【第152話】「皇室旗艦の識別」
【第152話】「皇室旗艦の識別」
ヴェルドラコン出航から28日目 — 艦内標準時 21:45~22:00 場所:タラリス外縁通過回廊 — 攻撃宙域から安全な距離を維持 視点:モード・ラン・ヴァレス → ヴェスペラ・ノクス・オーレル → レア・ヴァレン → セラフィエル・ヴェロリア
視点:モード・ラン・ヴァレス
「セラフィエル、最初に撮影した紋章の画像をそのまま残してもらえる? センサーによる再構成画像ではなく、外交記録と比較したいの」
「もちろんです、ラン。二つの画像を並べて表示しますね」
私は管理端末上で、二枚の画像を拡大した。
一枚目は受動観測によって得られた元の記録だ。画質は完璧ではないものの、見えている紋章の部分は周囲の損傷と区別できる。二枚目は、セラフィエルが複数の観測角度から得た情報を処理し、組み合わせた画像だった。
この段階での小さな間違いが、大きな問題を招く可能性がある。
攻撃されている船を誤って皇室所有の船と識別してしまえば、艦長の判断は間違った情報に左右されかねない。反対に、本当にヴェルドラコン皇室の所有船だった場合、攻撃現場の近くに私たちがいること自体が、単純ではない結果をもたらす可能性もあった。
私はASTRAEON VELORIAの情報ネットワークに保存されている、外交儀礼の記録庫を開いた。
「紬、この紋章は公爵家や地方貴族の家紋ではありません」
紬が私の端末へ近づいてきた。
「もう確信できたのか?」
「分類については、はい。こちらの原形を保っている部分をご覧ください」
私は紋章の中央を取り囲む模様を示し、ヴェルドラコンの外交記録に収められた公式の見本を開いた。
「構成要素の配置と使用規定が、皇室に関係しています。貴族家の紋章にも似た紋章学上の意匠が使われることはありますが、この完全な構成を使用する権利はありません」
レアも私の椅子の後ろから画面を覗き込んだ。
「じゃあ、本当に皇帝の家族の船なの?」
「その船に皇室の紋章が表示されていることは分かりました。ただし、紋章が本物であり、艦船登録とも一致するかどうかは、まだ確認が必要です」
「あ、そっか。絵だけなら、ほかの人が真似することもできるもんね」
「そのとおりです」
答えがまだ確定しないことに、少し残念そうな様子を見せるレアを、私は見つめた。
「レア、管理業務では、一見すると明らかに思えることほど、すぐに正しいと決めつけると問題の原因になりやすいのです」
「分かってるよ、ラン。ただ、あの船がまだ撃たれてるのに、書類を確認しなきゃいけないのがもどかしいんだ」
それには私も反論できなかった。
メインスクリーンでは、損傷した船の周囲に再び閃光が走った。セラフィエルは、残存するシールドに命中した砲撃と、船体へ直接命中した砲撃を区別できるよう、センサーの観測結果を分離しているところだった。
私は作業に戻った。
「セラフィエル、見えている紋章をASTRAEA OF THE SILVER LANTERNの登録情報と比較して。損傷だけでは説明できない相違点はある?」
「現時点では、その登録情報と矛盾する相違点は見つかっていません。ただし、紋章の一部は船体の損傷と観測障害によって、まだ確認できない状態です」
「トランスポンダーは?」
「読み取れる断片は、同じ登録情報を示しています。一つの情報源だけに依存しないよう、物理的な特徴との相互照合を進めています」
私は頷き、暫定結果を紬に表示した。
「ここまでのところ、三つのデータ群が同じ候補を示しています。あの船がヴェルドラコン皇室と関係していると判断するには、すでに十分強い根拠があります」
「でも、中に誰がいるかは分からないんだな?」
「まだです。船の登録情報だけでは、事件発生時の乗客名簿を証明できません」
紬が頷いた。
「分かった。報告書でも、その二つは明確に分けておいてくれ。まだ船内の誰とも話せていないのに、特定の皇族が乗っていると確認済みになっていた、なんてことにはしたくない」
「そのように記録しておきます」
私はC-145-MCの事案記録を更新した。
私たちの輸送業務は引き続き有効だ。軍用貨物はすべてASTRAEON VELORIAの中にあり、目的地や予定の変更についても、承認は一切発行されていない。
あの船が何者であろうと、タラリスに対する私たちの義務が消えるわけではなかった。
視点:ヴェスペラ・ノクス・オーレル
「紬、船体形状の照合が、艦級を識別できる水準に達しました。結果を表示してもよろしいですか?」
「表示してくれ」
私は船体モデルを航法画面の中央へ移動させ、セラフィエルが見つけた設計プロファイルと並べた。
発信元の船は船首部分が損傷している。ほかにも、本来の位置から外れてしまった外部構造がいくつかあるものの、指揮中枢の配置、防護フレーム、姿勢制御用推進機関の配置パターンは、まだ識別可能だった。
「攻撃を受けている船は、ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN。元の登録名では『銀燈のアストレア』です。艦種分類は\*Imperial Royal Command Yacht\*、皇室指揮ヨットとなっています」
レアが目を瞬かせた。
「ヨット? あんなに長いのに?」
私はその反応に微笑んだ。
「分類上の名称は、確かにそうなっています。登録上の全長は1,240mですから、あなたが想像しているような小型の遊覧船ではありませんね」
「プールとか高級レストランがある個人用の船を想像してたよ」
「そうした設備もあるかもしれませんが、この船の用途はもっと広いのです。ASTRAEAは皇族の輸送、外交訪問、そして限定的な指揮業務のために設計されています」
紬が私の表示した仕様を確認した。
「つまり、護衛艦に頼るだけじゃなく、船自体にも防護能力があるわけか?」
「そのとおりです。多層シールドと近接防御システムを備えています。ただし、それによって軍艦の代わりになるわけではありません。特に、複数の武装艦から連携した攻撃を受けている場合はなおさらです」
私はASTRAEAの後部を拡大した。
姿勢制御用推進機関の配置は、深刻な損傷を受けている。先ほど観測した位置の変化も、自由に実行できる回避機動ではなく、残存する推力と船体の姿勢を維持しようとする動作が組み合わさった結果のようだった。
「ここをご覧ください、紬。船はまだ姿勢を保とうとしていますが、機動能力は極めて限られています。単純に速度を上げて、攻撃宙域から離脱することはできません」
「FTLへ入ろうとした場合は?」
「安全な遷移を実行できるだけのシステム状態にあるという兆候は、まだ見つかっていません。FTL航行系統が現在も使用可能なのかも不明です。自力で脱出できると考えるのは、危険すぎるでしょう」
紬が腕を組んだ。
「そうなると、攻撃者の位置がますます重要になるな」
「そのとおりです」
私はASTRAEAの船体モデルから、周辺宙域の地図へ表示を切り替えた。
各反応には、未検証の名称や所属ではなく、センサーデータに基づく識別マーカーを付けてある。
武装艦が攻撃を行っていると分かることと、その艦を誰が運用しているのかを知ることは別だ。現時点で私が確実に判断できるのは、彼らの行動だけだった。
「これらの艦は無作為に移動しているわけではありません。一部は特定の方向から圧力をかけ続け、ほかの艦はASTRAEAの離脱経路を制限する位置を取っています」
私は一本の航跡を示した。
「仮にASTRAEAが通常の機動能力を維持していれば、この隙間を利用できたかもしれません。しかし現在の敵艦の配置では、大型船が十分安全な空間へ到達するより先に、この航路を塞ぐことが可能です」
「俺たちがそちらから入った場合は?」
私は紬が示した接近経路を拡大した。
「攻撃艦の航跡と交差する可能性のある角度に入ってしまいます。そのため、現時点では推奨できません。ASTRAEONが直接、ASTRAEAの船体へ向かう射線を横切らずに済む選択肢を、いくつか計算しています」
紬が頷いた。
「今の位置を維持してくれ。連中の状況を知りたいのであって、最短経路を選んだせいで俺たちの艦まで次の標的にしたいわけじゃない」
「承知しました」
私は距離と移動方向の計算結果を確認した。
観測位置を少し近づけるためだけに、ASTRAEON VELORIAの能力をすべて見せる理由はない。
私たちには、安全な距離から情報を得られるセンサーがすでにある。その能力を正しく利用するほうが、明確な運用目的もないまま全長8,600mの個人所有艦を戦闘宙域へ接近させるより、はるかに合理的だった。
視点:レア・ヴァレン
私は戦術監視席に戻り、攻撃艦の移動記録を開いた。
ASTRAEAを初めて見たときから、ずっと何かが引っかかっていた。
最初は、オーレリアの船を思い出したせいだと思っていた。でも、数分間にわたって記録を見ているうちに、問題は単に大型船が助けを必要としているということだけじゃないと気づき始めた。
攻撃者たちの動きが、あまりにも整然としている。
「セラフィエル、ASTRAEAの右側にいる艦が位置を変えたときの映像、もう一度再生してくれる?」
「もちろんです、レア。どの時点からにしますか?」
「上にいる艦が撃つ数秒前から。二隻の動きを同時に見たいんだ」
記録映像が表示された。
一隻目が発砲し、針路変更を抑えるのと同時に、二隻目が別の角度へ移動していく様子を、私は注意深く観察した。
二隻の射線は、互いに干渉していない。
ASTRAEAが姿勢を変えようとしたときでさえ、別の艦がすでに、そこから抜け出すのを難しくする方向に位置していた。
私は画面を指さした。
「ほら、ここ。紬、この動きを見て」
彼が振り向いた。
「何か見つけたのか?」
「もし略奪が目的なら、まず船を止めて、中の荷物を奪ったり、重要人物を人質に取ったりする機会を探すはずでしょ? でも、こいつらはもう壊れてる部分にまで、ずっと攻撃を加えてるんだよ」
私は次の記録を拡大した。
「それに、この艦の位置を見て。標的を逃がしたくない海賊みたいに後ろから追いかけてるんじゃない。ASTRAEAが回避に使いそうな角度で、最初から待ち構えてる」
紬が近づいてきた。
「標的の機動能力を把握していると思うか?」
「少なくとも、それを計算に入れてるような動き方をしてる」
私は以前に学んだ戦術訓練の記録を開いた。
宇宙海賊だって、必ずしも馬鹿ばかりじゃない。元軍人を雇っている集団もいるし、規律がしっかりしていて、複雑な待ち伏せ作戦を立てられる連中だっている。
それでも、この陣形は普通の略奪作戦とは違うように感じられた。
「動き方は、計画された作戦を実行している軍の部隊に近いよ。位置を維持して、逃走経路を塞いで、それなのに何かを奪うために船へ接近する機会を奪い合ってる様子はないんだ」
「では、海賊ではないのですか?」とランが尋ねた。
「百パーセントそうだとは言い切れないよ。軍での経験がある犯罪組織かもしれないし。でも、普通の海賊だとしたら、この戦い方は本当に変だと思う」
私は、アンカレッジからの航行中に読んだ記事を思い出した。
「あっ、待って。国境宙域での軍艦開発についての記事を見たことがあるんだ」
私はASTRAEON VELORIAの端末から、外部情報ネットワークを開いた。
星間ニュースの記録庫や技術分析記事から、いくつかの検索結果が個人用画面に表示される。
探していた記事が見つかった。
「あった、これだ!」
紬が画面を覗いた。
「何の記事だ?」
「アルケイオン銀河連邦についてだよ」
私は、みんなから見える小型スクリーンに概要を表示した。
「公開ネットワークで読める業界報告や防衛分析によると、アルケイオン連邦は新世代の艦船を開発しているんだって。一部の艦載システムは、ヴェルドラコン帝国で一般的に使われている技術よりも進んでいるっていう主張もあるんだ。特に艦隊の連携、センサー、それから一部の電子戦装備の分野でね」
ランが情報源を確認した。
「それは公開報告であって、両国のすべての能力を比較した公式資料ではありませんよ」
「うん、分かってる。アルケイオンの船が全部優れてるって言いたいわけじゃないよ。でも、あの艦たちが陣形を維持してる様子を見て。もしかしたら、本当に連邦の艦なんじゃないかな?」
私は攻撃艦の投影映像を指さした。
「もし連携システムがもっと進んでるなら、あんなに動きが揃ってる理由にもなるかもしれないでしょ? それに、皇室の船をあそこまで攻撃し続けて、何かを奪おうとしてる様子もないなんて、そんな海賊がどこにいるの?」
紬は記事の概要を読み、それからメインスクリーンへ注意を戻した。
「調べる価値のある仮説としては筋が通ってる。でも、動きに規律があるからといって、アルケイオン所属とは限らない。記事に書かれている技術が、目の前の艦に使われているかどうかも、まだ分からないからな」
「分かってる。ただ、何か関係がある気がするんだ」
「だったら、証拠を探そう」
私は頷いた。
頭ごなしに否定されるより、その答えのほうがずっとよかった。
セラフィエルが記録映像の横に、新しいマーカーを表示した。
「レア、あなたが見つけた報告書は、公開参考資料として保存しました。攻撃者の識別結果と誤認されないよう、センサーによる証拠とは分けて管理します」
「ありがとう」
私は再び敵の陣形を確認した。
「紬、もしあとでASTRAEAを助ける必要が出てきたら、損傷した船体側面へ近づこうとする艦をヴァルキリーで妨害できるようにしておきたい」
「準備はしていい。でも、まだ発進許可は出していないぞ」
「了解。カリスタに連絡して、装備をもう一度確認しておくね」
「ちゃんと動いてるものを分解するためだけに、休憩時間を全部使うんじゃないぞ」
私は頬を膨らませた。
「そんなことしないってば!」
そのとき、艦内通信から突然カリスタの声が聞こえてきた。
『奇遇だな。ちょうどあたしも同じことを言おうとしてたところだ。ヴァルキリーはもう準備できてるぞ、レア。緊張してるからって再分解を頼むなら、代わりに格納庫の管理書類の点検をやらせるからな』
「うぐっ……分かったよ! 分解しないってば!」
紬が小さく笑った。
私は一瞬彼を見つめたけれど、結局、自分も笑ってしまった。
指揮デッキの緊張が消えたわけじゃない。ただ、カリスタの声を聞いたことで、私たちには自分たちの艦の中にも、守らなければならないものがたくさんあるのだと、改めて思い出した。
視点:セラフィエル・ヴェロリア
観測結果は、さらに充実していた。
ランによる紋章の照合によって登録候補の信頼性が高まり、ヴェスペラの船体構造分析も艦級について追加の裏付けを与えていた。
私はすべての調査結果をひとつの報告書にまとめ、検証済みの結果、強い一致が認められる結果、そしてまだ確定できない情報を明確に分けた。
「紬、照合が完了しました。トランスポンダー、物理的な紋章、寸法、そして現在も識別可能な船体構造を総合した結果、信号発信元の艦船を確認できました」
紬がこちらを向いた。
「完全な結果を表示してくれ」
私は識別パネルを開いた。
艦船識別 — 確定
| 項目 | データ |
| ----------- | ----------------------------- |
| 艦名 | ASTRAEA OF THE SILVER LANTERN |
| 登録名 | 銀燈のアストレア |
| 艦種分類 | Imperial Royal Command Yacht |
| 登録国 | ヴェルドラコン銀河帝国 |
| 所属 | ヴェルドラコン皇室 |
| 全長 | 1,240m |
| 用途 | 皇族輸送・外交・限定的な指揮業務 |
| 状態 | 深刻な損傷・機動能力が著しく低下 |
| 事件発生時の乗客の身元 | 未検証 |
「やっぱり皇室の船だったのか」と紬が呟いた。
「はい。ただし、誰が乗っているのかは、まだ確認できていません。また、生存者に確認を求められるほど安全な直接通信も、現時点では確保できていません」
ランが最後の項目を確認した。
「乗客の状態は、そのままにしておいてください。艦船登録と、検証済みの乗客名簿は別のものです」
「記録済みです」
私は続いて、緊急セッションが切断される前に取得した護衛艦隊の記録について、比較結果を開いた。
情報は依然として不完全だった。その大半は損傷した内部記録に由来しており、私たちの受動観測で確認できるのは、ASTRAEA周辺宙域の状況に限られる。
しかし、双方の情報は同じ結論を示していた。
「護衛艦隊についても進展があります」
レアがすぐに振り向いた。
「見つかったの?」
「複数の護衛艦の反応消失と整合する残骸、および放射の残留反応を発見しました。それらの相対位置も、保存できた緊急記録の一部と一致しています」
私は発見地点を示した地図を表示した。
「これにより、ASTRAEAの護衛艦隊が撃破されたという報告の裏付けが強まりました。ただし、各艦に乗っていた人々の身元と状態については、私たちのセンサーだけでは確認できません」
レアの表情が再び真剣なものになった。
「本当に、あそこまで徹底的に待ち伏せされたんだね……」
私はASTRAEAの映像を見つめた。
発信元の船は、今も損傷が拡大している。残存するシールドの一部は均等な防護を維持できなくなっており、攻撃角度が変わるたびに、船体の状態へ大きな影響が及ぶ状況だった。
そこで紬が尋ねた。
「攻撃者の身元はどうだ? トランスポンダーから何か分かったか?」
「最終的な識別結果は、まだ得られていません。一部の信号からは、そのまま信用できる登録情報を取得できていません。現在、船体形状、システムの放射特性、兵装構成、受動的に観測できる通信パターンを比較しています」
「レアが言っていたアルケイオンの可能性は?」
「まだ仮説の段階です。彼女が見つけたアルケイオンの技術開発に関する情報は、参考資料として関連性があります。しかし、目の前の艦船を連邦と結びつけるには不十分です」
レアは、まだ何か言いたそうにしながらも頷いた。
「だったら、連中の所属はまだ公表しないでくれ」と紬が言った。「通信を送ったり行動を起こしたりする前に、何を相手にしているのか知っておく必要がある」
「承知しました」
私は戦術地図を更新した。
そのとき、ある移動の変化が私の注意を引いた。
「ヴェスペラ、接触反応02、04、05を確認してください」
「何かありましたか?」
「三隻が、ほぼ同時に移動ベクトルを変更しています」
ヴェスペラはすぐに航跡データを開き、それぞれの艦の速度と移動方向に基づいて新たな予測図を作成した。
彼女の笑みが消えた。
「紬、これは見ていただいたほうがよさそうです」
視点:星崎紬
俺は航法パネルへ近づいた。
先ほどまでASTRAEAを取り囲む攻撃艦が表示されていた地図に、今は三本の新しい航跡が加わっていた。
三隻はそれまでの位置から離れ始め、異なる配置へ移動している。
「撤退しているのか?」
ヴェスペラは首を横に振った。
「そのようには見えません。主力集団との位置関係は維持していますが、現在の移動方向は迎撃線を形成しています」
「ASTRAEAに対してか?」
「彼らが封鎖しようとしている宙域の一部は、確かにASTRAEAの離脱経路と関係しています。ただし、先ほど私が計算した接近航路を考慮すると、この新たな陣形は、私たちが接近に利用する可能性のある宙域にも向けられています」
俺はその線を注意深く見つめた。
「もう俺たちの存在に気づいているのか?」
「まだ断定できません。彼らがASTRAEON VELORIAを特定して狙っていると判断できるほどの変化は、検出していません。しかし、この陣形を単なる偶然と考えるつもりもありません」
セラフィエルが脅威マーカーを更新した。
「該当する三隻への受動監視を強化します。現時点では、ASTRAEONに対するターゲットロックは確認できていません」
俺は頷いた。
「よし。まだ何もしていない相手に、こちらから反撃するなよ」
ランは画面を見つめ、それまで開いていた管理報告書を閉じた。
「紬、もしあの陣形が本当に他の船の接近を阻止するためのものなら、状況は私たちが直接関与する事件へ発展する可能性があります」
「分かってる」
俺は艦長席に戻った。
「ヴェスペラ、計算済みの接近航路はすべて保存しておいてくれ。ただし、最優先は俺たちの艦の安全だ。退避経路を塞がれないようにしてほしい。セラフィエルは攻撃者の識別を続行。レアはヴァルキリーを発進させずに、カリスタと準備状況を確認してくれ。ランは陣形変更と、その時刻を記録しておいてほしい」
「はい、紬」
全員が応じた。
俺はメインスクリーンを見つめた。
ASTRAEA OF THE SILVER LANTERNは今も輸送航路の外側にあり、深刻な損傷を負ったまま救助を必要としている。
俺たちは、その船が本当にヴェルドラコン皇室の所有船であることを突き止めた。
しかし、攻撃している連中は、どうやら他者が簡単に接近することを許すつもりはないらしい。
戦術投影図の上では、三隻の武装艦が新たな位置へ向かって移動を続けていた。
形成されつつある迎撃線は、徐々にASTRAEON VELORIAが利用する可能性のある航跡へ向けられ始めている。
そして、あの救難信号を受信して以来、俺は初めて、攻撃者たちがASTRAEAを破壊するだけでは満足しないかもしれないという可能性を考え始めていた。
【次話予告・第153話】
「アルケイオン銀河連邦」
アルケイオン銀河連邦――セラフィエルはトランスポンダー、船体形状、兵装、通信の照合を続ける。証拠が次第にアルケイオン連邦の軍事部隊を示し始めるなか、ASTRAEON VELORIAは、貨物の安全を無視することも、いずれかの勢力に自艦の運用権を委ねることもなく、どのように警告を発するべきか判断を迫られる。




