【第145話】「戦略物資の積載計画」
【第145話】「戦略物資の積載計画」
ヴェルドラコン出発から25日目――船内標準時07:15~22:10 場所:ASTRAEON VELORIA → タラリス軍事兵站停泊施設・貨物搬送リング → ASTRAEON VELORIA 視点:星崎紬
「紬、貨物搬送リングへ向かう前に、貨物区画の構成について一つ確認しておきたいことがあります」
朝食に手を伸ばしかけていた俺は、その動きを止めた。
目の前では、今しがたそんなことを口にしたとは思えないほど落ち着いた表情で、ランが一台の端末をテーブルに置いている。
俺は端末を見た。
それから、ランを見た。
「どうして今回の質問も、言葉どおりの単純な話じゃない気がするんだろうな?」
「タラリスとの契約で使用しない貨物区画を、別の用途に活用できないかと考えているからです」
「……なるほど」
隣に座っていたセラフィエルが、小さく微笑んだ。
「ランからは今朝、いくつかの代替構成について相談を受けていました」
俺は彼女に顔を向ける。
「それを今になって教えてくれるのか?」
「まだ何も決定していませんよ、紬。まずは計算に無理がないことを確かめたかったのです」
ランが投影装置を起動した。
テーブルの上にASTRAEON VELORIAの立体モデルが現れ、用途ごとに区分された複数の貨物コンパートメントが表示される。
一部には軍事輸送用の表示が付いていた。
それ以外は、従来どおり船内設備や運用物資の保管、交易用在庫のために確保されている。
「二日前、この契約の内部条件について協議した際に、国境の補給拠点へ向かう航行を利用して、追加の交易活動を行えないかと考え始めました。オルセリオンでの調達が完了したことで、その計画はより現実的になっています」
俺は頷いた。
「昨日買った有機食品や合成食品、飲料のことだな」
「そうです。ただし、それだけではありません」
ランが表示を切り替えた。
俺は思わず、噛んでいたものを飲み込む手前で動きを止めた。
「……ラン」
「はい?」
「これは何だ?」
「中型船級の船体モジュール案です」
交易用在庫の投影図の隣に、新たに現れた三次元モデルを見つめる。
どう見ても食品コンテナではない。
それどころか、各部品を組み立てれば、中型宇宙船の主要船体構造になりそうな形をしていた。
俺はパンを置いた。
「別の船の船体を、商品として運ぶつもりなのか?」
「現在は調達と輸送の実現可能性を評価している段階です。購入取引はまだ一件も承認していません」
俺はセラフィエルを見た。
彼女が頷く。
「ランが検討しているのは、推進システムや兵装、運用機器などを搭載していないモジュール式の船体構造です。稼働可能な宇宙船を丸ごと運ぶという意味ではありません」
「ああ、そういうことか」
俺は改めてモデルに目を向けた。
「それでも、かなり大きいぞ」
ランが微笑む。
「ですから、まずはタラリスの貨物が実際にどれだけの空間を必要とするのか、確認しておきたいのです」
俺はため息をついた。
正式な会議すら始まっていないというのに、うちの交易担当者は、余った貨物区画を別の船に匹敵する大きさの商品で埋める方法を考えているらしい。
そろそろ、この程度では驚かないようにするべきなのかもしれない。
その朝も、ASTRAEON VELORIAはタラリス軍事兵站停泊施設から指定された係留設備に、安全に接続されたままだった。
グランドサロンの窓からは、船体の外側に広がる軍事兵站施設の構造物が見える。
施設のフレームの間を輸送車両が行き交い、複数の兵站輸送船が、それぞれの積載区域への進入許可を得るための検査を受けていた。
俺たちは貨物搬送リングで行われる、最終積荷明細の審査に出席する予定になっている。
前回の会議で確認したとおり、今日は単に品目一覧を眺めるだけではない。
タラリスの担当チームが、タラリス国境兵站補給拠点へ輸送する予定の貨物構成を提示し、その保管要件をASTRAEON VELORIAの設備構成と照合することになっていた。
今後受け入れる可能性のあるすべての貨物について、正当な識別情報、必要な技術データ、検証可能な引渡書類が揃っていることを確認しなければならない。
何しろ、提示されている契約金額は8,400,000 GCだ。
確かに魅力的な金額ではあるものの、帝国の軍事兵站機関との初仕事が、誰かの性急な署名のせいで厄介事に変わるのは御免だった。
「とりあえず、その中型船体の計画は交易案の一つとして保留にしておいてくれ」と俺はランに言った。「タラリスの貨物に必要な容量がはっきりするまで、購入も搬入も禁止だ」
「もちろんです」
「昨日買った食品や飲料も、引き続き独立した商業用在庫として管理すること」
「セラフィエルと確認済みです」
俺は頷いた。
「よし。まずは本契約の検査を終わらせよう」
ランが微笑む。
「私もそれを最優先に考えています」
そこへ、朝食の皿を持ったレアが入口から現れた。
「紬! ランが別の船を運ぼうとしてるって聞いたんだけど!?」
俺は目を閉じた。
「……誰から聞いた?」
「カリスタ!」
彼女の数歩後ろにいたカリスタが、肩をすくめる。
「ランが中型船級の船体モジュールを検討してるって話しただけだよ」
「でも、船体なのは間違いないんでしょ!?」
ランがため息をついた。
「レア、まだ購入していません」
「あ、そうなんだ」
レアはしばらく投影図を見つめていた。
やがて、その耳がぴくりと動く。
「買うことになったら、中を見てもいい?」
「まだ組み立てられていないモジュール構造だよ」とカリスタ。
「……じゃあ、まだ中がないってこと?」
「そのとおり」
俺は笑ってしまった。
少なくとも、タラリスの面倒な事務手続きに向き合う前に、いつもどおりの朝の会話を楽しむ余裕はあるらしい。
もちろん、ASTRAEON VELORIAでの生活を基準にした「いつもどおり」だが。
08時30分、俺はラン、セラフィエル、カリスタ、ヴェスペラとともに船を出た。
レアには、ASTRAEON VELORIAの内部から格納庫の準備状況、保安機材、モビルフレームの搬送経路を確認してもらうことになっている。
本人は軍事施設の見学に同行したがっていた。
しかし、貨物を受け入れる船側の設備を確認できる人員が必要だと説明すると、最後には真剣な表情で任務を引き受けてくれた。
『貨物の搬入口に何か問題があったら、すぐに連絡してね、紬!』
別れ際に彼女はそう言っていた。
俺たちは施設の検査ターミナルへ続く連絡通路を進んだ。
透明なパネルの向こうに広がる貨物搬送リングは、それ自体が一つの巨大な工業施設のようだった。
大型プラットフォームがコンテナを載せて移動している。
モジュール式の牽引車両が整備用通路を横切り、施設のフレームに取り付けられた貨物搬送アームは、所定の順序に従って保管区域から検査場へと荷物を移していた。
監視通路では複数の軍関係者が巡回し、異なる色の作業服を着た技術者たちが、携帯端末でコンテナの識別情報を確認している。
俺は搬送中のモジュールの一つに目を留めた。
「……ずいぶん大きいな」
カリスタが俺の視線を追った。
「しかも、あれで一モジュールだからね」
ヴェスペラが微笑む。
「やはりタラリスは、これまで訪れた商業港とは違いますね。交通管理は厳格ですが、運用経路の区分は明確です」
ランが端末を起動した。
「念のため申し上げますが、私たちに許可されているのは指定された検査区域への立ち入りだけです。追加の許可を得ずに、ほかの区域へ入ってはいけません」
俺は頷いた。
「了解」
セラフィエルも付け加える。
「ASTRAEON VELORIAとの通信回線も維持しています。予定変更や技術的な対応が必要になれば、私からレアへ直接連絡できます」
俺たちは検査ゲートを通過し、貨物搬送リングの管理区画へ入った。
そこでは、ヴェイナ・コーシャル少佐と行政担当大佐デイラン・ヴォスクが待っていた。
二人の後ろには、上級中尉メイリス・ローヴァンと、以前オルセリオンで会った積載能力分析官のオーレン・タヴィルが立っている。
「おはようございます、星崎艦長」とコーシャル少佐。
「おはようございます、コーシャルさん」
ヴォスク大佐が俺と握手を交わした。
「予定どおりにお越しいただき、ありがとうございます。輸送評価に使用する最終積荷明細を用意しました」
俺は頷いた。
「こちらも、以前協議した内部条件の一覧を持参しています」
「受領済みです。いくつかの項目については書面で回答しました。残る部分は技術協議と最終条項の調整を通じて解決する予定です」
ランがすぐに端末を持ち上げた。
「それでしたら、開始前に一点確認させてください。本日提示される書類には、すべて明確な版識別情報と記録時刻を付けていただきたいのです。検査用の積荷明細と、実際の積載時に使用する引渡書類の間に相違が生じることは避けたいので」
ローヴァンが頷く。
「そのご要望については、すでに対応しています、ヴァレスさん」
俺は彼女を見た。
どうやらタラリス側も、ランへの対応に慣れ始めているらしい。
俺たちは主検査室へ案内された。
室内中央には大型の投影テーブルがあり、積載施設の構造が表示されている。
反対側には、タラリスの内部管理ネットワークに接続された複数の端末が並んでいた。
ヴォスク大佐がローヴァンに合図を送る。
「始めてくれ」
画面にタラリス戦略兵站局の紋章が現れた。
続いて、積荷明細書が開かれる。
C-142-LG――戦略兵站物資・積荷明細
発注機関: タラリス戦略兵站局 積載場所: タラリス軍事兵站停泊施設 輸送先: タラリス国境兵站補給拠点 輸送候補船: ASTRAEON VELORIA 状態: 貨物受領前の最終審査
| 貨物分類 | 内容 |
| ---------------- | ---------------- |
| 軍用艦艇の機関予備部品モジュール | 交換・整備用部品 |
| モビルフレーム整備ユニット | 戦闘機体の整備支援機材 |
| シールドおよび防衛関連部品 | 兵站分類に従った交換用モジュール |
| 緊急医療パッケージ | 施設および人員向けの備蓄 |
| 野戦通信モジュール | 運用通信網の支援機器 |
| 兵站施設の修復機材 | 技術モジュールおよび整備装置 |
| 人員支援用コンテナ | 運用物資および野外居住支援用品 |
俺は一覧をゆっくりと読み進めた。
大規模な軍事兵站業務の貨物として考えれば、特に不自然な分類はない。
だが、ローヴァンが表示を実際の貨物配置図へ切り替えた瞬間、なぜ彼らがこれほどの報酬を提示しているのか、すぐに理解できた。
投影図には数十ものモジュール群が現れ、それぞれが寸法や取り扱い要件の異なる複数のユニットで構成されていた。
大型の産業用コンテナほどの大きさを持つものもあれば、一般的な商業輸送船の規格を大幅に超える長さや高さを持つものもある。
専用の固定装置や重量物搬送経路を必要とするモジュールもあり、保管要件の違いから、ほかの貨物群と分離しなければならないものまで含まれていた。
俺は少し身体を後ろへ引いた。
「……これが今回の積荷か」
タヴィルが頷いた。
「そのとおりです。総容積も総質量も、我々が独立民間事業者へ通常提示する輸送案件を大きく上回っています」
カリスタが小さく口笛を吹いた。
「直接の積載能力検査が必要なわけだね」
「ええ、フェロさん。まさにそのためです」
セラフィエルは表情を変えずにモデルを見つめていた。
ただ、検査用回線を通じて提供された技術データの処理を、すでに始めていることは分かった。
「タヴィルさん、すべての貨物群について、積載計画に使用できる質量、寸法、固定位置、エネルギー要件の情報は揃っていますか?」
「はい。輸送評価のために開示可能なデータは準備済みです」
「ありがとうございます」
俺は手を挙げた。
「続ける前に、積荷明細の構成について一つ確認させてください」
ヴォスク大佐がこちらを向く。
「どうぞ、艦長」
「大量破壊兵器や、合意済みの申告内容から意図的に隠された追加貨物は含まれていない、という認識で間違いありませんね?」
室内がわずかに静かになった。
ヴォスク大佐は明瞭に答えた。
「そのとおりです。今回の案件に大量破壊兵器は含まれません。輸送事業者へ引き渡すすべての物品は、正規の積荷明細および合意された申告条件に適合していなければなりません」
ローヴァンも付け加えた。
「アクセス制限のある物品についても、必要な検証手順、識別情報、取り扱い情報は提供されます。所定の承認手続きを経ずに、我々の職員が貨物を紛れ込ませる権限を認める条項は存在しません」
俺は頷いた。
「確認したかったのは、その点です」
ランがすぐに回答を記録した。
次の審査は、さらに技術的な内容になった。
タヴィルが最初のモジュール群のデータを表示する。
セラフィエルは、検査用として承認済みのASTRAEON VELORIAの積載能力情報を接続し、必要な空間の割り当てを始めた。
テーブルの上に船の三次元モデルが現れる。
今回の仕事と関係のない部分は、詳細を表示していない。
タラリス側へ共有されるのは、輸送に使用可能なコンパートメント、貨物搬送経路、そして関連する荷役能力の情報だけだった。
俺はセラフィエルの隣に立った。
「初期計算はどうだ?」
「容積の面では、いくつかの構成案が成立します。ただし、一部のモジュールは寸法の差が非常に大きいため、質量分布をより慎重に計算する必要があります」
彼女が投影図を切り替える。
複数の貨物群が、仮想空間上で異なるコンパートメントへ移動していった。
「質量の大きいモジュールは、その荷重を受け止められるよう設計された区画へ配置することを推奨します。特殊な保管環境が必要な物品は分離し、すべての引渡手続きが完了するまでは、内部搬送経路も確保しておくべきです」
カリスタが近づいた。
「こっちのコンパートメント側は、整備用のアクセスを残しておきたいね。大型コンテナのせいで設備点検の通路が塞がるようじゃ困る」
セラフィエルがすぐにモデルを調整する。
「こちらの構成ではいかがでしょう?」
「そのほうがいい。ただし、貨物取扱車両が動けるだけの余裕も必要だよ。積み込めば終わりじゃない。目的地の補給拠点では、ちゃんと降ろさなきゃならないんだからね」
俺は頷いた。
「確かにな。積載作業は完璧に終わったのに、最後の荷物を降ろすには船の設備を半分解体しなきゃいけない、なんて事態は避けたい」
タヴィルが短く笑った。
「静的な積載容量だけを考慮して計画を立てると、実際にそのような問題が起こり得ます」
セラフィエルが微笑む。
「ですから、積載順序と荷降ろし順序は同時に計算しています」
続いてヴェスペラが、船全体の質量分布に目を向けた。
「セラフィエル、すべての貨物群を配置した場合、重心位置はどの程度変化しますか?」
船のモデルの隣に、新たな図が表示される。
「いくつかの初期案では、まだ十分に管理可能な範囲に収まっています。ただし、書類上の申告値だけではなく、各貨物群の実測質量と照合する必要があります」
ヴェスペラが頷いた。
「航行中の軌道修正に備えて、十分な余裕を維持したいですね。目的地での接近機動やドッキング手順への影響も考慮する必要があります」
「すでに計算へ反映しています」
俺は二人の作業を見守った。
ヴェスペラは、航行時間を短く見せるためだけに航路を変更しようとはしない。
セラフィエルも、ASTRAEON VELORIAの外形が非常に大きいからという理由だけで、すべてのモジュールを貨物区画へ押し込もうとはしていなかった。
二人が検証しているのは、追加の荷重を受け入れた後、船がどのように動くかという点だ。
そして、それこそが正しい考え方だと思う。
「ヴェスペラ、積載構成の関係で航路や接近予定時刻を調整する必要が出たら、最終日程を承認する前に知らせてくれ」
「もちろんです、紬」
タヴィルが投影図を眺めた。
「皆さんの計画手法は、実によく整理されていますね」
カリスタが腕を組む。
「これだけ大きな仕事を適当に進めたら、後始末をする羽目になるのは大抵、技術担当だからね」
俺は微笑んだ。
「なんだか経験がありそうな言い方だな」
「その話はしたくないね」
その表情を見て、かえって気になってしまった。
昼が近づく頃、ランは引渡書類の確認を始めた。
ローヴァンから渡された書類には、コンテナ群の識別情報、保管元、封印の状態、そして積載に関する事務手続きの順序が記載されている。
ランは個人端末で内容を開いた。
「各貨物群には、実測結果と照合できる参照番号を必ず維持していただきたいと思います」と彼女は言った。「初期検査で適合とされたコンテナが、書類を更新しないまま別の個体に差し替えられるようなことは避けたいので」
「すべての変更はシステムへの登録が必要です」とローヴァン。
「結構です。また、責任の所在が移転するたびに、引渡記録の写しも受領したいと思います」
「対応可能です」
俺は識別情報の欄に目を向けた。
いくつかの貨物群は検査準備完了となっている。
一方、施設側の作業順序に従って、まだ取り扱い待ちになっているものもあった。
「つまり、俺たちはまだ全貨物の輸送責任を引き受けていないんだな?」
ランが首を横に振る。
「はい。今日は積荷明細の照合と配置案の承認を進めている段階です。正式な受領は、物品そのものの検査と引渡書類の処理が、規定に従って完了してから有効になります」
「よし」
ヴォスク大佐も頷いた。
「我々としても、手続きが完了する前に責任を移転させるつもりはありません」
俺は小さく笑みを浮かべた。
少なくとも、一つの重要な点については意見が一致している。
検査していない貨物が、ASTRAEON VELORIAがドックに停泊しているという理由だけで、突然こちらの責任下に置かれるようなことがあってはならない。
昼食休憩を挟んだ後、俺たちは積載案と実際の船内構成を照合するため、ASTRAEON VELORIAへ戻った。
セラフィエルがシミュレーション結果を内部端末に接続する。
カリスタはそのまま貨物設備へ向かった。
俺とラン、ヴェスペラも彼女についていく。
主受入区画では、すでにレアが待っていた。
「紬! 積荷明細はどうだった!?」
「大きかった」
レアが首を傾げる。
「どのくらい?」
セラフィエルが、乗組員に共有可能な貨物群のモデルを表示した。
それを見つめるレアの耳が、ゆっくりと立ち上がっていく。
「……わあ」
カリスタが笑った。
「これで、積載経路を確認しなきゃいけない理由が分かっただろ?」
「本当にすごい量だね!」
俺は頷いた。
「だから、格納庫と保安機材の準備を確認してほしいんだ。積載作業のせいで、モビルフレームへのアクセスや避難経路が妨げられるようなことは避けたい」
レアはすぐに頷いた。
「了解! ヴァルキリーと搬送機材はもう確認したよ。主要システムに問題はない。ただ、タラリスの担当者がいつ貨物区画に入るのかは知っておきたいな。許可の範囲に合わせて、立入制限を設定できるから」
俺は微笑んだ。
「よし。それを期待してた」
続いてセラフィエルが、アクセス区分を表示した。
ASTRAEON VELORIA――暫定積載区域
| 区域 | 用途 |
| ----------------- | ----------------- |
| 承認対象の輸送用コンパートメント | C-142-LG貨物の配置候補 |
| 貨物受入経路 | 正式な検査および搬送 |
| MCV-01・モビルフレーム格納庫 | 運用状態を維持 |
| 交易用在庫 | 軍事輸送契約とは分離 |
| 居住・医療施設 | 貨物区画へ転用しない |
| 中枢システム・制限区画 | 積載作業に伴うアクセス許可の対象外 |
俺は内容を確認した。
「その区分は維持してくれ」
カリスタが経路の一つを指さす。
「ここには追加の標識も設置したいね。搬送車両には指定された回廊を通ってもらう。整備区画を横切って近道するのは禁止だ」
「すでに反映しました」とセラフィエル。
レアが手を挙げた。
「格納庫の監視所から、車両の動きを見張るのを手伝えるよ」
「頼む。ただし、コンテナの誘導をするためだけにヴァルキリーを出すなよ」
レアが頬を膨らませた。
「そんなことしないよ!」
カリスタが俺をちらりと見る。
「この子、重量モジュールの移動にモビルフレームを使えないかって聞いてきたけどね」
「カリスタ!」
俺は笑ってしまった。
夕方が近づいた頃、ランから商業用保管区画の一つへ来てほしいと頼まれた。
てっきりオルセリオンで調達した商品の状況を見せたいのかと思ったが、扉が開くなり、彼女が表示したのはASTRAEON VELORIAの船内有機農園の生産報告だった。
セラフィエルが、自動農業システムと物資在庫管理を連携させている。
画面では、現在利用可能な収穫物が、乗組員の消費分、備蓄、食品加工用、商業用余剰分に分けられていた。
「先ほど、セラフィエルと一緒に在庫確認を終えました」とラン。「船内の有機農園は、これまでの航行中も非常に安定した供給量を維持しています」
俺はグラフを眺めた。
「うちの農園、今まで会った大抵の人間より勤勉に働いてるみたいだな」
セラフィエルが微笑んだ。
「自動農業システムは、継続的な生産を維持できるよう設計されています。栽培周期の管理、栄養状態や環境条件の監視、収穫、初期加工まで、乗組員がすべて手作業で行わなくても稼働できますから」
ランが頷く。
「そのため、交易に回すことを検討できる余剰分があります。もちろん、乗組員の消費分と船内備蓄を確保した後の話ですが」
彼女が概要を表示した。
ASTRAEON VELORIA――有機農園在庫
| 割り当て | 状態 |
| --------- | ----------- |
| 乗組員の日常消費分 | 最優先 |
| 船内食料備蓄 | 維持 |
| 厨房・食品加工用 | 割り当て済み |
| 種子・継続生産用 | 保護対象 |
| 交易用余剰分 | 評価対象として利用可能 |
| 売上収入 | 現時点で入金なし |
俺は最後の行に目を留めた。
「よし。まだ売れていない商品を利益として計上するなよ」
ランが微笑む。
「そうおっしゃると思っていました」
「お前が教えてくれたことだからな」
「それでしたら、教えた甲斐がありました」
俺たちは、商品ごとに適切な温度が設定された保管室を歩いていった。
さまざまな有機農園の収穫物が包装され、それぞれに在庫識別情報が付けられている。
こうして生産物が一か所に集められているのを見ると、船内農業設備がどれほど大きな恩恵をもたらしているのか、改めて実感させられた。
俺たちに必要な食料の大部分は、ASTRAEON VELORIAの内部だけで賄えているのだ。
そして今、ランはその余剰生産物を、追加収入源の一つにする可能性を見いだしている。
「生産物の一部を売ること自体には反対しない」と俺は言った。「ただし、利益を得られるからって、乗組員の食事の質を落とすようなことはするなよ」
「もちろんです。私が目指しているのは持続可能な交易活動であって、一度の販売機会のために船内備蓄を空にすることではありません」
セラフィエルも付け加える。
「在庫の最低保有量を維持し、保管容量と実際の需要に合わせて収穫計画を調整します」
俺は頷いた。
「よし」
そこでランが、朝食のときに見せたものと同じ投影図を開いた。
交易用在庫の隣に、中型船級のモジュール式船体構造が現れる。
俺はすぐに彼女を見た。
「まだそれを考えてたのか?」
「もちろんです。タラリスの積載案を確認できたことで、むしろ残余容量の見通しが以前より明確になりました」
「待てよ。軍事貨物の全コンテナについて、実測質量の確認すら終わってないぞ」
「承知しています。ですから、現段階では条件付きのシナリオを作成しているだけです」
セラフィエルが別のコンパートメントのモデルを表示した。
「ランの計画では、本契約に必要な区画の割り当てを変更する必要はありません。ただし、モジュール式船体構造を輸送できるかどうかは、最終的な貨物分布、搬送経路、適用される交易・輸送規則によって決まります」
俺はモデルを眺めた。
「そもそも、どうして国境の補給拠点で中型船の船体構造を売ろうと思ったんだ?」
ランは迷わず答えた。
「消費財だけでなく、国境地域の兵站施設には、支援船の整備や拡充に関する需要が存在する可能性があります。モジュール式船体構造は、必要な許可と組立設備を有する買い手にとって、高額な産業用商品になり得ます」
「つまり、新しい船が欲しいと思っている兵士を見つけて、直接売りつけるわけじゃないんだな?」
ランが俺を見つめた。
「紬」
俺は笑った。
「分かった、分かった。念のため聞いただけだ」
「この種の産業用商品の販売先は、必要条件を満たした購入者に限られます。それに、市場情報を入手し、本契約の貨物が最優先されることを確認するまでは、発注するつもりもありません」
俺は頷いた。
「なら、調査だけ続けてくれ。購入はまだするなよ」
「了解しました」
俺は有機農園の在庫情報に目を戻した。
「それで、こうした商品の売上は、どう活用するつもりなんだ?」
ランが画面を財務報告へ切り替えた。
「傭兵契約とは独立した交易収入源を育てたいと考えています。成功すれば、その純利益によって運営資金や船内準備金を強化し、乗組員への継続的な報酬支払い能力も高められます」
俺はゆっくりと頷いた。
乗組員の給与について話し合って以来、ランとセラフィエルは、船の財務を不健全にすることなく、全員が個人収入を得られる仕組みを引き続き検討していた。
ラン、ヴェスペラ、レア、カリスタの四人には、それぞれ傭兵契約の検証済み純利益の一パーセントを分配するという案で、すでに合意している。
ただし、基本給の金額については、財務上の実現可能性を十分に検討した提案を見てから決めたいと思っていたため、まだ確定していなかった。
「追加収入を得る計画には賛成だ」と俺は言った。「でも、実際に取引が成立して、その結果が検証されるまでは、商品の売上を給与の原資として計上するなよ」
「もちろんです。また、明確な報酬規定を決定しないまま、交易利益と傭兵契約の利益分配を混同することもありません」
「よし」
セラフィエルが俺に微笑みかける。
「実際の財務状況に基づいて基本給を決定していただけるよう、私もランの報告書作成をお手伝いします」
俺も笑みを返した。
「二人とも、頼りにしてるよ」
17時10分、初期構成の確認作業が終了した。
俺たちは積載案をタラリス側へ提出するため、貨物搬送リングの調整ターミナルへ戻った。
タヴィルとローヴァンはすでに待っていた。
セラフィエルが更新済みの貨物分布モデルを表示する。
今回は各貨物群に対し、分類と取り扱い要件に適合する暫定配置区域が割り当てられていた。
俺は、意図的に開放されたままの搬送経路をいくつか確認した。
カリスタは整備設備へのアクセスが妨げられないことを確認済みだ。
レアからも、格納庫と保安機材が積載手順に対応できる状態にあるとの報告が、内部通信を通じて届いている。
ヴェスペラも、質量分布が予定航行プロファイルへ与える影響を確認していた。
「どうでしょう、タヴィルさん?」
俺が尋ねると、スペースエルフの男性はしばらく投影図を詳しく調べた。
「全体として、積載検査の段階へ進めるに足る構成案だと思います。整備用のアクセスを維持し、目的地での荷降ろし順序まで考慮されている点は評価できますね」
セラフィエルが頷く。
「ただし、全貨物群の実測質量が確認された後、計算値を更新する必要があります」
「もちろんです」
少し遅れて合流したヴォスク大佐が、俺に顔を向けた。
「星崎艦長、この構成を次段階の検査の基礎案として承認されますか?」
俺はもう一度、船のモデルを見渡した。
安全設備が無理に転用されている箇所はない。
格納庫も運用可能な状態を維持している。
避難経路も塞がれていない。
ランの交易用コンパートメントも、タラリスの契約貨物とは明確に切り離されていた。
そして何より、この構成は実測結果に基づく最終確認を待っている段階にすぎない。
「次の検査に使用する基礎案としては承認します」と俺は答えた。「ただし、識別情報、状態、重量の検証が終わる前に、全貨物の受領を承認するという意味ではありません」
ヴォスク大佐が頷いた。
「承知しました」
ランがすぐに俺の発言を記録する。
続いてローヴァンが、最初の貨物群の検査手順を起動した。
複数の搬送車両が動き始めた。
監視室からは、コンテナ群が準備済みの受入段階へ進む前に、計測プラットフォームへ運ばれていく様子を確認できた。
各ユニットは、まず識別情報の読み取りを受ける。
コンテナ番号が積荷明細と照合される。
封印の状態が検査される。
その後、計測システムが実測質量を記録し、書類上の数値と比較する仕組みだ。
俺は監視窓の隣に立った。
「つまり、すべての貨物群がこの手順を通るんですね?」
ローヴァンが頷く。
「そのとおりです。コンテナが船の近くまで運ばれたというだけで、輸送事業者側へ責任を移転させることはありません」
「結構です」
ランは端末を確認していた。
「各検査の結果は、引渡記録にも反映されますか?」
「はい」
「相違が見つかった場合も含めて?」
「もちろんです」
最初の数グループは問題なく通過した。
識別情報と計測結果は、いずれも適用される許容範囲内で一致している。
セラフィエルは検証済みの結果に基づき、質量分布シミュレーションを更新していった。
船から通信で参加しているヴェスペラも、その変化を確認している。
『紬、現時点では構成案との整合性が保たれています』
「了解」
カリスタが搬送経路の準備状況を確認する。
「次のグループも問題なければ、予定どおりの取り扱い順序で進められるね」
俺は頷いた。
しばらくの間、すべてが順調に進んでいるように見えた。
……むしろ、順調すぎるくらいに。
次のコンテナ群の一つが計測プラットフォームへ入ったとき、それまでとは異なる通知音が響いた。
緊急警報ではない。
だが、監視室にいた全員が振り向くには十分な音量だった。
画面に黄色い警告表示が現れる。
計測値の不一致を検出
俺は眉をひそめた。
「何だ?」
ローヴァンがすぐに報告書を開いた。
タヴィルも主端末へ近づく。
画面には、あるコンテナ群について、積荷明細に記載された申告質量と、システムによる実測結果が一致していないことが示されていた。
セラフィエルは即座に、その貨物群に関する積載案の自動更新を停止した。
「紬、書類上の数値と実測結果の間に差異があります。この貨物群は、まだ検証済み質量として計算に反映していません」
ランが姿勢を正す。
「該当する貨物群の識別情報は?」
ローヴァンが検査参照番号を表示した。
ランはすぐに、提出済みの積荷明細と照合する。
俺はタラリスの担当者に目を向けた。
「計測装置の不具合でしょうか?」
タヴィルはゆっくりと首を横に振った。
「現時点では断定できません。まずは結果を再検査する必要があります」
俺は頷いた。
妥当な回答だ。
数値に差があるからといって、誰かが意図的にコンテナの中身を変更したとは限らない。
記録ミスや計量条件の問題、あるいはまだ判明していない別の原因という可能性もある。
とはいえ、見過ごしていい問題でもなかった。
「ローヴァンさん、検査が終わるまで、その貨物群の移動を止めてください」
「了解しました」
ランもすぐに口を開いた。
「該当する貨物群のデータに依存する受入手続きについても、一時停止を要請します。質量の整合性が確認できていない状態では、引渡記録への署名はできません」
ヴォスク大佐が頷く。
「要請を受理します。施設の規定手順に従い、再検査を実施しましょう」
俺はセラフィエルを見た。
「こっちの分布計画はどうなる?」
「初期シミュレーションとしては引き続き安全な状態ですが、差異の原因が明らかになるまでは、問題の貨物群を検証済みの計算対象から除外する必要があります」
「よし。計画に合うように、無理やり数値を合わせたりするなよ」
「もちろんです、紬」
監視画面では、該当するコンテナ群を載せた搬送車両が、指定された検査区域で停止していた。
タラリスの担当官たちが、計測記録の再確認を始める。
混乱が起きているわけではない。
ただ、それまで比較的和やかだった空気は、明らかに引き締まっていた。
ランは書類を確認し続けている。
タヴィルはシステムの状態を調べていた。
ローヴァンは施設の担当者へ連絡し、追加検証を要請している。
俺は静かに息を吐いた。
「どうやら、今日の仕事はまだ終わりそうにないな」
カリスタが腕を組んだ。
「全部船に積み込んだ後で見つかるより、今のうちに差異が分かってよかったじゃないか」
「同感だ」
セラフィエルが近づいてきた。
「紬、正式な検査結果が出るまで、積載作業の停止を維持することを推奨します」
俺は頷いた。
「そうしてくれ」
それからヴォスク大佐へ顔を向ける。
「こちらには、引き続きこの仕事を進める意思があります。ただし、書類との整合性が確認できていないコンテナ群を受け入れるつもりはありません」
大佐は真剣な表情で頷いた。
「承知しました、星崎艦長。規定の手順に従って検査を完了させます」
俺は再び画面へ目を戻した。
国境の補給拠点へ運ぶ予定の巨大な貨物群のどこかに、まだ説明のつかない相違が存在している。
単なる事務上のミスかもしれない。
あるいは、それ以前の搬送段階で何らかの問題が起きていた可能性もある。
現時点では、原因を特定するだけの証拠が足りなかった。
だからこそ、急ぐ理由など一つもない。
その夜、ASTRAEON VELORIAへ戻った俺は、ランから状況報告の概要を受け取った。
C-142-LG――積載作業状況
| 項目 | 状態 |
| ---------------------- | ------------- |
| 最終積荷明細 | 検査用として受領済み |
| 貨物分布計画 | 検査の基礎案として承認済み |
| 実測質量データ | 検証継続中 |
| 問題のあるコンテナ群 | 処理保留 |
| 積載作業 | 一時停止 |
| 問題の貨物群に対する責任の受領 | 未実施 |
| 最終輸送契約 | 条件の解決待ち |
| ASTRAEON VELORIAの交易用在庫 | 安全に保管・分離済み |
俺はグランドサロンの席に座り、その報告書に目を通した。
レアはカリスタの隣で、計測結果の相違について説明を聞いているところだった。
「じゃあ、まだ荷物を運んじゃ駄目なの?」とレアが尋ねた。
「まだだ。少なくとも、向こうが差異を説明できるまではな」
「ただの記録ミスだったら?」
「それならよかった、という話だ。正式な手続きで書類を修正してもらってから、検査を再開すればいい」
「そうじゃなかったら?」
俺は肩をすくめた。
「まずは事実を確認してから考えるさ」
レアが頷いた。
「分かった」
そこでランが端末をこちらへ向けた。
「それから、交易計画についてですが、先ほど承認された構成案に基づき、初期段階の容量予測をまとめました」
俺はゆっくりと彼女を見た。
「……まだそっちも進めてたのか?」
「もちろんです。本来の仕事は現在、タラリス側の検査待ちです。問題のコンテナ群とは無関係な交易事務まで放置する理由はありませんから」
カリスタが笑った。
「ランは本当に、空きスペースをいつまでも遊ばせておけない性分だね」
「すべてを埋めるつもりはありませんよ、フェロさん。予備容量と運用空間は、引き続き確保する必要があります」
俺は、ランの小さな画面に再び現れた中型船級のモジュール式船体構造を見つめた。
「で、それはまだ買ってないんだよな?」
「まだです」
「よし」
「ただし、調達先の候補はかなり絞り込めました」
俺は片手で顔を覆った。
レアが声を上げて笑う。
隣では、セラフィエルが柔らかく微笑んでいた。
少なくとも、一つだけはっきりしたことがある。
8,400,000 GCもの軍事輸送契約が計測データの不一致によって足止めされている最中でさえ、ランはASTRAEON VELORIAの将来の財務について、独自の計画を進めているのだ。
金銭や商品在庫、それに俺たちがまだ引き受けていない契約上の責任さえ混同しないのであれば、その仕事を続けてもらうことに異論はない。
ただ、俺たちがようやく国境の補給拠点に到着したとき、軍事物資の輸送を請け負ったはずの船が、なぜ高級食品や飲料、有機農園の収穫物、さらには中型船の船体構造まで運んでいるのかと、誰かに尋ねられないことを祈るばかりだ。
……いや、改めて考えてみると、まさしくランがやりそうなことではあるんだけどな。
【次話予告・第146話】
「封印番号の不一致」
一致しない封印番号――タラリス貨物検査ホールでの追加検査により、あるコンテナの封印番号が引渡書類の記載と一致していないことが判明する。ランがコンテナの識別情報を照合し、セラフィエルは兵站担当者から提供された搬送時刻の記録を確認。タラリスの検査官たちも実物の検査を進める。紬は、妨害工作があったと性急に決めつけることなく、相違が解消されるまで積載作業の再開を認めない姿勢を貫く。




