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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第139話】「契約完了、次の請求」

【第139話】「契約完了、次の請求」



ヴェルドラコン出発から十九日目――カーヴォス現地時間・朝から夜 場所:ドラウヴェル鉱業星系――惑星カーヴォス、軌道工業港 視点:星崎紬


「紬、動かないでください」


「……いや、俺はまだ何もしてないんだが」


「だからこそ、そのままでいてほしいんです」


カリスタはモビルフレームの整備用プラットフォームに立ち、片手に端末を持っていた。


俺は下から彼女を見上げる。


目の前では、俺専用の試作型モビルフレームが点検姿勢を取っていた。腕部の装甲パネルがいくつか開放され、内部フレームと駆動システムが露出している。


少し離れた場所では、レアのヴァルキリーも整備を受けていた。


俺の機体とは違い、ヴァルキリーの外装には、はっきりと分かる被弾痕がいくつか残っている。


その一つは、昨日交戦した重量型モビルフレームの砲弾によるものだった。


「俺は点検結果を見たいだけなんだけどな」


「それなら、お渡しした端末で確認できます。整備装置が動いている最中に、わざわざプラットフォームへ上がる必要はありません」


俺は手元の端末を見た。


「……分かったよ」


カリスタは満足そうに頷いた。


「よろしい」


隣に立っていたレアが、すぐに笑い出す。


「紬、怒られてる!」


俺は振り向いた。


「お前も十分前に怒られてただろ」


「それは別!」


プラットフォームの上から、カリスタが口を挟んだ。


「レア、ヴァルキリーの損傷について説明している最中に、また落ち着きなく動き回るなら、あんたの予定に手作業の点検訓練を追加するよ」


レアは即座に背筋を伸ばした。


「了解!」


俺は笑った。


どうやらカーヴォスの朝は、いつもと変わらない賑やかな雰囲気で始まったらしい。


ただし、今回は実戦を終えたばかりのモビルフレームが二機も点検を必要としている。


そのうちの一機は、長い間ほとんど出番のなかった俺の専用機だった。


俺は端末で機体状態報告を開いた。


アストレオン・ヴェロリア――作戦後モビルフレーム点検


| 点検項目 | ヴァルキリー――レア | 専用試作機――紬 |

| ------ | --------------- | ---------------- |

| 主要構造 | 正常 | 正常 |

| 外装 | 被弾および破片による軽微な損傷 | 擦過傷および運用時の負荷痕 |

| 駆動システム | 作動可能・追加点検が必要 | 作動可能・追加調整が必要 |

| 操縦システム | 正常 | ニューラル・インターフェース正常 |

| 兵装 | 戦闘後点検 | ライフルおよび剣の接続部を点検 |

| 状態 | 整備中 | 整備中 |


「つまり、大きな損傷はなかったのか?」


俺が尋ねると、カリスタはプラットフォームから降りてきた。


「現時点では、重大な構造損傷は見つかっていません。ただし、それは高負荷を受けた部品の点検を省略していいという意味ではありませんよ」


彼女は俺の試作機の腕部を指さした。


「昨日の剣の動きは、なかなか興味深かったですね」


俺は眉を上げる。


「いい意味で?」


「駆動システムが、極めて急激な運動量の変化に対応しなければならなかった、という意味です」


「ああ……」


「その機体があなたの動作に応答するよう設計されているのは承知しています。ですが、今後もっと頻繁に使用するつもりなら、十分な実運用データが必要です」


レアがすぐに近づいてきた。


「じゃあ、紬はまた使っていいってこと!?」


カリスタは彼女を見つめた。


「どうしてあんたは、いつも真っ先にそういう結論になるんだい?」


「だって、一緒に訓練したいんだもん!」


俺はため息をついた。


「レア、昨日は実戦を終えたばかりだぞ」


「だからこそだよ! 私、紬の動きを見たんだから!」


彼女は突然両手を持ち上げ、剣を抜く人間の動きを真似し始めた。


「こう、横に動いて、それから――シュバッ! って、相手の武器を一瞬で斬っちゃったんだよ!」


俺はしばらく彼女を見つめた。


「……お前、アニメの場面を説明してるみたいだな」


「だって、アニメみたいに格好よかったんだもん!」


カリスタが首を振る。


「どれだけ格好よかろうが関係ないね。訓練したいなら、両方の機体の整備が終わるまで待ちな」


「はーい!」


そう答えたレアは、少し間を置いてから付け加えた。


「じゃあ、明日?」


「レア!」


俺は笑った。


格納庫の扉が開いた。


セラフィエルが落ち着いた足取りで入ってくる。


今日は簡素な作業着姿だったが、それでも彼女の優雅な雰囲気は変わらない。


実体を持つ身体でこちらへ歩いてくる一方、アストレオン・ヴェロリアとの運用接続を通じて、艦の監視も継続していた。


「皆さん、おはようございます」


「おはよう、セラフィエル」


彼女は点検中の二機へ目を向けた。


「カリスタ、初期検査の結果はいかがですか?」


「大きな損傷はありません。ただ、両機を完全な作戦運用可能状態に戻す前に、まだ確認が必要な部品があります」


「承知しました。検証が完了するまで、整備中の状態を維持します」


レアが手を上げた。


「セラフィエル!」


「はい、レア?」


「あとでヴァルキリーと紬のモビルフレームで、剣の模擬戦シミュレーションを作ってくれない?」


セラフィエルは微笑んだ。


「可能です。ただし、訓練設定はそれぞれの機体性能に合わせる必要があります。紬の試作機の最大性能を、そのまま模倣するわけにはいきません」


「どうして?」


俺は振り向いた。


「ヴァルキリーがまた修理送りになるような動きを、お前に試してほしくないからだよ」


レアが頬を膨らませる。


「無茶なんてしないもん!」


カリスタが即座に応じた。


「よし。その約束は記録しておくよ」


セラフィエルが小さく笑った。


それから、再び俺へ視線を向ける。


「紬、ドラウヴェル鉱業協同組合から、契約C-136-MNの回収対象に関する検査および引き渡しの日程が確定したとの連絡がありました」


俺はすぐに意識を切り替えた。


「いつだ?」


「今朝です。検証チームが、カーヴォス軌道工業港に検査施設を用意しています」


「それなら、そろそろ準備しないとな」


カリスタが頷く。


「完成済みの技術報告書を持っていってください。整備費用の詳細は、部品の点検が終わってから追って提出します」


俺は微笑んだ。


「分かった。ありがとう」


立ち去ろうとしたところで、レアが突然俺の腕を掴んだ。


「紬」


「ん?」


「この仕事が終わったら、専用機にもう一本剣を買うの?」


俺は彼女を見つめた。


「どうして剣をもう一本買う必要があるんだ?」


「訓練用!」


「今ある剣の整備すら終わってないだろ」


「……それもそうだね」


俺は彼女の頭を軽く撫でた。


「まずは飯だ。そのあとなら、引き渡しにも一緒に来ていいぞ」


狐耳がぴんっと立つ。


「うん!」


ドラウヴェル鉱業協同組合の検証室は、工業港の管理施設内にあった。


通路の窓からは、重量コンテナを忙しなく移動させる複数の搬送プラットフォームが見える。


大型の産業用宇宙船が、次々と出入りしていた。


アストレオン・ヴェロリアの存在を、特別気にしている様子の者はいない。


それは、なかなかありがたいことだった。


俺としては、自分の艦が港全体の注目を集めるより、普通の訪問船として扱われる方がずっと気楽だ。


隣を歩くランの手には、契約書類、支出記録、そして昨日の作戦報告をまとめた端末があった。


セラフィエルとレアも俺たちについてきている。


一方、ヴェスペラは航行記録に基づくK-17の地図更新を完了させるため艦に残り、カリスタはモビルフレームの点検を続けていた。


「ラン、証拠資料は全部揃ってるか?」


「はい。識別証拠、回収作業の記録、対象物の初期状態に関する資料、そして所属不明のモビルフレーム三機による襲撃報告は、それぞれ分類してあります」


「よし」


「また、MCV-01の防衛装置の使用についても、攻撃開始後、回収チームの退避経路を保護するために実施した限定的な防衛行動として記録済みです」


俺は頷いた。


「こっちが軍艦を使って採掘施設を攻撃したみたいな報告にはしないでくれよ」


ランは薄く微笑んだ。


「もちろんです。レアの劇的な描写ではなく、検証可能な時系列を使用していますので」


レアが勢いよく振り向いた。


「えっ!?」


「あなたの最初の報告には、『紬が驚異的な動きで剣を抜き、一瞬で相手を倒した』と書かれていました」


俺は足を止めた。


「レア……」


「だって、本当のことでしょ!」


セラフィエルが口元を押さえ、小さく笑っている。


ランは説明を続けた。


「正式書類では、『近接防衛行動により、相手機の兵装装置を無力化した』に変更しています」


俺は満足そうに頷いた。


「そっちの方がずっといいな」


レアは不満そうだった。


「全然格好よく聞こえない……」


「契約報告書だぞ。アニメのあらすじじゃないんだから」


「紬!」


俺たちが検査室へ入ると、ギャリック・ヴェルドはすでに待っていた。


彼の隣には、ドラウヴェル鉱業協同組合の技術担当者が二人立っている。


その背後には、透明なパネルで仕切られた検証区画があった。


俺たちが回収したデータコンテナと調査機器は、正式な保全手順に従って、すでにそこへ搬入されている。


「おはようございます、星崎艦長」


「おはようございます、ギャリックさん」


俺たちは握手を交わした。


それから、彼はレアへ視線を向けた。


「昨日の作戦でのご協力についても、お礼を申し上げたい。現地チームからは、全員が安全地点へ到達するまで撤収経路を守っていただいたと報告を受けています」


レアは即座に背筋を伸ばした。


「私は自分の任務を果たしただけです!」


俺はちらりと彼女を見る。


ここまで改まった受け答えをするのは、なかなか珍しい。


ギャリックは微笑んだ。


「それでも、我々は感謝しています」


そう言って、俺たちに着席を勧めた。


「支払いについてお話しする前に、まずは引き渡していただいた物品の初期検証結果をお見せしたいと思います」


セラフィエルが、こちらの記録の複製を起動する。


「照合の準備はできています」


検査は、かなり綿密に進められた。


協同組合の担当者は、コンテナの識別番号、封印の状態、調査機器の記録、そして作戦中に作成された資料を一つずつ確認していく。


いくつかの部品には古い擦過傷があった。


一つの装置については、追加の技術検査も必要らしい。


ただし、それらが自動的に俺たちの取り扱いによる損傷と判断されるわけではなかった。


セラフィエルは、対象物をK-17の搬送室から移動させる前の状態を映像として保存していたからだ。


ギャリックは、並べて表示された二つの記録を見比べた。


「つまり、この表面損傷は、皆さんが吊り上げ作業を行う前から確認されていたのですね?」


「はい。撮影時刻とセンサー位置は、原本の記録に残されています」


セラフィエルが答える。


技術担当者も頷いた。


「こちらの初期検査結果とも一致しています」


ランがすぐに口を開いた。


「それでしたら、その初期状態を正式な検査記録にも明記していただきたいと思います。追加検査に異議はありませんが、損傷の責任は証拠に基づいて判断されるべきです」


「もちろんです、ヴァレスさん」


ギャリックが答えた。


俺はそのやり取りを眺めながら考える。


こういう部分は、冒険物語ではあまり描かれない傭兵の仕事だろう。


戦闘が終わったからといって、その場で報酬を受け取り、すぐに立ち去れるわけではない。


物品の検査。


証拠の照合。


責任範囲の確定。


そして、施設の損傷を突然すべて俺たちのせいにされないよう、誰かがきちんと確認しなければならない。


幸い、俺にはランがいる。


およそ一時間後、識別検査が完了した。


ギャリックが結果を表示する。


ドラウヴェル鉱業協同組合――回収対象検証結果


| 検査対象 | 結果 |

| ----------- | ------------ |

| 主要データコンテナ | 識別確認完了 |

| 契約記載の調査機器 | 受領・照合完了 |

| 初期状態の記録 | 受領 |

| 保全作業の証拠資料 | 受領 |

| モビルフレーム交戦報告 | 補足資料として受領 |

| 追加技術検査 | 協同組合の手順に従い記録 |


ギャリックは長く息を吐いた。


「これをもって、契約C-136-MNの主要対象物が、所定の手順に従って無事に回収・引き渡しされたことを確認いたします」


俺は微笑んだ。


「よかった」


レアがすぐに拳を握る。


「やった!」


ランが彼女を見た。


「レア、まだ正式な会議中ですよ」


「あっ」


狐耳の少女は慌てて手を下ろした。


俺は笑いを堪える。


しかし、ギャリックの方は微笑んでいた。


「構いませんよ。私もほっとしていますから」


それから、彼は俺へ向き直った。


「星崎艦長。皆さんを襲撃した所属不明のモビルフレーム三機については、産業保安部門へ初期報告を提出しました」


俺は頷いた。


「身元は判明しましたか?」


「まだ最終的な確認は取れていません。映像記録を、産業用機体の登録一覧や入出域記録と照合しているところです」


「分かりました」


「また、今回の作戦での皆さんの行動を根拠として、カーヴォスのインフラ全体に対する攻撃があったと結論づけることはできない、という点も明確にしておきたいと思います。確認された事件は、作戦区域と直接被害を受けた施設に限定されます」


俺は満足して頷いた。


「こちらも同じ認識です」


セラフィエルも付け加える。


「惑星当局や特定の政府組織に対する、より広範な疑惑を裏付ける証拠も、現時点ではありません」


「慎重なご対応に感謝します」


俺は椅子に背を預けた。


少なくとも、昨日の事件を政治的な対立へと無理に発展させようとする者はいないらしい。


俺たちは、ただ回収作業を完了させたかっただけだ。


そして今のところ、その目的は達成できている。


続いて話題は、ランが最も待ち望んでいた部分へ移った。


支払いだ。


ギャリックが契約精算書を開く。


「C-136-MNの基本報酬、額面七十八万GCについては、支払いが承認されました」


ランは即座に取引明細へ目を向けた。


「以前の書類に記載されていない控除や追加義務はありますか?」


「一方的な変更はありません。支払い明細は、合意済みの条件に従っています」


「結構です。追加報酬についてはいかがでしょうか?」


ギャリックが別の条項を表示する。


「引き渡し証拠については、初期の事務審査を通過しています。ただし、追加報酬の支払いは、契約条項に基づく全機器の状態確認が条件となります。検査が完了し、正式に承認されるまでは、追加の支払いを確定することはできません」


ランが頷いた。


「承知しました。つまり、基本報酬と追加報酬は別々の状態として記録する必要がありますね」


「そのとおりです」


俺は書類を見た。


「問題ありません。大きく見えても、実際には承認されていない数字より、明確な支払いの方がありがたいですから」


ギャリックは微笑んだ。


「良いお考えです、艦長」


それから間もなく、ランの端末に通知が届いた。


――ピコン。


彼女はすぐに送金元の識別情報、取引コード、入金額を確認する。


少しして、頷いた。


「紬、基本報酬の着金を確認しました。照合も完了しています」


俺は微笑んだ。


「よし」


C-136-MN――支払い状況


| 項目 | 状態 |

| ------- | ---------------- |

| 基本報酬・額面 | 780,000 GC――受領済み |

| 追加報酬 | 最終検証および承認待ち |

| 運用経費 | 精算・照合中 |

| 契約の純利益 | 未確定 |

| 主要業務の状態 | 完了。追加報酬の事務処理は継続中 |


レアがすぐに身を乗り出した。


「七十八万GC!」


俺はちらりと彼女を見る。


「あまり興奮するなよ」


「でも、すごい金額だよ!」


「そうだな。ただし、今回の仕事にかかった経費は、まだ計算しなきゃならない」


ランが頷く。


「まったくそのとおりです」


レアは俺たち二人を交互に見た。


「……どうしてお金の話になると、二人ともいつも同じこと言うの?」


俺は小さく笑った。


「先生が優秀だからじゃないか?」


ランが静かに笑った。


会議が終わる前に、ギャリックがもう数分だけ時間をほしいと申し出た。


彼はコンテナ内で発見されたデータの索引を表示する。


「星崎艦長、もう一点、お伝えしておきたいことがあります」


俺は顔を上げた。


「コンテナ内のデータについてですか?」


「はい」


画面に、いくつかの輸送記録が表示された。


ただし、情報の全容が公開されているわけではない。


一般的な分類と、初期検査に関係する部分だけだ。


「調査データに加え、このコンテナには、複数の独立港を経由した貨物移動の参照記録が保存されていました」


ランが腕を組んだ。


「その情報は、コンテナが行方不明になった理由と関係しているのでしょうか?」


「まだ断定できません」


ギャリックの表情は真剣だった。


「ですが、武装したモビルフレーム三機がその物品を奪おうとした事実を考えると、内部データが第三者にとって価値を持つ可能性を無視することはできません」


俺は画面を見つめた。


「特定の政府が関与している証拠は見つかったんですか?」


「いいえ」


その返答は明確だった。


「現時点で確認できるのは、複数の独立施設を経由した貨物移動に関する参照情報だけです。それだけでは、誰がその輸送を管理していたのか証明できません。まして、特定の政府や地域当局を非難する根拠にはなりません」


俺は頷いた。


「それでいいと思います。証明できていないことを、勝手に結論づけるべきじゃありませんから」


セラフィエルが薄く微笑む。


「こちらも、契約上のアクセス権限に含まれる資料のみを保管します。コンテナの主要データは、引き続き正当な所有者の管理下に置かれます」


「もちろんです」


続いて、ランが尋ねた。


「C-136-MNに基づき、私たちのチームに追加調査の義務が発生することはありますか?」


ギャリックは首を振った。


「ありません。皆さんの回収任務は完了しています。協同組合が新たな協力を必要とする場合は、別契約として正式な手順で依頼します」


俺はすぐに頷いた。


「それなら、認識は一致していますね」


よし。


貨物回収の仕事を一件引き受けたら、いつの間にか追加契約もなしに、星系間輸送網の調査まで義務づけられていた――なんて事態は御免だ。


まして、正体不明のモビルフレーム三機が、あそこまでしてコンテナを奪おうとしたのを見たあとではなおさらだった。


会議室を出ると、レアが大きく息を吐いた。


「やっと終わったぁ!」


俺は振り向く。


「退屈だったか?」


「ちょっとだけ」


ランが微笑んだ。


「事務処理も傭兵の仕事の一部ですよ」


「分かってるよ。でも、座って数字の話を聞くより、身体を動かす方が好きなんだもん!」


「だからこそ、それぞれの得意分野に合わせて役割を分担してるんだろ」


俺が答えると、セラフィエルが小さく笑った。


俺たちは構内交通ターミナルへ向かって歩き始めた。


そこで俺は、アストレオン・ヴェロリアとの通信を開く。


「カリスタ、二機の点検はどうだ?」


すぐに彼女の声が聞こえた。


『もう少しで終わるよ。あんたの専用試作機については、剣の接続部に致命的な損傷がないことを確認した。ただ、いくつか再調整が必要な部品はあるね』


「ヴァルキリーは?」


『外装の修理と、一部部品の交換が必要だ。主要システムは問題ないよ』


レアがすぐに端末へ顔を近づけた。


「カリスタ! 修理代、高い!?」


一瞬の沈黙。


そして――


『今になって費用を気にし始めたのかい?』


「だって、ランが絶対計算するでしょ!」


俺は笑った。


ランは落ち着いた声で答える。


「もちろん計算します。ただし、承認済みの業務によって発生した修理費用が、自動的にレア個人の借金になるわけではありません。適切に評価し、運用経費として記録すべきものです」


レアは見るからに安堵した。


「よかったぁ!」


俺は首を振った。


「だからって、ヴァルキリーを無茶に使っていい理由にはならないぞ」


「分かってる!」


すぐにカリスタが割り込んだ。


『よし。なら戻ってきたら、損傷したパネルの点検を手伝っておくれ』


「えっ!?」


「お前の機体だろ、レア」


「……はーい」


俺たちがアストレオン・ヴェロリアへ戻ったのは、夕方近くだった。


各自の仕事が一段落すると、ランから個人管理室へ来てほしいと頼まれた。


そこにはセラフィエルもいた。


机の上には、財務報告書の投影画面が開かれている。


俺は温かい飲み物を手に、椅子へ腰を下ろした。


「何か問題でもあったか?」


「いいえ。ただ、今回完了した契約の収支について、紬に正しく把握していただきたいだけです」


俺は微笑んだ。


「こういう会議があるだろうとは思ってたよ」


ランは俺の向かいに座る。


「結構です。では、始めましょう」


彼女がC-136-MNの報告書を拡大した。


アストレオン・ヴェロリア――契約収支レビュー


| 項目 | 記録状況 |

| ------------- | ---------------- |

| 基本報酬・総受領額 | 780,000 GC――確認済み |

| 完了追加報酬 | 条件付き・未入金 |

| MCV-01の使用 | 運用経費として記録 |

| モビルフレームの準備・点検 | 記録済み |

| ヴァルキリーの修理 | 費用精算中 |

| 紬専用試作機の整備 | 費用精算中 |

| 物流・支援設備 | 取引証憑に基づき記録 |

| 最終純利益 | 関連費用の精算完了待ち |


俺は報告書を眺めた。


「つまり、基本報酬はもう受け取っていても、純利益はまだ確定扱いにできないってことか?」


「そのとおりです」


ランは整備費用の欄を指さした。


「カリスタはまだ部品の検査を終えていません。実際に必要な作業が判明する前に、概算額を最終費用として計上したくはありませんので」


セラフィエルも付け加える。


「C-136-MNに直接関係する費用と、この契約へ全額を負担させるべきではない通常整備費用についても、すでに分けてあります」


俺は彼女を見た。


「それは大事だな」


「はい。一件の仕事に艦の整備費用を無差別にすべて計上して、実際以上に採算が悪く見えるようにしてはいけません。逆に、その仕事によって発生した費用を隠すことも許されません」


ランが満足そうに頷いた。


「まさにそのとおりです」


俺は微笑んだ。


「二人とも、本当によくやってくれてるな」


「ありがとうございます、紬」


続いて、ランが運用資金の残高報告を開いた。


「次に、予算の残額についてです。基本報酬の入金確認によって、運用資金の流動性は改善しました。ただし、未精算の費用、次の航行に必要な経費、艦の整備費用に備えた予備資金は維持しています」


俺は頷いた。


「まだ承認されていない追加報酬を、支出の根拠には使わないでくれ」


「もちろんです」


「それに、今回入金された金も、自動的に俺の個人資金になるわけじゃないからな」


ランは微笑んだ。


「覚えていてくださって嬉しいです」


俺は画面上の総額を見つめた。


七十八万GC。


以前、ナマリスで受けた一件の護衛契約の報酬よりも大きい。


だが今回は、二機のモビルフレームを投入し、MCV-01を運用し、武装した三機と交戦したうえ、作戦後の損傷も修理しなければならない。


ランの言いたいことが、少しずつ分かってきた。


契約掲示板に表示された数字が大きいからといって、それが最終的な成果を表しているとは限らないのだ。


「紬、もう一点あります」


ランがクルーの報酬記録を開いた。


俺はすぐに頷いた。


「一パーセントの成果配分か?」


「はい」


画面に四人の名前が表示される。


クルー報酬――承認済みの配分構成


| クルー | 契約成果配分率 |

| -------------- | ------- |

| モード・ラン・ヴァレス | 1% |

| ヴェスペラ・ノクス・オーレル | 1% |

| レア・ヴァレン | 1% |

| カリスタ・フェロ | 1% |


「以前の決定どおり、それぞれに支払われるのは、検証済みの契約純利益の一パーセントです。総額七十八万GCの一パーセントではありません」


ランが説明した。


俺は頷く。


「基本給の方はどうなってる?」


「支給体系は準備済みですが、具体的な金額については、艦の財務能力を計算したうえで、あなたの最終承認を待っている状態です。その決定が下される前に、架空の支給額を設定したり、すでに支払われたものとして扱ったりすることはありません」


「よし。そっちは別に確認したい」


「もちろんです」


セラフィエルが付け加える。


「クルーへの個人報酬は、それぞれの個人口座で記録します。食事、居住設備、艦内サービスといった基本的な福利厚生を、本人に知らせず報酬から差し引くこともありません」


俺は微笑んだ。


「それでいい。俺が望んでいたのは、そういうことだ」


ランはしばらく俺を見つめた。


それから、少しだけ柔らかい声で言った。


「この件を真剣に考えてくださって、嬉しいです。紬」


「当たり前だろ。お前たちは、ただ俺の艦で働いているだけの人間じゃないんだから」


俺は二人を見た。


「惑星に立ち寄るたびに、ちょっとした買い物をするためだけに俺の許可を求める必要なんてない。みんなには、自分のお金を自由に使えるようになってほしいんだ」


セラフィエルが温かく微笑む。


ランはわずかに頭を下げた。


「でしたら、最終的な計算も慎重に仕上げますね」


夜が近づく頃、クルー全員がグランドサロンに集まった。


レアはカリスタのヴァルキリー点検を手伝い終えたらしく、なかなか満足そうな顔をしていた。


ただし、頬には整備作業でついたらしい小さな汚れが残っている。


俺は彼女の顔を指さした。


「レア、ここに何かついてるぞ」


「ん? どこ?」


彼女は反対側の頬を擦った。


「逆だ」


「こっち?」


「もう少し上」


カリスタがため息をつく。


「ほら、こっちへおいで」


彼女は小さな布を取り、レアの頬を拭いてやった。


「モビルフレームで戦闘はできるくせに、自分の頬の汚れ一つ落とすのは難しいんだね」


「だって、自分の顔は見えないもん!」


ヴェスペラが柔らかく笑った。


俺は端末を開きながらソファに腰を下ろす。


セラフィエルが飲み物を持ってやってきた。


「紬、C-136-MNの主要業務報告は、契約完了の確認を受けて締め処理を終えました。追加報酬と最終的な費用精算については、引き続き後続の事務処理として監視しています」


「よし」


「所属不明のモビルフレーム三機に関する資料も保存済みです。産業保安部門には、関連する証拠の複製を提出しました」


俺は頷いた。


「それなら、今夜はもうK-17のことを考え続けなくてもよさそうだな」


レアが即座に顔を上げた。


「じゃあ、明日は訓練できる!?」


俺は目を閉じた。


「……どうしてお前は、いつもその話に戻るんだ?」


「だって、紬の剣の動きをもう一回見たいんだもん!」


カリスタが彼女を指さす。


「ヴァルキリーを再使用できるのは、あたしが最終点検結果に署名してからだよ」


「分かってる!」


ヴェスペラが微笑んだ。


「実は、私もその訓練には少し興味があります。昨日の紬専用モビルフレームの動きは、ほかの機体とはかなり異なっていましたから」


俺は振り向く。


「ヴェスペラまで?」


「航法担当として、あれほど高速な動作が、どのように安全な運動軌道へ変換されるのか興味があります」


セラフィエルが微笑んだ。


「明確な環境制限を設けたシミュレーションなら、私が作成できます」


レアが勢いよく拳を握った。


「ほら! みんな賛成してる!」


隣で報告書を読んでいたランが顔を上げる。


「整備予算が確保されていれば、ですが」


俺は長いため息をついた。


「……分かったよ。カリスタが二機の点検を終えたら、訓練日程について話し合おう」


「やったぁ!」


レアの尻尾が勢いよく揺れ、危うくカリスタの飲み物にぶつかりそうになった。


「レア! 気をつけな!」


「あっ! ごめん!」


俺は笑った。


本当に、いつもどおりだ。


夕食を楽しもうとした、ちょうどそのときだった。


セラフィエルが顔を上げた。


「紬」


声の調子が、少しだけ変わっていた。


俺はすぐに振り向く。


「どうした?」


「傭兵協会のネットワークを通じて、正式な通信を受信しました」


ランが手を止める。


「ドラウヴェル鉱業協同組合からですか?」


「いいえ」


セラフィエルが投影画面を起動した。


机の上に、一つの港の紋章が浮かび上がる。


その下には、送信元の情報が表示されていた。


オルセリオン独立港


俺は眉を上げた。


「オルセリオン?」


ヴェスペラが紋章を見つめる。


「独立港ですか?」


「はい。オルセリオンは交易、星系間貨物配送、産業物流、そして各種輸送船や護衛艦の運用支援を行っている港です」


ランがすぐに近づいた。


「内容は?」


セラフィエルが書類を開く。


正式な招待状が表示された。


オルセリオン独立港――正式招待状


宛先: 星崎紬 所属: アストレオン・ヴェロリア 登録区分: 傭兵協会――Cランク


件名: 高額物流契約に関する事前協議へのご招待


傭兵協会ネットワークに登録された契約遂行実績および運用能力に基づき、星崎艦長を大規模物流協力の可能性に関する事前協議へご招待いたします。


本案件は、通常のCランク業務を上回る契約価値と運用要件を有しています。詳細な条件、適格性審査および保安要件については、受信者が協議への参加意思を表明した後、正式な通信経路を通じてご案内いたします。


状態: 会議への招待――最終的な契約提示ではありません。


俺は書類を二度読んだ。


「……ほう」


レアが近づいてくる。


「新しい仕事!?」


「そうみたいだな。でも、まだ受けられる契約が提示されたわけじゃない」


ランは最後の部分を慎重に読んだ。


「現時点では、事前協議への招待にすぎません。報酬額も、最終的な積荷一覧も、運用上の承認も、まだ確定していませんね」


俺は頷いた。


「分かってる」


セラフィエルが送信元の情報を表示する。


「通信経路の識別情報とメッセージの認証は、確認可能な公式情報と一致しています。ただし、この招待状によってオルセリオンの特別施設へのアクセス権が自動的に付与されるわけではありません。到着時には、所定の手続きをすべて踏む必要があります」


「よし」


ヴェスペラが銀河地図を拡大した。


「この招待を検討するのであれば、ドラウヴェルからオルセリオンへの航路を調べ始めることもできます」


俺は椅子に背を預けた。


「まだ急がなくていい。俺たちは仕事を一つ終えたばかりだ」


レアがすぐに手を上げる。


「でも、どんな仕事なのか知りたい!」


カリスタが腕を組んだ。


「あたしは、その仕事でまたモビルフレームを修理する羽目になるのか知りたいね」


ランは薄く微笑む。


「私は、報酬とリスクが釣り合っているかを知りたいです」


ヴェスペラが柔らかく言った。


「私は、次の目的地について知りたいですね」


セラフィエルは俺を見つめた。


「そして私は、あなたが判断を下す前に、十分な情報を得られるようにしたいです」


俺はみんなを順番に見た。


そして、小さく笑った。


「本当に、それぞれ優先するものが違うな」


俺は端末を手に取り、招待状をもう一度読んだ。


高額物流契約。


通常のCランク業務を上回る案件。


アストレオン・ヴェロリアの艦長に宛てられた招待状。


だからといって、いきなり素晴らしい機会を手に入れたとは思わなかった。


むしろ逆だ。


本当に通常の仕事よりはるかに高額なのであれば、その分、条件も複雑である可能性が高い。


追加の保安審査があるかもしれない。


航路に制限が設けられるかもしれない。


あるいは、輸送に伴う責任が大きすぎて、オルセリオン側も適当な傭兵には任せられないのかもしれない。


ただ、一つ興味深いことがあった。


向こうは、俺たちがこれまでに完了した仕事の実績を見て連絡してきたのだ。


アストレオン・ヴェロリアの秘密の能力を知っているからではない。


俺が特別扱いを求めたからでもない。


俺は小さく笑った。


「ラン」


「はい、紬?」


「とりあえず、会議への参加に関心があると伝えてみるのはどうだ? それ以上の約束はしない」


ランが頷く。


「賛成です。こちらの返信が契約の受諾と見なされないことが条件ですが」


「もちろん」


「報酬額、積荷の種類、責任範囲、保安要件、そして実際にその仕事を提示する権限を持つ相手が誰なのか。これらを確認する必要があります」


「分かった」


俺はヴェスペラへ向き直った。


「オルセリオンまでの航路を調べておいてくれ。出発を決めたわけじゃないが、移動の見通しは把握しておきたい」


ヴェスペラは微笑んだ。


「承知しました、紬」


「カリスタ、まずはモビルフレームとMCV-01の点検を終わらせてくれ。整備状況が曖昧なままドラウヴェルを離れたくない」


「最初からそのつもりだよ」


レアがすぐに近づいてきた。


「じゃあ、私は――」


「カリスタを手伝ってくれ」


「……まだ最後まで言ってないんだけど」


「言いたいことは分かってる」


「紬!」


セラフィエルが小さく笑った。


俺は彼女へ視線を向ける。


「セラフィエル、正式な返信を用意してくれ。事前協議には応じる意思がある。ただし、契約を受けるかどうかは、すべての条件を確認してから決める、と」


「承知しました」


少しして、確認通知が表示された。


オルセリオン招待状――返信送信完了


状態: 事前協議への参加意思を通知済み。 新規契約: 未受諾。 今後の日程・追加条件: 正式な通知待ち。


俺は満足して頷いた。


「よし。今夜の仕事の話はここまでだ」


レアがすぐに手を上げた。


「じゃあ、ご飯!?」


俺は微笑んだ。


「ああ。飯にしよう」


「やったぁ!」


カリスタが笑いながら首を振る。


「本当に、あんたのやる気は分かりやすくて助かるよ」


夕食を終えたあと、俺は指揮デッキへ戻った。


緊急事態が起きたわけではない。


救援要請が入ったわけでもない。


休む前に、もう一度カーヴォスを眺めておきたかっただけだ。


メインスクリーンには、巨大な金属都市の網目のように輝く軌道工業施設が映し出されていた。


輸送船は決められた航路に沿って移動を続けている。


重量コンテナが、一つのプラットフォームから別のプラットフォームへと運ばれていく。


この鉱業星系の仕事が、本当の意味で止まることはないのだろう。


セラフィエルがやってきて、俺の座席の隣に立った。


「何か考え事ですか、紬?」


俺は微笑んだ。


「少しな」


「オルセリオンのことですか?」


「ああ。それと、これまでの俺たちの仕事についても」


俺はメインスクリーンに映る光の反射を眺めた。


「最初は、自分たちの能力と旅の都合に合う仕事を選んでいただけだったのにな。今じゃ、向こうから連絡してくる相手も出てきた」


セラフィエルが頷く。


「あなたの契約遂行実績は、着実に増えていますから」


「でも、俺の傭兵ランクはまだCランクだぞ」


「はい。評判と正式なランクは、必ずしも同じものではありません」


俺は小さく笑った。


「別に構わないさ。むしろ、実際に完了させた仕事で評価してもらえる方が、俺は好きだ」


セラフィエルが微笑む。


「それは、あなたの指揮方針にもよく合っていますね」


俺は彼女を見た。


「オルセリオンの招待、面白い話になると思うか?」


「現時点では、判断するための情報が十分ではありません。ただし、招待状に記載された案件の規模を考えると、普段以上に慎重な条件確認が必要だと思います」


「俺もそう思う」


彼女は少しだけ近づいた。


「どのような結果になっても、最終的な決定権はあなたにあります」


俺は微笑んだ。


「そして俺には、いい判断ができるよう支えてくれるお前たちがいる」


セラフィエルが俺の手を握った。


「もちろんです」


俺は再びメインスクリーンへ目を向けた。


外では、ドラウヴェル鉱業星系が今も忙しく産業活動を続けている。


契約C-136-MNは完了した。


基本報酬も受領済みだ。


行方不明になっていた物品は、無事に返却できた。


そして運用経費も、総受領額のすべてを利益と見なすことなく、適切に精算が進められている。


一方、オルセリオン独立港という場所では、誰かが俺たちの普段の仕事をはるかに上回る規模の案件を準備しているらしい。


俺は椅子に背を預け、軽く息を吐いた。


「……どうやら、俺たちの旅はますます面白くなりそうだな」


セラフィエルが柔らかく微笑んだ。


「私もそう思います、紬」


【次回・第140話】


「オルセリオン独立港」


アストレオン・ヴェロリアはドラウヴェルを離れ、さまざまな船舶が利用する星系間交易・物流の拠点、オルセリオン独立港へと向かう。そこで紬は、Cランク傭兵としての評判が高まることで、これまでよりはるかに大きな仕事への扉が開かれると知る。しかし、それによって特別な保安要件や審査手続きが免除されるわけではなかった。


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