【第156話】「退去勧告と独立傭兵」
【第156話】「退去勧告と独立傭兵」
ヴェルドラコン出航から28日目 — 艦内標準時 22:32~22:43 場所:タラリス外縁通過回廊 — ASTRAEON VELORIAおよびASTRAEA OF THE SILVER LANTERN 視点:星崎紬 → セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン → モード・ラン・ヴァレス → レア・ヴァレン
視点:星崎紬
「セラフィエル、俺の音声をASTRAEAの救難チャンネルに繋いでくれ。直接的なデータ接続は開かないで」
「はい、紬。双方の艦から送信する一方向の音声通信は、引き続き隔離された環境で処理します。検証用の情報として、当艦の公開識別情報も送信できる状態です」
俺は頷き、メインスクリーンを見つめた。
ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNは、依然として包囲網の中央にいる。船体側面の損傷はパッシブ観測だけでも明らかで、攻撃艦の一隻は、先ほどヴェスペラが危険な位置として指摘した角度へ向けて移動を続けていた。
戦術画面の隣には、ASTRAEA側からの要求を表示した通信パネルがある。
セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン。
彼女と話したことは一度もないが、検証を求める姿勢からは、まだ冷静に判断できる状態であることが窺えた。
今のような状況では、見知らぬ艦にいきなり救助へ来いと命令する相手より、よほどありがたい。
「回線の準備ができました」とセラフィエルが告げた。
俺はマイクを有効にした。
「ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN、こちらはASTRAEON VELORIA艦長、星崎紬です。音声は届いていますか?」
しばらくして、静電雑音に混じって返答が届いた。
『聞こえています、星崎艦長。私はセラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコンです。私たちの救難信号に応答していただき、感謝します』
「貴艦の全般的な状況については報告を受けています。話を進める前に、誤解が生じないよう、まずはこちらの立場を説明させてください。ASTRAEON VELORIAは、傭兵協会を通じて登録されている独立艦です。現在、タラリス国境兵站補給拠点へ向かう正式な輸送契約を遂行しています」
俺はセラフィエルに合図した。
彼女が公開チャンネルを通じて、公開識別情報のパッケージを送信する。含まれているのは照合に必要な登録情報だけで、艦内ネットワークへ入るための経路は一切提供していない。
「俺たちは貴艦の護衛部隊の一員ではなく、ヴェルドラコン帝国を代表して軍事作戦を遂行しているわけでもありません」と俺は続けた。「また、通信の条件としてASTRAEAのコンピューターへのアクセスを要求することもありません」
『登録情報を受信しました。少々お待ちください』
一時的に彼女の声が途切れた。
俺はマイクを切った。
「セラフィエル、向こうの回線に不審な動きはある?」
「システムへのアクセス要求はありません。こちらが送信した公開情報を照合しているようです」
「よし」
ランが管理用端末を持って近づいてきた。
「今の説明は、私たちの契約上の立場と一致しているわ。新たな任務の受諾ではなく、緊急連絡として記録しておくわね」
「ありがとう」
「一つ覚えておいてほしいことがあるの。ASTRAEA側から、私たちの運航を変更する必要がある援助を求められても、行動範囲が明確になるまでは承諾しないで」
俺は彼女をちらりと見た。
「分かってるよ。もう何度か注意してくれただろ?」
「そして今も状況は変わり続けているから、注意するのをやめるつもりはないわ」
俺は笑みを浮かべた。
「分かったよ、俺の契約顧問さん」
ランは小さく首を振ると、自分の端末へ意識を戻した。
間もなく、ASTRAEAとの回線が再び有効になった。
『星崎艦長、送信いただいた登録情報は、こちらが保有する航行通知と一致しました。貴艦が独立艦であるという説明も確認しました』
「確認していただき、ありがとうございます」
『生存者の状況について、さらに詳しい情報をお伝えする前に、一つ質問させてください』
「どうぞ」
『なぜ、私たちに救援を申し出たのですか?』
俺は通信画面に目を向けた。
単純だが、もっともな質問だった。
セラフィナは俺のことを知らない。彼女から見れば、攻撃現場の近くに突然現れた巨大な艦が、攻撃側へ警告を送り、その後で避難の調整を申し出てきたことになる。
俺が彼女の立場でも、同じことを尋ねただろう。
「この宙域を通過していたとき、貴艦からの救難信号を受信したからです。確認したところ、ASTRAEAは深刻な損傷を受け、現在も攻撃され続けていることが分かりました。攻撃側の艦も、俺たちが使用する可能性のある航路へ向けて陣形を変え始めています」
俺は次の言葉がはっきり伝わるよう、少し間を置いた。
「現在、俺は航路付近に存在する現実の脅威を評価すると同時に、貴艦に残っている人々を助けられる可能性を検討しています。それが、こちらから連絡した理由です」
『つまり、宮廷の命令で来たわけではないのですね?』
「違います。それに俺は、救助の条件として、どこかの勢力に政治的な忠誠を誓うつもりもありません」
短い沈黙があった。
『ずいぶん率直なお答えですね』
「責任を持てない約束をするよりはいいと思っています」
通信回線の向こうで、誰かがセラフィナに小声で話しかけるのが聞こえた。会話のすべてを聞き取ることはできなかったし、こちらに向けられていない声を拾うために、セラフィエルへ音量を増幅するよう頼むつもりもなかった。
数秒後、セラフィナが再び口を開いた。
『それでは、私も率直にお答えします。艦内にはまだ生存者がいます。早急な医療処置を必要としている者も含まれています。一部の艦内通路は気圧の喪失によって閉鎖されており、現在、負傷者を安全が保たれている区画へ搬送しているところです』
「外部の救助艦が利用できる避難経路はありますか?」
『現時点では保証できません。格納庫と一部のサービスアクセスに障害が発生しています。気圧が維持されている区画を危険に晒さず、どの経路なら開放できるのか、技術班が確認しています』
「了解しました。俺たちが連絡したという理由だけで、隔壁を開いたりしないでください。こちらもまだ、物理的に接近するかどうかは決定していません」
『承知しました』
俺はASTRAEAの投影図を見つめた。
「もう一つ、お伝えしておく必要があります。貴艦を攻撃している艦に対して、俺たちは公開チャンネルを通じて警告を送信しました。しかし、現在まで説明はありません。それどころか、攻撃艦の一隻は、こちらに向けて照準関連の活動を強めています」
『彼らは、やめろと言われた程度では止まりませんよ、艦長』
セラフィナの声は落ち着いたままだったが、その返答は、ここ数十分の経験から得た結論のように聞こえた。
「そうかもしれません。それでも、次の行動を決める前に、自分たちの行為を説明する機会は与えておきたいんです」
『そして、彼らが拒否した場合は?』
「実際に発生した脅威、俺たちの艦の能力、そして俺が責任を負っているすべての人々の安全に基づいて判断します」
『貨物も含めて、ですね』
「貨物も含めてです」
セラフィナはすぐには答えなかった。
俺は続けた。
「理由もなく俺たちを信用してほしいとは言いません。今は救難通信を維持し、貴艦のシステムの安全を損なわずに共有できる安全情報を、引き続き伝えてください」
『分かりました、星崎艦長。通信士官にそのように指示します』
視点:セラフィナ・ヴァルクレイン・ヴェルドラコン
「殿下、彼らの救援を受け入れるのでしょうか?」
ASTRAEON VELORIAとの音声通信が一時的に終了すると、ミレル・ソヴァン中尉が私を見つめた。
私はまだ、画面に表示された巨大艦のマーカーへ目を向けていた。
「受け入れたのは緊急通信の調整だけです。実際に人員を避難させるかどうかは、まだ決定していません」
「了解しました」
私は検証用端末を彼女に渡した。
「送信された登録情報を、会話の記録と一緒に保存して。避難に携わるすべての士官に、私たちはまだあの艦にネットワークへのアクセスを許可していないと周知しなさい」
「承知しました、殿下」
私は再びASTRAEAの損傷状況図を確認した。
ダメージコントロール担当士官から、ちょうど最新の報告が届いていた。後部通路からの負傷者搬送は現在も続いており、内側の会議室はすでに臨時医療区画として使用されている。
少なくとも、先ほど下した命令によって、まだ救助できる人々のために、安全な場所を新たに確保でき始めていた。
「格納庫へ向かう経路の状態は?」と私は尋ねた。
側面の端末にいる技術員が答えた。
「一部のアクセスはまだ使用できます、殿下。ただし、すべての経路を開放することはできません。隣接する二つの区画に気圧差があり、連絡隔壁を開くことで損傷を悪化させないか確認する必要があります」
「無理に開ける必要はありません。負傷者全員を長い通路で移動させずに済む、別の避難地点がないか調べなさい」
「了解しました」
私はミレルへ顔を向けた。
「あの艦長について、あなたはどう思う?」
彼女は少し驚いたようだった。
「星崎艦長ですか?」
「ええ」
「送信された公開識別情報に不一致は見つかりませんでした。また、こちらのシステムへの直接アクセスも要求していません。通信の仕方は十分に専門的だと感じましたが、救助艦としての能力までは、まだ評価できていません」
「私もよ」
私は、救援を申し出た理由を尋ねたときの、彼の返答を思い返した。
彼は私の信用を得るために、お父様の名前を利用しなかった。
輸送業務が正式な経路を通じて伝達された依頼に関係しているにもかかわらず、帝国の代理人を名乗ることもしなかった。
私たちに近づこうとする詐欺師なら、その関係を利用したかもしれない。
しかし、星崎艦長はむしろ、自分自身の権限の限界を明確にした。
それだけで彼を信用できるという絶対的な証拠にはならない。それでも、通信を続ける意思を持つには十分だった。
「殿下」と戦術士官の一人が言った。「あの独立艦は、この宙域に留まれば攻撃対象になる可能性があります」
「分かっています」
「すぐに退避するよう、こちらから要請すべきでしょうか?」
私は攻撃艦の位置を確認した。
「艦長に代わって決定を下してはいけません。彼はすでに脅威を認識していて、状況を評価できる乗員もいるのです。今の私たちの役目は正確な情報を伝えることであって、彼らをここに留めるために危険を隠すことではありません」
士官は頷いた。
「承知しました、殿下」
私は再びミレルに向き直った。
「検証できた安全情報を送信して。区画の状態、気圧が維持されている経路、そして緊急性の高い医療上の需要です。不要な軍事情報や艦内データは含めないように」
「ただちに送信します」
私はもう一度、ASTRAEON VELORIAの映像を見つめた。
あの艦はまだ接近していない。
私はそのことに、むしろ少し安堵していた。
もし艦長が私の身元を知ったという理由だけで、あの巨大な艦を包囲網の真っただ中へ進ませていたなら、私はかえって彼を信用しづらくなっていたかもしれない。
視点:モード・ラン・ヴァレス
私は、管理用の内部回線を通じてASTRAEAとの通信記録の写しを受け取った。
セラフィナは生存者がまだいること、そして負傷者の搬送を進めていることを確認した。しかし、物理的な避難経路については、まだ安全を保証できないという。
つまり、現時点では直接的な救助作戦を約束できるだけの根拠がない。
私はその情報をC-145-MCのインシデント記録に追加し、紬の発言内容をもう一度確認した。
軍事任務の受諾はなし。
新たな報酬に関する約束もなし。
ASTRAEON VELORIAがヴェルドラコン帝国を代表するという宣言もなし。
よし。
「紬、ASTRAEAとの最初の通信記録は整理し終わったわ」
艦長席にいる彼が振り向いた。
「何か修正したほうがいいところはある?」
「いいえ。私たちが独立した立場にあることは、十分明確に説明できていたわ。ただ、彼らの避難能力が分かる前に、救援調整の申し出が作戦上の義務へ変わってしまわないよう、確認しておきたいだけ」
「同感だ」
私は最新の概要を表示した。
「輸送業務は引き続き有効よ。貨物はカリスタが点検済みで、最終目的地へ向かう航路もまだ変更していない。この状況によって航路からの逸脱を余儀なくされた場合は、記録された安全上の理由に基づいて、タラリスへの通知を準備するわ」
「セラフィナが言っていた、宮廷からの依頼に関する情報はどうなる?」
「それは私たちの契約上の立場とは区別する必要があるわ。正式な経路を通じて依頼が伝達されたからといって、ASTRAEONが自動的に帝国軍の一部になるわけではない。私たちが受諾した契約は、あくまでもタラリス戦略兵站局を発注者とするC-145-MCよ」
私は書類の該当箇所を指さした。
「それに、セラフィナが私たちとの通信に応じたというだけで、彼女を新たな発注者として記録するつもりもないわ」
紬がかすかに笑った。
「本当に一言も見逃さないな、ランは」
「あなたが一度も同意していない義務に巻き込まれず、自由に判断できる状態を保ってほしいのよ」
「ありがたいよ」
私が返事をするより先に、セラフィエルが顔を上げた。
「紬、攻撃艦の一団から通信が入っています」
指揮デッキの空気がたちまち変わった。
私は不要な管理パネルを閉じ、インシデントの記録を有効にした。
「こちらの警告への返答か?」と紬が尋ねた。
「発信元は、アルケイオンの軍事接触反応として識別されている艦の一隻です。公開チャンネルを使用しており、ASTRAEON VELORIAを宛先に指定しています」
「再生してくれ」
スピーカーから男性の声が響いた。
『ASTRAEON VELORIA。貴艦は現在進行中の軍事作戦区域に進入している。対象艦とのすべての通信を中止し、直ちにこの区域から離脱せよ』
私はすぐに、その言葉の選び方に注意を向けた。
対象艦。
緊急事態に陥っている艦ではない。
ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNでもない。
ただ、対象艦。
通信は続いた。
『貴艦には本作戦に介入する権限はない。対象への接近、あるいは当部隊の行動を妨害するいかなる試みも、敵対的介入と見なす。針路を変更し、作戦区域から退去せよ』
メッセージはそこで終わった。
検証可能な士官の識別情報はなかった。
その宙域において作戦区域を制限する法的根拠についても、何の説明もなかった。
そして何より気になったのは、ASTRAEONが退去すればASTRAEAへの攻撃を停止するという保証が、一切含まれていなかったことだ。
私は紬を見た。
「これは最後通牒ね。私たちの停戦要求に対する回答ではないわ」
「分かってる」
「ASTRAEAの生存者の安全についても、何も保証していない」
セラフィエルも確認した。
「通信には追加情報が含まれていません。要求しているのは、私たちが通信を中止し、作戦区域から退去することだけです」
紬はゆっくりと頷いた。
「ラン、そのメッセージを全文保存してくれ」
「もう保存したわ」
彼はメインスクリーンを見つめた。
「セラフィエル、同じチャンネルで返信してくれ。相手の命令をそのまま受け入れるつもりはないけど、こちらの回答はあくまで専門的なものにしたい」
私は次の通信の記録を準備した。
セラフィエルが送信機を有効にすると、紬が口を開いた。
「ASTRAEON VELORIAへ通信を送信した艦に告げます。貴艦のメッセージは受信しました。俺たちは正式な輸送契約を遂行している独立艦であり、貴部隊に対する武力行使は行っていません」
彼は少し間を置いた。
「俺たちはASTRAEA OF THE SILVER LANTERNからの救難信号を受信し、救援を必要としている生存者の存在を確認しています。貴艦の要求を検討する前に、検証可能な作戦上の識別情報、当該区域を制限する根拠、そして損傷した艦に対する行動が、まだ生存している人員の安全を脅かさないという保証を提示してください」
私は次の言葉に注意を向けた。
「俺たちは引き続き、自艦、乗員、積載貨物の安全を守る権利を保持します。すべての関係者に対し、この事態を拡大させるような行動を避けるよう求めます」
セラフィエルが送信を終了した。
「メッセージを送信しました」
私はその記録を保存した。
これで私たちは、相手に自分たちの立場を説明する機会を二度与えたことになる。
それでも彼らが脅迫を選ぶのであれば、少なくとも私たちの記録には、出来事の順序について疑問の余地は残らないだろう。
視点:レア・ヴァレン
アルケイオンの最後通牒が艦内通信で流れたとき、私はまだ格納庫にいた。
カリスタはヴァルキリーの整備端末のそばに立っていて、私はパイロット装備をすぐに使える状態にしたまま、整備用架台の端に腰掛けていた。
「ASTRAEAと連絡を取るのをやめろって言ってるの?」と私は尋ねた。
『メッセージの内容はそうなっています』とセラフィエルが答えた。
「こっちは助けが必要な人がいるか聞いただけなのに」
カリスタが腕を組んだ。
「あいつらは外部の連中に作戦を邪魔されたくないんだろ。そこはもう十分はっきりしてる」
私はヴァルキリーを見つめた。
もしASTRAEAが避難経路を開放できれば、私の機体で装備を運んだり、大型艦では到達しにくい場所で救助活動を支援したりできるかもしれない。
けれど今は、緊急通信でさえ、攻撃側にとっては妨害行為と見なされている。
私は指揮デッキへの回線を開いた。
「紬、ヴァルキリーの最終準備を終わらせてもいい?」
『点検はもう終わってなかったか?』
「技術点検は終わってるよ。コックピットに入って待機設定を有効にして、救助用装備が全部使える状態か確認したいの。命令が出るまで発進経路は開けないから」
少し間を置いて、紬が答えた。
『いいよ。ただし最終準備だけだ。俺が許可するまで発進しないこと。それから、格納庫の扉にも近づかないように』
「了解」
『レア』
「ん?」
『もし本当に救助に向かうことになっても、お前の仕事は敵に見える艦を片っ端から追いかけることじゃない。避難させる人たちの安全が最優先だ』
私はヴァルキリーの横にある小型画面を見つめた。
「分かってるよ、紬。ちゃんと指示が出るまで待ってる」
『よし』
通信が終わった。
カリスタが点検用端末を持って近づいてきた。
「ちゃんと聞いただろ? 待機ってのは、すぐ飛んでいいって意味じゃないからな」
「はいはい。こっそり発進したりしないってば」
「確認してるだけだ」
私はヴァルキリーのコックピットに乗り込み、安全装備を装着してから、準備済みの操縦設定を確認した。
システムのインジケーターが順番に点灯する。
異常なし。
救助用装備も使用可能。
ASTRAEONとの通信経路も正常に機能している。
「カリスタ、待機設定完了!」
『よし。あたしは格納庫の端末に残る。紬が技術支援を必要としたら、ここからすぐに対応できるからな』
「ありがとう」
私は格納庫内を映す外部カメラの映像を見つめた。
急ぐ理由はない。
それでも、指揮デッキからの報告を聞けば聞くほど、アルケイオン側がASTRAEAへの救援を素直に認めるとは思えなくなっていた。
「セラフィエル、さっきASTRAEAの損傷した側面に向かってた艦は、今どこにいるの?」
『まだ移動を続けています、レア。ヴェスペラが予測航跡を更新しているところです』
「ASTRAEONに照準を向けてるほうは?」
『活動レベルはまだ以前の状態には戻っていません。引き続き監視しています』
私は息を吐いた。
「本当に私たちを追い払いたいんだね」
『少なくとも、最後通牒はその意図を示しています』
私はヴァルキリーの操縦パネルを見つめた。
「私たちに出ていってほしいだけなら、どうして自分たちが何をしてるのか説明しないんだろう?」
セラフィエルはすぐには答えなかった。
『彼らの理由はまだ分かりません、レア。ただし、説明がないからといって、彼らが示している脅威を無視してよい理由にはなりません』
「うん。分かってる」
指揮デッキでは、紬が最後に送ったメッセージへの返答を待ち続けていた。
ヴェスペラはASTRAEONを安全な航路上に維持しながら、攻撃宙域の周囲に形成された迎撃線を監視している。
ランはすべての通信を保存していた。
セラフィエルは攻撃艦ごとのセンサー情報を個別に処理し、わずかな変化でもすぐに識別できるようにしていた。
そのとき、ヴェスペラの声が艦内回線に響いた。
『紬、接触反応02が再び艦の向きを変え始めています』
私はコックピットの中で背筋を伸ばした。
『どっちに向かってる?』と紬が尋ねた。
『ASTRAEAではありません。先ほど私が算出した、当艦の接近経路の一つに沿う位置へ移動しています』
セラフィエルがすぐに報告を続けた。
『兵装関連の活動が増大しています。発砲準備を検知しました』
私は操縦桿を握った。けれど、ヴァルキリーは架台に固定されたままにしておく。
紬の声は落ち着いていた。
『ヴェスペラ、安全な位置を維持して。セラフィエル、その変化をすべて記録してくれ。俺たちはまだ接近していない。相手が何に向かって撃つのか、正確に把握したい』
次の数秒が、ひどく長く感じられた。
そして、センサー警報が鳴った。
『兵装の発射を検知!』
戦術画面に、アルケイオンの艦から伸びるエネルギーの軌跡が現れた。
その砲撃は、ASTRAEON VELORIAの現在位置の中心を直接狙ったものではなかった。
代わりに、ヴェスペラが先ほど算出した接近経路の近くを通過したのだ。もし私たちがASTRAEAを助けると決めた場合、どの方向を使う可能性があるのか、攻撃側が把握していると示すには十分な近さだった。
砲撃の光は私たちの艦に命中することなく、宇宙空間へ消えていった。
けれど、その意図を理解するのは難しくなかった。
彼らは最後通牒を突きつけた。
そして今、退去命令が単なる通信上の脅しではないことを、実際に示したのだ。
『紬』とセラフィエルが告げた。『アルケイオンによる警告射撃を確認しました。ASTRAEONに損傷はありません』
私は通信インジケーターを見つめ、次の命令を待った。
指揮デッキから、紬の声がもう一度聞こえてきた。
『全乗員、各自の持ち場を維持。独断で行動しないように』
私はほかのみんなと一緒に返事をした。
「了解!」
格納庫の外では、アルケイオンの艦隊が今もASTRAEAへの包囲を維持している。
そして今、そのうちの一隻が、ASTRAEON VELORIAを接近させまいと警告射撃を行ったのだった。
【次話予告・第157話】
「セラフィエル、戦闘モード」
セラフィエル、コンバットモード――アルケイオンからの最後通牒と警告射撃を受け、紬はASTRAEON VELORIAがどこまで介入するか、その限界を決めなければならない。貨物の安全、乗員の保護、そしてASTRAEAの生存者を救出できる可能性。今、そのすべてが一つの決断に委ねられようとしていた。




