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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第148話】「最終積載確認」

【第148話】「最終積載確認」



ヴェルドラコン出航から27日目 — 艦内標準時 07:10~21:35 場所:タラリス軍事兵站停泊施設 — ASTRAEON VELORIA → 貨物搬送リング → ASTRAEON VELORIA 視点:星崎紬


「紬、最後の貨物群がこちらの受入経路に入る予定時刻は09:40です」


朝食を取っていた俺は、セラフィエルが皿の横に端末を置いたところで顔を上げた。


画面には、06:55にタラリス側が更新した積載報告書が表示されている。


以前保留となっていたコンテナ群はすべて正式な搬送順序に戻され、封印番号TL-SG-482716と、修正後の質量186,040 kgも承認済みの改訂マニフェストに記載されていた。


少なくとも、昨日ほぼ一日を費やした問題を蒸し返す必要はなさそうだ。


「ほかの貨物群は?」


「すでに輸送区画へ搬入された貨物群は、すべて正常な状態です。最終検査では、ユニット数、実測質量、荷重配分、固定具の状態、受領書類との一致を確認します」


俺は頷いた。


「よし。昨夜の保安警告はどうなった?」


向かい側で飲み物を楽しんでいたヴェスペラが、セラフィエルが次の報告書を開くより先に答えた。


「回廊の閉鎖通知は、まだありません。私たちの航路に隣接する宙域での武装艦船の活動については、引き続きタラリスが監視していますが、今回の輸送が標的になっていると証明する新たな情報は出ていません」


「つまり、状況の変化を確認しながら、航法計画は維持するわけだな」


「そのとおりです、紬」


ヴェスペラの隣に座っていたランが、財務端末を閉じた。


「それから、お尋ねになる前に申し上げますが、契約金はまだ受領済みの現金として計上していません」


俺は彼女を見た。


「まだ口も開いてないんだけど」


「正確な情報を把握したうえで一日を始めていただきたかっただけです」


セラフィエルが小さく笑った。


俺はため息をつき、朝食を再開する。


契約総額8,400,000 GCは確かに承認された。だが、それは俺が荷物を運ぶと承諾しただけでもらえる褒美ではない。


契約に定められた支払条件を満たすまで、仕事をやり遂げなければならないのだ。


そして利益を考えるより先に、俺たちには国境の補給拠点まで安全に届けるべき、大量の戦略物資がある。


08:20。


俺はセラフィエル、ラン、カリスタとともに、ASTRAEON VELORIAの貨物受入施設へ到着した。


レアはすでにそこで待っていた。


作業用の運用服を着て、腰には監視端末を下げている。俺たちが近づくと、狐の耳がぴくりと動いた。


「紬! 通路は全部確認したよ。格納庫へのアクセスも避難経路も、邪魔になる物は何もない!」


「よし。ヴァルキリーの状態は?」


「運用準備完了! コンテナを追加で置く場所を作るために、支援装備が勝手に移動されていないことも確認したよ」


カリスタが満足そうに頷いた。


「作業結果は私も再確認したよ。今回は本当に、報告する前に点検項目を全部終わらせてたからね」


レアが勢いよく振り向いた。


「『今回は』ってどういう意味!?」


「褒めてるんだよ。素直に受け取っときな」


俺は小さく笑った。


セラフィエルが区域配置の投影図を起動する。


タラリスとの契約に割り当てた輸送区画は、その大部分がすでに埋まっていた。大型モジュールは艦の取扱能力に適した場所へ配置され、特別な保管条件が必要な貨物群は、それぞれ独立した区画に収められている。


主要搬送経路は開放されたままだ。


MCV-01とモビルフレームの格納庫にも支障はない。


医療設備、居住区、クルーの私用区域も、引き続き積載構成の対象外となっている。


俺は図を確認した。


「ランの商業用スペースは?」


セラフィエルが微笑んだ。


「引き続き分離されており、軍事輸送契約の貨物には使用していません」


ランもすぐに付け加える。


「オルセリオンで購入した有機食品、合成食品、飲料の在庫も検査済みです。タラリスのマニフェストに商業在庫が混入していることはありません」


「よし」


「それから、またお尋ねになる前に申し上げますが、中型クラスのモジュール式船体構造材は、まだ調達計画の段階です」


俺は彼女を見た。


「……お前、本当に俺にその件を忘れさせないつもりだな?」


「商業計画の継続性を保っているだけです」


レアが笑った。


「いつか買うことになったら、私もまだ見てみたい!」


カリスタが首を振った。


「まずは目の前の仕事を片づけようじゃないか」


まったく同感だった。


09:00を少し過ぎたところで、貨物搬送リングは最後の積載工程を開始した。


監視室からは、検査を終えたコンテナ群を載せた搬送車両が、ASTRAEON VELORIAの受入経路へ向かう様子を確認できた。


タラリスの担当者たちは、複数の班に分かれて作業していた。


識別情報と書類を担当する班。


計量と配置を監督する班。


そして、車両と大型搬送設備を操作する班だ。


その中には、昨日問題のあったコンテナの現物検査を指揮した、スペースドワーフの貨物主任検査官ブレイメク・ソーレンもいた。


今日は彼の隣に、積載監督官の制服を着た、黒い短髪のヒューマン女性が同行している。


「星崎艦長、ご紹介します。こちらは貨物搬送班の責任者、兵站中尉エドリア・ソルヴェンです」


俺は彼女と握手を交わした。


「星崎紬です。うちの艦の積載作業を担当していただき、ありがとうございます」


「こちらこそ、艦長。私の班は、承認済みの貨物群すべてを計画どおりの位置に配置するまで、物理的な搬送を担当します。その後、隊員が艦を離れる前に合同で最終確認を実施します」


俺は頷いた。


「よろしくお願いします。作業員全員が安全に退出できて、装備や未記録の作業も残らないようにしたいんです」


ソルヴェンが微笑んだ。


「私も同じ考えです」


カリスタはすぐに、指定済みの経路を表示した。


「次の貨物群はこの通路を使ってくれ。格納庫側のほうが広く見えても、そっちへ車両を回さないように。越えちゃいけない運用上の境界があるんだ」


ソルヴェンが地図を確認する。


「承知しました。承認済みの経路に従います」


俺はカリスタをちらりと見た。


どうやら、この二人は気が合いそうだ。


少なくとも、搬送車両が艦の重要施設を通って勝手に近道しないようにする、という点では。


09:42。


最後の貨物群が受入経路へ入った。


コンテナは搬送プラットフォームの上をゆっくりと進んでいく。


セラフィエルがそれぞれの参照番号を表示し、最終マニフェストと照合した。


ランも管理端末からその作業を追っている。


「貨物群の識別情報は一致しています。一覧にない番号の追加もありません」


「質量の読取結果も、タラリスの検査データと一致しています」とセラフィエルが続けた。


俺は頷いた。


「手順どおりに進めてくれ」


ソルヴェンが班員へ指示を出す。


複数の搬送車両が順番に動き、モジュールを指定の区画へ運び込んでいく。


どの作業も、急いで進められることはなかった。


貨物群が配置位置へ到着するたびに、担当者が固定箇所を検査し、確認を出してから次の車両が動き始める。


カリスタは技術パネルを通して作業を追っていた。


「セラフィエル、このモジュールを固定したら、区画側の荷重をもう一度確認してくれ」


「確認中です」


質量配分の図が変化する。


いくつかの数値がわずかに動き、システムの計算が終了したところで止まった。


「設計上の許容範囲内です」とセラフィエルが報告した。「搬送設備がすべて搬出されるまで、監視を継続します」


俺は画面を見つめた。


タラリスに滞在する中で、ようやく実感したことがある。


貨物を艦内に入れるというのは、作業の一部にすぎないのだ。


すべての扉を閉じて航行を始めたあとも、その貨物が艦の機能を妨げないことを確認しなければならない。


しかも、目的地は普通の商業港ではない。


俺たちが向かうのは、帝国の国境宙域にある兵站補給拠点だ。


ASTRAEON VELORIAが目的地の施設へ接近している最中に、荷重配分の問題が見つかるような事態だけは避けたい。


11:30が近づいた頃、最後の貨物群の物理的な搬送が完了した。


しかし、ソルヴェンはすぐに作業終了を宣言しなかった。


各班の監督者を集め、作業終了時の確認を始めたのだ。


すべての搬送車両は退出経路へ戻さなければならない。


積載中に使用した仮設機材も、数量を確認する必要がある。


作業区域についても、工具、予備の固定部品、担当者の私物などが残されていないか検査された。


カリスタも、タラリスの技術者2名とともにその確認に参加している。


俺はソルヴェンとソーレンに同行し、監視通路を歩いた。


「そちらの班では、いつもここまで徹底した終了確認を行うんですか?」


俺が尋ねると、ソルヴェンが頷いた。


「戦略物資の場合は、そうです。私たちの仕事は、すべてのコンテナを所定の位置に置いただけでは終わりません。輸送業者の方々に問題を残していないことまで確認する必要がありますから」


「いい考え方ですね」


「特に、受領記録に署名されたあとは、艦長がこれらの物資を私たちの施設から遠く離れた場所まで運ぶことになりますので」


俺は、区画いっぱいに並んだモジュールを見つめた。


「確かにそうですね」


ソーレンが識別パネルのひとつの前で足を止めた。


「艦長、TL-CG-017についても、終了確認の一覧でもう一度検査しました。コンテナの識別情報、封印、修正後の質量は、すべて一致しています」


俺は頷いた。


「ありがとうございます。昨日の検査を省略しなくてよかったですよ」


「私もそう思います」


スペースドワーフの男性は、短く微笑んだ。


「書類の誤りを見つけるために一日費やすほうが、目的地の補給拠点で問題になるまで放置するより、ずっとましですからな」


心から同感だった。


12:15。


ソルヴェンが、搬送班によるすべての物理作業の完了を宣言した。


俺たちは主要受入区域に集まった。


タラリスの兵站班員たちが整然と並んでいる。その一方で、彼らの車両や作業機材は、すでに艦の区画外へ搬出されていた。


セラフィエルが区域検査の結果を表示する。


ASTRAEON VELORIA — 積載班退出確認


| 検査項目 | 状態 |

| ----------- | ---------- |

| 予定された全貨物群 | 配置完了 |

| 仮設搬送機材 | 搬出済み |

| タラリスの作業車両 | 搬出済み |

| 受入経路 | 障害物なし |

| 整備通路および避難経路 | 開放済み |

| 積載担当者 | 艦からの退出準備完了 |

| 合同最終検査 | 承認待ち |


ソルヴェンは一覧を確認すると、俺に向き直った。


「星崎艦長、私たちの班は、承認済みの全貨物の搬送を完了しました。担当する積載作業の範囲に、未完了の物理作業は残っておりません」


「皆さん、お疲れさまでした。ありがとうございます」


俺は彼女と握手を交わした。


ソルヴェンは続いて、班員全員へ顔を向ける。


「総員、私物の最終確認。指定された退出順序に従い、本艦を離れます」


担当者たちが一斉に返事をした。


そのうちの何人かは、朝から技術面での調整を支援していたカリスタとセラフィエルにも頭を下げた。


出発前に、ソーレンが俺のところへやって来た。


「艦長、昨日はコンテナの検査に時間を割いていただき、ありがとうございました」


「こちらこそ感謝しています。皆さんが丁寧に確認してくれなければ、施設を離れてから書類の不一致に気づいていたかもしれません」


彼は頷いた。


「どうか、ご安全な航行を」


そして、ソルヴェンがもう一度俺の前に立った。


今朝、積載の指示を出していたときほど、その表情は硬くなかった。


「星崎艦長。これらの物資は、契約上は戦略物資として記録されています。ですが、その多くは国境の補給拠点で、予備部品や整備機材、医療物資の到着を待っている隊員たちのために使われるものです」


俺は彼女の言葉に耳を傾けた。


「私たちの班は、ここでの担当業務を終えました。この先の輸送については、ASTRAEON VELORIAに貨物を託します。どうか、すべてを無事に届けてください」


俺はしばらく彼女を見つめた。


それから頷く。


「お任せください。契約に従って輸送責任を果たし、正しい手続きを経て、すべての貨物を届けます」


ソルヴェンが微笑んだ。


「ありがとうございます、艦長」


彼女は軽く敬礼すると、班員全員を率いて退出経路へ向かった。


俺は最後の担当者が連絡ゲートを通過するまで、その場に立っていた。


セラフィエルがアクセス記録を確認する。


「紬、タラリスの搬送班員は全員、ASTRAEON VELORIAから退出しました。艦内の作業区域に残っている同班の人員は、記録上もゼロです」


「よし。施設管制から確認を受けたら、臨時の積載用アクセスを閉鎖してくれ」


「承知しました」


俺は改めて、戦略物資で埋まった区画に目を向けた。


数分前まで、ここは車両と作業員で賑わっていた。


今では、大型コンテナの列と艦内監視システムの作動音だけが残されている。


ソルヴェンの言葉が、まだはっきりと耳に残っていた。


――どうか、すべてを無事に届けてください。


俺は静かに息を吐いた。


「さて。今度は俺たちが、次の仕事を仕上げる番だな」


昼食後、ASTRAEON VELORIAの艦内検査が始まった。


セラフィエルは、配置済みの全貨物群の実測質量に基づいた荷重配分モデルを表示した。


今回は、初期計画で使用していた暫定値はもうない。


すべてのデータが、承認済みの測定結果に基づいている。


「紬、最終的な積載構成は艦の主要システムに影響を与えていません」と彼女が報告した。「荷重配分は設定済みの運用許容範囲内に収まっており、すべての安全通路も開放されています」


俺は頷いた。


「以前、質量に不一致があった貨物群は?」


「最終モデルには186,040 kgを使用しています。運用計算に旧質量の参照値は残っていません」


「よし」


カリスタが貨物固定具の報告書を開いた。


「タラリスの班が退出する前に、取り付け結果を一緒に確認したよ。そのあと、こちらでも追加の艦内検査を行った。整備パネルや、目的地での荷下ろしに必要になる取扱車両の通路を塞いでいるモジュールはないね」


「急な機動が必要になった場合は?」


「固定具は、承認済みの荷重設計に従っている。ただ、航行中もセラフィエルには状態を監視してほしい。特に、加速度プロファイルが大きく変化したあとはね」


セラフィエルが頷く。


「監視はすでに有効化してあります」


俺は微笑んだ。


「よし」


続いてレアが格納庫の報告書を表示した。


「ヴァルキリーは準備完了、MCV-01も引き続き運用可能! 展開経路に契約貨物は置かれていないよ。安全装備へのアクセスも確認済み!」


「俺のモビルフレームの試作機は?」


「状態は正常。カリスタが技術検査を終わらせてくれたよ」


カリスタが口を挟んだ。


「それと、航行中に新しいアイデアを思いついたからって、いきなり武装構成を変えようとしないでくれよ」


俺は彼女を見た。


「まだそんなことするとは言ってないぞ」


「念のためさ」


レアが笑った。


俺は首を振った。


大きな仕事をひとつ終えたあとでも、カリスタは俺が突然技術班の仕事を増やさないよう、釘を刺す機会を逃さないらしい。


15:20。


ヴェスペラから、指揮デッキに少し集まってほしいと連絡があった。


メインスクリーンには、以前から最終確認用に固定してあった航法計画が表示されている。


「紬、貨物の実測質量を航行計算へ反映しました」


俺は近づいた。


「大きな変更はあるか?」


「認可済みの回廊を変更する必要が生じるほどではありません。ただし、積載後の艦の状態に基づいて、機動パラメータと接近プロファイルを更新しています」


セラフィエルが質量配分の計算結果を航法システムへ接続した。


パネルの上にASTRAEON VELORIAのモデルが浮かび上がる。


「タラリス施設からの退出、FTL起動地点への移行、目的地の補給拠点への接近における艦の制御条件についても、最終的な積載構成との照合を完了しています」


俺は地図を確認した。


「昨夜、保安警告が出ていた宙域はどうなった?」


ヴェスペラが警告表示のある部分を拡大する。


「閉鎖命令はまだ出ていません。タラリス側は、私たちの回廊に隣接する宙域で増加している武装艦船の活動を引き続き監視しています。私は正式航路を維持し、新たな情報を受領した場合の再評価手順を準備しました」


「よし。推測だけで航路を変えるなよ」


「もちろんです」


俺はセラフィエルに目を向けた。


「出航時に使う航行計画にも、その警告を残しておいてくれ」


「すでに反映済みです」


航法席の後ろに立っていたレアが、警告マーカーを眺めていた。


「もし途中で武装した船が現れても、まずは識別手順に従うんだよね?」


「そうだ。武装しているってだけで、相手を攻撃したりはしない」


「了解!」


俺は満足して頷いた。


夕方が近づいた頃、ランから積載関連の報告書をすべて集め、最後の事務確認を行いたいと申し出があった。


俺たちはグランドサロンへ戻った。


目の前の端末には、発行順に整理された複数の書類群が表示されていた。


承認済みの契約書、最終マニフェスト、修正履歴、現物検査報告書、封印一覧、質量測定結果、貨物配置の作業記録などだ。


ランは俺の隣に座り、説明を始めた。


「物理的に艦内に存在する貨物と、今後私たちが輸送責任を引き受ける貨物の間に、相違がないことを確認したいと思います」


俺は頷いた。


「頼む」


彼女は最初の一覧を開いた。


「配置済みの全貨物群は、最終マニフェストと照合済みです。追加のコンテナ番号はありませんし、書類には記載されているのに最終検査で確認できなかったユニットもありません」


セラフィエルが付け加える。


「艦内検査でも同じ結果が得られています」


ランが続けた。


「関連する封印番号も、すべて承認済みの書類と一致しています。TL-CG-017の改訂履歴も、目的地の補給拠点で以前の不一致について質問された場合に説明できるよう、保存してあります」


俺は小さく微笑んだ。


「どうやら、あの封印番号は荷物を引き渡すまで、ずっと俺たちについて回るらしいな」


「そうあるべきです、紬」


「分かってるよ」


ランが表示を切り替えた。


最終貨物書類照合


| 検査項目 | 結果 |

| -------------- | ----------- |

| 貨物群の総数 | 最終マニフェストと一致 |

| 全コンテナの識別情報 | 一致 |

| 封印番号 | 検証済み |

| 実測質量 | 検査結果と一致 |

| TL-CG-017の修正履歴 | 添付済み |

| 物理的な配置 | 完了 |

| 荷重配分 | 確認済み |

| 受領書類 | 承認準備完了 |


俺は表に目を通した。


「新しい問題はないんだな?」


「ありません」


「契約金額は?」


ランが最後のページを開く。


8,400,000 GCという数字が、再び表示された。


「契約総額は合意内容から変わっていません。昨日の事務的な修正によって報酬が自動的に追加されることもなく、契約上の根拠のない減額も適用されていません」


「よし」


「ただし、支払いはまだ受領済みとは見なしていません」


俺は笑った。


「ああ、ラン。覚えてるよ」


セラフィエルも微笑んだ。


受領記録に署名する前に、ひとつ確認しておかなければならない事務上の変更があった。


タラリスから送られてきた最終履行書類には、現在、C-145-MCというコードが使用されている。


俺はその部分を指さした。


「ラン、このコード、最初の提示参照番号だったC-142-LGと違うな」


「はい。書面による説明を求め、すでに受領しています。C-142-LGは交渉過程で使用された、当初の提示および審査の参照番号です。最終的な輸送履行書類はC-145-MCというコードで発行されており、両者には正式な関連付け記録があります」


セラフィエルが相互参照情報を表示する。


俺は慎重に目を通した。


発注者に変更はない。


契約総額も変わっていない。


目的地も同じだ。


そして何より、書類のコードが変わったからといって、新しい条項が突然追加されたりもしていなかった。


「つまり、これからはC-145-MCを最終輸送契約の識別番号として使うわけだな?」


「そのとおりです」とラン。「以後の運用報告書はすべてそのコードを使用し、C-142-LGへの参照も事務履歴に保存しておきます」


俺は頷いた。


「よし。目的地の補給拠点に着いてから、受入担当者が別の番号の書類を待っていた、なんてことにはしたくないからな」


ランが微笑んだ。


「だからこそ、署名をお願いする前に確認したのです」


17:40。


ヴォスク大佐とローヴァン上級中尉が、公式通信回線を通じて会議に加わった。


二人とも、タラリス側の担当班から最終検査結果を受け取っている。


「星崎艦長、施設側の報告書と、貴艦から提出された検査結果を照合しました」とヴォスクが言った。「未解決の不一致はありません」


俺は頷いた。


「こちらも艦内検査を完了しています」


ローヴァンが受領記録を開く。


「この書類には、承認済みの全貨物群が配置・検査され、契約条件に従ってASTRAEON VELORIAへ輸送責任を移管できる状態になったことが記録されています」


ランが書類を最後にもう一度確認した。


それから、俺に顔を向ける。


「署名を推奨します」


俺はセラフィエルを見た。


「艦の状態は?」


「最終検査の結果はすべて適合しています。貨物の受領を妨げる技術的な問題はありません」


「ヴェスペラは?」


「艦の実測質量に合わせて、航法計画の調整を完了しています」


「カリスタ、レア?」


カリスタが頷いた。


「貨物設備も格納庫も準備完了だよ」


レアも続く。


「警備装備も準備できてるよ、紬!」


俺は再び画面へ向き直った。


「分かりました」


受領記録が俺の端末に表示された。


書類の識別情報と義務の概要を最後に読み直し、デジタル署名を承認する。


システムが検証を終えるまで、数秒かかった。


そして、通知が表示された。


C-145-MC — 貨物受領確認完了


俺はゆっくりと息を吐いた。


これで、ソルヴェンと彼女の兵站班が託してくれた貨物は、本当の意味で俺たちの輸送責任となった。


ヴォスクが微笑んだ。


「ありがとうございます、星崎艦長。この先の輸送は、あなたとASTRAEON VELORIAにお任せします」


「契約条件に従って、責任を果たします」


「どうか、ご安全な航行を」


「ありがとうございます」


通信が終了した。


セラフィエルが艦の主要ステータスを更新した。


ASTRAEON VELORIA — 契約状況


| 項目 | 最終データ |

| --------- | ------------------------ |

| 契約コード | C-145-MC |

| 当初の提示参照番号 | C-142-LG |

| 発注者 | タラリス戦略兵站局 |

| 輸送業者 | ASTRAEON VELORIA |

| 貨物 | 戦略物資、予備部品、医療用品、軍事支援モジュール |

| 目的地 | タラリス国境兵站補給拠点 |

| 契約総額 | 8,400,000 GC |

| 支払い | 契約条項および引渡証明に従う |

| 積載作業 | 完了 |

| 最終検査 | 完了 |

| 輸送責任 | 正式受領済み |

| 運用状況 | 移動許可の発行後、出航可能 |


俺は報告書を見つめた。


ようやくだ。


施設検査、契約交渉、コンテナの質量問題、封印番号の不一致、そしてすべての積載作業。


それらを経て、俺たちは安全手順を犠牲にすることなく、準備段階を完了させることができた。


ランが受領記録の写しを艦の管理システムに保存する。


「受領書類の保管を完了しました。バックアップも作成済みです」


「よし」


「それから、もう一度申し上げますが、契約総額はまだ受領済みの支払いではありません」


俺は彼女を見た。


「お前、本当に俺に忘れさせる気がないんだな?」


「ありません」


返事が早すぎた。


レアが声を上げて笑った。


19:10。


すべての事務手続きが完了したあと、俺は指揮デッキへ戻った。


ヴェスペラはすでに航法席についている。


セラフィエルはメインパネルの近くに立ち、レアとカリスタも、それぞれの運用端末を通じて準備状況を確認していた。


メインスクリーンの向こうには、タラリス軍事兵站停泊施設の巨大な構造物が、今も艦の周囲に広がっている。


だが、今回のASTRAEON VELORIAは、もうコンテナの到着を待ってはいなかった。


承認済みの貨物はすべて、俺たちの輸送区画に収められている。


俺は艦長席に腰を下ろした。


「ヴェスペラ、航路の準備は?」


「タラリス国境兵站補給拠点へ向かう正式航路は固定済みです。航法パラメータには、積載完了後の実測質量を使用しています」


「回廊の状態は?」


「新たな閉鎖通知はありません。隣接宙域での武装艦船の活動に関する警告は引き続き有効ですので、タラリスからの更新を監視し続けます」


俺は頷いた。


「セラフィエル、艦の状態は?」


「主要システムはすべて正常です。荷重配分の検証も完了しています。貨物区画は手順に従って施錠済み、安全通路は開放されており、外部の作業員も全員退出しています」


「よし」


俺はタラリスの交通管制との通信チャンネルを開いた。


「タラリス交通管制、こちらASTRAEON VELORIA。最終貨物検査、および契約C-145-MCに基づく輸送責任の受領を完了しました。出航手続きの準備状況について、確認をお願いします」


しばらくすると、管制担当者の声が返ってきた。


『ASTRAEON VELORIA、完了報告を受領しました。移動許可が発行されるまで、現在のドッキング位置を維持してください。施設の交通順序に従い、退出経路を準備中です』


「了解しました。正式な許可を受けるまで、現在位置を維持します」


俺は通信を閉じた。


レアがこちらを向いた。


「紬、じゃあ、もうすぐ出発?」


「向こうから許可が出てからな」


「やっとだね!」


カリスタが微笑んだ。


「嬉しくなりすぎて、装備の点検を忘れるんじゃないよ」


「もう点検したってば!」


「よし。なら、大人しく座ってられるね」


俺は小さく笑った。


21:35。


タラリス交通管制から、新しい通知が届いた。


セラフィエルがメインスクリーンに表示する。


移動許可 — ASTRAEON VELORIA


| 項目 | 内容 |

| ----- | --------------------- |

| 契約 | C-145-MC |

| 出航手続き | 許可済み |

| 交通回廊 | 割当済み |

| FTL起動 | 管制交通区域の境界を離脱したあとに限り許可 |

| 保安警告 | 引き続き有効 |

| 目的地 | タラリス国境兵站補給拠点 |


俺は最後まで目を通した。


それからヴェスペラへ顔を向ける。


「退出経路は受領できたか?」


「はい、紬。すべての航法地点が、発行された許可と一致しています」


「セラフィエル、最後の確認は?」


「運用上の問題はありません。ASTRAEON VELORIAは移動準備完了です」


俺は艦長席の背もたれに身を預けた。


メインスクリーンの向こうでは、バースの標識灯が艦の離脱手順に合わせて変化し始めている。


国境の補給拠点へ向かう旅が、いよいよ始まろうとしていた。


俺は、昼間に艦を離れる前、受入区域に並んでいたソルヴェンと彼女の班員たちのことを思い出した。


彼らは、自分たちの仕事をやり遂げた。


今度は俺たちの番だ。


「よし」と俺は言った。「セラフィエル、施設の許可に従ってドッキング解除を調整してくれ。ヴェスペラ、退出航路の準備を頼む」


「承知しました、紬」


二人の返事が、ほぼ同時に重なった。


俺は航法画面に形成され始めた航跡を見つめた。


「ASTRAEON VELORIA、タラリス軍事兵站停泊施設からの出航準備に入る」


【次話予告・第149話】


「民間船の軍用輸送」


民間船による軍事輸送――ASTRAEON VELORIAは、帝国の戦略物資を積んだ独立艦として、タラリス軍事兵站停泊施設を離れる。国境の補給拠点へ向かう航行中、紬は合意済みの回廊、保安手順、契約上の義務を遵守しながら、自艦の指揮権の独立性を守らなければならない。


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