【第150話】「救難信号は航路の外から」
【第150話】「救難信号は航路の外から」
ヴェルドラコン出航から28日目 — 艦内標準時 20:48~21:37 場所:タラリス外縁通過回廊 — 次のFTL進入地点手前 視点:星崎紬
「セラフィエル、信号の発信源は特定できたか?」
俺はASTRAEON VELORIAの主要輸送航路の外側に現れた、緊急信号のマーカーを見つめた。
数分前まで、俺たちはいつもどおりの輸送業務を続けていた。ヴェスペラは次のFTL進入地点への接近準備を進め、セラフィエルはタラリス軍事兵站停泊施設で受領した軍用貨物すべての状態を監視していた。
ところが今、以前から武装艦船の活動が増加していると報告されていた宙域に隣接する方向から、緊急信号が届いている。
「この信号が、通過中の艦船から発せられた通信の反射ではないことは確認できました、紬。発信源は移動していますが、送信パターンが不安定です。識別データの一部に、繰り返し通信障害が発生しています」
「音声メッセージは送られているのか?」
「いくつかの送信断片があります。現在、通信ノイズから分離しています」
ヴェスペラが航法地図を拡大した。
「紬、信号源は現在の航行回廊の外側にあります。このままの航跡を維持した場合、そこを通過することはありません。ただし、信号の到来方向は、次の遷移地点へ向かう航路の外縁部に隣接しています」
俺は頷いた。
「針路を維持してくれ。状況が分かるまで航路は変えない」
「承知しました」
セラフィエルが初期解析の結果を表示した。
救難信号 — 更新解析結果
| 項目 | 結果 |
| --------------------- | --------- |
| 送信種別 | 一般緊急信号 |
| 発信源 | 大型艦船 |
| 艦船識別情報 | 未検証 |
| 位置 | 主要輸送回廊の外側 |
| 通信状態 | 不安定 |
| 損傷の兆候 | 検出 |
| ASTRAEON VELORIAの針路変更 | 未実施 |
俺は最後の項目を確認した。
俺たちの艦には、契約C-145-MCに基づいて正式に受領した戦略物資が、今もすべて積載されている。
軍用艦のエンジン予備部品、モビルフレームの整備ユニット、防衛用部品、医療用品、通信モジュール、その他さまざまな支援物資が輸送区画に収められていた。
契約総額は8,400,000 GCにも達する。
だが、その金額は、目の前に現れた救助要請を見て見ぬふりする理由にはならない。
「セラフィエル、現在位置から解析を続けてくれ。送信状態が分かるまでは、双方向の通信チャンネルを開かないように」
「承知しました、紬」
俺は艦内通信でレアを呼び出した。
「レア、指揮デッキに来てくれ。救助活動の準備が必要になるかもしれない」
『救助活動? 事故に遭った船がいるの?』
「まだ分からない。ここへ来る前にカリスタと連携して、ヴァルキリーの準備状況の報告を持ってきてくれ」
『分かった!』
続いて、ランにも連絡を入れる。
「ラン、指揮デッキに来てほしい。C-145-MCの輸送義務と緊急時の手順に関する書類を持ってきてくれ」
『承知しました、紬。航行予定に変更があったのですか?』
「まだだ。主要回廊の外側から緊急信号を受信した。貨物に対する責任を無視せずに、どんな選択肢があるのか確認しておきたい」
『すぐに向かいます』
通信が終わると、ヴェスペラがこちらを向いた。
「現在位置からの接近航路を計算します。その後、主要回廊へ復帰する可能性も含めて検討しておきます」
「頼む。ただし、立入禁止区域を通常の選択肢には入れないでくれ」
「もちろんです」
そのとき、セラフィエルが復元に成功したメッセージの断片を表示した。
スピーカーから雑音が流れ、途切れ途切れの通信が続く。
『……損傷……救援……座標……』
そこで音声は途絶えた。
俺は眉をひそめた。
「これだけか?」
「現時点では。発信源の通信システムは、かなり深刻な障害を起こしているようです。まだ完全なメッセージを送信できる状態なのかも確認できていません」
「動きの状態は?」
「不安定です。通常の通過航路とは一致しない速度変化が発生しています」
俺はマーカーを見つめた。
主要航路の外側にいる、損傷した大型艦船。ほとんど機能していない通信システムを使って、救助を求めている。
それだけでも十分に深刻な状況だ。
しかし、何が原因でそこまで損傷したのかは、まだ分からなかった。
20:56。
レアとランが、ほぼ同時に到着した。
レアはすぐにセンサーパネルへ近づき、ランは艦長席の隣にある端末で契約書類を開いた。
「紬、必要になったらヴァルキリーを出せるよ。カリスタも、格納庫の設備が安全な状態で、貨物区画に支障がないことを確認してくれた!」
「よし。今はそのまま待機してくれ。まだ誰かを外へ出すとは決めていない」
「了解!」
ランが、輸送中の緊急事態について定めた契約条項を表示する。
「関連条項を確認しました。私たちには、受領済みの全貨物を保全し、承認された輸送回廊に従う責任があります。航路変更、遅延、本来の業務以外の行動には、説明可能な正当な根拠が必要です」
俺は頷いた。
「救助活動を絶対に禁止する条項はあるのか?」
「そこまで単純な話ではありません。ただし、状況や適用される手順を評価せずに軍用貨物を放置したり、契約上の義務を無視したりすることもできません。直ちに対応を要する緊急事態であれば、その理由、判断、影響をすべて記録する必要があります」
彼女は真剣な表情で俺を見つめた。
「紬、助けを求める人をあなたが見捨てないことは分かっています。しかし、私たちはタラリスから正式に託された物資を運んでいるのです。この契約が存在しないかのように扱うことはできません」
俺も彼女を見た。
「引き受けた契約を投げ出すつもりはない。でも、目の前で助けを求めている人がいるなら、少なくとも何が起きているのかは知るべきだろう」
ランは少し黙ったあと、頷いた。
「でしたら、事案の記録を準備し、運用変更が必要になった場合の発注者への通知手順も確認しておきます」
「ありがとう」
セラフィエルが顔を上げた。
「紬、信号源の大きさをより正確に推定できる程度まで、通信ノイズを除去できました」
「表示してくれ」
センサーの投影映像が変わった。
画面の中央に、細長い形状が浮かび上がり始める。
最初は大まかな輪郭だけだったが、セラフィエルが複数の受動観測データを統合していくにつれ、認識できる部分が増えていった。
俺はすぐに、それが普通の輸送船ではないと気づいた。
長い船体を持ち、その構造配置は高級な個人所有船に近い。外装には優雅な意匠が施され、何層にも重なった装飾的な構造は、単に輸送上の必要性を満たすためではなく、豪華さを演出するために設計されたように見えた。
だが、その豪華さも今では損傷によってほとんど覆い隠されている。
船体の一部は裂けていた。
複数の外部モジュールも、本来の位置から外れている。
深刻な損傷を受けた区域の周囲には、エネルギー放出の痕跡が見られた。
レアが近づいてきた。
「紬……これ、ただエンジンが故障しただけの船じゃないよ」
俺は頷いた。
「俺もそう思う。セラフィエル、周囲の反応を調べてくれ」
「確認中です」
大型船の周囲に、いくつかの新しいマーカーが現れた。
その動きは、通常の船舶交通とは似ても似つかない。
直後、センサー映像に閃光が走った。
武装艦の一隻が、大型船の船体に向けて発砲したのだ。
それから間もなく、別の艦が位置を変え、まだ脱出方向として使えそうだった航路を塞いだ。
俺は姿勢を正した。
「つまり、攻撃を受けているわけか」
「はい、紬。現在の観測結果によれば、複数の武装艦が緊急信号の発信源に対して、今も攻撃を続けています」
ヴェスペラが、それぞれの相対位置を拡大する。
「脱出可能な航路も、いくつか塞がれています。大型船は現在の状態では、十分な機動空間を確保できません」
レアが歯を食いしばった。
「あんなに壊れた船を、まだ攻撃してるの……?」
誰もすぐには答えなかった。
俺はセンサー映像を見つめた。
もはや正常な航行ができない豪華船を、複数の武装艦が取り囲み、攻撃を続けている。
少なくとも、緊急信号が発せられた理由は分かった。
「セラフィエル、近づかずに、あの船の通信システムからもっと情報を得ることはできるか?」
「まだ応答している緊急用インターフェースを通じて、接続を試みることは可能です。ただし、アクセスできる保証はありませんし、明確な根拠なしに救助と無関係なシステムへ侵入することはしません」
俺は頷いた。
「識別情報、損傷状況、それから緊急チャンネルを通じて公開されている安全情報だけに限定してくれ。向こうの制御システムを乗っ取るようなことはするな」
「承知しました」
セラフィエルが追加の端末を開いた。
通信処理が数秒間続く。
最初は何の応答もなかった。
だが、やがて通知が表示された。
緊急用インターフェース — 部分応答
「発信元の艦船の緊急用インターフェースから応答を受信しました、紬。主要システムは損傷していますが、一部の通信サービスと安全報告機能はまだ稼働しています」
「接続は許可されたのか?」
「緊急用インターフェースが、限定的な救助支援要求を受け付けました。避難が必要な人がまだ残っているか判断するため、利用可能なデータの取得を試みます」
俺は頷いた。
「慎重に進めてくれ」
セラフィエルが、その接続を通じて確認を開始した。
端末にいくつかのデータが表示される。
生命維持システムの状態。
警報履歴。
区画の損傷状況。
最後の通信記録。
そして、彼女の表情が変わった。
「……紬」
俺はすぐに振り向いた。
「どうした?」
赤い警告が表示された。
不正な逆侵入を検出
「開いたばかりの接続を通じて、逆方向から攻撃を受けています。緊急用インターフェースを利用し、アクセス元のシステムへ到達しようとする敵対的なプロセスを検出しました」
「接続を切れ」
「実行中です」
セラフィエルは素早く対応した。
画面上では、外部からのプロセスがASTRAEON VELORIAの主要ネットワークへ侵入するより先に、内部の複数の防護層がアクセスを遮断していく。
俺は接続インジケーターが赤色に変わり、切断されるのを見届けた。
リモートセッション — 終了
ASTRAEON中枢システム — 隔離済み
「艦の状態は?」と俺は尋ねた。
「安全です。敵対的なプロセスは隔離された検査環境内に封じ込められ、ASTRAEON VELORIAの中枢システムへのアクセスは取得されていません」
俺はゆっくりと息を吐いた。
「何がお前を攻撃したんだ? あの船の自動保安システムか?」
セラフィエルが首を横に振った。
「攻撃全体の発生源は、まだ特定できていません。ただし、その攻撃パターンから、当該船の緊急用インターフェースが改ざんされていることが分かります。攻撃者が通信経路を利用し、アクセスを試みた相手を攻撃する仕組みを設置している可能性があります」
ランがすぐに画面へ目を向けた。
「つまり、救助要請そのものが、救助船に対する罠として利用される可能性があるのですか?」
「接続時の挙動から裏付けられる可能性のひとつです。明確な運用上の理由と安全対策がない限り、この経路を再び開くことはしません」
俺は頷いた。
「よし。信頼できるかどうかも分からない追加データのために、艦のシステムを危険にさらす必要はない」
セラフィエルが俺を見つめた。
「接続が切れる前に、安全記録の一部を保存できました。センサー観測との相互検証が可能なデータです。確認していただきたい重要な情報があります」
「表示してくれ」
表示された報告書によって、指揮デッキの空気はさらに重くなった。
そのデータから船の完全な識別情報を得ることはできなかったが、緊急信号を受信する以前に発生した損傷や、いくつかの出来事の履歴が示されていた。
どうやら、あの大型船は単独で航行していたわけではないらしい。
以前は護衛艦隊とともに移動していた。
しかし、残された緊急記録によれば、攻撃の最中に護衛艦の反応が一隻、また一隻と失われていったという。
セラフィエルが復元できた部分を表示する。
復元された緊急記録 — 一部
| 項目 | 結果 |
| -------------- | --------------- |
| 信号発信元の艦船 | 深刻な損傷 |
| 護衛艦隊 | 全護衛艦の反応が撃破として記録 |
| 主要通信システム | 損傷 |
| 複数の区画 | 気圧および機能を喪失 |
| 最終記録におけるクルーの状態 | 死亡者を確認 |
| 緊急用インターフェース | 敵対勢力によって改ざん済み |
| 艦内にいる全員の状態 | 全面的な検証は未完了 |
俺は報告書をもう一度読み直した。
「護衛艦隊が全滅したのか?」
「最後の緊急記録と、現在確認できる接触履歴には、そのように示されています。また、攻撃が発生した宙域の周辺には、複数の艦船の残骸と整合する反応も見つかっています」
「本艦のクルーはどうなっている?」
セラフィエルは少しの間、言葉を止めた。
「安全記録によれば、最後の報告書に記載されていたクルーは、攻撃中に殺害されています。ただし、システムが損傷しているため、現在も艦内にいる可能性のある全員の状態までは確認できません」
レアが投影映像を見つめた。
「クルーまで殺したなんて……」
俺はすぐには答えなかった。
セラフィエルが大型船の映像を拡大する。
まだ形を保っている船体部分にも、繰り返し攻撃を受けた痕跡が残されていた。いくつかの区域は、すでに内部の気圧を維持できなくなっているようだ。
その一方で、周囲の武装艦は今も動いていた。
彼らはまだ、その場を離れていない。
そして大型船も、緊急信号の送信をやめてはいなかった。
「紬……」
俺はレアのほうを向いた。
彼女はまだ、画面に映る損傷した船を見つめていた。
いつもはぴんと立っている狐の耳も、今は力なく下がっている。
「どうした?」
「オーレリアのときのことを思い出しちゃった」
俺は黙った。
レアは少し声を落として続けた。
「あのときも、ひどい状態の船を見つけて、中にいた人が助けを必要としていたんだよね。でも、今回は違う。この船は本当に今も攻撃されていて、護衛艦隊も壊滅して、クルーまで殺されてる……」
俺は再び画面を見た。
彼女の言いたいことは分かる。
オーレリア・ヴェイリエンとの一件は、俺たちにとっても特別な印象を残していた。
あのときは、航行不能になった船との遭遇をきっかけに、ヴェルドラコンの貴族家や、それまで想像もしていなかったさまざまな問題に関わることになったのだ。
しかし、今目の前にある状況は、それよりもはるかに深刻だった。
俺たちが見ているのは、事故に遭ったあと、救助を待っている船ではない。
今も続いている攻撃を、目の当たりにしているのだ。
レアが眉をひそめた。
「ヴェルドラコン帝国って、本当に敵が多いんだね……」
ランが彼女に顔を向ける。
「今回の攻撃に関与している勢力の身元は、まだ分かっていませんよ」
「分かってる。ただ……」
レアは一度言葉を止め、ため息をついた。
「帝都を離れてからいろんなことがあったでしょ。帝国の周辺って、外から見ていたときよりずっと複雑なんだなって、思うようになったんだ」
俺は頷いた。
「それは確かだ。でも、国境の近くで攻撃が起きたからといって、攻撃者がヴェルドラコンの敵だとすぐに決めつけるわけにもいかない」
「うん」
レアは再び画面を見つめた。
「でも、あの船にまだ生きてる人がいるなら、きっと怖い思いをしてるよ……」
俺は否定しなかった。
ランが、それまで端末に開いていた管理報告書を閉じた。
「紬、もうひとつ確認させてください。私たちはすでに、契約C-145-MCの全貨物を正式に受領しています。信号源への接近を決定する場合、貨物へのリスク、予定変更の可能性、タラリスへの通知義務を考慮しなければなりません」
「分かってる」
「救助に反対しているわけではありません。ただ、この艦がほかに何の責任も負わずに航行しているかのような判断はできないのです」
俺は彼女を見た。
「貨物を放り出すつもりはない。それに、状況も分からないままASTRAEON VELORIAを砲火の真ん中へ突っ込ませる気もないよ」
ランが頷いた。
「でしたら、これまでに得られた情報に基づいて、緊急事態の記録を準備します」
「頼む」
続いて、俺はヴェスペラへ目を向けた。
「航路計算の結果は?」
彼女が地図を拡大する。
「現時点では、主要回廊内の位置を維持したまま、安全な距離から信号源を観測できます。あの船へ接近する場合は、宙域の境界、攻撃艦の位置、輸送航路への復帰経路を考慮する必要があります」
「方向転換が難しくなる地点は、もう通過したか?」
「まだです。ただし、待機時間が長くなるほど、後から接近を決定した場合に必要な航行調整は大きくなります」
俺は頷いた。
それは重要な情報だった。
自艦の位置を把握するのが遅れたせいで、救助の判断が航法上の問題に変わるような事態は避けたい。
「レア、必要になった場合、救助活動の準備はどこまでできている?」
彼女はすぐに背筋を伸ばした。
「ヴァルキリーは準備完了! カリスタにも連絡して、軍用貨物を動かさずに格納庫の支援装備を使えることを確認してあるよ!」
「よし。ただし、まだ出撃許可は出していないからな」
「了解!」
「セラフィエル、今はあの船のサーバーに再接続しないでくれ。遠距離センサーと、安全な受動チャンネルを使うんだ」
「承知しました、紬」
「それと、さっきのデジタル攻撃は記録しておいてくれ。攻撃者が、現場周辺のほかの通信にも同じ手口を使っているか知りたい」
「不要な接続を開かずに確認します」
俺は再び豪華船の映像を見つめた。
船体の一部に、また閃光が走った。
武装艦の一隻が、それまで開いていた航路を横切るように移動し、別の艦は攻撃位置を維持している。
どうやら、あの船を逃がすつもりはないらしい。
俺は奥歯を噛みしめた。
まだ戦う能力を持つ相手と交戦することと、すでに能力の大半を失った船を攻撃し続けることは、まったく違う。
まして、護衛艦隊がすべて壊滅したあとだ。
だが、怒りは状況を理解せずに判断を下していい理由にはならない。
誰が攻撃しているのか。
どれほどの戦力が関与しているのか。
そして、まだ救える人が残っているのか。
それを知らなければならない。
21:37。
セラフィエルがメインスクリーンのセンサー映像を更新した。
大型船の姿が、先ほどよりも鮮明に映し出される。
明るい色の外装材を何層にも重ねた船体と、高級な旅客輸送のために設計されたと思われる構造を持つ、まさしく豪華な船だった。
しかし、その船体の複数箇所はすでに破壊されている。
片側の広い範囲には深刻な損傷が見られ、周囲の複数の武装艦は今も攻撃を続けながら、逃走経路を塞ごうとしていた。
その船の識別情報は、まだ確定できていない。
俺は投影映像を見つめ、それからセラフィエルへ視線を移した。
「セラフィエル、攻撃艦を識別してくれ」
「トランスポンダーと通信パターンを照合中です、紬。照合が完了するまでは、彼らの身元を断定しません」
レアが席で背筋を伸ばした。
ランは財務報告書を閉じ、緊急事態の記録へ意識を集中させる。
ヴェスペラはASTRAEON VELORIAの現在の針路を変えないまま、安全な接近航路の計算を始めた。
一方、俺たちの艦の全兵装システムは、規定の手順に従った待機状態を維持している。
こちらからは、まだ一発も撃っていない。
俺は主要輸送航路の外側で攻撃を受け続ける豪華船を見つめた。
タラリスとの契約は、まだ終わっていない。
軍用貨物はすべて、今もASTRAEON VELORIAの中にある。
だが、俺たちの航路のすぐ先では、護衛艦隊をすべて失った船が、今も助けを求める信号を送り続けていた。
そして、誰かがその救助要請に決して応答が届かないようにしようとしているらしかった。
【第5巻・完】
【次巻・第6巻 ―「戦姫を乗せた白銀の船」】
戦姫を乗せた白銀の船。




