路が、実際に利用できるかもしれない形で現れたのだ。
私はヴァルキリーの操縦桿を握った。
「紬、接近するって決めたら、私が護衛するよ」
少しして、返事が届いた。
『分かってる、レア。でも、今度は人を助けるために向かうんだ。戦闘に気を取られて、そのことを忘れないでくれ』
私は笑った。
「忘れないよ」
目の前では、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNが今も救難信号を発信し続けている。
けれど、長い間包囲網の中に閉じ込められていたあの艦にも、ようやく人々を外へ運び出すために使えるかもしれない、一筋の道が開かれようとしていた。
【次話予告・第160話】
「白銀の船へ」
白銀の船へ――ヴェスペラは残骸の位置とアルケイオン艦の動きを考慮しながら、ASTRAEAの防護が残る側面への接近経路を調整する。レアが避難経路を護衛する一方、セラフィナと残された乗員たちは、生存者をまだ安全な状態にある区画から搬送できるよう、準備を進めていく。




