↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/172

【第144話】「タラリス軍事兵站停泊施設」

【第144話】「タラリス軍事兵站停泊施設」



ヴェルドラコン出発から24日目~25日目――船内標準時07:30~21:45 場所:オルセリオン独立港 → ASTRAEON VELORIA → FTL航路 → タラリス軍事兵站停泊施設 視点:星崎紬


「紬、ドッキング解除申請が受理されました。オルセリオン管制局から指定された出港時間枠は09時40分です」


俺が指揮デッキに入ると、航法席に座っていたヴェスペラがそう報告してくれた。


「おはよう。タラリスへの到着許可は?」


「引き続き有効です。昨日交付された識別コードと進入回廊も、航行書類との照合を完了しています」


「よし」


メインスクリーンには、いつもどおり活気に満ちたオルセリオン独立港の様子が映っていた。


一隻の輸送船が商業ターミナルへ誘導され、その一方では複数のコンテナ牽引車両が産業施設の外周フレームに沿って移動している。さらに遠方では、中型護衛艦がドッキング航路を離れ、星系間交通の流れに合流しようとしていた。


俺は艦長席に腰を下ろした。


昨日の長い協議を経て、俺たちはようやくタラリスの軍事兵站施設へ向かい、直接検査を受けることになった。


もっとも、これは契約C-142-LGを受諾したという意味ではない。


提示されている8,400,000 GCという金額は、まだ暫定的な報酬額にすぎない。


最終積荷明細も受け取っていないし、責任分担に関するいくつかの条項も、依然として協議が必要な状態だ。


つまり、今日の俺たちの仕事は、新たな事務上の問題を起こさずにタラリスへ到着することだった。


もちろん、道中が穏やかなものになることも期待している。


……その期待が少々贅沢だったのではないかと思い始めたのは、通信端末が鳴った直後のことだ。


『紬、もう指揮デッキにいらっしゃいますか?』


ランの声だった。


「ああ。どうした?」


『出港前に、一件の取引について承認をいただきたいのですが』


俺は眉を上げた。


「何の取引だ?」


『交易用物資の調達です』


思わず黙り込む。


「……交易? 今から?」


『資料はすでに用意してあります。セラフィエルと一緒にそちらへ伺います』


そこで通信が切れた。


俺はしばらく端末を見つめていた。


こちらを振り向いたヴェスペラが、微笑みながら言う。


「どうやら、紬の午前中の予定が一つ増えたようですね」


「俺、まだ席に座ったばかりなんだけど」


数分後、ランがセラフィエルを伴ってやってきた。


二人が持っている報告書は、俺に会う前にすでに内容を協議していたものらしい。


その表情には見覚えがあった。


ランとセラフィエルが共同で算出した結果を持ってくるときは、大抵、二人が検討に値すると判断した何かを見つけたときだ。


そして俺の役目は、承認を与える前に、その何かが本当に妥当なのかを確かめることである。


「先に申し上げておきますが」とランが切り出した。「これは軍事輸送契約C-142-LGの経費には含めません」


俺は彼女を見た。


「まだ何も聞いてないぞ」


「最初に何をお尋ねになるか、分かっていますので」


セラフィエルが小さく笑った。


ランが投影画面を起動する。


そこに表示されたのは、商品の一覧だった。


有機食品。


高品質な合成食品。


包装済みの調理用食材。


一般的な飲料。


高級飲料。


さらには、酒類に分類される商品まで含まれている。


俺はその一覧をもう一度読み直した。


「……店でも開くつもりか?」


「店舗ではありません、紬。目的地周辺で合法的な販売機会が得られた場合に備えて、交易用の在庫を確保しておきたいのです」


俺は背もたれに身体を預けた。


「詳しく聞かせてくれ」


ランはタラリス国境兵站補給拠点の地図を拡大した。


「今回の軍事輸送の目的地は、国境地域の兵站拠点です。そのような施設には、任務中の作業員や技術者、船舶乗組員、軍人など、消費財を必要とする人々がいます。私は、本来の仕事を妨げない範囲で、その潜在的な市場を活用できないかと考えています」


「つまり、標準支給品より種類の豊富な食品や飲料に需要があるんじゃないか、という予測か?」


「私の商業上の仮説です。現時点で注文が入っているわけでも、販売が保証されているわけでもありません。ですから、過剰な仕入れは避けるつもりです」


彼女は二つ目の一覧を開いた。


「それに、オルセリオンで購入する物資とは別に、ASTRAEON VELORIAには船内の有機農園で生産された作物もあります。乗組員の消費分と船内備蓄を確保したうえで、販売用に割り当てられた収穫物の一部を商品として扱うことも検討できます」


俺はセラフィエルに顔を向けた。


「どう思う?」


「計算済みの上限内であれば、商業用保管設備には追加在庫を収容する余裕があります。食品、飲料、特殊な温度管理を必要とする商品についても、軍事貨物の収容候補となる施設とは別の区画に分けてあります」


「タラリスの積荷と混ざることはないんだな?」


「はい。登録情報、所有権、管理上の手続きは、それぞれ完全に分離します」


俺は頷いた。


ランが説明を続ける。


「それから、私たちの船が軍事施設への立ち入りを許可されたという理由だけで、軍人の方々に商品を販売するつもりもありません。交易には現地当局の承認、適用される輸入規則、そして特定商品の販売許可が必要です。特に酒類については慎重に確認します」


俺は小さく笑った。


「それならいい。少なくとも、軍用ドックを即席の市場に変えるつもりじゃないんだな」


ランが片眉を上げる。


「紬、私は交易・財務管理を担当すると同時に、ASTRAEON VELORIAの貨物管理責任者でもあります。船の許可に悪影響を及ぼすような取引こそ、最も避けたいことです」


「分かってるよ。冗談だ」


「では、そう受け取っておきます」


投影画面が切り替わり、より詳細な調達計画が表示された。


ASTRAEON VELORIA――商業用在庫調達案


| 分類 | 調達計画 |

| --------- | ------------------------ |

| 有機食品 | 生鮮品および高級包装食品 |

| 合成食品 | 長期保存に適した高品質商品 |

| 調理用食材 | 船内厨房および個人消費に適した商品 |

| ノンアルコール飲料 | 一般品から高級品まで |

| 酒類 | 交易許可に従い、廉価品と高級品を選定 |

| 船内農園の収穫物 | 乗組員の必要量を減らさない範囲で割り当てた余剰分 |

| 販売状況 | 現時点で購入者および販売契約なし |


俺は最後の行に目を留めた。


「よし。売上予測を、すでに手に入れた収入として計上するなよ」


ランは満足そうに微笑んだ。


「もちろんです」


「それから、記録を残さずに乗組員用の食料備蓄から商品を持ち出すのも禁止だ」


「すでに分離しています」


「酒類は?」


「管理された保管区画、独立した在庫台帳、そして目的地における販売規則の確認を徹底します。軍事施設の規則で直接取引が禁止されていれば、そこで販売することはありません」


セラフィエルも付け加えた。


「交易用在庫へのアクセス権限も、個人用品の保管区画や船内医療物資の管理とは分離します」


俺は二人を見比べた。


本当に、準備は済ませてあるらしい。


「分かった。提出された予算内で、限定的な調達を承認する。ただし、追加の交易活動がタラリスでの検査や、受諾した場合の本契約の遂行に支障を来すことがないようにしてくれ」


ランが頷いた。


「私も同じ方針です」


彼女が購入確認ボタンを表示する。


俺は承認を与えた。


ほどなくして、端末に調達状況が表示された。


商業用物資調達――承認済み


「ありがとうございます、紬」


「どういたしまして。品物はいつ届く?」


「確認済みの供給業者によれば、私たちの出港時間枠までに納品を完了できるそうです」


俺は時計を見た。


「お前、昨日からこれを計画してたんだな?」


ランは微笑んだ。


「輸送先の情報を読んだときからです」


俺はため息をついた。


セラフィエルが静かに笑っていた。


それからおよそ一時間の間に、ASTRAEON VELORIAの物資受入施設へ、複数の商業用商品が搬入された。


俺もランとセラフィエルを伴い、貨物検査区画へ下りていった。


入口から少し離れた場所にはカリスタが立っており、新しい物資を載せたコンテナ搬送車両を眺めている。


その隣にはレアもいた。


「紬!」


「どうした?」


「ランが食べ物をいっぱい買ってる!」


「交易用の在庫だぞ」


「分かってるよ! でも、あれ見て!」


彼女が冷蔵コンテナの一つを指さした。


「オルセリオン産の高級有機肉があるんだよ!」


すかさずランが口を挟む。


「それは販売用の在庫です、レア」


「見てるだけだってば!」


俺は笑ってしまった。


「その台詞、すっかりうちの乗組員の口癖になってるな」


カリスタが受入報告書の一つを開いた。


「コンテナの固定具と冷却要件は確認済みだ。問題はない。ただ、整備通路を塞がないように、こいつらは早めに交易用区画へ移しておきたいね」


「すでに予定に組み込んであります」とセラフィエルが答えた。


続いてランが、在庫登録の区分を表示した。


ASTRAEON VELORIA――貨物登録台帳


| 区分 | 管理方法 |

| ------------- | ----------------- |

| 乗組員用物資 | 運用備品台帳 |

| 有機農園の生産物 | 船内生産および余剰分の割り当て |

| オルセリオン調達商品 | ラン管理の商業用在庫 |

| 乗組員の私物 | 個別保管 |

| C-142-LGの予定貨物 | 未受領。正式な引き渡し後に別途登録 |


俺は頷いた。


「その区分は必ず維持してくれ。タラリスの担当官が軍事貨物の検査に来たら、いつの間にかうちの販売用食品コンテナが向こうの積荷明細に紛れ込んでいた、なんて事態は御免だからな」


「そのようなことにはなりません」とラン。


そこでレアが手を挙げた。


「ねえ、これが売れたら、また新しい在庫を買ってもいいの?」


ランは彼女を見た。


「純利益と市場の需要が見込めるのであれば、もちろん検討できます」


「やった!」


「ただし、それは次の寄港先で食品店の商品を丸ごと買い占めてよいという意味ではありません」


「……まだそんなお願いしてないよ!」


09時15分、すべての納品物の確認が完了した。


セラフィエルの報告によれば、受入ターミナルに残された商品はなく、すべてのコンテナが所定の保管区画に収容されたという。


俺は指揮デッキへ戻った。


ヴェスペラはオルセリオン管制局と交信しているところだった。


『ASTRAEON VELORIA、ドッキング解除申請は確認されました。指定された出港時間枠に変更はありません。解除手順を開始する前に、すべての港湾サービスが停止していることを確認してください』


「了解しました、オルセリオン管制局。最終準備が整い次第、報告します」


俺は艦長席に座った。


「ラン、ドッキング料金と港湾サービスの支払いは?」


「すべて精算済みです。商業用物資の調達費も、オルセリオン滞在費およびC-142-LGの準備費用とは別に記帳しました」


「よし」


「今後の交易検査に備え、購入書類と納品記録も保管してあります」


後方の扉からカリスタが入ってきた。


「格納庫は安全確認済みだ。搬送経路に置き忘れた機材もないよ」


続いてレアも姿を見せる。


「ヴァルキリーの固定も終わったよ!」


俺はセラフィエルに顔を向けた。


「船の最終点検は?」


彼女が画面を起動する。


ASTRAEON VELORIA――出港前点検


| 項目 | 状態 |

| ---------------- | ------- |

| ドッキング固定装置 | 解除準備完了 |

| 航法システム | 準備完了 |

| 推進機関およびFTL | 正常 |

| 格納庫設備 | 安全確認済み |

| MCV-01およびモビルフレーム | 固定完了 |

| 乗組員用物資 | 正常 |

| 交易用在庫 | 受入・固定完了 |

| タラリス到着書類 | 確認済み |

| 最終輸送契約 | 未締結 |


俺は報告書を最後まで確認した。


「よし。それじゃあ、出発しよう」


ASTRAEON VELORIAは、指定された時間枠に従ってオルセリオン独立港を離れた。


メインスクリーンの中で、港湾施設の構造物がゆっくりと遠ざかっていく。


商業ターミナル周辺の交通は相変わらず混雑していたため、ヴェスペラは出港回廊を完全に抜けるまで、通常航行に定められた速度を維持した。


俺の席から少し離れたところに立っていたレアが口を開く。


「オルセリオンって、なかなか面白い場所だったね」


「まだ大して見て回れてないけどな」


「だから、また来ようよ!」


ランが顔を上げた。


「再訪するのであれば、今回仕入れた交易用在庫の販売実績も併せて確認できますね」


俺は彼女を見た。


「もう帰りの予定まで考えてるのか?」


「交易には計画性が必要ですから、紬」


「そりゃそうだ」


ヴェスペラが微笑む。


「間もなく民間航行回廊の境界に到達します。航行許可が確認され次第、FTL航路へ移行できます」


俺は頷いた。


「セラフィエル、設定しておいた離脱地点はどうなってる?」


「タラリスの到着許可に合わせて調整済みです。軍事区域の内部へ直接離脱することはありませんし、船のFTL能力を不必要に目立たせるような運用も避けます」


「よし」


数分後、オルセリオン管制局から最終出港確認が届いた。


ASTRAEON VELORIAは指定地点へ向かって進んでいく。


俺はもう一度、航法図を確認した。


「ヴェスペラ、タラリス軍事兵站停泊施設へ向けて航行を開始してくれ」


「了解しました、紬」


FTLシステムが起動する。


メインスクリーンに映る星々が光の帯へと姿を変え、俺たちの船は通常航路を離れた。


航行中、セラフィエルは内部システムを通じて追加の技術点検を実施していた。


俺は宇宙空間を望む観測室の一つで、彼女と合流した。


テーブルの上には、検査に備えて用意した船内構成の投影図が表示されている。


「準備は全部できたか?」


「ほぼ完了しています。現在、タラリスの検査担当者に提供可能なデータ一式を最終調整しているところです」


俺は一覧に目を通した。


「向こうには何を見せるんだ?」


「船舶識別情報、登録情報、輸送適性の評価に必要な貨物容量、関連する支援設備の状態、義務付けられた範囲での防衛システムの申告、そして輸送能力を判断するために必要な技術データです」


「船の機密構成を丸ごと見せるわけじゃないんだな?」


「もちろんです」


セラフィエルは微笑んだ。


「ASTRAEON VELORIAには、貨物を輸送できると証明するためだけに外部へ開示する必要のない能力が数多くあります。正式な検査には十分対応でき、なおかつ無関係な部分へのアクセスを認めない運用情報を用意しました」


俺は満足して頷いた。


「それならいい」


続いて彼女は、保管区画のシミュレーションを表示した。


船の三次元モデルの内部に、色分けされた複数の区画が浮かび上がる。


「ランの交易用在庫は、独立した商業用コンパートメントに配置済みです。タラリスの貨物向けに検討している設備には干渉しません」


「有機農園のほうは?」


「通常どおり稼働しています。交易用に割り当てる余剰収穫物については、定期的に確認を行います。乗組員の消費分、備蓄、そして継続的な生産を優先する方針に変更はありません」


俺は笑みを浮かべた。


「なんだか、二人で船内に小さな商売を立ち上げ始めたみたいだな」


セラフィエルが柔らかく笑う。


「ランが興味深い機会を見つけたのです。私は、その計画が船の能力に見合っているかを確認するお手伝いをしているだけですよ」


「別に構わないさ。ただ、レアが農園から果物を取るたびに、ランが料金を請求し始めたりしなければな」


「乗組員の消費枠と販売用在庫は、すでに分けているはずです」


「それを聞いて安心したよ」


二十五日目。


翌朝、俺が指揮デッキに入ると、ヴェスペラはすでに接近航路の地図を更新していた。


「紬、間もなく予定していたFTL離脱地点に到達します」


俺は頷いた。


「タラリス周辺の交通状況は?」


「初期接近情報を受信済みです。到着回廊は複数あり、それぞれ異なる区分が設定されています。私たちは検査許可で指定された航路を使用し、その後は軍の管制官から指示を受けるまで施設区域への進入を待機します」


「了解」


セラフィエルが俺の席の隣に立った。


「識別システムも準備済みです。正式書類に従って到着コードを送信します」


レアがメインスクリーンに近づく。


「じゃあ、もうすぐ帝国の軍事施設が見られるんだね?」


「そういうことだ」


「どんな格納庫なのか気になる!」


カリスタが振り向いた。


「自分たちの船の検査が終わる前に、施設見学の許可なんて頼むんじゃないよ」


「頼まないってば!」


俺は笑った。


「せめて正式な入港許可が出るまでは待ってくれよ」


ASTRAEON VELORIAは、設定しておいた接近地点でFTL航行を終了した。


眼前に広がった宇宙空間には、オルセリオンの商業区域とは比べものにならないほど、厳格に整理された交通網が形成されていた。


複数の大型輸送船が指定航路を進んでいる。


遠方では、護衛艦の編隊が軍用回廊を横切っていた。


だが、俺の目を最も引きつけたのは、メインスクリーンに姿を現した巨大な軌道施設だった。


タラリス軍事兵站停泊施設。


その主要構造は、輸送用フレームと貨物搬送経路で連結された、いくつもの巨大な区画から成り立っている。


外周側には重量級艦船の係留設備があり、その近くには検査施設と、途方もない大きさの兵站モジュールを取り扱うための配送複合施設が設けられていた。


さらに奥には、立入制限区域を取り囲む複数の警備構造物も見える。


俺は小さく口笛を吹いた。


「……ずいぶん大きいな」


ヴェスペラが微笑んだ。


「大規模な軍事兵站業務に対応するために設計された施設ですからね」


レアが画面を指さす。


「紬! あの船、見て!」


一隻の軍用輸送船が、ドックの一つへ誘導されていた。


その周囲では複数の支援車両が、安全な距離を維持しながら移動している。


カリスタも頷いた。


「荷役システムも面白いね。あのプラットフォームの位置と、モジュールの搬送経路を見てごらん」


そこへ、事務用端末を持ったランが指揮デッキに入ってきた。


彼女は画面を眺めながら言った。


「そして私は、費用負担の区分が正しく契約書に記載されていなかった場合、施設利用料の請求がどれほど複雑になるか、容易に想像できます」


俺は笑った。


「本当にぶれないな、お前は」


ほどなくして、通信が入った。


『タラリス接近回廊へ進入中の船舶、ASTRAEON VELORIAとして識別情報を受信しました。こちらはタラリス軍事交通管制局です。到着目的および許可コードを確認してください』


ヴェスペラが落ち着いた声で応答する。


『タラリス管制局、こちらASTRAEON VELORIA。契約参照番号C-142-LGに基づく、輸送候補船としての適性検査を受けるために到着しました。到着許可コードは正式通信回線を通じて送信済みです』


数秒間の沈黙。


やがて、担当官の声が戻ってきた。


『許可を確認しました。接近回廊内で現在位置を維持してください。追加指示を受けるまでは、貨物区域および制限付き係留区域への進入を禁止します』


「了解しました、タラリス管制局」


俺はセラフィエルを見た。


「各システムの準備は?」


「完了しています。到着検査に支障を来す活動はありません」


しばらくすると、航法図に新しい経路が表示された。


『ASTRAEON VELORIA、許可済み民間船舶用検査回廊への進入を認めます。航法標識に従い、外部検査施設へ向かってください』


ヴェスペラが頷く。


「経路を受信しました」


俺は座り直した。


「よし。向こうの指示どおりに進めてくれ」


到着手続きは、一般的な港でのドッキングよりもはるかに綿密だった。


ASTRAEON VELORIAは係留施設への接近許可を得るまでに、いくつもの識別確認段階を通過しなければならなかった。


だが、誰一人として急いでいる様子はない。


それぞれの回廊を進む船は、すべて管制官の指示と予定に従って動いている。


俺としては、むしろ安心できる手順だった。


戦略的な軍事物資を取り扱う施設なのだから、正体の分からない船を好き勝手に近づけるわけにはいかないだろう。


指定された検査位置に到達すると、新たな通信回線が開かれた。


画面に現れたのは、暗い髪をしたヒューマンの女性だった。


その制服には、タラリス保安管理部門の徽章が付いている。


『タラリス軍事兵站停泊施設へようこそ。私は輸送候補船の検査調整官、行政担当少佐ヴェイナ・コーシャルです』


俺は頷いた。


「ASTRAEON VELORIA艦長、星崎紬です。よろしくお願いします、コーシャルさん」


『オルセリオンから事前審査の概要は受領しています。運用上の係留許可を発行する前に、いくつかの書類を確認させていただきます』


「どうぞ」


彼女は正式な検査項目一覧を表示した。


タラリス――輸送船入域確認


| 段階 | 内容 |

| ---------- | --------------- |

| 艦長の身元 | 身分証明書類の審査 |

| 傭兵協会ライセンス | 有効な資格状態の確認 |

| 船舶登録 | 識別情報の照合 |

| 保安検査 | 施設の規定手順に従って実施 |

| 保険証明 | 必要な補償範囲の確認 |

| 貨物積載能力 | 初期審査および直接検査 |

| 防衛システムの申告 | 義務付けられた範囲内で実施 |

| 貨物区域への立入許可 | 関連する審査段階の承認後に発行 |


俺は一覧を最後まで読んだ。


「承知しました」


ランがすぐに、用意された事務手続き用の通信回線へ端末を接続した。


「コーシャルさん、関連する登録書類と証明書は準備済みです。それから、この検査をもって最終輸送契約の受諾と見なされることはない、という点も確認させてください」


コーシャル少佐が頷く。


『そのとおりです。現時点での来訪目的は、適性検査と事務手続きに限られます。貨物の受領には、別途契約の締結と正式な引渡記録が必要です』


「ありがとうございます」


その返答を聞いたランが、少し安心したように見えた。


最初の段階は身元確認だった。


俺は艦長としての身分証明書類と、傭兵協会の登録情報を送信した。


ほどなくして、確認結果が表示される。


星崎紬――Cランク/プロフェッショナル


コーシャル少佐が画面を確認した。


『現在のライセンスはCランクですね。また、ヴェルドラコン中央ギルドを通じてBランク昇格審査を受ける資格があるとの通知も受領しています』


「そのとおりです。昇格審査はまだ受けていません」


『問題ありません。こちらでは、現在の正式な資格と登録データが一致していることを確認できれば十分です』


俺は頷いた。


よかった。


少なくとも、今回の契約に帝国が関わっているというだけで、誰かが勝手に俺のランクを変更するようなことはなさそうだ。


続いてASTRAEON VELORIAの船舶登録と到着情報が照合され、初期段階で合意済みの保安書類についても審査が進められた。


セラフィエルは、必要な技術データの提供を補助してくれた。


コーシャル少佐が船内の全システムに対する自由なアクセスを要求することはなかった。


彼女のチームが使用しているのは明確な検査項目一覧であり、データを要求する際には、その分類と検査理由が必ず添えられていた。


こういうやり方はありがたい。


「セラフィエル、結果は?」


「この段階で要求された書類は、すべて送信済みです。承認された範囲外へのアクセスもありません」


「よし」


保険関連の審査はランが担当した。


俺は会議回線を通じて、彼女とタラリスの事務担当官のやり取りを聞いていた。


『ヴァレスさん、提出された証明書が、今回審査対象となっている船舶の等級と輸送業務の種類に適用されることを確認する必要があります』


「もちろんです。ただし、初期適性の確認と、積荷明細に基づく最終的な補償内容の確定は区別していただきたいと思います。私たちは、まだ貨物の完全な情報を受領していませんので」


『そのとおりです。本日の確認は、貨物の特性が確定した後に必要となる補償書類の調整に代わるものではありません』


「結構です。初期証明書の確認が済んだというだけで、すべてのリスクが補償対象になったと、いずれかの当事者が誤解する事態は避けたいのです」


俺は思わず笑いそうになった。


保険について誰かが曖昧で単純すぎる答えを返そうものなら、ランは誤解の余地がなくなるまで説明を求め続けるだろう。


協議を終えた彼女が、こちらへ振り向いた。


「初期審査には問題ありません。ただし、完全な積荷明細を受領した後、最終的な補償範囲を改めて確認する必要があります」


「了解した」


昼前になると、タラリスの検査チームは、こちらが用意した運用データを用いて積載能力の審査を開始した。


オルセリオンで顔を合わせた分析官、オーレン・タヴィルが、二人の検査技術者とともに通信画面に現れた。


『星崎艦長、昨日ご提出いただいた積載能力の概要と、実際に利用可能な貨物設備の構成を照合させていただきます』


「合意済みの検査範囲内であれば、どうぞ」


セラフィエルがASTRAEON VELORIAの限定的な構造モデルを表示した。


彼女は、共有可能な情報と、輸送業務に無関係な私的設備や船内システムの情報を明確に切り分けている。


タヴィルはかなり興味を引かれたようだった。


『こちらの船には、柔軟に用途を割り当てられる区画が複数あるのですね。この構成は、基本的な運用安定性を損なわずに変更できるのでしょうか?』


「計算済みの範囲内であれば可能です」とセラフィエルが答えた。「ただし、実際の積載計画については、貨物の実測質量、荷重分布、エネルギー要件、モジュールの搬送経路に基づく検証が必要です」


『承知しました。空き容積だけを根拠に最終的な輸送適性を認定することはありません』


技術端末を通じて参加していたカリスタが、すぐに頷いた。


「それが正しい判断だね。広い空間があるからって、重量物を好きな場所に置いていいわけじゃないんだ」


タヴィルが微笑む。


『同感です、フェロさん』


俺は二人のやり取りを見守っていた。


少なくともタラリスの担当者たちは、ASTRAEON VELORIAほどの大きさの船を検査するには、外から眺めるだけでは足りないと理解しているらしい。


次の項目は、少々慎重な対応が必要だった。


防衛システムの申告である。


再びコーシャル少佐が画面に現れた。


『星崎艦長、次の段階では、施設規則および輸送中に適用される交戦規定に従って運用可能な保安・防衛システムを、貴船が備えていることを確認する必要があります』


俺は頷いた。


「義務付けられた申告には応じます。ただし、ASTRAEON VELORIAはあくまで独立した私有船です。帝国軍艦隊への編入を申請しているわけではありません」


『その点はすでに記録されています』


彼女が船舶の状態に関する書類を開いた。


ASTRAEON VELORIA――運用上の分類


状態: 独立私有船舶 到着目的: 輸送候補船としての適性検査 特別許可: 承認された契約手続きおよび施設利用の範囲に限定 正式な軍事上の地位: 変更なし


俺は満足して微笑んだ。


「それなら結構です」


続いてセラフィエルが、検査範囲に従った申告データを提出した。


船の全能力を開示することはない。


内部システムへの無制限のアクセスも認めない。


俺たちが提供するのは、タラリスが運用上の適合性を確認するために十分な情報だけだ。


ASTRAEON VELORIAを、向こうが自由に制御できる船へ変えてしまうつもりはない。


コーシャル少佐は書類を確認した。


『結果を記録し、限定的な実地検査が必要な項目については担当チームへ引き継ぎます』


「承知しました」


初期審査の全段階が終了すると、ようやく指定された係留施設への接近許可が下りた。


ヴェスペラがドッキング用の航法図を起動する。


「紬、タラリス管制局から進入経路が届きました」


俺は頷いた。


「向こうの手順に従ってくれ」


ASTRAEON VELORIAは、タラリス軍事兵站停泊施設の外周構造へ向けて、ゆっくりと進んでいった。


近づくにつれ、その規模がますます鮮明になっていく。


ドックの一つには大型の軍用輸送船が係留されていた。


その周辺では、専用の牽引システムによって複数の貨物モジュールが搬送されている。


別の場所では、荷役作業中の船から安全な距離を保ちながら、整備車両が施設のフレームに沿って移動していた。


レアが画面を指さす。


「紬! あれってモビルフレームの格納庫!?」


カリスタが振り向いた。


「関連する支援設備かもしれないね。でも、外から見ただけで中身を全部想像するのはやめな」


「気になるだけだってば!」


まだ事務用端末を手にしていたランが口を挟んだ。


「それから、誰かが尋ねる前に申し上げておきますが、私たちはまだ交易施設への訪問許可も、タラリスの職員に対する販売許可も得ていません」


レアが彼女を見つめた。


「そんなこと、まだ考えてもなかったよ!」


「念のためのお知らせです」


俺は小さく笑った。


やがてASTRAEON VELORIAは、指定された係留位置に入った。


施設側の固定装置が、定められた手順に従って接続される。


セラフィエルがすべての表示を確認した。


「紬、ドッキングは安全に完了しました。施設との接続部分にも、構造上の問題は検出されていません」


「よし」


ヴェスペラが航法システムの能動制御を終了する。


「到着手続き、完了しました」


俺は立ち上がった。


「それじゃあ、引き続き事務審査を進めよう」


ほどなくして、コーシャル少佐の事務室から正式な通知が届いた。


艦長の身元、ギルドライセンス、船舶登録、初期保安検査、初期保険証明、防衛システムの申告は、いずれも検査段階に必要なものとして受理されたという。


ただし、貨物区域への立入許可は、積載能力の審査と関連手続きが完了するまで制限されるとのことだった。


俺は頷いた。


当然だろう。


俺たちは軍事施設へ観光に来たわけじゃない。


それに、タラリスから招かれたからといって、検査書類に船の名前が記載されているだけで、どの部屋にも自由に入っていいはずがない。


午後、俺は施設内の会議室を通じて、コーシャル少佐とタヴィルとの短い打ち合わせに出席した。


技術的な協議には、ラン、セラフィエル、カリスタも同席している。


ヴェスペラは船に残って航路と航行手順の監視を続け、レアは次の積載段階に備え、格納庫の準備状況を確認していた。


「星崎艦長」とコーシャル少佐が切り出した。「初期審査の結果、ASTRAEON VELORIAは、より詳細な積載能力の検証段階へ進めると判断されました」


「先に解決しておくべき問題はありますか?」


「現時点で、手続きの継続を妨げる問題はありません。ただし、積荷明細の全データと実地検査の結果を照合するまでは、最終的な積載構成が適切であるとの認定は行いません」


俺は頷いた。


「こちらも同じ考えです」


続いてタヴィルが、タラリスの積載施設の図面を表示した。


「明日、兵站チームから積載計画に関係する最終積荷明細を提示します。そのうえで、貨物の容積と質量をASTRAEON VELORIAの構成と照合する必要があります」


カリスタが図面に目を凝らした。


「全モジュールの実測データは揃っているのかい?」


「施設側のデータはあります。ただし、最終値については、積載前の検査および荷役手順を通じて改めて確認します」


「それならいい。推定値だけを頼りに何かを動かすのは御免だからね」


ランも付け加えた。


「それから、貨物の識別情報、状態、引渡書類が一致するまでは、いかなる物品も私たちの輸送責任下に受け入れることはありません」


コーシャル少佐が頷いた。


「承知しました」


俺は小さく笑みを浮かべた。


少なくとも、今のところ双方の利害は一致している。


向こうは軍事物資を安全に届けたい。


俺たちは不明確な責任を負うことなく、仕事を完了させたい。


ASTRAEON VELORIAに戻る頃には、船内標準時で夜になり始めていた。


グランドサロンでは、レアが俺たちを待っていた。


「紬! 検査はどうだった!?」


「今のところ順調だよ」


「軍の貨物、見せてもらえるの!?」


「明日、積載計画用の最終積荷明細を提示してくれるそうだ」


「おおっ!」


カリスタが彼女の隣に座る。


「アタシはむしろ、質量データのほうが気になるね。説明されているとおりの規模なら、荷重分布を相当慎重に組み立てる必要がある」


セラフィエルが微笑んだ。


「初期段階のシナリオはいくつか用意してあります。ただし、積荷明細のデータが検証されるまでは、どれも最終構成として確定させません」


そこでランが交易用端末を開いた。


「オルセリオンで購入した商業用在庫についても確認しました。航行中、すべての商品は安全に保管されていました」


俺は彼女に顔を向けた。


「国境での販売計画はどうなってる?」


「まだ計画段階です。目的地の補給拠点について、正規の事務手続き経路が確保できてから交易規則を確認します。許可を得ずに軍人の方々へ直接商品を売り込むことはありません」


「よし」


レアが手を挙げた。


「もし食べ物が売れなかったら、あたしたちで食べてもいい?」


ランは彼女を見た。


「まずは在庫状況と賞味期限を確認してから判断します」


「……そう答えると思ったよ」


俺は笑ってしまった。


夕食後、俺はセラフィエルと一緒に指揮デッキへ戻った。


メインスクリーン越しに見るタラリス軍事兵站停泊施設は、まるで宇宙空間に浮かぶ工業都市のようだった。


輸送船が指定された経路に沿ってゆっくりと移動し、貨物搬送システムは絶え間なく稼働している。


航法標識の光が、施設の構造物に沿って長い線を描いていた。


「面白い場所だな」


俺が呟くと、隣に立つセラフィエルが頷いた。


「そうですね。しかも、これはまだ初期検査の段階です」


「ああ。明日はいよいよ、完全な積荷明細を見られるわけだ」


「はい」


彼女が、タラリスの兵站事務局から新たに届いた通知を表示した。


タラリス軍事兵站停泊施設


C-142-LG――次段階の検査


議題: 最終積荷明細の確認および貨物積載評価 場所: 貨物搬送リング 状態: 予定確定 備考: 必要な検査と承認がすべて完了した後に限り、積載作業へ進むことができる。


俺はその書類を読んだ。


「貨物搬送リング、か……」


「はい、紬」


「実際のところ、あいつらが運ばせたい貨物って、どれくらいの規模なんだろうな?」


セラフィエルはかすかに微笑んだ。


「初期データを見る限り、小規模な商業輸送とは比較にならないほどの物量です。ただ、結論を出すのは最終積荷明細を確認してからにしたいと思います」


俺は頷いた。


「俺もそう思う」


艦長席の背もたれに身体を預ける。


外では軍艦や兵站輸送船が、それぞれの仕事を続けていた。


一方、ASTRAEON VELORIAは、契約検査への参加を特別に許可された独立私有船として、指定された係留施設に留まっている。


俺はまだ最終契約に署名していない。


軍事貨物についても、輸送責任を負う形で受領したものは一つもない。


だが明日になれば、タラリスが本当はどれほど大きな仕事を提示しているのか、ようやく分かるはずだ。


そして、この施設の規模を実際に目にした今、提示額の8,400,000 GCにも、それ相応の理由があるのかもしれないと感じ始めていた。


「セラフィエル」


「はい、紬?」


「明日は隅々まで、慎重に確認しよう」


彼女は柔らかく微笑んだ。


「もちろんです」


【次話予告・第145話】


「戦略物資の積載計画」


戦略物資の積載計画――タラリスのチームが、輸送対象となる最終積荷明細を提示する。そこには軍用艦艇の機関予備部品モジュール、モビルフレーム整備ユニット、シールドおよび防衛関連部品、緊急医療パッケージ、野戦通信モジュール、兵站施設の修復機材、そして人員支援用コンテナが含まれていた。セラフィエルが荷重分布の策定を開始する一方、ラン、ヴェスペラ、カリスタ、レアもそれぞれの担当分野で準備状況を確認していく。しかし、検査システムが一群のコンテナについて、書類上の申告重量と実測値との不一致を検出する。その差異が説明されるまで、積載作業を進めることはできなくなってしまう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。