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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第138話】「モビルフレーム交戦」

【第138話】「モビルフレーム交戦」



ヴェルドラコン出発から十八日目――カーヴォス現地時間・夜 場所:ドラウヴェル鉱業星系――惑星カーヴォス、閉鎖採掘区画K-17 視点:星崎紬


「紬、あの三機が接近する前に、あなた専用のモビルフレームについて、一つお伝えしておきたいことがあります」


コックピットにセラフィエルの声が響いた。


俺は戦術画面上をゆっくりと移動する三つの赤いマーカーを見つめ、それから通信パネルに視線を向ける。


「今か?」


「今だからこそ、です」


その声は相変わらず柔らかかったが、長い付き合いだ。セラフィエルが何か重要な話をしようとしていることくらい、すぐに分かった。


目の前では、俺専用の試作型モビルフレームに搭載されたニューラル・インターフェースが、K-17の環境情報を表示している。


工業用通路。


搬送室。


目標コンテナの候補。


そして、いまだ身元を明かしていない三機の武装モビルフレーム。


「あなたの機体に搭載されたインターフェースは、標準型モビルフレームの操縦システムとは異なります」


セラフィエルは説明を続けた。


「この機体は、あなたの意思を直接動作に反映できるよう設計されています。一つ一つの動作を、個別の機械的な操作命令へと置き換える必要はありません」


俺は眉を上げた。


「つまり、自分の身体を動かすような感覚か?」


「おおむね、その認識で正しいです。ただし、このシステムは、あなたが頭の中で思い描いた動作を機械的な運動軌道へ変換することもできます。もちろん、機体の物理的な性能と周囲の環境条件が許す範囲に限られますが」


一枚の図解が表示された。


俺のモビルフレームのシルエットが、いくつかの動作軌道に沿って動き始める。


横への踏み込み。


身体の回転。


重心の移動。


武器を抜き、振るう動作。


「例えば、紬が地球にいた頃、アニメや映画で見た剣士の動きを思い浮かべたとします。その場合、システムはそのイメージを操縦の参考動作として利用できます」


俺は黙り込んだ。


「……待て」


「はい?」


「つまり、このモビルフレームは、剣士の動きを頭の中で思い描くだけで操縦できるってことか?」


「そのとおりです。ただし、架空の作品に登場する動きを、そのまま模倣することはお勧めしません。機体には質量も慣性もあり、足場の確保やフレームにかかる負荷にも限界があります。あなたが望む動きを、物理的に実行可能な動作へ変換するのは私が補助します」


俺はもう一度パネルを見つめた。


なぜだろう。


ふと、昔の記憶が蘇った。


まだ地球で暮らしていた頃の夜。


画面の前に座り、一人の剣士が相手の攻撃をすり抜けるように踏み込み、身体を回転させ、最後に一太刀で勝負を決める場面を見ていた。


あまりにも簡潔な動きだった。


それが途方もない精度を要求される技だとは、にわかには信じられないほどに。


俺は小さく笑った。


「お前、そんな機能まで俺の機体に組み込んでいたのか?」


「もちろんです。複雑な手動操作の組み合わせをすべて暗記しなくても、あなたが自然に動けるようにしたかったので」


続いて、セラフィエルが兵装パネルを開いた。


紬専用モビルフレーム――兵装構成


| モード | 兵装 | 主な用途 |

| ----------- | ------------------ | ------------------- |

| 剣装備モード | 刀に似た形状の片刃剣 | 近接戦闘および精密切断 |

| アサルトライフルモード | モビルフレーム用アサルトライフル | 中距離戦闘および精密射撃 |

| 操縦方式 | 艦長専用ニューラル・インターフェース | 操縦者の意思と動作イメージを反映 |

| 現在の制限設定 | 工業区域安全運用設定 | 採掘施設の構造を危険にさらす機動を防止 |


俺は剣のアイコンに目を向けた。


わずかに反りのある長い刀身。


機体の両手で握ることを想定して設計された柄。


「武装は二つのモードか……」


「はい。モードの切り替えはニューラル指令で行えます。ただし、現時点では、正当な理由が生じるまで全兵装を安全状態に維持します」


俺は頷いた。


「それでいい。あの三機が本当に敵なのか、まだ分からないからな」


「私も同意見です」


すると、別の通信回線から突然レアの声が飛び込んできた。


『紬!』


「なんだ?」


『セラフィエルの説明、聞こえた!』


「同じチーム回線にいるんだから、そりゃ聞こえるだろ」


『剣!? 紬の機体、剣装備モードがあるの!?』


「レア、目の前の三機に集中しろ」


『集中してる! でも、あとで絶対見せてね!』


俺はため息をついた。


どうやら、この試作機の武装について、俺以上に興奮している奴が一人いるらしい。


三機のモビルフレームは、そのまま搬送室へ向かって接近を続けていた。


セラフィエルがセンサー映像を拡大する。


一機目は重厚なフレームを持ち、肩部と胸部には追加装甲が取り付けられていた。


二機目は比較的細身だ。背部には、短距離機動用に改造されたと思われる推進装置が搭載されている。


三機目は運搬装備を備え、機体の側面に長銃身の武器を携えていた。


いずれも、ドラウヴェル鉱業協同組合から提供された正規機体一覧に一致する識別コードを送信していない。


「セラフィエル、照合結果は?」


「協同組合側から、この経路を使用してK-17へ進入する予定のモビルフレーム部隊は存在しないとの回答を得ました。現在、別の許可を取得している可能性について確認中です」


俺は頷いた。


「直接、識別情報の送信を要求してくれ。一般工業通信周波数を使おう」


「承知しました」


少しして、外部通信回線にセラフィエルの声が流れた。


『K-17搬送室へ接近中のモビルフレーム三機に通告します。こちらは契約C-136-MNに基づく正規回収チームです。作業上の衝突を避けるため、一時停止のうえ、操縦者の識別情報を送信してください』


返答はなかった。


三機は移動を続けている。


MCV-01からヴェスペラが報告した。


『紬、三機の移動経路を解析しました。現在の進路を維持した場合、北側の搬送ゲートから搬送室へ進入します』


「向こうから俺たちの位置は見えているのか?」


『この室内で活動するモビルフレームの存在は、すでに検知している可能性があります。ただし、相手側のセンサーがどの程度の情報を取得できているかまでは確認できません』


俺はヴァルキリーの方へ視線を移した。


レアは目標コンテナの候補から少し離れた支持構造物の近くに立っている。


『紬、私が前に出て、あいつらを止めようか?』


「まだだ。退避経路を塞がない位置を維持してくれ」


『了解』


俺はもう一度地図を確認した。


背後には主通路。


代替のサービス通路は二次保管室へとつながっている。


そして正面には、正体不明の三機が接近してくる方向から直接進入できる、巨大な工業用ゲートが一つ。


俺は息を吸った。


「セラフィエル、もう一度呼びかけてくれ」


『所属不明機に対し、二度目の警告です。貴機は正規回収作業区域へ進入しています。直ちに移動を停止し、識別情報を提示してください』


今度は、ようやく返答があった。


男の声が通信から聞こえてくる。


『そのコンテナから離れろ』


俺は眉をひそめた。


「あなたは誰ですか?」


『お前たちには関係ない。荷物を置いて、この区画から出ていけ』


俺は通信画面を見つめた。


「そのコンテナは、ドラウヴェル鉱業協同組合との正式契約に基づく回収対象です。所有権の主張、あるいは別の作業許可をお持ちなら、書類を送信してください」


数秒の沈黙。


そして、同じ男の声が再び響いた。


『お前たちは状況を分かっていない』


「なら、説明してください」


『最後の機会だ。失せろ』


通信が切れた。


俺はパネルを見つめた。


「……実に建設的な会話だったな」


レアが鼻を鳴らす。


『名乗りもしなかったじゃない!』


「そうだな。だが、それだけでこちらから先に攻撃していい理由にはならない」


そのとき、セラフィエルが声を上げた。


「紬。接触対象03が運搬装置を起動しました。接触対象01と02は、通路の左右へ展開を開始しています」


図解が表示される。


三機は、もはや一列では移動していなかった。


武装した二機が前方で位置を取り、三機目はコンテナへ直接つながる経路に向かっている。


俺は目を細めた。


「二機で道を押さえて、一機が荷物を回収するつもりか」


「その可能性と一致する移動パターンです」


俺はチーム通信を起動した。


「レア、コンテナの確保に備えろ。どの機体も作業区域の外まで追跡するな」


『了解!』


「ヴェスペラ、構造物と退避経路の監視を続けてくれ」


『承知しました、紬』


「カリスタ、MCV-01の緊急撤収手順を準備しておいてくれ」


『もう準備してある』


俺はメイン画面を見据えた。


「さて、どう出るか見せてもらおう」


北側の搬送ゲートが動いた。


完全に開いたわけではない。


片側のパネルが横へ押しのけられ、金属同士が擦れ合う長い音を立てる。


――ギギギギギッ!


通路の照明が、その隙間から差し込んだ。


次の瞬間、一機目のモビルフレームが足を踏み入れた。


大柄な機体。


胸部装甲には古い傷がいくつも刻まれている。


右腕には大型の自動火器が装着されていた。


少し遅れて二機目が進入し、やや後方に位置を取る。


三機目はゲート付近で停止した。


俺は外部スピーカーを起動する。


『貴機は正規回収作業区域に進入しています。停止してください。こちらに交戦の意思はありません』


一機目が武器を持ち上げた。


俺の身体が瞬時に強張る。


「セラフィエル」


「照準システムの起動を検知しました」


「レア、射線から離れろ!」


『了解!』


ヴァルキリーが横へ移動する。


そして、次の瞬間――


――ダダダダダンッ!!


ほんの数秒前までレアが立っていた金属製のプラットフォームに、連続した砲弾が叩き込まれた。


火花が四方へ飛び散る。


防護パネルが砕け、床に叩きつけられた。


小規模な爆発が室内の一角を揺らす。


『撃ってきた!』とレアが叫んだ。


俺は操縦系統に意識を集中させる。


「セラフィエル、先制攻撃を記録してくれ」


「記録済みです。回収チームに対する攻撃を確認しました」


俺は三機を見据えた。


「よし。ここからはチームとコンテナの防護を最優先にする」


「レア、連中を退避経路へ近づけるな!」


『了解!』


ヴァルキリーが動いた。


予測されやすい直線的な動きではない。


レアは低いプラットフォームを遮蔽物として利用し、重量型モビルフレームが銃口を向けた瞬間、反対側へ位置を変えた。


――ダダダダンッ!


二度目の銃撃が壁面を直撃する。


金属片が飛び散った。


古い配管が破裂し、噴き出した蒸気が室内の一部を覆い始める。


「カリスタ!」


『見えてる! あれは稼働中の燃料配管じゃない。だが、周囲の構造物をこれ以上撃たせるな!』


「ヴェスペラ、連中を誘導できる安全な経路を探してくれ」


『計算中です!』


戦術画面に複数の線が現れた。


ヴェスペラは強固な支持構造を持つ区域を示し、崩落の危険がある場所から切り分けていく。


『レア、搬送室の西側を使用してください。モビルフレームが機動するには十分な広さがあります。ただし、左から三本目の支柱は避けてください。上部に変形が確認されています』


『了解!』


レアがヴァルキリーを西側へ移動させる。


重量型はすぐに追ってきた。


しかし、二機目は追撃しなかった。


むしろ迂回し、こちらの退避通路へ向かう経路を確保しようとしている。


俺はすぐに意図を理解した。


「俺たちを分断するつもりか」


セラフィエルが答える。


「そのようです。接触対象02は出口へのアクセス路へ移動中。接触対象03は引き続き目標コンテナへ接近しています」


俺は画面を見据えた。


「レア、一機目は任せる。安全な位置から離れすぎるな」


『残りの二機は!?』


俺は自分のモビルフレームの駆動システムを起動した。


「俺が引き受ける」


ニューラル・インターフェースが点灯した。


頭の中に、不思議な感覚が広がっていく。


レバーを引く感覚ではない。


操作パネルを使って巨大な乗り物を動かしている感覚でもない。


長い間使っていなかった、自分自身の身体を再び動かすような感覚に近かった。


横へ一歩。


そう思い描くだけで、俺のモビルフレームが動く。


重心を安定させるため、わずかに姿勢を低くする。


機械のフレームが、その意図に合わせて位置を調整した。


「……おお」


通信からセラフィエルの声が聞こえる。


『いかがですか、紬?』


「少しずつ感覚を思い出してきた」


『まだ習熟していない動作を無理に行わないでください。安全制限は維持します』


「分かってる」


二機目のモビルフレームが、退避通路へ向けて武器を構えた。


俺は兵装を起動する。


アサルトライフルモード――使用準備完了


モビルフレーム用のライフルが収納架から移動し、機体の右手に収まった。


俺は照準を合わせる。


相手のコックピットではない。


採掘施設の構造物でもない。


出口へ向けられている武器、その外部機構だ。


「セラフィエル、射線は?」


『計算上の安全範囲内です』


俺は引き金を引いた。


――ダダンッ! ダダンッ! ダダンッ!


短い三発。


二発が敵機の腕部装甲に命中。


三発目が武器の取り付け基部を捉えた。


――バンッ!!


二機目のライフル側面から、大量の火花が噴き出した。


敵機が大きく揺れる。


銃口が跳ね上がり、発射されかけていた連射は、室内の端にある何もない天井部分へと逸れた。


「今だ!」


俺は機体を前進させる。


専用モビルフレームは、古いコンテナの脇を滑るように通過した。


敵は照準を戻そうとする。


だが、銃口が再びこちらを捉えるより先に――


俺はすでに、その左側へ回り込んでいた。


「……速いな」


自分でも少し驚いた。


すぐにセラフィエルの声が響く。


『紬、機体の反応速度に引きずられないでください。ご自身の意思で、意識的に動作を選択してください』


「分かってる」


俺は短い一歩を思い描いた。


腰の回転。


肩の位置の変化。


モビルフレームは、その一連の動きを忠実になぞった。


そして俺は初めて、セラフィエルの説明の意味を本当の意味で理解した。


搬送室の反対側では、レアが重量型モビルフレームと交戦していた。


――ダダダダダンッ!!


連続した砲弾がプラットフォームの表面を薙ぐ。


ヴァルキリーは二本の支持構造物の間を移動した。


レアは機体そのもので銃撃を受け止めようとはしない。


遮蔽物の角度を利用し、相手に何度も照準を修正させ続けていた。


『紬! こいつ、正面装甲がかなり厚い!』


「真正面から撃ち合うな。機動性ならお前の方が上だ」


『分かってる!』


ヴァルキリーがプラットフォームの側面へ短く跳んだ。


推進器が一瞬だけ点火する。


――シュゴッ!


重量型が機体を回転させ、追従しようとする。


遅い。


すでにレアは位置を変えていた。


ヴァルキリーの精密射撃が、敵機の肩に取り付けられた外部照準装置を直撃する。


――パァンッ!


センサーの保護カバーが砕けた。


重量型モビルフレームが一歩後退する。


だが、操縦者はそれなりに経験を積んでいるらしい。


すぐに予備センサーへ切り替え、再び武器を構えた。


『ちっ! まだ動けるの!?』


「当たり前だ。一発当てたくらいでモビルフレームが止まると思うなよ」


『分かってるってば、紬!』


俺は思わず笑いそうになった。


しかし、その瞬間、画面に新たな警告が現れる。


接触対象03――目標へ移動中


三機目が動き始めた。


「セラフィエル、三機目だ!」


「確認しています。運搬装置はすでに起動しています」


三機目のモビルフレームは、戦闘の混乱に乗じて目標コンテナへ接近していた。


背部から追加の機械式アームが展開される。


俺はドローンの映像越しにそれを確認した。


「荷物には触らせるな」


ライフルの照準を移そうとする。


しかし、二機目のモビルフレームが突然、俺の進路を塞いだ。


部分的に損傷した武器は、まだ使用可能だったらしい。


――ダダダンッ!


俺は左へ回避する動きを思い描く。


機体が即座に反応した。


直前まで立っていた場所を砲弾が通過する。


そのうちの一発が床に着弾して爆発し、室内の構造全体へ振動を伝えた。


『紬! 右側へ移動しないでください! 追加の負荷を受け始めている支柱があります!』


ヴェスペラの警告だ。


「了解!」


俺は進路を変更した。


インターフェース上に青い線が現れる。


ヴェスペラが算出した安全経路だ。


俺はそれに従う。


二機目が再び進路を塞ごうとした。


だが、今度は近すぎた。


距離が縮まる。


二十メートル。


十五。


十。


俺は、こちらへ向き始めた敵機の銃口を見据えた。


その瞬間、頭の中に一つの光景が浮かんだ。


相手の攻撃線の外側へ踏み込む剣士。


後退ではない。


高く跳び上がるわけでもない。


ただ斜めに一歩。


そこから身体を回転させ、攻撃線から自分の位置をずらす。


「セラフィエル」


『はい?』


「ちょっと試したいことがある」


『動作イメージを受信しました。実行可能な軌道です』


剣装備モード――選択


右手に保持していたライフルが収納架へ戻される。


ほぼ同時に、機体の左手がフレーム側面に固定された剣の柄を掴んだ。


刀に似た形状の長い刀身が、固定具から解放される。


システムが機体の重量配分を調整する感覚が、ニューラル・インターフェースを通じて伝わってきた。


敵が発砲する。


――ダダンッ!


俺は斜めに踏み込んだ。


砲弾が右肩の脇を通過する。


続けて、モビルフレームの身体が回転した。


低い位置に構えた剣が、敵機の腕の外側へ向けて振り上げられる。


――シャアアアンッ!!


火花が噴き出した。


剣は、先ほどの射撃ですでに損傷していた武器の取り付け基部を切断した。


敵機の武器が外れる。


――ガラァンッ!!


巨大なライフルが床へ落下した。


二機目は体勢を崩し、後退する。


俺は剣先が相手の機体本体に届く直前で、動きを止めた。


「……できた」


次の瞬間、レアの声が通信回線で炸裂した。


『つ、紬ぃぃっ!?』


俺は瞬きをした。


「なんだ!?」


『今の動き、何ぃぃっ!?』


「あとにしろ!」


『だって今、紬が――!』


「レア! お前の相手、まだ撃ってるぞ!」


『あっ! そうだった!』


重量型モビルフレームが、ヴァルキリーへ新たな連射を浴びせた。


レアは即座に移動する。


――ダダダダダンッ!


弾丸がプラットフォームの側面を直撃した。


空の貯蔵タンクが破裂し、内部の残留圧力による爆発が発生。保護材の破片が宙へ吹き飛ばされた。


――ドォォォンッ!!


オレンジ色の閃光が搬送室を照らす。


俺は緊張した。


「レア!」


『大丈夫! 空のタンクだった!』


すぐさまカリスタが怒鳴り返す。


『だからって、部屋を丸ごと壊させるんじゃないよ!』


「ヴェスペラ、このまま撃ち続けられたら、構造物はあとどれくらい持つ?」


『内部損傷の全容が分からないため、正確な時間は推定できません。ただ、すでに位置の変化が見られる箇所があります。戦闘を保管区域から遠ざけることを推奨します』


俺は頷いた。


「レア、重量型を指定済みの西側区域へ誘導してくれ」


『了解!』


「俺はコンテナへの経路を確保する」


『任せて!』


ヴァルキリーが遮蔽物から飛び出した。


レアはわざと、ほんの少しの間だけ自分の位置を晒す。


重量型モビルフレームが即座に照準を変更した。


『ほら! 追いかけたいなら、こっちに来なさいよ!』


俺はため息をつく。


「レア、わざわざ声まで出して挑発しなくていいぞ」


『でも、効いてる!』


確かに。


重量型はヴァルキリーを追い、西側の開けた区域へ移動し始めた。


一方、武器を失った二機目は立ち上がろうとしている。


俺は、その進路に剣先を向けた。


「退避通路の方へ動くな」


相手から返答はない。


だが、それ以上前進しようともしなかった。


「セラフィエル、三機目は?」


「運搬装置がコンテナに到達する寸前です」


俺は振り向いた。


画面上では、三機目のモビルフレームが機械式アームの一本をコンテナ側面へ固定していた。


固定用フックが、対象物の上部へ近づいていく。


「まずいな」


俺は剣を安全位置へ戻し、再びライフルを起動した。


アサルトライフルモード――起動


しかし、照準を合わせるより先に三機目がこちらを向いた。


肩部の兵装装置が動く。


セラフィエルが即座に警告した。


「紬! 長距離兵装の照準固定を検知しました。照準方向は回収チームの退避経路です!」


俺は一瞬、動きを止めた。


俺を狙っているわけではない。


レアでもない。


俺たちが退避経路として指定した通路だ。


あそこで発砲され、扉や支柱を破壊されたら、この区画の中に閉じ込められる可能性がある。


「セラフィエル、採掘施設を攻撃せずに無力化できるか?」


「可能です。正規作業区域内に配置されたMCV-01の防衛装置から、限定的な射線を確保しました」


俺は地図を見た。


その射線は、確認済みのサービス用開口部を通っている。


採掘施設の壁を貫通する経路ではない。


「射線上に作業員やほかの車両がいないことを確認してくれ」


「確認済みです。作戦関係者以外の人員は存在しません」


「構造物への損傷リスクは?」


「外部兵装装置を狙う射線です。現在の走査結果に基づく限り、施設への危険は許容範囲内に収まります」


俺は頷いた。


「分かった。艦の防衛装置の限定使用を許可する。出口を脅かしている武器の無力化だけだ。構造物や、必要以上に敵機本体を攻撃するな」


「承知しました、紬」


戦術画面上に、MCV-01の方向から小さなマーカーが現れた。


支援艦の防衛システムが、三機目のモビルフレームの外部兵装を照準に捉える。


敵機が肩部の砲身を持ち上げ始めるのが見えた。


セラフィエルが告げる。


「照準固定完了」


そして――


――ドンッ!


精密射撃の一発が、確認済みの経路を通過した。


長い連射ではない。


部屋全体を破壊するような攻撃でもない。


極めて慎重に照準を合わせた、たった一発。


――バァァンッ!!


三機目の肩部兵装が爆発した。


取り付け基部から白橙色の閃光が噴き出す。


外装カバーが吹き飛び、床に叩きつけられた。


敵機が激しく揺れる。


運搬用アームがコンテナから外れた。


「接触対象03の長距離兵装を無力化しました」


セラフィエルが報告する。


俺は息を吐いた。


「よし」


すぐにカリスタの声が入る。


『射線周辺の構造物を確認した。主要支柱に大きな損傷はない』


「ありがとう」


しかし、三機目はまだ諦めていなかった。


予備の運搬装置を使い、コンテナを持ち上げようとしている。


俺は眉をひそめた。


「……よほどあの荷物が欲しいらしいな」


俺は前進した。


右手にはライフル。


剣はまだ収納架に収まっている。


三機目はコンテナを引きずりながら後退しようとしていた。


俺は運搬装置の接続部分に照準を合わせる。


「セラフィエル、コンテナを傷つけずに固定具だけ外せるか?」


「可能です。射撃可能な箇所を表示します」


画面上に小さな点が現れた。


俺は発砲する。


――ダダンッ!


砲弾が運搬装置の外部接続部を直撃した。


――パァンッ!


機械式フックが外れる。


コンテナは重い振動を伴いながら、再びプラットフォームへ落ちた。


――ドォンッ!


「セラフィエル! 目標の状態は!?」


「初期走査では、外部構造に新たな損傷は検出されていません。ただし、詳細な検査が必要です」


俺は頷いた。


「よし」


すると、三機目のモビルフレームがこちらへ向き直った。


腰部から大型の工業用切断装置が取り外される。


機械式の刃が起動した。


俺は眉を上げた。


「……今度は近接戦か?」


セラフィエルが、どこか楽しそうにも聞こえる声で答えた。


「そのようですね」


俺は再び剣装備モードを起動した。


剣装備モード――起動


専用モビルフレームが長い刀身を抜き放つ。


先に仕掛けたのは三機目だった。


工業用切断装置が右から左へ振り抜かれる。


力強い動きだ。


ただし、軌道は大きい。


俺は短く一歩後退し、攻撃の外側へ重心を移す動きを思い描いた。


機体がそれに従う。


――ブォンッ!


敵の刃が、俺の機体の胸部前方を通り過ぎた。


その先端が床の保護材をかすめ、小さな火花が散るのが見える。


俺はすぐには反撃しなかった。


代わりに、相手の次の動きを観察する。


敵機が身体を回転させた。


二撃目は下から来た。


俺は、剣士が刀を持ち上げて攻撃を受け、続けて手首を返すことで衝突の力を真正面から受け止めない動きを思い浮かべた。


ニューラル・インターフェースが反応する。


――ガァァァンッ!!


二つの刃が激突した。


強烈な振動が、俺のモビルフレームのフレーム全体へ伝わる。


パネル上の負荷数値が跳ね上がった。


俺は顔をしかめた。


「重っ!」


セラフィエルがすぐに警告する。


『すべての運動量を正面から受け止めないでください。力を側方へ逃がしてください』


「分かってる!」


俺は剣の角度を変えた。


敵の刃が、機体の側面を滑るように通り過ぎる。


同時に、以前見た剣戟の場面を思い出し、身体を回す動きを頭に描いた。


無茶な大回転ではない。


足の位置を一つ変え、そこから横方向へ短く振るうだけだ。


モビルフレームが動いた。


――シャアアアンッ!!


俺の剣が、敵の切断装置の接続部を捉えた。


火花が噴き出す。


切断装置が取り付け基部から外れた。


――ガラァンッ!!


相手は近接武器を失った。


俺はすぐに剣を止め、コックピットへ刃が届かないようにした。


「動くな」


三機目のモビルフレームが一歩下がる。


さらに二歩。


そして、ついに停止した。


一方、レアの戦闘はまだ終わっていなかった。


重量型モビルフレームは、当初の予想よりはるかに頑丈だった。


外部センサーの一部を損傷しているにもかかわらず、まだ機動できるうえ、主兵装も使用可能だ。


レアは引き続き、コンテナから離れる方向へ誘導していた。


『紬! 西側区域まで連れてきたよ!』


「そっちの状態は?」


『ヴァルキリーはまだ正常! でも、こいつ本当にしつこい!』


俺は画面を確認する。


ヴァルキリーは、大きな支持構造物の間を移動していた。


重量型は追いかけながら短い連射を浴びせている。


――ダダダンッ!


一発が床のパネルを直撃した。


――ドンッ!


爆発がプラットフォームを揺らす。


レアは短い推進で反対側へ移動した。


だが、今度は相手もその動きを読んでいた。


重量型モビルフレームの照準変更が、先ほどより速い。


「レア!」


『見えてる!』


ヴァルキリーが身体をひねる。


連射が肩のすぐ近くを通過した。


そのうちの一発が外装を捉える。


――バンッ!


チームの画面に警告パネルが現れた。


ヴァルキリー――外部装甲に被弾


俺は思わず身を起こした。


「レア、状態を報告しろ!」


『外装に当たった! 主要システムは正常!』


カリスタが即座にデータを確認する。


『大きな構造損傷はない! だが、同じ場所に二発目を食らうんじゃないよ!』


『分かってる!』


俺はヴァルキリーが位置を変える様子を見た。


レアは無闇に撃ち返そうとしなかった。


重量型が銃口を向けるために身体を回し始める、その瞬間を待っている。


そして、敵の銃身が最も追従しにくい側面へ移動した。


「いいぞ……」


俺は小さく笑った。


レアは戦闘のリズムを読み始めていた。


「ヴェスペラ、鉱山の支援チームの退避状況は?」


『経路の更新情報は送信済みです。協同組合の支援チームは安全な撤収地点へ移動中ですが、K-17境界区域からの離脱には、まだ時間が必要です』


俺は頷いた。


「レア、重量型をそっちの経路へ向かわせるな」


『了解!』


重量型モビルフレームは、ヴァルキリーを追い続けても成果がないと気づき始めたらしい。


射撃を止めた。


そして、向きを変える。


レアの方ではない。


退避通路へつながる経路だ。


「くそっ」


俺は急いで通信を開いた。


「レア! 奴は出口を押さえるつもりだ!」


『見えてる!』


ヴァルキリーが動く。


レアは短い推進で開けた区域を横切り、重量型の進路上へ着地した。


――ドォンッ!


床から埃と小さな破片が舞い上がる。


『ここを通りたかったら、まず私を倒してからにしなさい!』


重量型が武器を持ち上げる。


だが、レアの方が先に照準を合わせていた。


――ダダンッ! ダダンッ!


ヴァルキリーの射撃が、敵の武器の保護装甲を直撃する。


重量型が揺れた。


それでも、操縦者は前進しようとする。


大きな機械式アームがヴァルキリーへ向かって動くのが見えた。


「レア、左から格闘攻撃!」


『了解!』


レアが回避する。


敵の腕は何もない構造物へ叩きつけられた。


――ゴドォォンッ!


防護パネルに亀裂が走る。


カリスタが即座に叫んだ。


『次の支柱は殴らせるな! そこはサービス通路の天井とつながってる!』


ヴェスペラが新たな移動経路を表示する。


『レア、北西へ十二メートル後退してください! 空の搬送プラットフォームがあります。主要構造物を危険にさらさず、敵機の旋回角度を制限できます!』


『了解!』


ヴァルキリーが指定された経路に従って移動する。


重量型が追撃した。


しかし、曲がろうとした瞬間、その大きな機体はプラットフォーム脇の構造物を避けるため、減速を余儀なくされた。


レアが待っていたのは、その一瞬だった。


『今っ!』


ヴァルキリーが外側へ回り込む。


精密射撃の一発が、先ほどから損傷していた敵機の武器接続部を直撃した。


――バァァンッ!!


火花が噴き出す。


ついに、重量型モビルフレームの主兵装が脱落した。


敵機が後退する。


しかし、レアが接近するより先に推進装置を起動し、別の出口へ強行突破を試みた。


「深追いするな!」と俺は叫んだ。


『分かってる! 鉱山の人たちが退避するまで足止めするだけ!』


俺は画面を見つめた。


よし。


作戦の目的を見失っていない。


主搬送室では、主兵装を失った二機のモビルフレームが後退を始めていた。


俺は、その二機とコンテナの間に立ち続ける。


「セラフィエル、連中の身元は分かるか?」


「まだです。操縦者の身元は確認できていません。ただし、作戦中に合法的に取得できた外観情報、通信記録、移動データはすべて保存しています」


「よし」


俺は三機目を見た。


「今なら、まだここで終わらせられる。兵装システムを停止して、身元を送信しろ」


返答はない。


しかし今度は、開放通信回線から別の声が聞こえた。


『一号機、荷物は諦めろ。撤退するぞ』


俺は眉をひそめた。


「セラフィエル、今のも記録してくれ」


「記録済みです」


最初の男の声が再び響く。


『コンテナはどうするんだ!?』


『回収は無理だ! 今すぐ撤退しろ!』


そして、通信が途絶えた。


俺は目の前の二機を観察する。


どちらも北側通路へ向かって後退を始めていた。


俺はすぐには追わなかった。


「レア、搬送室の二機が撤退を始めた。重量型はどうだ?」


『あいつも逃げようとしてる!』


「無理に追撃するな。退避経路の安全を優先しろ」


『了解!』


しかし、重量型モビルフレームは完全には諦めていなかったらしい。


後退しながら、突然、予備兵装をプラットフォームの側面へ向けたのだ。


セラフィエルが即座に警告する。


「紬! 接触対象01が予備兵装を起動しました。射線は撤収経路を損傷させる可能性のある区域へ向いています!」


俺は身構えた。


「レア!」


『見えてる!』


ヴァルキリーが動いた。


レアは敵機そのものを破壊しようとはしない。


位置を変え、ヴェスペラが指定した角度を確保すると、その予備兵装へ短い射撃を放った。


――ダダンッ!


――パァァンッ!


武器が砕けた。


しかし、脱落した部品の一つが床へ衝突し、爆発する。


――ドォォォンッ!!


圧力波が広がった。


カメラの映像が埃で覆われる。


俺はコックピットの座席から、思わず少し腰を浮かせた。


「レア!」


一秒間、返答がない。


二秒。


そして――


『大丈夫!』


俺は長く息を吐いた。


『爆発は結構近かったけど、ちゃんと下がれた!』


カリスタがすぐにデータを確認する。


『ヴァルキリーの外装に破片が当たってる。致命的な損傷はない。レア、簡易点検が終わるまで動くんじゃないよ!』


『分かった!』


俺は画面を見つめた。


徐々に晴れていく埃の向こうで、重量型モビルフレームはまだ立っていた。


だが、今度こそ二つの主要兵装はどちらも機能していない。


敵機はしばらくヴァルキリーを見つめた。


それから背を向け、北側通路へ移動を始める。


レアは追わなかった。


退避経路の前に、そのまま留まっていた。


「ヴェスペラ、鉱山の支援チームの状況は?」


『作戦区域にいた支援要員は全員、安全な撤収地点に到達しました。協同組合が確認した名簿上、取り残された人員はいません』


俺は頷いた。


「よし」


セラフィエルが、正体不明の三機の位置を表示する。


三機は北側の出口へ向かっていた。


一機は兵装と運搬装置の損傷により、ほかの二機より歩行速度が遅い。


それでも、三機ともまだ移動可能だった。


『追いかけた方がいい?』


レアが尋ねる。


俺は地図を見た。


北側の経路は、まだ十分に調査できていないK-17内部へとつながっている。


構造的な不安定さが確認されている箇所もある。


「いや」


『了解』


「コンテナの強奪は阻止できた。俺たちの最優先事項は、あくまで対象物の回収とチームの安全だ」


通信越しに、セラフィエルも同意した。


「私も賛成です。未確認区域まで追跡すれば、契約の遂行に直接的な利益をもたらさないまま、危険だけが増加します」


俺は座席に背を預けた。


「なら、撤退させよう。俺たちの作戦区域から離れるまでは監視を続けてくれ」


三機のモビルフレームが搬送室から姿を消すと、周囲は少しずつ静けさを取り戻した。


ただし、辺りの光景は先ほどまでとは大きく変わっている。


損傷した床のパネル。


破壊された空の貯蔵タンク。


壁面の防護材に刻まれた無数の弾痕。


そして、あちこちに散らばる敵機の兵装の金属片。


俺はコックピットのカメラ越しに、それらを見渡した。


「……派手にやってくれたな」


カリスタが苛立った声で答える。


『しかも、損傷の大半は連中が無茶苦茶に撃ちまくったせいだ。あとで施設の修理報告書を見てみたいもんだね』


そこへランが通信に入ってきた。


『戦闘記録を受信しました。こちらの防衛行動については、使用時刻と理由を含め、すべて記録済みです』


「よし」


『また、所属不明の第三者による攻撃で発生した損害が、無条件にこちらへ請求されないよう確認します。ただし、最終的な判断は正式な調査結果に従う必要があります』


俺は小さく笑った。


「請求書を見たときのお前の顔が目に浮かぶな」


『紬』


「ん?」


『金額が判明するまでは、請求書を冗談の題材にしないでください』


俺は笑った。


続いて、セラフィエルが俺たちの注意を本来の目的へと戻した。


「紬、目標コンテナの候補は、まだプラットフォーム上にあります。移動させる前に、識別情報と状態の確認を完了することを推奨します」


俺は頷く。


「分かった。レア、ヴァルキリーの状態は?」


『カリスタの簡易点検は終わったよ。まだ普通に動ける!』


「なら、搬送室へ戻ってきてくれ。ただし、急がなくていい」


『了解!』


俺はコンテナへ近づいた。


検査用ドローンが、その周囲を飛び回る。


表面にはいくつか擦過傷が見られたものの、主要構造は無事のようだ。


セラフィエルが識別番号を拡大する。


「登録番号がドラウヴェル鉱業協同組合の書類と一致しました」


確認マークが表示された。


主要回収対象――識別確認完了


俺は頷いた。


「調査機器の方は?」


「一部はコンテナ内部にあります。ただし、契約対象一覧に記載された追加部品があり、そちらは個別に確認する必要があります」


少しして、レアが到着した。


『紬、プラットフォームの裏に機材ケースがいくつかあるよ!』


俺はそちらを向いた。


「まだ動かすな。識別番号を確認してくれ」


『はーい!』


セラフィエルが、その場所へドローンを送る。


数分後、検査結果が表示された。


行方不明になっていた調査機器の一部は、同じ保管室内に残されていたらしい。


すべてが完全な状態というわけではない。


それでも、読み取れた識別番号は回収対象一覧と一致していた。


俺は安堵の息を吐く。


「よかった。少なくとも、置き忘れられた小さな機材一つを探すために、区画全体を探索しなくて済みそうだ」


レアが笑う。


『私はそのつもりで準備してたのに!』


「知ってる。だから心配なんだよ」


回収作業は、先ほどの戦闘とは比べものにならないほど慎重に進められた。


カリスタが貨物固定装備の使用を指示する。


セラフィエルは吊り上げ位置とコンテナの状態を確認。


ヴェスペラは構造物と帰還経路の監視を続ける。


レアはヴァルキリーを使い、識別済みの機器の移動を補助した。


俺も専用モビルフレームで、それに付き添う。


ただし、今度は剣もライフルも収納したままだ。


機体の両手を使い、荷物を安定させる。


「レア、もう少し左」


『こっち?』


「そう。急に持ち上げるなよ」


『了解』


コンテナがゆっくりとプラットフォームから離れる。


セラフィエルは外部構造にかかる圧力を監視していた。


「荷重分布は正常です。追加損傷の兆候はありません」


すぐにカリスタから指示が送られてくる。


『よし。その角度を維持して、コンテナをMCV-01の運搬装置まで移動させてくれ』


俺は小さく笑った。


「ほらな? 何かを爆発させなくても、モビルフレームは使えるんだぞ」


レアが笑う。


『でも、さっきの爆発はすっごく格好よかった!』


「レア」


『分かってる! 分かってるって! みんな無事なのが一番!』


俺は首を振った。


登録された回収対象をすべて確保したあと、俺たちは調査済みの経路を通ってMCV-01へ帰還した。


新たな接触反応はない。


正体不明の三機も戻ってこなかった。


セラフィエルは、俺たちがK-17から完全に離脱するまで監視を継続した。


積み込みが完了すると、カリスタはすぐにヴァルキリーと俺の専用モビルフレームの状態を確認し始めた。


「レア、あんたの機体は外装の修理が必要だよ」


「はぁい……」


「それから、紬」


俺は振り向く。


「なんだ?」


カリスタは俺の試作機を指さした。


「機体はまだ良好な状態ですが、先ほどの剣の使用による腕部接続部と負荷分布を確認させてください」


俺は頷いた。


「もちろん」


すると、レアがすぐに近寄ってきた。


「紬!」


「今度はなんだ?」


その瞳がきらきらと輝いている。


「さっきの剣の動き!」


俺はため息をついた。


「まだそのこと考えてたのか?」


「当たり前でしょ! アニメに出てくる剣士みたいに動いてたんだよ!」


俺は黙った。


「……いや、実際にそういう動きを想像してたんだけどな」


レアが固まった。


次の瞬間、狐耳がぴんっと真っ直ぐ立つ。


「はぁぁっ!?」


セラフィエルが微笑んだ。


「紬の機体に搭載されたニューラル・インターフェースは、頭の中で思い描いた動作を、適切な機械動作へ変換できます。もちろん、物理的な条件と安全限界も考慮したうえで、ですが」


レアは俺を見た。


次に、俺の専用モビルフレームを見た。


そして、また俺を見る。


「紬……」


「なんだ?」


「この仕事が終わったら、本当に私と模擬戦してほしい」


俺は首を振った。


「そのうちな」


「それって、可能性はあるってことだよね!?」


「レア、お前はたった今、戦闘を終えたばかりだろ」


「まだまだ元気だよ!」


そこへカリスタが割り込んだ。


「でも、ヴァルキリーは整備が必要だよ」


「……あっ」


俺は笑った。


しばらくして、俺たちはMCV-01の管制室へ戻っていた。


アストレオン・ヴェロリアから、ランが状況の更新を送ってくる。


『紬、ドラウヴェル鉱業協同組合は、契約対象物の確保に成功したという通知を受領しました。現在、正式な検査および引き渡しの手続きを準備しています』


「よし。向こうが受領を確認するまでは、契約を完了扱いにしないでくれ」


『もちろんです。基本報酬と追加報酬は、引き続き確認待ちとして扱います』


俺は頷いた。


続いて、セラフィエルが概要報告を表示した。


K-17――作戦状況


| 項目 | 結果 |

| ------------- | ---------------- |

| 目標データコンテナ | 発見・確保成功 |

| 調査機器 | 現地での識別結果に基づき回収成功 |

| 回収チームの人員 | 全員無事 |

| 協同組合の支援チーム | 安全な撤収地点への到達を確認 |

| ヴァルキリー | 外装に軽微な損傷 |

| 紬専用モビルフレーム | 運用可能。任務後点検が必要 |

| 所属不明の三機 | 作戦区域から撤退 |

| MCV-01の防衛装置使用 | 出口を脅かす兵装の無力化に限定 |

| 契約状況 | 正式な検査および引き渡し待ち |


俺は報告書に目を通した。


「悪くないな」


レアがすぐににやりと笑う。


「悪くない!? 紬、私たち、武装したモビルフレーム三機と戦ったんだよ!?」


「知ってる。俺もそこにいたからな」


「しかも、紬は剣まで使ったし!」


「その部分も覚えてるよ」


通信越しにヴェスペラが柔らかく笑った。


『何より重要なのは、退避経路を失うことも、目標物を破損させることもなく、皆さんが無事に帰還できたことです』


俺は頷いた。


「そうだな。それこそ、俺が望んでいた結果だ」


セラフィエルが微笑む。


「それと、紬。まだ確認していただきたいことが一つあります」


俺は振り向いた。


「なんだ?」


彼女が新しいパネルを表示する。


回収データコンテナ――予備索引


「識別確認の際、このコンテナには、当初の概要資料に記載されていた調査データよりも広範囲の貨物移動記録が保存されていることを確認しました」


俺は眉をひそめた。


「広範囲って、どういうことだ?」


「複数の独立港を経由した輸送に関する参照情報が含まれています。ただし、私はまだデータの全内容を開示・解析していません。正当な所有者とともに、アクセス権限および検査手順を確認する必要があります」


すぐにランが口を開く。


『私も賛成です。興味深い情報を発見したからといって、契約の範囲を逸脱するわけにはいきません』


俺は頷いた。


「そうだな。正式な手続きに従って引き渡そう」


それでも、俺はその索引を見つめ続けた。


貨物の移動先として、いくつかの港の名前が表示されている。


どこかの政府や大規模組織が関与していると結論づけるには、証拠がまったく足りない。


だが、この記録の存在によって、一つのことがますます明確になってきた。


俺たちが回収したコンテナには、単なる調査機器以上の価値があるのかもしれない。


そして、先ほどの武装モビルフレーム三機は、それをすでに知っていたように思える。


MCV-01がK-17周辺区域から離脱し始めた頃、俺は座席に座り、小さな画面で再生されている戦闘記録を眺めていた。


工業施設の構造物の間を移動するヴァルキリー。


連続射撃を浴びせる重量型モビルフレーム。


搬送室を照らす爆発。


そして、俺の専用試作機が斜めに踏み込み、攻撃を回避し、そのまま一連の動作で剣を抜き放つ場面。


俺は二つの刃が激突した瞬間で、映像を停止した。


「……本当にやったんだな、俺」


隣に立っていたセラフィエルが答える。


「もちろんです」


俺は彼女を見た。


「お前、とんでもない機体を作ったな」


彼女は柔らかく微笑んだ。


「私はただ、あなたの意思にきちんと応えてくれるものを贈りたかっただけです」


俺はもう一度、戦闘記録を見つめた。


「でも、次にこういう状況で使うときは、もう少し練習してからにしたいな」


「とても良い判断だと思います」


その会話を偶然聞いていたレアが、座席の後ろからひょっこり顔を出した。


「じゃあ、一緒に練習する!?」


俺は目を閉じた。


「……お前、本当に諦めないな?」


「諦めない!」


ヴェスペラが笑う。


カリスタも、微笑みながら首を振った。


そして通信越しのランは、ただ一言。


『特別な訓練日程を組むのであれば、まず整備費用を計算してくださいね』


俺は笑った。


どうやら、今日の戦闘は終わったらしい。


だが、その後の話は、むしろ長くなりそうだ。


俺は徐々に遠ざかっていくカーヴォスの地図を見つめた。


三機の武装モビルフレーム。


行方不明になっていたデータコンテナ。


そして、複数の独立港を経由した貨物移動記録。


俺たちは回収作戦で最も困難な部分を乗り越えた。


だが、コンテナ内のデータが検査されたあと、ドラウヴェル鉱業協同組合から再び連絡が来るような気がしてならない。


とりあえず今は、アストレオン・ヴェロリアへ帰って、みんなと夕食を食べたい。


そして、レアが俺を訓練場へ引っ張っていく新しい口実を見つける前に、カリスタに機体の点検を済ませてもらいたかった。


【次回・第139話】


「契約完了、次の請求」


契約完了、そして次なる請求――回収対象をドラウヴェル鉱業協同組合へ引き渡したあと、紬とランは報酬の確認と作戦中の損害報告を進める。しかし、コンテナ内で発見されたデータによって、複数の独立港を経由した貨物の移動を巡る新たな問題が浮かび上がる。


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