【第141話】「実績とランクは別のもの」
【第141話】「実績とランクは別のもの」
ヴェルドラコン出発から二十一日目――オルセリオン標準時、昼から夜 場所:オルセリオン独立港――傭兵協会支部 → アストレオン・ヴェロリア 視点:星崎紬
「星崎艦長、本題に入る前に、一点確認させてください。今回お越しになったのは、当支部に転送された案件の説明を聞くためでしょうか。それとも、同時に傭兵ランクの昇格申請もお考えですか?」
俺は端末から顔を上げた。
質問してきたのは、会議用テーブルの向かいに座る四十代ほどの男性だった。濃い灰色の髪をきちんと後ろへ撫でつけており、わずかに尖った耳の先端から、彼の血筋にスペースエルフの血が混じっていることが分かる。
名前はイリアン・コルヴェス。
卓上パネルに表示された身分情報によれば、オルセリオン傭兵協会支部の特別契約審査官らしい。
その話し方は落ち着いていて、言葉の選び方も慎重だった。昇格という単語を聞いた途端、急に話の通じなくなるベテラン傭兵を、これまで何人も相手にしてきたような雰囲気がある。
「俺は物流案件について正式な招待を受けたから来ました。それに関連する昇格手続きがあるなら、説明を聞くつもりはあります。でも、昇格を要求しに来たわけじゃありませんよ、コルヴェスさん」
「なるほど。こちらとしても、非常に助かるご回答です」
彼は端末に何かを記録した。
俺の隣では、ランが昨日受け取った招待状の書類を開いている。反対側にはセラフィエルが座り、ヴェスペラは航法関係の話になった際に経路情報を確認できるよう、戦術スクリーンに近い席を選んでいた。
今回の会議に、レアとカリスタは同行していない。
二人はアストレオン・ヴェロリアに残り、ドラウヴェル鉱業星系からの航行を終えたあとの格納庫と艦載装備の点検を進めている。
レアも誘ってはみたのだが、作業が終わればヴァルキリーの基礎シミュレーションを実施できるとカリスタから聞かされ、結局は艦に残る方を選んだ。
正直なところ、今頃あの二人が何をしているのかは、容易に想像できる。
「では、艦長。まずは正式に承認されている情報から確認していきましょう」
コルヴェスが背後のスクリーンを起動した。
傭兵協会の紋章が現れ、続いて俺の傭兵プロフィールが表示される。
MERCENARY ASSOCIATION — REGISTERED PROFILE
| 項目 | 登録情報 |
| -------- | --------------- |
| 氏名 | 星崎紬 |
| 登録艦船 | アストレオン・ヴェロリア |
| 正式ランク | Cランク――プロフェッショナル |
| ライセンス状態 | 有効 |
| 契約遂行実績 | 検証済み |
| 評判記録 | 上昇中 |
| Bランク昇格審査 | 未完了 |
俺は最後の行に目を留めた。
「つまり、評判は上がっていても、ライセンスはCランクのままということですね」
「そのとおりです。そして、それが最初にご説明したい違いになります」
コルヴェスが三つの項目を別々の列に表示した。
「評判、契約遂行実績、正式ランク。この三つを同じものだと考えている傭兵は少なくありません。しかし、実際にはそれぞれ異なる事務上の役割を持っています」
彼は最初の列を指さした。
「評判とは、業務記録、依頼主からの評価、その他の検証可能な公式情報に基づき、その傭兵がどのように評価されているかを示すものです。傭兵を探している依頼主が、誰を事前協議へ招待するべきか判断する際の参考になります」
続いて二列目が点灯する。
「契約遂行実績は、協会の手続きを通じて正式に完了処理された仕事の履歴です。契約の種類、完了状況、責任の範囲、その他の関連記録が含まれます」
そして三列目を指さした。
「一方、正式ランクはライセンス上の地位です。適用される基準を満たし、権限を持つ担当機関が審査結果を承認した場合にのみ変更されます」
ランが頷いた。
「つまり、高い評判によって、より大規模な案件の審査へ参加する機会は得られても、それだけで上位ランクに基づく権限が自動的に与えられるわけではない、ということですね」
「まさにそのとおりです、ヴァレスさん」
コルヴェスは、説明を繰り返す必要がなかったことに満足したようだった。
俺は三つの列をもう一度読み直した。
「理にかなっていると思います。一人の依頼主から良い推薦を受けただけで、まったく種類の違う仕事に必要な資格まで全部満たしたことになったら、おかしいですからね」
「当協会のランク制度が防ごうとしている問題の一つが、まさにそれです」
彼が表示を切り替えた。
俺が最近受けた仕事の履歴が、順番に現れる。
商業船団の護衛契約。
貨物回収業務。
関係する依頼主から提出された正式な完了報告。
俺は一番下にあるC-136-MNのコードを見た。
カーヴォスでつい先ほど完了した仕事が、もう協会ネットワークに反映されているらしい。
「更新が早いですね」
「ドラウヴェル鉱業協同組合が主要業務の事務処理を完了し、検証結果を送信しています。なお、未承認の追加報酬については、受領済みの支払いには含めておりません」
ランがすぐに薄く微笑んだ。
「結構です。安心しました」
俺は危うく笑いそうになった。
他人のギルドの事務所にいても、彼女は未検証の金額がきちんと分けられているかを気にしている。
コルヴェスは説明を続けた。
「C-136-MNでは、あなたのチームは登録された対象物の回収に成功し、人員の撤収経路を守り、さらに武装衝突に関する記録を、確認できた証拠の範囲を超える主張を加えずに提出しています」
「契約どおりに仕事をしただけですよ」
「その一貫性こそが、評価の対象になるのです」
彼は俺を見た。
「ただし、この事件での武装使用について、一つ質問があります」
俺は頷いた。
「どうぞ」
「相手のモビルフレーム三機が撤退したあと、なぜ追撃しなかったのですか?」
俺は少し考えてから答えた。
「俺たちの契約目的は、コンテナと調査機材を回収することであって、それを奪おうとした連中を狩ることじゃなかったからです。それに、相手の撤退経路は、まだ十分な安全確認ができていない鉱山区画へ続いていました。追撃すれば、契約の完了には役立たないのに、クルーや支援チーム、それから施設の構造物にまで余計な危険を及ぼすことになります」
コルヴェスはゆっくりと頷いた。
「では、MCV-01の防衛装備を使用した理由は?」
「こちらのチームが攻撃を受けたあと、使用を許可しました。避難経路を脅かしていた兵装システムを無力化する目的に限定しています」
「敵機を完全に破壊するためではなかった、と?」
「違います」
「分かりました」
彼は再び記録を取った。
「ご回答は、提出された報告書の時系列と一致しています」
俺は少し椅子に背を預けた。
なんだか就職面接を受けている気分だ。
もっとも、地球にいた頃に見聞きした仕事と比べれば、武装したロボット三機を追いかけなかった理由を質問される面接というのは、少々刺激が強すぎるかもしれない。
コルヴェスの確認を受けて、会議室の扉が開いた。
濃い茶色の髪をしたヒューマンの女性が、追加の端末を二台持って入ってくる。
見覚えのある顔だった。
以前、受付窓口で俺たちの対応をしてくれた職員だ。
「失礼いたします、コルヴェス様。ヴェルドラコン中央ギルドからの確認書類が届きました」
「ありがとう、ネリス。こちらへ置いてください」
女性は頷いた。
制服の小さな身分表示には、ネリス・タルヴェン――登録担当官と書かれている。
なるほど、ネリスという名前だったのか。
端末を置いた彼女は、俺の方へ向き直った。
「星崎艦長、当協会の審査手続きにご協力いただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、タルヴェンさん」
彼女は短く微笑みを返し、部屋を出ていった。
コルヴェスは扉が閉まるのを待ってから、届いた端末に触れた。
別の紋章が表示される。
俺には見覚えがあった。
ヴェルドラコン帝都に置かれた、傭兵協会中央ネットワークの正式な紋章だ。
「おや?」
ランがすぐに姿勢を正した。
セラフィエルも、画面をいっそう注意深く見つめている。
コルヴェスが口を開いた。
「実は、あなたへの招待状は、オルセリオン支部の自動推薦だけに基づいて発行されたものではありません。ヴェルドラコン中央ギルドから転送された追加書類があるのです」
俺は眉を寄せた。
「中央ギルドから?」
「はい。先へ進む前に、次の情報があなたの経歴と一致しているか確認させてください」
彼が一件の名誉記録を開いた。
VELDRAKON — HONORARY RECOGNITION RECORD
受章者: 星崎紬 所属: アストレオン・ヴェロリア 記録: ヴェイリエンヌ公爵家の名誉勲章受章者 検証状況: 中央ギルドへ転送された正式書類により確認済み
俺はしばらく黙った。
「……ああ。それですか」
ランが俺をちらりと見た。
「紬、その反応では、引き出しに置き忘れた物を誰かに見つけられたみたいですよ」
「そうじゃないって。ただ、あの勲章が物流契約の話で出てくるとは思わなかったんだ」
セラフィエルが柔らかく微笑んだ。
「オーレリアのご家族との良好な関係は、正式に記録されていますからね」
コルヴェスは俺たちを見ていた。
「では、この情報に相違はないということでよろしいですか?」
「はい。オーレリアに関する一件が終わったあと、ヴェイリエンヌ家から名誉勲章をいただきました。ただ、それを理由に、あらゆる仕事で特別扱いを受けられる資格があるとは考えていません」
「適切なお考えです」
コルヴェスは、今回の審査に不要な情報を一部閉じた。
「この名誉記録は、傭兵協会のランクに代わるものではありません。ただし、身元確認やヴェルドラコン帝国の機関との関係履歴を検証する際には、このような書類も正式な補足情報として利用できます」
ランが質問した。
「つまり、今回のオルセリオンからの招待には、ヴェイリエンヌ家が依頼主として関わっているのでしょうか?」
「この契約の依頼主という立場ではありません。ただし、中央ギルドが受領した紹介資料には、同家からの推薦も含まれています」
俺は画面を見つめた。
オーレリア。
ヴェルドラコンで別れてから、もうずいぶん時間が経った気がする。
彼女の送り届けを終えた日も、家族との面会も、敬意の証として勲章を受け取ったことも、今でも覚えている。
もちろん、新しい仕事を得るために彼女を助け、送り届けたわけじゃない。
それでも、その推薦が俺たちの仕事ぶりを誰かに知ってもらう助けになったのなら、悪いことだと思う理由もなかった。
「つまり、その推薦が俺の名前を見つけてもらうきっかけになったんですか?」
「要因の一つです、艦長。ただし、それ以上に重要な部分がございます」
コルヴェスが画面を切り替えた。
今度の書類には、先ほどとは異なる保安措置が施されていた。
上部にはヴェルドラコン帝国の紋章があり、オルセリオン支部へ提供された写しには、輸送候補者の審査に使用することを許可された情報のみが含まれる、と明記されている。
隣でランがわずかに座り直したのが分かった。
それまで地図を中心に見ていたヴェスペラも、メインスクリーンへ完全に注意を向けている。
コルヴェスは俺たちを順番に見た。
「今回あなたが受け取った契約招待は、ヴェルドラコン帝国の戦略物流需要に対応する輸送事業者の選定手続きの一環です」
俺は眉を上げた。
「帝国の物流ですか?」
「はい。オルセリオンは、事務手続きと初期審査を行う拠点です。提案の運用管理は、帝国側から権限を与えられた物流機関が担当しています」
ランがすぐに尋ねた。
「これは政府の貨物を扱う民間案件なのでしょうか。それとも、ヴェルドラコン帝国の軍事機関からの正式な依頼なのですか?」
「正式な依頼です」
コルヴェスは一度言葉を切ってから続けた。
「また、紹介書類には、独立輸送事業者の候補を探す今回の手続きが、ヴェルドラコン皇帝陛下の直接のご指示に基づいて実施されていると記されています」
俺はすぐには答えられなかった。
数秒が過ぎる。
それから、セラフィエルへ顔を向けた。
「……セラフィエル」
「はい、紬?」
「俺の聞き間違いじゃないか、確認してくれ」
彼女はかすかに微笑んだ。
「コルヴェスさんは、今回の輸送事業者の候補選定が、ヴェルドラコン皇帝の直接のご指示に基づいて実施されていると説明されました」
「そうか……」
俺はコルヴェスへ向き直った。
「それが、俺みたいなCランク傭兵とどう関係するんですか?」
男性は気を悪くした様子もなかった。
むしろ、その質問を予想していたように見える。
「陛下がどのような判断をなさったのか、そのすべてを説明する権限は私たちにはありません。ただし、正式な紹介書類には、ヴェイリエンヌ公爵家が星崎艦長について推薦を行い、その後、ヴェルドラコン中央ギルドが契約履歴と名誉記録の照合を実施したことが記されています」
彼は画面上のデータを指さした。
「その結果、あなたは選考手続きへ参加する資格を持つ候補者の一人として、こちらへ紹介されたのです」
「つまり、皇帝が俺に直接、何かを運べと命令したわけじゃないんですね?」
「違います」
俺は頷いた。
それは非常に重要な違いだった。
コルヴェスが続ける。
「陛下のご指示は、帝国の物流需要への対応に関するものです。事務手続きと契約手続きは、引き続き権限を持つ機関が行います。あなたは今も独立艦船の艦長であり、この仕事を受諾するか辞退するかの決定も、まだ行われていません」
ランがようやく満足そうに微笑んだ。
「その説明でしたら、ずっと明確ですね」
俺も頷いた。
「俺も、そういう協力関係の方が好きです」
とはいえ、頭の中では新しい疑問がいくつも浮かび始めていた。
一国の皇帝が直接関心を向けるほどの物流案件だとしたら、いったい何を運ぼうとしているんだ?
そして、なぜ独立した輸送事業者を探す必要がある?
「提案の詳細へ入る前に、もう一つお話ししておかなければならないことがあります」
コルヴェスが言った。
俺は彼を見た。
「まだあるんですか?」
「あなたのランクについてです」
俺は危うく笑いそうになった。
「またそこに戻るんですか?」
「はい。ただし、今回はヴェルドラコン中央ギルドからの通知に直接関係しています」
彼は新しい書類を表示した。
CENTRAL GUILD VELDRAKON — RANK REVIEW NOTICE
| 項目 | 状態 |
| ------------ | --------------- |
| 紬の現在ランク | Cランク――プロフェッショナル |
| 評判記録 | 審査対象としての条件を満たす |
| 補足推薦 | 受領済み |
| Bランク評価への参加資格 | 付与済み |
| Bランク評価結果 | 未確定 |
| 正式ランクの変更 | 未実施 |
俺は四行目を読み、続いて五行目を確認した。
「つまり、Bランクの評価を受ける資格をもらっただけで、いきなり昇格したわけじゃないんですね?」
「そのとおりです」
コルヴェスが頷いた。
「中央ギルドは、検証済みの業務実績と補足推薦に基づき、あなたがBランクの審査手続きへ参加できるよう承認しました。ただし、最終的な決定には、所定の基準を満たすことと正式な承認が必要です」
俺は微笑んだ。
「問題ありません」
彼は少し意外そうだった。
「すぐに申請なさらないのですか?」
「条件を理解してから考えます。でも、ライセンスに書かれている文字を早く変えたいからって、それだけの理由で大きな仕事を引き受けるつもりはありません」
ランが頷いた。
「まして、契約上の義務とランク審査が別々の手続きであるなら、なおさらです」
「そのとおりです」とコルヴェスが答えた。「この評価資格が付与されたからといって、現在協議している契約の保安要件が免除されることはありません。仮に星崎艦長が今後Bランクの基準を満たしたと認定されても、制限貨物を扱う仕事では、その区分に応じた審査が必要です」
俺は椅子に背を預けた。
「それでいいです。新しいランクを手に入れた途端、読んでもいない責任をいつの間にか引き受けていた、なんてことにはなりたくありませんから」
ヴェスペラが小さく微笑んだ。
「それでは航路の策定も難しくなってしまいますね、紬」
「そうだな。勢いだけで何かを運ぶわけにはいかない」
コルヴェスが、笑い声にも似た短い息を漏らした。
「推薦書類の評価が良好だった理由を、少し理解できた気がします」
話し合いは、ランにとってさらに興味深い問題へと移った。
軍事貨物を扱う仕事における権利と義務だ。
「契約金額を提示していただく前に、質問があります」
ランは端末をテーブルへ置いた。
「輸送事業者への引き渡し前における貨物の状態については、誰が責任を負うのでしょうか?」
コルヴェスが頷いた。
「その点は、次の契約審査で提案元から詳しく説明されます」
「提示されたマニフェストと実際の貨物が一致しなかった場合は?」
「マニフェストの照合は必須要件です」
「輸送事業者には、正式な書類に記載されていない貨物を拒否する権利がありますか?」
「その規定については、最終条項をご確認いただく必要があります。私の口頭での回答を、書面による契約の代わりと考えていただくつもりはありません」
ランは、その姿勢に満足したようだった。
「結構です。では、保険、依頼主の指示による航路変更で発生した遅延、積み込み開始後の業務中止については、どのような扱いになりますか?」
俺は横を向いた。
「ラン、今の質問リストは何項目になってる?」
「十七項目です」
「……昨日から六つ増えたのか?」
「軍事施設へのアクセスと、追加護衛費用の問題はまだ含めていません」
俺はコルヴェスを見た。
「すみません。彼女、こういうところは本当に細かいんです」
男性は微笑んだ。
「艦長、高額の物流契約では、むしろそのような質問をしない輸送候補者の方が心配になりますよ」
ランが満足そうに頷いた。
どういうわけか、曖昧に作成された契約書の危険性について、まったく同じ認識を持つ二人を目の前で見ている気分になった。
続いて、ヴェスペラも口を開いた。
「私も、配送航路が、事前に入域許可を発行されていない軍事区域へアストレオン・ヴェロリアを進入させるような内容になっていないことを確認したいです」
「もちろんです。制限航路はすべて、適切な認証が必要になります」
「契約承認後に、依頼主が配送先を変更する可能性はありますか?」
「そのような条項が存在する場合、変更権限と費用負担の責任を明記する必要があります」
最後に、セラフィエルが小さく手を上げた。
「艦の検査についてですが、輸送候補者には内部構成のすべてを開示する義務があるのでしょうか。それとも、輸送能力、保安、業務適格性に関係する情報だけでよいのでしょうか?」
コルヴェスが彼女を見た。
「審査は、正式な業務上の必要性に従って行われなければなりません。輸送事業者には、要件に記載されていない技術情報を求められた場合、その要求根拠について説明を求める権利があります」
俺はすぐに頷いた。
「その原則は守ってもらいたいですね」
「もちろんです、星崎艦長。ただし、業務適格性の判断に正当に必要とされる情報を提供できない場合、依頼主側にも輸送候補者を不採用とする権利があることは、ご理解ください」
「公平だと思います」
俺には、アストレオン・ヴェロリアの秘密をすべて公開するつもりはない。
だが、艦が大きく見えるからという理由だけで、相手に能力を信用しろと要求するつもりもなかった。
今回の仕事が本当に帝国の貨物を扱うものなら、預けた品物を安全に輸送できるか、相手が確認したいと思うのは当然だ。
問題は、何が本当に必要な情報で、何がそうではないのかを見極めること。
だからこそ、俺たちはこの提案を即座に受諾してはいけないのだ。
次こそ報酬額の話になるのかと思った。
ところが、コルヴェスにはまだ書類が一つ残っていた。
「星崎艦長、帝国の行政経路から送付された付属資料があります。最初に申し上げておきますが、これは契約受諾者へ自動的に支給される現金報酬の一部ではありません」
俺は眉を寄せた。
「何の資料ですか?」
彼は閲覧権限が制限された概要を開いた。
そこに、一つの見出しが現れる。
VELDRAKON IMPERIAL MILITARY TECHNOLOGY — CONDITIONAL PROCUREMENT ACCESS
俺は画面を見つめた。
「……軍事技術?」
「はい。現在検討されている協力枠組みの一環として、条件を満たし、保安手続きを完了したうえで正式な承認を得た輸送事業者に対し、限定的な調達アクセス権を付与する可能性が記載されています」
ランがすぐに姿勢を正した。
「それは、装備を報酬として贈与するという意味でしょうか。それとも、通常は独立事業者に開放されていない調達経路を通じて、購入する権利を得られるという意味ですか?」
「後者です」
俺はそれを聞いて、少し安心した。
コルヴェスが分類一覧を拡大する。
| 調達対象となり得る分野 | カタログの対象範囲 |
| ----------- | ------------------------- |
| 艦船の建造・開発 | 許可された軍用艦船の設計図およびシステム |
| センサー・レーダー | 最新世代の探知・監視装置 |
| 艦載兵装 | 認証レベルに応じた兵装システム |
| エンジン・推進機関 | 承認された部品および設計 |
| 攻撃艦用装備 | 作戦運用支援システム |
| モビルフレーム | 許可に応じてアクセス可能な最新モデルおよび関連装備 |
俺は予定していたよりも長く、その一覧を見つめてしまった。
艦船の設計図。
レーダー。
兵装。
エンジン。
さらには、最新型のモビルフレームまで。
最後の項目をレアが見たら、間違いなく椅子から飛び上がるだろう。
カリスタなら、その場で技術カタログの完全版を要求するかもしれない。
俺はコルヴェスを見た。
「契約を受ければ、ここにあるものは全部買えるんですか?」
「そう単純ではありません」
彼は首を横に振った。
「この一覧は、協力枠組みを通じて開放される可能性がある調達分野を示したものです。各分野には、それぞれ制限レベル、価格、使用権、ライセンス要件、認証手続きが存在します。購入申請が可能になる品目もあれば、追加審査が必要になるもの、あるいは承認されないものもあります」
ランがすぐに尋ねた。
「つまり、この一覧にある設計図をすべて取得できる権利が、自動的に与えられるわけではないのですね?」
「はい。そのような権利はありません」
「無償提供もありませんか?」
「私が受領した概要には、そのような規定はありません」
「調達アクセスも、定められた手続きを実際に満たしたあとで初めて有効になる、と?」
「そのとおりです」
俺は頷いた。
「それなら、技術アクセス権の価値を契約利益の計算に含めないでくれ」
ランがすぐに微笑んだ。
「もちろん、そのつもりです」
セラフィエルは落ち着いた表情でカタログを見つめていた。
「技術の購入機会を得られること自体は魅力的ですね、紬。ただし、どれか一つの製品を検討するにしても、使用範囲、整備、改造、再配布に関する制限を先に確認する必要があります」
「分かってるよ」
設計図を買う。
言葉にすれば簡単だ。
だが、その設計図に、アストレオン・ヴェロリアの運用方針と合わない義務が付いてくるなら、紙の上で見えるほどの価値はないかもしれない。
その一方で……。
俺はもう一度、モビルフレームの項目をちらりと見た。
……この情報を知ったら、今夜はなかなか寝ついてくれそうにない狐が一匹いることも、ほぼ確信していた。
「では、本題へ戻りましょう」
コルヴェスが言った。
彼は技術関連の付属資料を閉じた。
「この仕事に追加の保安要件があり、ヴェルドラコン帝国の軍事機関が関わっていると理解したうえで、それでも契約協議へ進む意思はおありですか?」
俺はすぐには答えなかった。
代わりにランへ顔を向ける。
「どう思う?」
「受諾を判断するには、まだ情報が足りません。ただし、最終書類に署名するまで輸送義務が発生しないのであれば、次の契約審査に出席すること自体は合理的だと思います」
俺はヴェスペラを見た。
「お前は?」
「まずは航路、積み込み地点、配送先、そして作戦区域の境界を確認したいです。軍事施設が関わるのであれば、識別手順と、許可された代替航路についても知る必要があります」
続いて、セラフィエルが口を開いた。
「艦の運用面から見ても、現時点で初期審査を拒否する理由は見当たりません。ただし、実際に輸送可能かどうかは、貨物の寸法、質量、特性、保管条件に関するデータを受領してからでなければ算定できません」
俺は頷いた。
「俺もだいたい同じ考えだ」
コルヴェスは俺たちのやり取りを見守っていた。
俺は改めて彼に向き直る。
「コルヴェスさん、提案内容の協議を次の段階へ進めることには同意します。ただし、輸送業務を受諾したわけではありません。貨物に関する義務もまだ負いませんし、範囲が説明されていない検査についても、承認したことにはしないでください」
「承知しました」
「それから、重要な条件はすべて書面で提示してもらいたいです。特に貨物に関する責任、兵装使用の制限、緊急事態が発生した場合の航路変更については」
「ご要望として記録いたします」
ランが付け加えた。
「基本報酬、追加インセンティブ、技術調達権、Bランク評価手続きの四つも、明確に分けてください。艦長が会議に出席しただけで、それらすべての権利が一括して自動的に発生するような扱いは認められません」
コルヴェスが頷く。
「その区分についても、初期審査記録に明記いたします」
俺は微笑んだ。
「それなら、先へ進めましょう」
会議室のメインスクリーンが切り替わった。
傭兵協会の紋章が左側へ移動する。
その隣に、軍事物流機関の正式な紋章が現れた。
TALARIS STRATEGIC LOGISTICS OFFICE
コルヴェスが立ち上がった。
「星崎艦長。次の審査段階へ進むことにご同意いただきましたので、オルセリオンを経由して送付された提案の正式な発信元を開示する許可が下りました」
軌道施設の構造図が表示される。
軍用艦船の係留区域、重量貨物の積み込み施設、コンテナ搬送路、そして複数の立入制限区域から構成された施設だった。
TALARIS MILITARY LOGISTICS ANCHORAGE
俺は投影図を見つめた。
その施設は、オルセリオンの招待状を初めて読んだときに想像していたものより、はるかに大規模だった。
ヴェスペラはすぐに進入航路へ目を向けた。
ランは機関の名称を読み込んでいる。
セラフィエルは、公開を許可された施設情報とアストレオン・ヴェロリアの運用要件を、静かに照合し始めていた。
コルヴェスが説明を続ける。
「今回の提案は、タラリスの軍事施設から、帝国の配送網に属する辺境物流デポまで、戦略物流貨物を輸送する業務に関するものです」
俺は眉を上げた。
「つまり、最終目的地はオルセリオンじゃないんですね?」
「はい。オルセリオンは、初期審査と事務協議を行う場所にすぎません。すべての段階で承認が得られた場合、積み込みはタラリスの施設を通じて行われます」
俺は地図を見た。
ということは、単に一つの埠頭から別の埠頭へコンテナを運ぶような仕事ではない。
まず、オルセリオンで審査を受ける。
次に、実際の軍事施設を訪れる。
貨物を受け取る。
引き渡しの管理手順を確認する。
そのうえで、目的地のデポへ向けて航行するわけだ。
普通の傭兵向け求人掲示板に、最初から契約書を載せなかった理由が少し分かってきた。
「貨物の規模はどのくらいですか?」
「積載量と貨物特性の詳細は、次の契約審査書類に含まれています」
「報酬は?」
コルヴェスはしばらく俺を見た。
それから、まだ閲覧制限のかかった提案概要を表示した。
「概算提示額は五百万GCを超えています。正式な金額と支払い条件については、契約審査室での次回協議にて、完全な書類とともに提示されます」
俺は黙った。
五百万GC以上。
最終的な金額が分からなくても、この話を聞いたレアがどんな顔をするかは簡単に想像できる。
しかし、ランはまったく冷静さを失っていなかった。
むしろ、真っ先にこう尋ねた。
「その概算額は、総額ですね?」
「はい」
「まだ受領済みの収入としては扱えませんね?」
「そのとおりです」
「そして、双方が承認した最終契約も、まだ存在していませんね?」
「はい。まだです」
ランが俺を見た。
「紬」
俺は頷いた。
「分かってる。まだ受け取ってない金は計算に入れない」
コルヴェスが小さく微笑んだ。
「次の審査は、なかなか興味深いものになりそうですね」
初期審査の書類に、出席と情報受領の確認という範囲に限って署名したあと、俺たちは会議室を出た。
外ではネリス・タルヴェンが待っていた。
「星崎艦長、次回の日程は端末へ送信済みです。契約審査室はオルセリオンの特別管理施設内にございます。入館経路と訪問者の本人確認に関する案内も添付しております」
「ありがとうございます、タルヴェンさん」
「どういたしまして」
彼女は続いてランへ顔を向けた。
「ヴァレスさん、会議開始前に事務手続きについてご質問がございましたら、招待状に記載された正式な連絡経路からお送りください」
「分かりました。利用させていただきます」
ネリスが微笑んだ。
「きっと、たくさんご質問がおありだろうと思っていました」
俺は小さく笑った。
ランは落ち着いた笑顔を返しただけだった。
交通ターミナルへ向かって歩きながら、ヴェスペラがオルセリオンの地図を開いた。
「紬、明日の審査施設までの移動に、軍事区域へのアクセスは必要ありません。許可を受けた訪問者が利用できる管理区域内の経路です」
「よし」
俺は通路の窓から外の景色を眺めた。
商船が何隻も、港の構造物の間をゆっくりと移動している。その反対側では、小型の物流車両がコンテナを配送プラットフォームへ運んでいた。
オルセリオンは、相変わらず忙しく仕事を続けている。
一人のCランク傭兵の艦長が、皇帝の指示に基づく物流契約の可能性について、つい先ほど説明を受けたことなど、誰も知らないように見えた。
そして俺としては、その方がありがたかった。
アストレオン・ヴェロリアへ戻ると、艦内到着ターミナル近くのラウンジで、レアが待ち構えていた。
「紬!」
俺は足を止めた。
「どうしてここで待ってるんだ?」
「カリスタが、みんなもう帰ってくるって言ったから! 会議はどうだった!?」
「なかなか興味深かったぞ」
「新しい仕事、取れた!?」
「まだだ」
レアの狐耳が、たちまち垂れ下がった。
「えぇ……」
「今日は説明を受けて、次の契約審査への招待をもらっただけだよ」
「あっ。じゃあ、まだ続きがあるんだね!」
俺は頷いた。
「そういうことだ」
少し遅れて、カリスタもやってきた。
「条件はどうだった?」
ランが答える。
「通常の護衛契約より複雑です。夕食後のクルー会議で詳しく説明します」
「そもそも、何の仕事なんだい?」
俺は端末を開き、提案元の機関名を見せた。
カリスタが書類を読む。
そして、動きを止めた。
「……タラリス戦略物流局?」
「ああ」
「ヴェルドラコンの軍事物流機関かい?」
「そうだ」
カリスタが俺を見つめた。
「紬、ギルドの事務所へ行って、帝国軍からの仕事の可能性を持って帰ってきたのかい?」
俺は両手を上げた。
「まだ契約は何も持ち帰ってないからな」
レアが近づいてきた。
「軍事関係? じゃあ、モビルフレームもある!?」
ランがすぐに割って入る。
「貨物の中身を勝手に想像し始めないでください。まだマニフェストすら受け取っていません」
「聞いただけだよ!」
セラフィエルが微笑んだ。
「レア、あなたが興味を持ちそうな情報はほかにもありますよ。ただし、夕食後に皆さんと一緒にお話ししましょう」
俺はすぐにセラフィエルへ顔を向けた。
彼女は、実に穏やかな笑顔で俺の視線を受け止めた。
……なんだか、わざと言っているような気がしてきた。
その夜のクルー会議は、グランドサロンで開かれた。
それほど堅苦しい会議ではなかったが、主要クルーは全員出席している。
ランがオルセリオンでの初期審査の概要を表示した。
俺は、コルヴェスから説明されたとおり、評判、契約遂行実績、正式ランクの違いについて話した。
続いて、ヴェルドラコン中央ギルドからBランク評価への参加資格を付与されたことを伝える。
「じゃあ、もうBランクになったの!?」とレア。
「まだだ」
「でも、上がれるんでしょ!?」
「評価手続きに参加する資格をもらったんだよ。結果はまだ決まってない」
カリスタが頷いた。
「その方が筋は通ってるね。誰かが推薦状を送っただけで昇格できるなら、ギルドの制度なんて滅茶苦茶になるよ」
「そういうことだ」
俺は続いて、ヴェイリエンヌ家からの推薦について説明した。
オーレリアの名前が出ると、ヴェスペラが微笑んだ。
「オーレリアのご家族は、今でも紬の助力を覚えていてくださるようですね」
「そうみたいだな。推薦が中央ギルドにまで届いてるとは思わなかったよ」
ランが付け加える。
「その書類は検証の助けにはなりましたが、正式な要件に代わるものではありません」
俺は頷いた。
そして、ヴェルドラコン皇帝の指示と、戦略物流案件について説明を続けた。
今度は、レアもすぐには口を挟まなかった。
カリスタもかなり真剣な顔になっている。
「つまり、帝国側が独立した輸送事業者を探しているわけか」
彼女が呟いた。
「そうだ。ただ、理由も条件も、まだ全部は分かってない」
「だったら、艦の検査も相当面倒な話になるかもしれないね」
「だから、今のうちにみんなにも状況を知っておいてほしいんだ」
セラフィエルが次の付属資料を表示した。
ヴェルドラコン軍事技術――調達アクセス権付与の可能性
レアは最初の数行を読んだ。
そして、一番下の項目で視線を止める。
彼女が口を開くより先に、その表情が変わったのが分かった。
「……モビルフレーム」
俺はため息をついた。
「レア」
「最新モデル」
「レア」
「紬っ!!」
彼女はソファから飛び上がりそうになった。
「帝国軍の最新型モビルフレームが買えるようになるの!?」
カリスタも、すぐに画面へ注意を奪われた。
「待ちな。エンジンと推進システムの設計図もあるのかい? レーダー? 艦載兵装システムまで?」
俺は二人を交互に見た。
「二人とも、まず俺の説明を聞いてくれ」
ランがすぐに制限事項の記載を拡大した。
「これは、あくまで調達アクセス権が与えられる可能性を示したものです。無料の贈り物ではありませんし、審査なしでカタログの商品をすべて購入できる許可でもありません。現時点では、まだ権利自体が有効になっていません」
レアがゆっくりと座り直した。
「……まだ買えないの?」
「まだです」とラン。
カリスタは顎を撫でた。
「でも、手続きが終わって本当にアクセス権をもらえるなら、かなり大きな機会だね。正式なカタログに載っている製品の仕様を調べられるだけでも面白いよ」
セラフィエルが頷いた。
「ただし、有用性とライセンス上の制限を評価する必要はあります。軍用の設計が、すべてアストレオン・ヴェロリアのシステムへの統合に適しているとは限りませんから」
俺は小さく微笑んだ。
少なくとも、これが普通の仕事ではないことは、みんなにも伝わり始めたようだ。
会議の終盤、ランが暫定的な決定事項を表示した。
INTERNAL REVIEW — ORTHELLION
| 検討項目 | 暫定決定 |
| -------- | ------------------------ |
| タラリス物流案件 | 書類審査の次段階へ進む |
| 契約受諾 | 未承認 |
| Bランク評価 | 参加資格の付与を確認済み。実施については別途検討 |
| 技術調達アクセス | 正式な条件の提示待ち |
| 艦の検査 | 審査範囲の説明を受けたあとにのみ検討 |
| 航法準備 | ヴェスペラが施設と許可航路を調査 |
| 技術準備 | セラフィエルとカリスタが関連する適格性資料を準備 |
| 最終決定 | クルー会議と契約審査を経たうえで、紬が判断 |
俺は報告書を確認した。
「よし。今の段階では、最初の招待状だけを根拠に艦の構成を大きく変えたりしないようにしよう」
カリスタが頷く。
「積荷の要件が分かるまでは、格納庫の装備を動かさないよ」
「レア、訓練は通常の日程どおりにしてくれ」
「はぁい……」
「それから、最新型モビルフレームの買い物リストを作り始めるなよ」
レアの動きが止まった。
俺は目を細める。
「……今、作ってたな?」
「まだだよ!」
ランがレアの端末をちらりと見た。
「今開いた書類のタイトルは、『オルセリオンで見てみたいモビルフレーム一覧』となっていますが」
「見るだけのリストだもん!」
カリスタが吹き出した。
俺は数秒ほどレアを見つめていたが、結局、自分も笑ってしまった。
「分かった、分かった。少なくとも、まだ注文は送ってないみたいだしな」
夜も更けた頃、俺は指揮デッキへ戻った。
アストレオン・ヴェロリアは、今もオルセリオン独立港に安全に係留されている。
メインスクリーン越しには、配送航路へ向かって進む貨物船の列が見えた。
軌道施設の明かりが、それらの船体表面に反射している。
遠くでは、産業ターミナルを出たばかりの輸送船に、一隻の護衛艦が随伴していた。
その景色のすべてが、決して完全には止まることのない巨大な物流システムの一部に見えた。
セラフィエルが温かい飲み物を持ってやってきた。
「紬、まだお休みにならないのですか?」
「もう少ししたらな」
彼女は俺の椅子の近くに飲み物を置いた。
「タラリスの提案について考えていたのですか?」
俺は頷いた。
「ヴェルドラコン皇帝の名前が出てきたことには、まだちょっと驚いてるよ」
「無理もありません」
「それに、オーレリアの家族からの推薦も……。今でも俺たちのことを覚えていてくれるのは嬉しいけど、その関係があるからって、契約の危険性を見落としたくはないんだ」
セラフィエルは俺の隣に座った。
「その必要はありませんよ。推薦によって機会が開かれることはあっても、仕事そのものは、実際の条件に基づいて評価すればよいのですから」
俺は微笑んだ。
「俺もそう思ってた」
彼女は続いて、明日の予定を開いた。
ORTHELLION — CONTRACT REVIEW CHAMBER
議題: 戦略物流輸送案件 担当機関: タラリス戦略物流局 状態: 初期審査・交渉
俺はその書類を見た。
「明日になれば、ようやく正式な金額も分かるんだな?」
「はい。貨物、配送先、保安要件、艦の適格性審査に関する初期情報も、併せて提示される予定です」
「ランがあまり問題を見つけないといいんだけどな」
セラフィエルが微笑んだ。
「私はむしろ、紬が何かに署名する前に、彼女が重要な問題を一つ残らず見つけてくれることを願っています」
俺は小さく笑った。
「……それもそうだな」
飲み物を手に取り、もう一度港を眺める。
俺たちは今も、ヴェルドラコン帝国の支配する銀河領域にいる。
それでも、傭兵の仕事を受け、さまざまな惑星に立ち寄り、クルーと一緒に生活を楽しむだけだったはずの旅は、少しずつ、はるかに大きな組織との関わりを生み始めていた。
公爵家。
中央ギルド。
そして今度は、皇帝の指示に基づいて動く軍事物流ネットワークだ。
だが、アストレオン・ヴェロリアは、今も俺の艦だ。
大きな報酬や、魅力的な技術を購入できる権利を提示されたからといって、俺たちの旅の自由を手放すつもりはない。
この仕事が本当に引き受ける価値のあるものなら、すべての結果を理解したうえで受諾したい。
焦ったからでもなく。
恩義を感じたからでもなく。
ましてや、レアが最新型モビルフレームを見たがっているからでもない。
「セラフィエル」
「はい、紬?」
「明日受け取る書類は、ランが全部しっかり確認できるようにしてくれ」
「もちろんです」
「俺たちに何を、どこへ、どれほどの責任を負って運ばせようとしているのか。そこを正確に知りたい」
セラフィエルは優しく頷いた。
「承知しました」
俺は微笑み、カップを持ち上げた。
窓の向こうでは、オルセリオンの交通が絶え間なく動き続けている。
その一方、艦内では、今回の旅でこれまで提示された中でも最大規模の仕事に向けて、俺たちの準備が始まろうとしていた。
【次回・第142話】
「八百四十万GCの契約」
840万GCの契約――紬はタラリス戦略物流局との正式な会議に出席し、契約C-142-LGの初期詳細を受け取る。辺境の物流デポへ大量の軍事物流貨物を輸送する案件で、提示される概算報酬は8,400,000GC。しかし、その破格の金額には、輸送能力、保安審査、マニフェスト、保険、配送責任に関する厳格な要件が伴っていた。到底、安易に承諾できる内容ではなかった。




