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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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137/174

【第136話】「Drauvell Mining System」

【第136話】「ドラウヴェル鉱業星系」



ヴェルドラコン出航後・16~17日目 場所:オリセーヌ → FTL航路 → ドラウヴェル鉱業星系 → 惑星カルヴォス軌道産業港 POV:星崎紬


「紬! モビルフレーム・パイロットの任務要件、全部読んだよ!」


16日目の朝は、グランドサロンに響き渡るレアの声で始まった。


俺がちょうどコーヒーを一杯取ったところへ、狐耳の少女が端末を手に近づいてきた。


耳はぴんと立ち、尻尾も元気いっぱいに揺れている。


「おはよう、レア」


「おはよう!」


「昨夜はちゃんと眠れたか?」


「もちろん!」


俺は彼女の端末をちらりと見た。


「それじゃあ、確認した結果を聞かせてくれ」


レアはすぐに俺の隣へ腰を下ろした。


「今回の仕事では、工業環境で活動できること、対象物を傷つけずに確保できること、それから回収チームと連携できることがパイロットに求められてるんだ。狭い通路とか、採掘施設の構造物がたくさんある場所で、モビルフレームを使う可能性もあるみたい」


俺は眉を上げた。


「本当にちゃんと読んできたんだな」


「紬! 私、プロのパイロットなんだけど!」


「わかってるよ。ただ、戦闘の許可を求める前に、任務の条件をきちんと確認してくれたのが嬉しくてさ」


「私、いつも戦闘のことばっかり考えてるわけじゃないもん!」


テーブルの向かい側で、カリスタが顔を上げた。


「昨日、貨物回収の仕事にモビルフレームの武装を持ち込んでもいいかって聞いてただろ?」


「それは技術的な質問だよ!」


「その5分後には、敵のモビルフレームと遭遇する可能性はあるのかって聞いてたね」


「それも技術的な質問!」


俺は小さく笑った。


どうやら、オリセーヌでの休暇の空気は、まだ完全には艦内から抜けていないらしい。


とはいえ、今日から俺たちは再び傭兵としての旅を始める。


次の目的地は、ドラウヴェル鉱業星系。


惑星カルヴォスの軌道上に、大規模な産業拠点を持つ鉱業星系だ。


そして昨日届いた募集通知によれば、そこには以前の護衛契約よりも危険度の高い、貨物回収の仕事があるという。


朝食後、クルー全員がアストレオン・ヴェロリアの指揮デッキに集まった。


ヴェスペラはすでに航法ステーションについている。


彼女の前には、銀河地図の投影画面がいくつも開かれていた。


ランは傭兵協会の支部から届いた契約書類を準備し、カリスタはMCV-01とモビルフレーム関連設備の準備状況を確認している。


セラフィエルは艦長席の隣に立っていた。


俺は席につくと、メインスクリーンを見つめた。


遠くには、まだ惑星オリセーヌの姿が見えている。


「よし。出発前に、もう一度今回の仕事を確認しておこう」


ランが頷いた。


「募集要項の全文は受領済みです。ただし、契約そのものはまだ正式に受諾していません。まずは参加意思を登録し、カルヴォスへ到着してから検証手続きを完了させることをお勧めします」


「賛成だ。最終的な承認を出す前に、現地の状況を確認しておきたい」


レアが手を上げた。


「でも、ドラウヴェルには行くんだよね?」


「ああ」


「よしっ!」


カリスタがにやりと笑った。


「まるで大会の入場券を手に入れたみたいな喜びようだね」


「仕事をするのが楽しみなだけだよ!」


俺はヴェスペラへ視線を向けた。


「航路はどうなってる?」


ヴェスペラがメインの投影画面を起動した。


オリセーヌからドラウヴェル鉱業星系へ伸びる航路が表示される。


「利用可能な航行回廊、交通密度、安全な進入地点を考慮して、航路を準備しました」


彼女は終盤の経路を拡大した。


「目的地はカルヴォス軌道産業港です。FTLを終了した後は、産業用の進入航路に従い、港湾管制からの許可を待つことになります」


俺は頷いた。


「よし。必要以上に目立たない航行プロファイルを使ってくれ」


「承知しました」


ヴェスペラは続いて、計算結果をセラフィエルへ送信した。


数秒が経過する。


セラフィエルは航路を確認すると、小さく微笑んだ。


「紬。到着予定時刻について、1つお伝えしておきたいことがあります」


「何か問題でも?」


「いいえ。むしろ、その逆です」


彼女が2つの所要時間の予測を表示した。


「一般向け航法サービスに記載された推定時間は、従来型の星系間航行船の性能を基準に算出されています。しかし、アストレオン・ヴェロリアのFTL能力は、その基準を大きく上回っています」


俺は瞬きをした。


「ああ。そういえば、そうだったな」


セラフィエルが微笑んだ。


「ご自分の艦の性能を、忘れかけていましたか?」


「忘れてたわけじゃないよ。交易用端末に表示される所要時間を見慣れちゃってただけだ」


ヴェスペラが小さく笑った。


「私も、艦の実際の性能に合わせた調整を計算済みです」


セラフィエルが続ける。


「ヴェスペラが準備した航路を使用すれば、一般的な所要時間の予測より、はるかに早く到着できます。ドラウヴェル鉱業星系に設定された進入地点の境界から、約1,000キロメートル手前でFTLを終了し、その後は現地の交通手順に従って、通常推進システムで航行することをお勧めします」


俺は投影画面を見た。


「どうして、その距離を選んだんだ?」


ヴェスペラが答える。


「遷移の完了、センサー確認、そして産業交通航路へ入る前の速度調整に、十分な余裕を確保するためです」


セラフィエルが補足した。


「また、アストレオン・ヴェロリアのFTL能力を、すべて外部へ明かす必要もありません。公共航法システムへは、進入に必要な情報のみを送信します」


俺は頷いた。


「なるほどな。合理的だ」


レアが投影画面を見つめた。


「つまり、もっと早く着けるってこと!?」


「そのとおりです」とセラフィエルが答えた。


「じゃあ、すぐに鉱業港が見られるね!」


カリスタが振り向いた。


「港を見るだけだよ。到着してすぐ任務を始めるとは限らないからね」


「わかってるって!」


「ならいいけど。私はまだ、MCV-01の作戦装備の点検を終わらせないといけないからね」


俺はセラフィエルを見た。


「ヴェスペラの航路を使おう。ただし、速く行けるからって最短時間ばかり追い求める必要はないぞ」


「承知しました。安全性、艦の能力の秘匿、そして現地の進入手順の遵守を優先します」


「よし」


俺は艦長席に身体を預けた。


「それじゃあ、オリセーヌを出発しようか」


セラフィエルが外部通信回線を開いた。


『ヴェイラス・ランタン軌道管制、こちらアストレオン・ヴェロリア。ドラウヴェル鉱業星系へ向けたドッキング解除、および出航許可を要請します』


しばらくして、返答が届いた。


『アストレオン・ヴェロリア、出航計画を確認しました。送信する離脱回廊に従ってください。ヴェイラス・ランタン・リゾートをご利用いただき、ありがとうございました』


俺は小さく微笑んだ。


「どうやら、本当に休暇も終わりだな」


事務処理用端末の近くに立っていたランが頷いた。


「リゾートに関する支出は、すべて精算済みです。未払いの債務もありません」


セラフィエルも付け加える。


「ドローン事件に関する保安協力の資料も、別途アーカイブ済みです。こちらに提出責任のある証拠については、すでにリゾート側が受領しています」


「よし。もう、ここに留まる理由はないな」


レアがメインスクリーンを見つめた。


「さようなら、オリセーヌ! 絶対また来るからね!」


カリスタが笑った。


「まるで惑星に声が届くみたいな言い方だね」


「いいの!」


ヴェスペラは微笑みながら、航法手順を起動した。


「離脱回廊を受信しました」


俺は頷いた。


「ドッキング解除」


『承知しました、紬』


アストレオン・ヴェロリアは、ゆっくりとリゾートの軌道施設を離れていった。


メインスクリーンの中で、ヴェイラス・ランタンの構造物が次第に遠ざかっていく。


その背後には、まだ美しい惑星オリセーヌが見えていた。


俺はしばらく、その景色を眺めていた。


途中でドローン事件に邪魔されたとはいえ、今回の休暇には十分満足している。


みんなで一緒の時間を楽しめたのだから。


そして何より、俺たちの旅は、必ずしも仕事ばかりで埋め尽くす必要はないのだと、少しずつ理解できてきた気がする。


ときには立ち止まることも、俺が求めていた自由の一部なのだろう。


オリセーヌの交通管制区域を離脱すると、ヴェスペラはFTL遷移の準備に入った。


「航路の検証は完了しています。設定された遷移区域内に、ほかの船舶は存在しません」


セラフィエルが最終報告を確認する。


「推進システム、準備完了。全パラメータは安全範囲内です」


俺はメインスクリーンを見つめた。


「実行してくれ」


「承知しました、紬」


正面に広がる星々の光が、変化し始めた。


そしてアストレオン・ヴェロリアは、ドラウヴェル鉱業星系へ向けたFTL航行に入った。


俺は背もたれに身体を預けた。


「さて。これで、次の仕事について調べる時間ができたな」


ランがすぐに契約書類を開いた。


「概要はすでに準備してあります」


レアが即座に近づいてくる。


「私も見る!」


カリスタがため息をついた。


「モビルフレーム・パイロットの項目は、もう読んだんだろ?」


「ほかの部分も読みたいんだよ!」


俺は微笑んだ。


「いいことだ。今回はクルー全員の連携が必要になるからな」


傭兵協会の支部から届いた書類は、かなり詳細なものだった。


ランは指揮デッキに接続された小会議スペースの投影画面へ、主要な情報を表示した。


MERCENARY ASSOCIATION — CONTRACT OFFER


| 項目 | 情報 |

| ----- | ------------------------------------- |

| 契約コード | C-136-MN |

| 依頼主 | ドラウヴェル鉱業協同組合 |

| 業務種別 | 貨物回収 |

| 主な任務 | 行方不明となったデータコンテナおよび調査機材の捜索・確保 |

| 総報酬 | 780,000 GC |

| ボーナス | 全機器を特定し、合意された状態で引き渡した場合、条項に基づき追加報酬を支給 |

| 危険度 | 中~高 |

| 運用要件 | モビルフレーム・パイロット |

| 制限事項 | 契約一覧に含まれない採掘物の占有、および物品の押収は禁止 |

| 状態 | 募集中――未受諾 |


俺は報酬の数字に目を留めた。


「総報酬780,000 GCか……」


ランが頷いた。


「はい。かなり大きな金額ですが、それをそのまま純利益と考えてはいけません」


「わかってるよ」


「実際の純収益を把握するには、運用費、MCV-01の使用に伴う費用、モビルフレームの整備費、そして追加支出が発生する可能性も考慮する必要があります」


俺は微笑んだ。


「絶対に忘れさせてくれないんだな」


「もちろんです」


セラフィエルがボーナス条項を拡大した。


「追加報酬についても、現時点では収入として扱えません。すべての機器について特定・引渡しの条件を満たし、依頼主から正式な承認を受けた場合にのみ、ボーナスが適用されます」


俺は頷いた。


「よし。確実な収入の予測には入れないでくれ」


ランが満足そうに微笑んだ。


「だいぶ慣れてこられたようで、嬉しいです」


俺は彼女へ顔を向けた。


「厳しい先生に教わってるからな」


「お褒めの言葉として受け取っておきます」


レアが手を上げた。


「質問!」


「どうぞ」


「もし目標のコンテナを見つけても、その近くに別の採掘物があったら、それは持って帰っちゃ駄目なんだよね?」


俺は頷いた。


「そのとおり」


ランがさらに説明する。


「今回の契約で認められているのは、任務一覧に記載された対象物の発見と確保だけです。採掘物やほかの設備、所有権が不明な物品が、自動的に私たちのものになるわけではありません」


レアは少し考えた。


「じゃあ、いかにも高そうな大きいコンテナがあっても、そのままにしておかないといけないんだ?」


「適切な許可や正式な指示がない限りは、そうだな」


「了解!」


カリスタがにやりと笑った。


「いい子だね。形が面白いからって、採掘機械を持って帰ってくるんじゃないよ」


「そんなことしないもん!」


俺は小さく笑った。


だが、契約の詳細を読んでいくうちに、危険度が中~高と設定されている理由も少しずつわかってきた。


今回の仕事は、倉庫に置き忘れた荷物を取りに行くだけではない。


行方不明となったデータコンテナや調査機材は、到達が難しい産業施設の中にある可能性がある。


そして、モビルフレーム・パイロットが必要とされている以上、通常の技術チームだけでは解決できない物理的、あるいは運用上の障害が想定されているのだろう。


俺はセラフィエルを見た。


「機材が行方不明になった原因について、情報はあるか?」


「初期書類には、公式な結論は記載されていません。詳しい情報は、ドラウヴェル鉱業協同組合との検証手続きが完了した後に提供される予定です」


「なら、憶測で決めつけるのはやめておこう」


「承知しました」


航行中、カリスタからMCV-01の格納庫へ来てほしいと連絡があった。


俺はレアを連れて向かった。


到着すると、多目的支援艦は所定の位置に収まっていた。


ナマリスでの作戦後に点検を受けた船体は、今も綺麗な状態を保っている。


カリスタは整備端末の近くに立っていた。


「紬。初期の出動準備点検が終わったよ」


「結果はどうだ?」


「MCV-01は作戦可能な状態だ。前回の戦闘による構造的な損傷もない。ただし、鉱業環境での貨物回収には、船団護衛とは違う準備が必要になるね」


レアが近づいた。


「何を変える必要があるの?」


カリスタが装備一覧を表示した。


「まず、貨物固定装置とコンテナの取り扱い補助機材が、回収対象の仕様に合っているか確認しないといけない。次に、金属構造物が多く、産業設備からの干渉も考えられる環境に合わせて、モビルフレームのセンサーを調整する必要がある。それから、採掘施設の近くでスラスターの使用制限があるかどうかも確認しなきゃね」


俺は頷いた。


「まだ完全な作戦区域の地図は受け取ってないからな」


「そういうこと。だから、特別な構成を今すぐ恒久的に取り付けるつもりはないよ。現地の情報を受け取った後で使える選択肢だけ、先に準備しておく」


レアは、自分のモビルフレームの投影図を見つめていた。


「狭い通路に入るなら、外付け装備の一部は使用を制限したほうがいいかもしれないね」


カリスタが振り向いた。


「おっ。いい考えじゃないか」


レアがすぐに微笑んだ。


「当然!」


俺は彼女を見た。


「それと忘れるなよ。今回は物品の回収が主目的だからな。敵を探しに行くわけじゃないぞ」


「わかってるよ、紬」


彼女は目標コンテナの投影図を見つめた。


「壊さずに何かを取り出さなきゃいけないなら、モビルフレームの動きにも、いつも以上に気をつけないとね」


俺は頷いた。


「そのとおりだ」


カリスタが腕を組んだ。


「それに、今のあんたはただのパイロットじゃない。MCV-01の現場指揮官でもあるんだよ。自分の機体のことばかり考えるんじゃないからね」


レアは少し黙った。


それから、先ほどより真剣な表情で頷いた。


「支援艦の状態も、クルーの位置も、避難経路もちゃんと確認するよ」


カリスタが満足そうに微笑んだ。


「よし。だったら現地へ到着して位置情報を受け取った後は、あんたにも作戦計画の立案に参加してもらうよ」


「了解!」


俺は2人の様子を見守っていた。


レアは今でも、\*モビルフレーム\*という言葉を聞くと、すぐに目を輝かせる。


だが、少しずつではあるものの、確かな成長を見せ始めていた。


戦闘が得意なパイロットとしてだけではない。


ほかの人間に対する責任を理解する、1人の指揮官として。


FTL航行は何の問題もなく続いた。


俺は一度グランドサロンへ戻り、クルーと昼食を取った。


その後、設定された離脱地点が近づいているとセラフィエルから報告を受け、俺たちは再び指揮デッキへ戻った。


ヴェスペラは航法ステーションに座っていた。


「紬。航路の終端に近づいています」


「離脱地点の状況は?」


「直近の航法確認では安全です。遷移後は、選定した進入地点の境界から約1,000キロメートル手前に出ます。その後、ドラウヴェルへの進入回廊に向けて航行を続けます」


セラフィエルが頷いた。


「遷移に関する全パラメータは、安全範囲内です」


俺はメインスクリーンを見つめた。


「よし。予定どおりFTLを終了してくれ」


「承知しました」


正面の光景が変化する。


ほどなくして、星々の景色が通常の姿へ戻った。


アストレオン・ヴェロリアは、ドラウヴェル鉱業星系の進入区域へ到着したのだ。


俺はメインスクリーンを眺めた。


遠方では、いくつもの光点が施設間の交通航路に沿って動いている。


セラフィエルがすぐにセンサーの確認結果を表示した。


「遷移完了。位置は計画航路と一致しています」


ヴェスペラが頷いた。


「カルヴォス軌道産業港へ向けて、進入航路を調整します」


俺は小さく微笑んだ。


「本当に、一般向けの所要時間予測よりずっと早いな」


セラフィエルが振り向いた。


「それも、アストレオン・ヴェロリアの優れた点の1つですよ、紬」


「わかってるよ。でも、使うたびに少し感動するんだ」


彼女は柔らかく微笑んだ。


「そう言っていただけて嬉しいです」


17日目。


俺たちは、カルヴォスの産業交通区域へ入っていた。


そしてメインスクリーンに映し出された景色は、オリセーヌとはまるで違っていた。


オリセーヌが豪華な観光施設やビーチ、訪問客の快適さを第一に設計された建築物で満ちていたとすれば、カルヴォスは銀河文明のまったく別の顔を見せていた。


惑星の表面は、灰色や濃い茶色、そして各地の産業区域から放たれる金属質の輝きに支配されている。


その軌道上では、数多くの施設が巨大で忙しいネットワークを形成していた。


鉱石処理ステーション、資材輸送ターミナル、重量物輸送路、そして大型産業船を取り扱う貨物港。


巨大なコンテナを積んだ輸送船が、ゆっくりと航行している。


遠くには、軌道採掘施設が専用輸送路を介して保管施設につながっている様子も見えた。


レアがスクリーンへ近づいた。


「わあ……」


俺は顔を向けた。


「どうした?」


「すっごく大きいね」


カリスタが頷いた。


「これが大規模な鉱業星系の本当の姿さ。ただ資源を掘り出すだけじゃない。加工して、保管して、いろんな地域へ送り出すところまで、全部そろってるんだよ」


ヴェスペラが地図を拡大した。


「交通量もかなり多いですね。重量物輸送船専用の回廊がいくつかあります。産業活動を妨げないよう、指定された航路に従う必要があります」


俺は頷いた。


「艦の機動性能を、必要以上に使わないようにな。競争してるわけじゃないんだから」


「承知しました」


セラフィエルが通信回線を開いた。


『カルヴォス軌道産業港交通管制、こちらアストレオン・ヴェロリア。進入およびドッキング区画の指定許可を要請します』


船舶の識別情報が確認された後、返答が届いた。


『アストレオン・ヴェロリア、到着情報を受信しました。送信する産業用進入回廊に従ってください。登録された船体寸法に合わせて、大型船用のドッキング施設を準備します』


俺は小さく微笑んだ。


「少なくとも、今回は大型船の受け入れに慣れてるみたいだな」


カリスタがにやりと笑った。


「ここは産業港だからね、紬。大型貨物船を扱えないんじゃ、仕事にならないだろ?」


「それもそうか」


進入許可を受けた後、ランが傭兵協会の書類を開いた。


「紬。契約C-136-MNへの参加意思登録を準備しました」


「もう送信できるのか?」


「可能です。ただし、これは最終的な契約受諾ではないことを、改めて申し上げておきます。あくまで関心があり、依頼主との検証手続きに参加する意思があると表明するだけです」


俺は頷いた。


「よし。送ってくれ」


ランが端末を操作した。


しばらくして、通知が表示される。


MERCENARY ASSOCIATION — INTEREST REGISTRATION


| 項目 | 状態 |

| ---------- | ---------------- |

| 契約 | C-136-MN |

| 申請者 | 星崎紬/アストレオン・ヴェロリア |

| 参加意思登録 | 送信済み |

| 依頼主による資格確認 | 待機中 |

| 最終契約受諾 | 未実施 |


レアがすぐに近づいてきた。


「じゃあ、もう仕事が決まったの!?」


「まだですよ」とランが答える。


「えっ?」


「現時点では参加意思を登録しただけです。依頼主による資格の確認と、作戦条件の詳細な説明が、まだ残っています」


俺はレアの肩を軽く叩いた。


「焦るなって。もうドラウヴェルには着いたんだ。あとは、本当に俺たちの能力に合った仕事なのか確かめるだけだよ」


レアが頷いた。


「了解!」


続いてセラフィエルが、港湾側から新たに受信した情報を表示した。


「紬。ドラウヴェル鉱業協同組合の担当者から、ドッキング手続き完了後に初回の面談に応じられるとの通知が届いています」


俺はランへ顔を向けた。


「よし。すぐに条件を確認できそうだな」


「支払条件、損傷時の責任範囲、現場へのアクセス権、回収対象の引渡し手順について、質問事項を準備しておきます」


「ありがとう」


アストレオン・ヴェロリアは、やがて指定されたドッキング施設へ進入した。


メインスクリーンからは、別のドックに停泊する大型貨物船がいくつも見えた。


分厚い船体を持つ鉱石運搬船、産業用コンテナを積んだ物流船、それから比較的小型の支援船。


この港の雰囲気は、オリセーヌの観光施設と比べると、はるかに慌ただしく、重厚なものだった。


ドッキング手続きが完了した後、俺たちはドラウヴェル鉱業協同組合が用意した会議室へ向かった。


正式な作業服に身を包んだ、灰色の髪の男性が俺たちを出迎えた。


『カルヴォス軌道産業港へようこそ。ドラウヴェル鉱業協同組合の回収作戦コーディネーター、ギャリック・ヴェルドです』


俺は軽く頭を下げた。


「星崎紬です。よろしくお願いします」


ギャリックは、ラン、セラフィエル、ヴェスペラ、レア、カリスタの顔を順番に見た。


『お越しいただき、ありがとうございます。契約C-136-MNへの参加意思登録は、すでに受領しております』


ランがすぐに端末を開いた。


「最終的な承認を行う前に、いくつか業務内容の詳細を確認させていただきたいのですが」


『もちろんです。どうぞ』


俺たちは会議用テーブルを囲んで席についた。


ギャリックがカルヴォスの鉱業施設の地図を表示する。


「書類に記載されているとおり、今回の主な任務は、行方不明となったデータコンテナと調査機材を発見し、確保することです」


俺は地図を眺めた。


「機材が行方不明になった原因は?」


ギャリックがため息をついた。


『そこが、現在も調査を続けている部分なのです。最後の輸送記録は残っていますが、機材は本来の受入地点へ到着していません』


ランが顔を上げた。


「契約書に記載された対象物については、すべて所有権の確認が済んでいますか?」


『はい。すべてドラウヴェル鉱業協同組合の運用資産です。識別番号と所有権を証明する書類も提供できます』


「結構です。また、私たちのチームに、任務一覧に記載されていない採掘物やその他の物品の占有を求めることはない、と確認させてください」


ギャリックが頷いた。


『それは、こちらの契約上の制限事項にもなっています。必要なのは、行方不明となった機材だけです』


俺は彼を見た。


「危険度についてはどうでしょう? 書類には中~高とありますが」


ギャリックは、複数の工業区域が表示された地図の一部を拡大した。


『いくつかの要因があります。採掘施設の構造、重量物輸送路、アクセス上の制限、それから、現在は使用されていない設備の状態です。そのため、モビルフレームを運用できるチームを必要としています』


レアがすぐに姿勢を正した。


「では、モビルフレームを使って現場へ入り、コンテナを確保することになるんですか?」


ギャリックは彼女を見た。


『その可能性は高いでしょう。ただし、詳しい位置情報をお渡しした後で、技術的な要件について説明します』


俺は頷いた。


「わかりました。詳細な情報を受け取るまでは、作戦用の機体構成も決定しないことにします」


カリスタが小さく微笑んだ。


「それがいいね」


続いて、話し合いは支払条件へ移った。


ランが会話を引き継ぐ。


「総報酬は780,000 GCと記載されています。この金額は、対象物一覧に従って任務を完了した場合の基本報酬という認識でよろしいでしょうか?」


『そのとおりです』


「また、ボーナスは全機器の特定に成功し、追加条項の条件を満たした状態で引き渡した場合にのみ支給される、ということですね?」


『はい。コンテナの位置を発見しただけで、追加報酬が自動的に発生するわけではありません』


ランが頷いた。


「結構です。その点について、認識の相違がないようにしておきたかったものですから」


俺はギャリックを見た。


「引渡しの手順は、どうなっていますか?」


『回収された対象物は、すべて正式な識別番号を使用して照合します。状態と所有権の確認が完了した後、協同組合側が受領確認書を発行します』


「合理的ですね」


続いてセラフィエルが質問した。


「捜索地点に関係する、稼働中および稼働停止中の施設の地図を提供していただけますか? 許可なく危険区域へ進入することがないよう、確認しておきたいのです」


ギャリックが頷いた。


『もちろんです。作戦の認可手続きが完了した後で、お渡しします』


ヴェスペラが投影画面を見つめた。


「私も、現在稼働中の採掘区域、使用されている輸送路、航行制限が設けられた区域について、情報をいただきたいと思います」


『ご提供できます』


俺はクルー全員を見渡した。


今のところ、条件はかなり明確になってきている。


だが、まだ1つ、知っておきたいことがあった。


「ギャリックさん。その機材が最後に確認されたのは、どこですか?」


彼は少し黙った。


それから、新しい画面を起動した。


地図上に、産業用の輸送路が表示される。


保管区域から、主要施設からかなり離れた採掘セクターへと伸びる経路だ。


その一部には、異なる色で印がつけられていた。


ギャリックは、そのうちの1か所を指差した。


『現在までに検証できた最後の記録によれば、データコンテナと調査機材が最後に確認されたのは、すでに使用されていない輸送路の上です』


俺は眉をひそめた。


「閉鎖された輸送路ですか?」


『はい』


ヴェスペラがすぐに地図を拡大した。


「その経路は、現在稼働している鉱業施設と、まだつながっているのですか?」


『構造上は、一部の経路が接続されたままです。ただし、通常の輸送業務はすでに停止されています』


カリスタが腕を組んだ。


「だったら、ユニットを進入させる前に、構造物の状態を確認する必要があるね」


レアは真剣な表情で地図を見つめていた。


「もしコンテナがそこにあるなら、通路や目標物を傷つけずにモビルフレームを動かせるか、ちゃんと確認しないとね」


俺は頷いた。


「そうだな」


セラフィエルが地図上に位置マーカーを表示した。


1つのセクター名が浮かび上がる。


ABANDONED EXTRACTION SECTOR K-17


閉鎖採掘セクター K-17


俺はその文字を見つめた。


「K-17……」


ギャリックが頷いた。


『今回の契約を受諾していただけるのであれば、さらに詳しく調査していただきたいのが、そのセクターです』


俺は背もたれに身体を預けた。


オリセーヌの豪華なリゾートから、今度は慌ただしい鉱業の中心地へ。


そして、俺たちを待っていた最初の仕事は、長らく使用されていない輸送路へとつながっていた。


俺はランを見た。


「どう思う?」


ランは支払条件の書類を閉じた。


「事務手続き上は、作戦条件の検証段階へ進むのに十分な程度まで、内容が明確になっています。ただし、最終的に契約を受諾する前に、すべてのアクセス許可と安全管理上の責任範囲を、書面で確認しておきたいですね」


俺は頷いた。


「同感だ」


それから、ギャリックへ顔を向けた。


「C-136-MNについては、引き続き前向きに検討したいと思います。ただし、最終的な承認を出す前に、K-17の区域地図、避難経路、それから回収対象物の完全な一覧を確認させてください」


ギャリックは安堵したように微笑んだ。


『もちろんです、星崎艦長。すべて準備いたします』


俺は再び、投影されたセクターの地図を見つめた。


すでに使われていない輸送路。


行方不明のデータコンテナ。


本来の受入地点へ到着しなかった調査機材。


そして、モビルフレーム・パイロットを必要とする任務。


どうやら次の仕事は、倉庫に置き忘れた荷物を取りに行くほど単純なものではなさそうだ。


だからこそ、しっかり準備して臨まなければならない。


【次回・第137話】


「閉鎖された採掘区画」


閉鎖された採掘セクター――アクセス許可と避難経路を確認した後、アストレオン・ヴェロリアのチームは閉鎖採掘セクターK-17へ進入する。初期調査によって、ドラウヴェル鉱業協同組合の機材が行方不明になった原因は、単なる産業事故ではない可能性が浮かび上がる。


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