【第146話】「封印番号の不一致」
【第146話】「封印番号の不一致」
ヴェルドラコン出航から26日目 — 艦内標準時 07:20~22:15 場所:タラリス軍事兵站停泊施設 — ASTRAEON VELORIA → 貨物検査ホール → 貨物搬送リング → ASTRAEON VELORIA 視点:星崎紬
「紬、タラリスから再検査の報告が届きました」
朝食を終えたばかりの俺のところへ、セラフィエルがグランドサロンで歩み寄ってきた。
白と濃紺の作業服を身にまとい、手には小型端末を持っている。表情はいつもどおり落ち着いていたが、その画面には黄色の通知が表示されていた。
俺はカップを置いた。
「昨日、問題が見つかったコンテナ群の件か?」
「はい。再計量の結果、質量の差異は計量プラットフォームの一時的な読み取り異常ではないことが確認されました。それに加え、タラリスの検査班が、引渡書類に記載された封印番号のうち、1件に不一致を発見しています」
テーブルの向かいに座っていたランが、すぐに顔を上げた。
「一次資料と計量記録の写しは、もう送られてきていますか?」
「はい。タラリス側から、私たちの検査権限に応じた限定的な閲覧許可が与えられています。現時点で物理的な封印が破損されたと結論づける根拠は見つかっていませんが、記録上の番号が一致していないことは確かです」
俺は小さく息を吐いた。
昨日、コンテナ群のひとつで実測値がマニフェストの質量データと一致しなかったため、俺たちは積載作業を停止させた。
どうやら今日は、さらに問題が増えたらしい。
「つまり、質量の差異と封印番号の不一致が同時に見つかったわけか」
「そのとおりです」とセラフィエルが答える。
ランは端末を開いた。
「でしたら、結論を出す前に、まず両者の関連を調べたいですね。同じ原因から生じた可能性もありますし、まったく別の2件の問題である可能性もあります」
俺は頷いた。
「賛成だ。証拠もないうちから妨害工作だと決めつけるな。ただし、誰かが小さなミスだと言っただけで、貨物の受け入れを再開するのもなしだ」
セラフィエルがかすかに微笑んだ。
「正式な検査結果に基づいて紬が承認するまで、積載停止措置は継続するよう、すでに伝えてあります」
「よし」
テーブルの端で、レアが手を挙げた。
「紬、誰かがコンテナの中身を入れ替えた可能性もあるの?」
そちらに目を向ける。
狐の耳はぴんと立っているのに、皿の料理はまだ食べ終わっていなかった。
「調べるべき可能性のひとつではあるな。でも、実際に何が起きたかはまだ分からない。だからこそ、タラリスの担当者に書類と封印、それから現物の状態を確認してもらうんだ」
「じゃあ、侵入者がいたとは限らないんだね?」
「そういうことだ」
隣に座っていたカリスタが口を挟んだ。
「大規模な貨物輸送で数字が食い違ったからって、必ずしも誰かがこっそり入り込んだとは限らないからな。現場の連中は正しく荷物を動かしたのに、その変更を事務方が間違って記録していた、なんてこともある」
俺は彼女を見た。
「経験がありそうな言い方だな」
「あるさ。そういうときに限って、管理部門の一覧表と受け取った現物が違う理由を説明させられるのは、たいてい技術屋なんだよ」
ランは端末を閉じた。
「でしたら、今回の検査を正しく終わらせる理由は、私たち全員にあるということですね」
08:05。
貨物検査ホールへ向かう前に、俺たちは指揮デッキに集まった。
ASTRAEON VELORIAは、引き続きタラリス軍事兵站停泊施設から指定された係留設備に停泊している。メインスクリーンの向こうでは、港湾業務が普段どおり進められていた。
離れたバースでは大型輸送船が出航検査を受けており、軌道施設のフレームに沿って、何台もの整備車両が行き交っている。
大規模な警報が鳴り響いているわけでもない。
軍艦が突然こちらへ砲口を向けてくるようなこともなかった。
積載工程の一部が保留になっていても、この軍港は淡々と仕事を続けていた。
俺は、そういう姿勢が好きだった。
事務処理上のミスひとつで、施設全体がパニックになる必要はない。
「ヴェスペラ、艦の状態は?」
「係留状態は安全です。航法システムも準備できていますが、最終出航書類がまだ発行されていないため、輸送航路の確定は行っておりません」
「よし。問題がいつ解決するかという予想だけで、予定を変更しないでくれ」
「承知しました、紬」
カリスタが貨物設備の報告を表示した。
「初期検査を通過した貨物群は、引き続き規定どおりの監視下にある。問題のあるグループに関係する受入経路も使っていないよ」
俺は頷いた。
「レア、格納庫はどうだ?」
「ヴァルキリーは準備完了! 保安システムも避難経路も正常だよ。作業用の搬送機材が運用通路に放置されていないことも確認した!」
「よし。今日はカリスタと一緒に艦に残って、受入設備の監視を頼む」
レアが俺を見つめた。
「貨物検査ホールには、あたしがいなくてもいいの?」
「積載予定が変わったとき、すぐ艦の状態を確認できる場所にいてほしいんだ」
少し考えてから、彼女は頷いた。
「分かった。じゃあ、書類の検査はランとセラフィエルに任せるね」
ランが微笑む。
「もともと、その予定です」
俺は改めてセラフィエルを見た。
「お前も直接来るんだよな?」
「もちろんです、紬。タラリス側から提供された時刻記録について、照合用の作業コピーを準備してあります。正式な許可の範囲を超えて先方のシステムにアクセスすることなく、確認を進められます」
「分かった。出発しよう」
貨物検査ホールは、昨日の積載計画室とは別の区画にあった。
俺たちは施設内の輸送車両に乗り、管理ターミナルと貨物取扱区域を結ぶ通路を進んだ。
窓の外には、計量レーンへ向かってコンテナを運ぶ搬送プラットフォームがいくつも見える。
車両は自動誘導標識に従って移動し、施設職員が監視端末で読み取り結果を確認していた。
俺の隣にはランが座っている。
艦を出てからというもの、彼女は今朝届いた書類をすでに2回読み返していた。
「何か見つかったか?」
「昨日提供された質量記録と、今朝の再計量結果には、同じ貨物群の識別番号が使われています。ただし、そのうち1基のコンテナについて、封印番号が以前送られてきた引渡書類の写しと一致していません」
「コンテナ自体の番号も違うのか?」
「いいえ。むしろ、そこを直接確認したいのです」
ランは端末をこちらに向けた。
C-142-LG — 検査保留
| 項目 | データ |
| --------- | ------------ |
| 貨物群 | TL-CG-017 |
| 検査対象コンテナ | TL-CN-017-04 |
| 書類上の貨物群質量 | 184,600 kg |
| 再計量結果 | 186,040 kg |
| 差異 | +1,440 kg |
| 封印状態 | 照合が必要 |
| 受入状態 | 保留中 |
俺は数字を見つめた。
「1,440 kgの差は、簡単に見過ごせるものじゃないな」
「はい。しかも、誤った数値が貨物群の記録にあるのか、個別の記録にあるのか、それとも以前の搬送書類にあるのか、まだ分かっていません」
向かいに座るセラフィエルが付け加えた。
「検査では、貨物そのものの質量、コンテナの質量、計量時に一緒に測定された搬送用機材の質量を区別する必要があります。いずれかの項目で誤った数値を用いれば、計算全体に影響が及びます」
俺は頷いた。
「なら、まずは貨物の識別情報から確認しよう」
検査室では、ヴェイナ・コーシャル少佐がメイリス・ローヴァン上級中尉とともに待っていた。
オーレン・タヴィルは計量パネルの前に立ち、デイラン・ヴォスク管理大佐も契約調整の責任者として検査に立ち会っている。
俺たちが入室すると、コーシャル少佐がすぐに迎えてくれた。
「おはようございます、星崎艦長。お越しいただきありがとうございます」
「おはようございます。セラフィエルから初期報告は受けています。最後の通知から何か進展はありましたか?」
「最終的な結論はまだ出ていません。ですので、すべての検査を、検証可能な書類と現物の状態に基づいて進めたいと考えています」
俺は頷いた。
「こちらも、それを望んでいます」
ローヴァンがメインスクリーンを開いた。
「貨物群TL-CG-017の保留措置は継続しています。この問題のある貨物群について、ASTRAEON VELORIA側が輸送責任を引き受ける旨の受領記録には、まだ署名がありません」
ランがすぐに顔を向けた。
「ありがとうございます。昨日、初期検査を通過したというだけで、すでに受領済みとして扱われるような事務記録も存在しない、と確認してよろしいですね?」
「ありません」
「結構です」
俺は思わず笑いそうになった。
こんな状況でも、ランが最初に気にするのは、正式な責任がいつ移転するのかという点だった。
そして正直なところ、俺はその姿勢を大いにありがたく思っている。
検査はコンテナの識別情報から始まった。
ローヴァンが、昨日こちらに渡されたマニフェストを表示する。
ランは手元の作業用コピーを接続し、TL-CG-017の項目を拡大した。
「まず、私たちが同一の貨物を対象に話していることを確認させてください。コンテナ番号はTL-CN-017-04ですね?」
「そのとおりです」とローヴァンが答える。
「その識別番号は、マニフェスト、昨日の計量結果、今朝の再計量記録のすべてに記載されています」
「一致しています」
ランは画面を切り替えた。
「しかし、搬送引渡記録の写しに記載された封印番号は、検査担当者が読み取った番号と異なります」
俺は彼女が示した2行を見た。
封印照合 — TL-CN-017-04
| 情報源 | 封印番号 |
| -------- | ------------ |
| 引渡書類の写し | TL-SG-482761 |
| 検査時の目視読取 | TL-SG-482716 |
| 照合結果 | 不一致 |
俺は眉をひそめた。
数字はほとんど同じだ。
だが、末尾の2桁の並びが違っている。
「482761と482716、か」
ランが頷く。
「似ている番号でも、同一の番号ではありません。不一致の原因が判明するまでは、システム上も別々の識別情報として扱う必要があります」
ローヴァンは自分の端末を見た。
「そのため、こちらでも自動承認は行っていません」
俺は次の項目を指さした。
「封印そのものに、破損は見られたんですか?」
「物理的な破損の報告は、現時点ではありません。ただし、指定検査官による直接検査はまだ完了していません」
「なら、まだ有効だとは認定しないでください」
コーシャルが頷いた。
「承知しました」
ランがマニフェストの照合を終えると、セラフィエルは兵站部門から提供された搬送記録の確認を始めた。
彼女がタラリスのネットワークへ自由にアクセスしているわけではない。
使用しているのは、検査目的で正式にこちらへ引き渡された、時刻記録、施設識別情報、搬送指示の公式な写しだけだ。
画面に図表が現れた。
TL-CG-017 — 搬送記録
| タラリス現地時刻 | 記録された出来事 |
| ---------- | ------------- |
| 24日目 18:42 | 保管区域で貨物群の準備完了 |
| 24日目 19:08 | 搬送指示を発行 |
| 24日目 19:26 | 集約区域への搬送完了 |
| 25日目 14:17 | 貨物群が検査待機列に入る |
| 25日目 17:10 | 質量の差異を検出 |
| 26日目 06:40 | 再計量により差異を確認 |
セラフィエルは19:08の記録を拡大した。
「ローヴァンさん、こちらは搬送指示の原本でしょうか。それとも、集約作業の完了後に生成された写しでしょうか?」
ローヴァンがファイルの識別情報を確認する。
「貨物群全体の搬送が完了したあとに生成された写しです。一次記録は施設のシステム内に保管されています」
「では、タラリスの担当者に、この写しと一次記録を照合していただくことは可能でしょうか。私がシステムへ直接アクセスする必要はありません。そちらで正式に確認された照合結果だけで結構です」
コーシャルが頷いた。
「申請を承認します」
続いて、セラフィエルは別の箇所を指し示した。
「もう1点、集約ファイルの計量参照情報には、19:26の搬送完了より前に発行された項目が使われています。これが差異の原因とは限りませんが、時系列の確認が必要です」
タヴィルが近づいてきた。
「つまり、集約作業中に記録された変更が、貨物群の質量データに反映されていない可能性があると?」
「可能性のひとつです。一次記録を確認するまでは断定できません」
俺は頷いた。
それでいい。
怪しく見える箇所がひとつ見つかったからといって、彼女はすぐにシステムのミスだと決めつけたりしない。
「なら、その工程を調べてもらおう」
10:15。
俺たちは現物検査用のプラットフォームへ案内された。
コンテナTL-CN-017-04は、指定された保留区域に置かれていた。
保留措置が発令されてから、ほかの車両によって移動された形跡はない。
プラットフォームの周囲には、数人のタラリス職員が立っていた。
その中から、がっしりした体格のスペースドワーフの男性が、技術端末を手に近づいてきた。
「貨物主任検査官のブレイメク・ソーレンです。この貨物群の現物検査を担当しています」
俺は彼と握手を交わした。
「星崎紬です。検査へのご協力、ありがとうございます」
ソーレンはローヴァンに頷いた。
「再検査の要請は受け取っています。現時点ではコンテナを引き続き施設の監視下に置き、記録を残さず開封・移動することはありません」
カリスタなら、きっとこの人の仕事ぶりを気に入るだろうな。
俺は目の前のコンテナを観察した。
見た目だけなら、昨日見たほかのコンテナと大きな違いはない。
だが、近づくと側面フレームに印字された識別番号が確認できた。
TL-CN-017-04
ランがすぐに端末と照合する。
「コンテナ番号は一致しています」
続いてソーレンが、封印に光学読取装置を向けた。
表示された番号は――
TL-SG-482716
「今朝の検査結果と同じですね」とラン。
「そのとおりです」とソーレンが答える。「では、物理的な状態を確認します」
検査はかなり入念に行われた。
担当者たちは封印の接合部、施錠機構の状態、損傷の痕跡、そして公式装置に記録された識別情報との一致を調べていく。
俺はラン、セラフィエルとともに安全ラインの後方で待った。
数分後、ソーレンが初期結果を伝えてきた。
「この封印が切断されたあと、再び取り付けられたことを示す痕跡は見つかりませんでした。物理的な識別情報も正常に読み取れています。ただし、書類上の番号が異なるため、取り付け履歴の検証が完了するまでは、コンテナの保留措置を継続します」
俺は頷いた。
「つまり、封印自体は無傷に見える。でも、なぜ書類に別の番号が使われているのかは、まだ分からないわけですね」
「そのとおりです」
ランも付け加えた。
「そして、物理的な状態に問題がないからといって、事務記録の誤りが自動的に解消されるわけでもありません」
ソーレンは短く微笑んだ。
「同感です、ヴァレスさん」
質量の再検査は、タヴィルの監督する手順に従って行われた。
貨物群TL-CG-017は、受入状態を変更しないまま、指定された計量レーンへ運ばれた。
表示された結果は、やはり186,040 kgだった。
俺は画面を見つめた。
「昨日の計量結果には、再現性があるわけか」
「はい」とタヴィル。「当初の書類との差、1,440 kgは依然として存在します」
ソーレンは個別の梱包データを開いた。
貨物群を構成する各ユニットの識別情報が、ひとつずつ確認されていく。
セラフィエルは、その結果を集約記録と比較した。
やがて、ある行を指し示す。
「タヴィルさん、この項目の質量参照情報を確認していただけますか?」
タヴィルが近づいた。
「何かありましたか?」
「提供された作業一覧では、貨物群TL-CG-017に以前の集約構成の質量値が使われています。ですが、搬送記録には、モジュールのひとつについて輸送用支持材パッケージを更新した記載があります」
「支持材パッケージですか?」
「はい。その変更記録が正式なものであれば、旧数値ではなく、新しい構成の質量を計量データと比較する必要があります」
ソーレンはすぐに倉庫の文書管理担当者へ連絡した。
ほどなくして、一次記録が監視端末へ送られてきた。
ローヴァンがそれを読み上げる。
「この貨物群が集約区域へ移される前に、輸送構成の変更が行われています。ただし、本来であれば、その変更と同時に質量の添付資料と封印の識別情報も更新されているはずです」
俺は眉を上げた。
「その両方が更新されていなかったんですか?」
「現在、そこを確認しています」
俺たちは書類検査室へ戻った。
コーシャルの指示で、一次搬送記録とASTRAEON VELORIAが受け取ったマニフェストの写しが並べて表示される。
ようやく、違いがはっきりと見えてきた。
初期保管の段階では、コンテナTL-CN-017-04には封印番号TL-SG-482761が記録されていた。
しかし、貨物搬送リングへ向けて出荷される前に、倉庫担当者が技術指示に従い、輸送用支持材を交換していたのだ。
その作業では、正式な手順に基づく開封、再検査、そして新しい封印の取り付けが必要だった。
交換後の封印番号は、TL-SG-482716。
俺は記録を読み込んだ。
「つまり、さっき確認した封印は、正式な手順で取り付けられた新しい封印だったんですね?」
ローヴァンが頷く。
「一次記録上は、そのとおりです。問題は、マニフェストへ引き継がれた集約ファイルに、古い参照情報が使われていたことです」
ランがすぐに尋ねた。
「その交換作業には、担当者の識別情報、検査時刻、正式な作業記録が残っていますか?」
「あります。現在、責任者との最終照合を進めています」
セラフィエルが更新済みの時系列を表示した。
「新たに提供された記録によれば、輸送用支持材の交換によって、旧構成と最終的に検査へ回された構成との質量差も説明できます」
タヴィルが数値を確認する。
「差は1,440 kgです」
俺は彼を見た。
「再計量の結果と同じですね」
「はい。ただし、増加した質量のすべてが、記録された支持材に由来することを確認する必要があります」
俺は頷いた。
「検査を続けてください」
説明には筋が通り始めていたが、見つかった数字がたまたま一致したからといって、最後の確認を飛ばすつもりはなかった。
追加検査は午後の早い時間まで続いた。
ソーレンが施設の手順に従って現物確認を指揮し、ローヴァンは封印の交換記録を倉庫書類と照合した。
俺たちが許可なくコンテナを開封したり、取り扱ったりすることはない。
作業はすべて、当該貨物を取り扱う権限を持つタラリスの担当者によって行われた。
俺とランは、公式検査端末を通して結果を確認していた。
やがて、ソーレンが報告書を持って戻ってきた。
「星崎艦長、現物検査が完了しました。モジュールおよび輸送用支持材の識別情報は、一次記録と一致しています。正式に承認された構成以外の追加物品も発見されませんでした」
俺は頷いた。
「封印の状態は?」
「TL-SG-482716は、正式な交換用封印番号です。取り付け履歴も追跡可能であり、再封印後に不正な開封が行われた兆候は、今回の検査では認められませんでした」
ランがすぐに質問する。
「では、引渡書類の写しに残っていた古い番号については?」
今度はローヴァンが説明を引き継いだ。
「輸送用支持材を交換する前の参照情報を用いて、集約ファイルが作成されたことが原因です。現物の変更と一次記録の更新は完了していましたが、検査用マニフェストへ引き継がれた添付資料には、最終改訂版が反映されていませんでした」
俺は報告書に目を落とした。
つまり、コンテナが密かにすり替えられたわけではない。
誰かが検査後に正体不明の荷物を紛れ込ませたわけでもなかった。
倉庫担当者は正式な記録を残して必要な変更を行っていたが、次の工程へ送られた書類には、ひとつ前の版が使われていたのだ。
比較的単純な事務処理上のミス。
しかし、その結果、8,400,000 GC相当の契約に関わる積載工程全体が、一時停止することになった。
「計量の最終結果は?」
タヴィルが表を表示した。
TL-CG-017 — 照合・修正結果
| 検査項目 | 結果 |
| --------------- | ---------- |
| 旧マニフェスト記載質量 | 184,600 kg |
| 記録済みの支持材による追加質量 | 1,440 kg |
| 修正後の構成質量 | 186,040 kg |
| 再計量による実測質量 | 186,040 kg |
| 照合後の差異 | 0 kg |
俺はゆっくりと頷いた。
「これで数字が一致しましたね」
「はい」とタヴィル。「変更の発生源も追跡できています」
セラフィエルが付け加えた。
「ASTRAEON VELORIAの貨物配置計算についても、正式な修正書類が発行され次第、訂正後の質量を用いて更新します」
「よし」
原因は判明したものの、まだ解決しなければならないことがひとつ残っていた。
正式な書類だ。
どうやらランも、俺と同じことを考えていたらしい。
「ローヴァンさん、私たちに必要なのは、差異の原因についての口頭説明だけではありません。正式に承認された改訂版マニフェストです」
「もちろんです」
「コンテナ番号はそのまま維持し、実際の封印番号を記載したうえで、貨物群の質量を訂正してください。また、その変更を説明する搬送記録の参照情報も添付していただきたいです」
ローヴァンが頷いた。
「現在、作成を進めています」
俺はコーシャルへ向き直った。
「その書類が発行されるまでは、こちらもTL-CG-017を輸送責任の対象として受領することはできません」
「承知しました、艦長」
彼女に異論はないようだった。
ヴォスクも頷く。
「手順を守るという、あなたの判断を尊重します。この種の貨物を、不一致のある記録を残したまま出航させるべきではありませんからな」
俺は小さく笑った。
「航行中になってから、数字と封印番号について議論したくないだけですよ」
ヴォスクが短く笑う。
「私も御免ですな」
改訂書類の発行を待つ間、俺はASTRAEON VELORIAへ連絡を入れた。
すぐにレアが応答する。
『紬! 検査はどうなったの!?』
「差異の原因は見つかったよ」
『じゃあ、妨害工作じゃなかったの!?』
「そう結論づける証拠はない。これまでの検査結果では、正式な輸送用機材と封印の交換が行われたあと、集約記録が更新されていなかったことが原因だ」
『そっか……』
少し安心したような声だった。
それから、こう尋ねてくる。
『じゃあ、積載作業を再開できる?』
「改訂書類が発行されて、確認が終わったらな」
『了解!』
彼女の背後から、カリスタの声が聞こえた。
『修正後の質量データがセラフィエルに送られたかも聞いといてくれ! 古い数字で作った配置案をそのまま使うわけにはいかないからな!』
セラフィエルが直接答えた。
「照合結果はすでに受領しています。正式な事務承認が完了した時点で、モデルを更新します」
『よし!』
俺は微笑んだ。
「艦の状態は?」
レアが元気よく答える。
『正常! 格納庫は準備できてるし、搬送経路も安全! 許可なく制限区画に入った人もいないよ!』
「よくやった」
『へへっ!』
通信を終えると、ランが小さく微笑みながらこちらを見ていた。
「レアも、大規模な輸送業務が戦闘だけでは成り立たないことを、少しずつ理解し始めたようですね」
「そうだな。まあ、今日がモビルフレームの訓練日だったら、もっと喜んでいただろうけど」
「私もそう思います」
16:25。
ついに、正式な改訂書類が発行された。
ローヴァンが検査用の通信経路を通じてランへ送付する。
コンテナ番号はTL-CN-017-04のまま。
封印番号はTL-SG-482716へ更新。
貨物群の質量は186,040 kgに訂正されていた。
添付資料には、タラリスの担当者が検証した輸送用機材の変更工程に関する参照情報も含まれている。
ランは各項目を確認した。
その後、セラフィエルに改訂書類と受領済みの時刻記録を照合するよう求めた。
「新たな不一致はありません」とセラフィエルが報告する。「識別情報と事務処理の時系列は、いずれも整合しています」
俺はタヴィルに目を向けた。
「現物検査の結果は?」
「一致しています」
「コンテナの保留状態については?」
コーシャルが答えた。
「すべての書類処理が完了すれば、貨物群TL-CG-017を正式な積載待機列へ戻せます」
俺は頷いた。
「分かりました。ASTRAEON VELORIA側としては、今回の訂正結果を、積載検査を再開するための根拠として受け入れます」
ランがすかさず付け加えた。
「なお、輸送責任の受領は、正式に署名された引渡記録に従うものとします」
俺は笑った。
「ああ。それも忘れずに」
ヴォスクが俺たちを交互に見た。
「お二人とも、本当に細かいところまで確認されますな」
「彼女は昔からそうなんですよ」と、俺はランを指さして答えた。
ランは優雅に微笑んだ。
「そして私は、うちの艦長にも同じ習慣を身につけていただこうと努力しているところです」
俺は笑うしかなかった。
夕方が近づく頃、貨物群TL-CG-017は指定された待機列へ戻された。
大規模な警備部隊が投入されることもなかった。
証拠のない妨害工作の疑惑が、公に発表されることもない。
そして何より、コンテナ群ひとつに不一致が見つかったというだけで、この契約全体を罠だと考える理由もなかった。
タラリスの担当者たちは、証拠に基づいて誤りを訂正し、規定の手順に従って作業を再開した。
俺にとっては、むしろ今回の問題への対処こそ、依頼主を評価するうえで重要な材料だった。
これほど大きな施設なら、何らかのミスが発生する可能性は必ずある。
知りたいのは、彼らが作業を止め、事実を確認し、不明確なリスクを他者に押しつけることなく記録を修正する意思を持っているかどうかだ。
今のところ、その答えは悪くなかった。
ASTRAEON VELORIAへ戻ると、ラウンジでレアが真っ先に駆け寄ってきた。
「紬! じゃあ、全部終わったの!?」
「封印の問題は解決したよ」
「よかった!」
カリスタはランに顔を向けた。
「ってことは、質量配分の設計には修正後の数字を使っていいんだな?」
「はい。改訂書類はすでに承認されています」
セラフィエルが小さな投影画面を起動した。
「実測結果に基づいて配置構成も更新しました。格納庫へのアクセス、安全設備、商業貨物用区画のいずれにも支障はありません」
俺は頷いた。
「よし」
続いて、ランが状況の要約を開く。
C-142-LG — 検査状況更新
| 項目 | 状態 |
| ----------------- | ---------- |
| TL-CG-017の質量差異 | 照合・修正完了 |
| TL-CN-017-04の封印番号 | 検証済み |
| 改訂版マニフェスト | タラリス側が承認済み |
| 搬送記録 | 照合済み |
| 現物検査 | 完了 |
| 不正開封の兆候 | 発見されず |
| 質量配分計画 | 更新済み |
| 積載作業の継続 | 規定の手順に従い許可 |
| C-142-LG最終契約 | 未承認 |
俺は最後の行を見つめた。
「まだ最終署名は済んでいないんだな」
「はい」とラン。「主要書類の確認がすべて終わるまでは、その状態を維持したいと考えています」
レアが首を傾げた。
「もうほとんど終わってるんじゃないの?」
「ほとんど終わったってのは、終わったって意味じゃないんだよ」とカリスタ。
俺も頷いた。
「まったくそのとおりだ」
レアが小さく笑った。
「書類の話になると、みんな本当に似てくるよね」
その夜、全員で夕食を取ったあと、ランが再び商業取引に関する報告書を見せてきた。
俺は思わず彼女を見つめた。
「封印の検査で忙しかったのに、そっちまで進めていたのか?」
「もちろんです。軍事輸送契約の事務処理と、商業在庫の管理は混同していませんから」
彼女は在庫データを開いた。
ASTRAEON VELORIAの自動農業設備で生産される有機食品の備蓄は、引き続き適切に維持されている。
オルセリオンで購入した商品も、商業貨物用の保管区画で正常な状態を保っていた。
一方、中型クラスのモジュール式船体構造材については、まだ購入計画の段階であり、取引は成立していない。
「タラリスの質量配分が修正されたことを受けて、利用可能な空間の見積もりも更新しました」とランが言った。
俺は眉を上げた。
「それで、結果は?」
「すでに準備した商業在庫を積むだけの容量は、引き続き確保できています。ただし、軍用貨物の積載がすべて完了し、運用上の予備空間が確定するまでは、船体モジュールの購入を提案するつもりはありません」
俺は微笑んだ。
「いい判断だ」
少し離れたところに座っていたレアが、すぐに尋ねてきた。
「ねえ、有機食品がうまく売れたら、その収入ってクルーのお給料にも役立つの?」
ランが頷いた。
「商業収入を育てる目的のひとつですね。ただし、売上は実際に受領し、関連費用を差し引いたうえで、使途を決める必要があります」
俺も付け加えた。
「それと、すでに合意した傭兵契約の利益分配は、あくまで該当する契約の純収益を基準に計算する。この2つの勘定を混ぜないようにな」
「もちろんです」とラン。
セラフィエルが微笑む。
「帳簿を適切に分離できるよう、私も支援します」
俺は彼女たちを見渡した。
質量の数字と封印番号に一日中向き合ったあとでは、商品在庫の話が妙に新鮮に感じられた。
もっとも、それは次の会議でランが俺に見せる数字が、さらに増えるという意味でもあるのだが。
21:30。
俺がヴェスペラと指揮デッキにいたとき、タラリスから正式な通知が届いた。
セラフィエルがすぐに表示する。
「紬、兵站部門から予定の更新が届きました」
「何についてだ?」
「積載作業の継続と、出航計画についてです」
俺は艦長席に腰を下ろした。
メインスクリーンには、タラリス戦略兵站局の紋章が入った書類が現れた。
C-142-LG — 運用予定通知
艦船: ASTRAEON VELORIA 貨物群TL-CG-017の検査状況: 解決済み 積載作業の継続: 検査手順に従って承認 出航予定: 運用計画として発行済み。最終事務手続きの完了待ち 輸送航路: 最終書類を輸送候補者へ送付し、確認を依頼済み 目的地: タラリス国境兵站補給拠点
ヴェスペラは、新たに受け取った航路ファイルをすぐに拡大した。
「紬、ようやく確認用として、正式に認可された輸送航路の全体が提供されました」
俺は彼女に目を向けた。
「以前の予想から変更はあるか?」
「許可される進入回廊とFTL離脱地点に調整が入っています。運用航法計画として確定する前に、すべての領域境界を確認したいと思います」
「頼む」
ほどなくして、同じ通知を受け取ったランも入ってきた。
「私のところにも事務手続きの日程が届いています。すべての条項と主要書類の確認が完了すれば、最終契約の承認手続きへ進めます」
俺は頷いた。
「よし。ただし、出航前には必ず最後の会議を開くぞ」
「もちろんです」
セラフィエルが微笑んだ。
「航路、通信手順、貨物配置、そして承認済みの保安規定について、要約を準備しておきます」
俺は椅子の背もたれに身を預けた。
メインスクリーンの向こうでは、タラリス軍事兵站停泊施設が今も輸送船と貨物搬送車両で賑わっている。
これほど巨大な施設でも、1,440 kgの質量差と、数字の並びが異なる2つの封印番号によって、作業が止まることがあるらしい。
俺は小さく笑った。
「軍事兵站ってのは、やっぱり荷物をある場所から別の場所へ運ぶだけの仕事じゃないんだな」
ヴェスペラが柔らかく笑った。
「紬、今になってお気づきになったのですか?」
「予想はしていたさ。でも今日は、ずいぶん分かりやすい実例を見せてもらったよ」
セラフィエルが俺を見つめる。
「少なくとも、出航前に原因を突き止められました」
「そうだな」
俺は改めて、届いたばかりの予定書類に目を向けた。
コンテナの問題が解決した今、ようやく国境の補給拠点へ続く道が開け始めている。
だが、ASTRAEON VELORIAがタラリスの軍事施設を離れるまでには、まだ疎かにできない仕事が残っていた。
最終契約の承認。
積載作業の完了。
すべての書類の確認。
そして、輸送中に何かが起きた場合、クルーの一人ひとりが自分の取るべき行動を理解していること。
俺はヴェスペラとセラフィエルを見た。
「明日、最後の準備を終わらせよう」
2人が頷く。
航法スクリーンには、タラリス軍事兵站停泊施設から帝国国境の補給拠点へと延びる、長い一本の航路が描かれ始めていた。
本当の輸送任務は、もうすぐそこまで迫っていた。
【次話予告・第147話】
「出発前夜」
出航前夜――C-142-LGの最終契約が承認され、積載作業も完了間近となる。紬は最後の会議を開き、輸送航路、FTL離脱地点、立入禁止宙域、通信、安全対策、第三者による検査、そして艦船や貨物が攻撃を受けた場合の対応手順について確認する。しかし出航を目前に控えた頃、タラリスの監視システムが、輸送航路に隣接する宙域のひとつで武装艦船の活動が増加していることを報告する。




