【第125話】「連絡を絶った調査船」
【第125話】「連絡を絶った調査船」
ヴェルドラコン出航後・4日目 場所:イリリオン・ヴェスタ軌道港 → イリリオン外縁調査帯 POV:星崎紬
輸送の仕事を引き受けるとき、俺がいつも避けたいと思っていることが1つある。
目的地に到着してから、契約内容を変更されることだ。
もちろん、追加の依頼がすべて悪いと言っているわけじゃない。現場の状況が当初の計画と異なることは、ときどきある。届ける荷物に特別な取扱いが必要になったり、受入予定が変更されたり、依頼主が予想していなかった問題を解決するために助けを必要とする場合だってあるだろう。
問題は、ちょっとした手助けと追加の仕事は、別物だということだ。
最初の契約に関係しているからという理由だけで、頼まれたことを何でも引き受けていたら、いつか俺は、コンテナを1つ運ぶ仕事のはずが、港湾施設を修理し、行方不明の船を探し、挙げ句の果てには星系全体の保安問題まで解決する羽目になるかもしれない。
報酬はコンテナ1つを運んだ分だけで。
そんな傭兵生活を送るつもりはなかった。
「紬、イリリオン・ヴェスタ軌道港からドッキング位置の割り当てが届きました。協同組合からも、契約書に記載された引渡施設で受入チームが待機するとの確認を受けています」
俺は端末から顔を上げた。
セラフィエルは艦長席のそばに立ち、ヴェスペラは軌道施設へ向けた最終的な航路調整を進めていた。
「さっき呼びかけに応答しなかった調査船は?」
「その船からの直接的な応答は、まだ確認できていません。イリリオン調査協同組合からは、予定どおり輸送を続けるよう求められています。受入手続きが完了した後で、説明するとのことです」
「わかった。原因もはっきりしない通信上の問題だけで、俺たちの航路まで変更する必要はないからな」
「了解しました、紬」
ヴェスペラが航法席から振り向いた。
「現在、承認済みの接近回廊内を航行しています。軌道港へ向かう経路に、新たな制限はありません。管制官の指示に従ってドッキングを完了させます」
「頼むよ」
俺は再びパノラマスクリーンへ目を向けた。
イリリオン・ヴェスタは、FTLから離脱した直後と比べて、ずっと大きく見えるようになっていた。軌道施設の下には惑星の地表が広がり、大気の層が現地の恒星から届く光を反射している。
交通回廊の間では、数隻の輸送船やサービス艇が、それぞれのターミナルへ向かって移動していた。
なかなかいい景色だ。
片づけなければならない仕事さえなければ、セラフィエルに頼んで、惑星を眺められる展望室か、窓の大きなレストランでも探してもらっていたかもしれない。
けれど、今は契約のほうが大事だ。
少なくとも、引渡証明を受け取るまでは。
アストレオン・ヴェロリアのドッキングは、何の支障もなく完了した。
貨物へのアクセス許可が下りると、イリリオン調査協同組合の受入チームが、指定されたターミナル通路を通ってやってきた。
俺は直接降りて、機材を運ぶ作業には参加しなかった。
そもそもその必要がないし、取扱手順も理解しないまま突然荷物の移動を手伝おうとしたら、カリスタに追い払われる可能性が高い。
その代わり、俺はランとセラフィエルと一緒に、貨物管理エリアにいた。
レアは保安面から搬出作業の監督を手伝い、カリスタは受取担当者へ引き渡す前の機材状態の確認を担当している。
セレヴェインから運んできた技術者も、その場に立ち会っていた。
仲間たちと再会した彼は、ずいぶん安心した様子だった。
『星崎艦長、快適な航行をありがとうございました。出航前に送られた貨物目録と機材の一覧を照合するため、私もこちらのチームを手伝います』
「お願いします。こちらも事業者側として確認を行います。すべての貨物が、最初の記録と一致する状態で受領されるようにしたいので」
『もちろんです』
続いて、協同組合の代表者が、今回の契約の受入責任者として自己紹介した。
彼は事務用端末を持っており、C-121-SVの書類を開く許可を求めてきた。
『星崎艦長、到着通知は受領しております。完了書類へ署名する前に、人員の身元、機材の数量、および輸送時の状態を確認させていただきます』
「問題ありません。セレヴェインでの初期受領記録も、すべて用意してあります」
ランが必要な書類を正式な回線を通じて送信した。
担当者はそれを確認してから、頷いた。
『書類は揃っています。現物検査の結果と照合させていただきます』
俺は展望窓の近くに立ち、その作業を見守った。
眼下では、調査機材が貨物取扱車両によって受入施設へ運ばれている。不審な動きは見られなかった。担当者たちは決められた順序に従って作業し、各貨物の識別情報を確認してから承認を出していた。
最初の検査が終わると、カリスタから報告が届いた。
『紬、機材の状態は出航時の記録と一致している。引渡し検査でも損傷は見つかっていないよ。今は受取側が数量と貨物の識別情報を確認し終わるのを待っているところだ』
「よし。向こうが全部確認するまでは、輸送記録を閉じないでくれよ」
『わかってる。そんなことまで、いちいち言わなくていいから』
「艦長としての責任を果たしているだけなんだけど」
『だったら、今のあんたの責任は、私にこの仕事を最後までやらせることだね』
通信回線が閉じられた。
俺はしばらく端末を見つめた。
セラフィエルが微笑んだ。
「カリスタは集中しているようですね」
「それはわかったよ」
隣に立つランは、笑いをこらえているようだった。
どういうわけか、俺が責任感のある艦長らしく振る舞おうとするたびに、誰かが自分の担当する仕事くらい、ちゃんと理解していると教えてくれる。
すべての機材の検査が終わると、引渡し手続きも完了した。
貨物の紛失はない。
識別情報の不一致もない。
輸送してきた技術者も、協同組合側の受入手続きを終えている。
イリリオン調査協同組合の代表者が、事務用端末を通じて完了書類を送信してきた。
契約 C-121-SV――配送完了確認
| 項目 | 結果 |
| -------- | ----------- |
| 目的地 | イリリオン・ヴェスタ |
| 人員 | 技術者1名――受入完了 |
| 調査機材 | 貨物目録と一致 |
| 貨物の状態 | 初期受領記録と一致 |
| 人員・貨物の損失 | なし |
| 引渡証明 | 署名済み |
| 航行報告書 | 提出済み |
| 業務状態 | 完了――支払確認待ち |
俺は結果をもう一度読んでから、事業者として署名した。
「よし。こちらとしては、契約に定められた輸送義務をすべて履行しました」
『当方もそれを確認いたしました、星崎艦長。ご対応ありがとうございました』
ランは書類の写しを財務記録へ保存した。
「総報酬額180,000 GCは、支払事務の完了を待つ契約収入として記録しておきます。最終的な収支計算がほかの取引と混ざらないよう、今回の旅費もすべて分けて管理しますね」
「よし。少なくとも、ヴェルドラコンを離れてからの最初の仕事は、無事に終わったな」
「私も満足しています。目的地の変更や貨物目録の不一致による追加費用も発生しませんでしたから」
俺は頷いた。
本来なら、この後はアストレオン・ヴェロリアへ戻り、美味しいものでも食べてから、次の旅へ出る前にイリリオン・ヴェスタへ少し滞在するかどうか、のんびり考えられるはずだった。
本来なら。
けれど、俺が端末を閉じようとしたとき、協同組合の代表者が少しためらうような様子を見せた。
『星崎艦長、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか? 別件でご相談したいことがあるのですが』
俺は手を止めた。
ああ。
その言い方か。
最近、どうにも相性が悪くなってきた言葉だ。
「相談だけなら構いませんよ。ただ、今回の輸送契約はすでに完了しています。追加の仕事があるなら、C-121-SVとは切り離して話を進めたいんですが」
『もちろんです。こちらも、たった今完了した契約の義務を変更するつもりはございません』
ランがちらりと俺を見た。
何も言われなくても、その視線が何を意味しているのかはわかった。
書類を読む前に、何も引き受けないでください。
俺は小さく頷いた。
わかっているよ。
俺たちは、貨物受入施設に接続された協同組合の相談室へ案内された。
それほど豪華な部屋ではない。いくつかの作業端末にはイリリオンの調査区域の地図が表示され、壁の大きなスクリーンには船舶の活動情報と運用予定が映し出されていた。
協同組合の代表者が、俺たちに着席を勧めた。
セラフィエルは俺の隣に座り、ランは端末を開いた。レアとヴェスペラも、それぞれの仕事を終えて合流している。
カリスタは貨物搬出後の確認作業を終えるため、アストレオン・ヴェロリアに残っていたが、追加業務に関する相談があるかもしれないという通知は受け取っていた。
「それじゃあ」と俺は切り出した。「相談というのは、どんな話ですか?」
担当者は1つの書類を開いた。
『当協同組合が所有する小型調査船の1隻が、イリリオン独立星系の外縁領域にある小惑星航路へ進入した後、通信を絶ちました』
俺はすぐに、セレヴェインで見た通知を思い出した。
「俺たちの到着調整書類に、識別情報が記載されていた船ですか?」
『そのとおりです。本来であれば、その船は調査活動を終えて運用状況の更新情報を送ってくる予定でした。しかし、定刻の報告はまだ届いておりません。登録済みの回線を通じた呼びかけにも、応答がありません』
「最後に確認可能な情報を受け取ったのは、いつですか?」
担当者は通信記録を表示した。
『その船が作業区域である小惑星航路の一部へ進入する前に送信した、最後の位置情報と運用報告が残っています。それ以降、通信は正常に行われていません。標準手順に従って連絡を試みましたが、乗員や機材の状態について、直接の確認はまだ取れていないのです』
ヴェスペラが地図を拡大した。
「その船が使用していた航路は、現在、一般交通に対して閉鎖されている調査区域に含まれていますか?」
『はい。状況が確認されるまで、運用上の必要性がない船舶が進入することを避けるため、制限を設けています』
「その船が攻撃を受けたという証拠はあるんですか?」と俺は尋ねた。
担当者は首を横に振った。
『まだありません。推測を事実としてお伝えすることは避けたいと考えています。以前から複数の調査船によるセンサー障害の報告はありますが、その原因も特定できていません。今回の通信途絶が、それらの報告と直接関係しているのかどうかも、現時点では不明です』
少なくとも、情報の伝え方は慎重なようだ。
証拠もないのに自信満々な説明をする依頼主よりも、何がわかっていないのかをきちんと認めてくれる依頼主のほうが、俺は好きだった。
レアが少し身を乗り出した。
「通信システムや推進機関が故障した可能性は? もしその船が最後の位置の近くに残っているなら、小惑星帯の全域へ入らなくても捜索できるかもしれないよね」
『その可能性も検討しています。ただ、直接の応答がない以上、現地での確認が必要なのです』
俺はセラフィエルへ視線を向けた。
「どう思う?」
「提示された情報だけでは、まだ区別できない可能性がいくつもあります。捜索方法を決定する前に、より詳細なセンサー記録と通信データが必要です。初期報告だけで通信途絶の原因を断定することは、お勧めしません」
「俺も同意見だ」
俺は協同組合の担当者へ向き直った。
「つまり、その船の捜索を俺たちに依頼したい、ということですか?」
『はい、星崎艦長。傭兵協会を通じて、別途捜索契約をご提案したいと考えています』
ランがすぐに顔を上げた。
「それでしたら、決定を下す前に、業務範囲、事業者の責任、報酬、ボーナス条件、そして活動区域の境界を確認する必要があります」
担当者は頷いた。
『書類はすでに用意しております』
新しい書類がテーブルの中央に表示された。
今度の契約額は、たった今完了した輸送の仕事よりも大きかった。
傭兵協会――追加契約募集
| 項目 | 詳細 |
| ---------- | --------------------------- |
| 契約コード | C-124-RS |
| 依頼主 | イリリオン調査協同組合 |
| 分類 | Cランク |
| 活動区域 | イリリオン外縁調査帯 |
| 主業務 | 通信を絶った調査船の発見 |
| 契約範囲内の追加業務 | 調査データの保全 |
| 総報酬額 | 420,000 GC |
| 回収ボーナス | 規定条件に従い、データと人員の回収に成功した場合に適用 |
| 活動範囲の制限 | 契約に指定された区域 |
| 状態 | 事業者の承認待ち |
俺は表示された情報をすべて読んだ。
420,000 GC。
小惑星帯の外縁部で行う捜索業務としては、先ほどの輸送契約よりも当然ながら高額だ。
けれど、報酬が大きければ大きいほど、実際に何をしなければならないのかを理解することが重要になる。
「1つ確認させてください」と俺は言った。「俺たちの主な目的は、調査船を発見し、協同組合が管理するデータを保全することですよね。もし不審な活動を発見した場合、正体不明の船を追跡する義務まで、この契約に含まれていますか?」
『いいえ。追加の許可なく、指定された活動区域の外まで正体不明の船を追跡することは認められていません』
「よかった。では、調査船が救助を必要とする状態で見つかった場合は?」
『現地の状況に応じて、人員の安全を優先していただきます。また、データと人員の回収に成功した場合には、契約上、回収ボーナスが設けられています。確認条件と支払条件については、追加書類に記載されています』
ランはすぐにそのページを開いた。
「受諾する前に、そちらの条件も確認させてください。人員とデータの回収が何を意味するのか、解釈の相違が生じることは避けたいので」
『もちろんです』
俺はランに書類を読んでもらうことにした。
その間、ヴェスペラは地図上に表示された活動区域の境界を確認していた。
「紬、捜索区域は小惑星帯の外側に位置しています。初期観測を行うために、アストレオン・ヴェロリアを天体の密集度が最も高い場所へ進入させる必要はありません。安全な距離を維持しながら、指定区域をセンサーで観測できる接近経路を準備できます」
「閉鎖中の航路は、今回の作戦に限って開放されるのか?」
ヴェスペラが答えるより先に、協同組合の担当者が口を開いた。
『契約が受諾されれば、記載された捜索区域に対する限定的な活動許可が発行されます。ただし、その許可によって調査区域全体へ自由に進入できるわけではありません』
「それで十分です。仕事の範囲に含まれていない場所へ入るつもりはありませんから」
レアは地図を見つめた。
「小型船が小惑星の間で故障しているなら、近距離での確認にはモビルフレームのほうが柔軟に動けるかもしれないね。でも、実際の状況がわかるまでは、発進が必要かどうか決めたくないな」
「そのとおりだ。何かを発見する前から、救助方法を決めるのはやめよう」
「わかってるよ、紬」
続いてセラフィエルが、契約審査に必要なアストレオン・ヴェロリアの公開登録データを開いた。
「運用面では、艦の公開登録上の構成を変更せずに初期捜索を実施できます。ただし、協同組合から提供される航法データとセンサー障害の報告については、作業中も直接観測の結果と照合することをお勧めします」
「そうしてくれ。最新の状況と一致していないかもしれない地図だけを頼りに、小惑星帯へ入るのは嫌だからな」
話し合いは、かなり長く続いた。
ランは支払手続きやボーナス条件、そして捜索対象の船を回収できなかった場合に、事業者の責任がどのように評価されるのかを質問した。
ヴェスペラは活動区域の境界座標と、現在も利用可能な航路の情報を求めた。
レアは、捜索救助活動にモビルフレームを使用することが、許可の範囲内で認められているかを確認した。
セラフィエルは、最後の通信記録、調査船の識別情報、そして業務完了後に提出すべき報告書の形式について、写しを要求した。
俺自身は、ほとんどの時間を話を聞くことに使い、曖昧な点を見つけたときだけ、ときどき質問を挟んだ。
正直なところ、それぞれの専門分野を理解しているクルーがいてくれるのは、かなりありがたい。
これだけの確認作業をすべて1人でやらなければならなかったら、決定を下すまでに、もっとずっと長い時間がかかっていただろう。
すべての書類について話し終えると、ランが端末を閉じた。
「紬、財務面から申し上げますと、契約の総報酬額は420,000 GCです。回収ボーナスには別途条件があり、確実な収入として扱うことはできません。また、今回の捜索活動にかかる費用は、先ほどの輸送契約とは分けて記録する必要があります」
「了解。つまり、船を見つけて乗員の状態を確認する前から、ボーナスを計算に入れないことだな」
「そのとおりです」
ヴェスペラも頷いた。
「活動区域の境界に適合する接近経路を準備できます。ただし、最終的な航路の決定には、現地へ近づいた後のセンサー状況を考慮する必要があります」
レアも付け加えた。
「私は、近距離での確認や緊急支援が必要になった場合に備えて、モビルフレームを準備しておくよ。でも、命令と状況判断なしに発進したりはしないから」
セラフィエルが俺を見た。
「契約書類と活動許可は、最終確認ができる状態になっています、紬。また、義務づけられた情報以外について、艦内の内部システムへの追加アクセスを認める必要もありません」
俺は再び、イリリオン外縁調査帯の地図へ目を向けた。
通信を絶った小型調査船。
原因不明のセンサー障害に関する報告。
活動経路が制限された小惑星帯。
そして、総報酬額420,000 GCを提示する捜索契約。
技術者を1人送り届ける仕事よりも、リスクが明らかに高い。
けれど、条件に従い、許可の範囲外で余計なことをしなければ、Cランクの傭兵として十分に検討できる仕事ではある。
俺は顔を上げた。
「わかりました。確認した条件で、C-124-RSを受諾するつもりです。ただし、契約を有効化する前に、1つだけ明確にしておきたいことがあります」
協同組合の担当者が俺を見た。
『何でしょうか、星崎艦長』
「もし調査船の通信途絶に関係していると思われる正体不明の船を発見しても、追加の許可なく活動区域の境界を越えて追跡することはしません。俺たちの優先事項は、捜索対象の船を発見し、乗員の安全を守り、契約に従って調査データを保全することです」
『その条件を承諾いたします。記載済みの活動制限とも一致しています』
俺は頷いた。
「それなら、手続きを進めてください」
契約C-124-RSは、正式な承認を得るために傭兵協会のネットワークへ送信された。
俺は署名する前に、最終書類をもう一度読み直した。
イリリオン独立星系全体の保安問題について、俺たちが責任を負うことになるような条項はない。
正体不明の相手を捜索区域の外まで追跡する義務もない。
そして、すでに完了した契約C-121-SVの状態が変更されることもなかった。
すべての条件が一致していることを確認し、俺は承認した。
契約 C-124-RS――受諾済み
| 項目 | 状態 |
| ---------- | ------------------ |
| 依頼主 | イリリオン調査協同組合 |
| 事業者 | 星崎紬/アストレオン・ヴェロリア |
| 業務 | 調査船の発見およびデータの保全 |
| 総報酬額 | 420,000 GC |
| 回収ボーナス | 条件付き |
| 捜索区域への活動許可 | 発行済み |
| 追跡制限 | 許可なく指定区域の外へ出ることは禁止 |
| 状態 | 有効 |
確認通知を受け取った協同組合の担当者は、少し安心したようだった。
『ありがとうございます、星崎艦長。現在入手できる支援データは、すべてお送りします。調査船の乗員が、まだ無事な状態で見つかることを願っています』
「契約に従って捜索を行います。ただ、現地の状況がわかるまでは、結果を約束することはできません」
『承知しております』
俺は席を立った。
「それでは、出航準備のために艦へ戻ります」
アストレオン・ヴェロリアへ戻ると、艦内の仕事の雰囲気はすぐに変わった。
ヴェルドラコンで軍事的な脅威に直面したときのような緊張感が生まれたわけではない。
ただ、それぞれの仕事が、より明確な目的に向けて動き始めた。
今の俺たちには、活動区域がはっきり定められた捜索任務がある。
つまり、艦が軌道港を離れる前に、全員が自分のすべきことを理解しておく必要があった。
俺は指揮デッキで、簡単なブリーフィングを開いた。
セラフィエルがイリリオン外縁調査帯の地図を表示する。そこには、協同組合から提供された調査船の最終確認位置と、契約で定められた座標上の境界も記されていた。
「よし。まずは許可された経路から接近しよう。調査船の最終位置がそこにあるからといって、アストレオン・ヴェロリアをいきなり小惑星帯の最も密集した場所へ入れるつもりはない」
ヴェスペラが頷いた。
「すでに複数の接近経路を準備しています。主経路では、より危険な小惑星の密集域から距離を保ちながら、段階的に観測を進められます。センサーデータに環境の変化が示された場合は、さらに接近する前に航路を調整します」
「いいね。セラフィエル、協同組合からのデータはどうだ?」
「調査船の識別情報、最後に記録された位置、そして入手可能な通信ログは、すべて受領しました。それらを捜索の基礎情報として使用しますが、最終記録位置が現在の船の位置であるとは限らないものとして扱います」
「もしセンサーが民間航法図と一致しないものを見つけたら?」
「検証が必要な不一致として記録します。追加の証拠もないまま、攻撃や脅威の可能性に直結させる必要はありません」
俺は満足して頷いた。
「レアは?」
レアは保安コンソールのそばで、背筋を伸ばして立っていた。
「近距離での確認や緊急支援が必要になった場合に備えて、モビルフレームは使用可能な状態にしてあるよ。機体の準備状況と、必要になるかもしれない装備についても、カリスタと調整済み」
「気になる信号を見つけたからって、それだけで発進するなよ。周辺の状況がわかるまで待ってくれ」
「了解、紬」
ランは契約概要を開いた。
「2件の仕事についても、記録を分離してあります。C-121-SVは配送完了後の支払事務処理中、C-124-RSは有効な契約として記録しています。回収ボーナスは、獲得済みの収入には含めていません」
「よし。ボーナスをもらえる可能性があるというだけで、財務報告が実際より豊かに見えるのは困るからな」
「違いをご理解いただけて、何よりです」
続いて、カリスタがエンジニアリング回線から参加した。
『紬、ドッキング後の点検は終わったよ。出航を妨げるような問題はない。それから、捜索活動でモビルフレームを使う可能性があるって話も受け取ってる。レアが艦外へ出る必要があるなら、技術面から許可を出す前に、周辺環境と活動計画を確認させてほしい』
「もちろん。推測だけで誰かを艦外へ送り出すつもりはないよ」
『よし。それなら、私はハンガーの準備を終わらせておく』
通信が閉じられると、俺は指揮デッキにいるクルー全員を見渡した。
「ドッキング解除の許可が下りたら出航する。俺たちの目的は、戦闘を探すことじゃない。あの調査船を発見し、乗員の状態を確認して、契約に従ってデータを保全することだ。仕事の範囲外で問題が起きたら、何か行動する前にまず報告してくれ」
全員が頷いた。
俺は静かに息を吸った。
どうやら、俺が望んでいた普通の傭兵仕事も、別の一面を見せ始めたらしい。
それでも、少なくとも今回は、自分が何を承諾したのか、ちゃんと理解している。
イリリオン・ヴェスタ軌道港からの出航許可は、交通状況の確認が完了した後に下りた。
アストレオン・ヴェロリアはドッキング施設を離れ、指定された回廊に従って星系外縁部へ向かった。
俺は艦長席に座り、外部映像の中でゆっくりと小さくなっていくイリリオン・ヴェスタを眺めていた。
「ヴェスペラ、承認済みの捜索航路に従って進んでくれ」
「了解しました、紬」
「セラフィエル、センサーデータと協同組合から受け取った最後の情報との照合を始めてくれ。小惑星帯へ接近する前に、捜索範囲を絞り込むために使えるものがないか知りたい」
「はい。対象物の識別、通信パターン、そして捜索対象の調査船と一致する可能性のある信号を優先して確認します」
まだ指揮デッキに残っていたランが、俺に顔を向けた。
「紬、今回の契約には活動区域の境界があることを、改めてお伝えしておきます。捜索範囲を広げる必要が生じた場合は、事前に書面による承認を得なければなりません」
「わかっているよ。心配しなくても、妙な信号を見つけたからって、銀河の果てまで追いかけるつもりはないからな」
レアが微笑んだ。
「じゃあ、私はハンガーで待機しておくね。必要になったら呼んで」
「ああ。それと、捜索が予想より長引いても、食事を忘れるなよ」
「そんなの、忘れるわけないでしょ!」
俺は小さく笑った。
レアが指揮デッキを出ていくと、ヴェスペラは目的地の映像を拡大した。
前方には、イリリオンの小惑星帯が、広大な領域に散らばる天体の集まりとして姿を現し始めていた。
この距離から見る景色は、なかなか美しい。
けれど、遠くから見て美しい場所が、近づいても安全だとは限らないことくらい、俺にもわかっている。
大小さまざまな小惑星が、それぞれの軌道に沿って移動していた。密集度の高い領域もあれば、適切な航法計画を立てれば、船が通過するのに十分な空間を確保できる場所もある。
「捜索区域の外縁境界に近づいています」とヴェスペラが報告した。「速度を落とし、危険な小惑星の密集域を通過せずに済む航路を維持します」
「そうしてくれ」
セラフィエルが観測結果の表示を始めた。
検出された複数の物体が、民間航法図や協同組合から提供されたデータと照合されていく。
その大半は、入手済みの情報と一致していた。
ただし、小型天体の位置の変化や、過去の調査データに限界があることから、追加の確認を必要とする区域もいくつかあった。
俺は余計な指示を出さず、その作業を見守った。
忙しくしているように見せたいというだけで、セラフィエルやヴェスペラの仕事を邪魔する理由はない。
しばらくして、セラフィエルが口を開いた。
「紬、調査船の最終確認位置を含む区域が、初期観測の有効範囲に入りました。ただし、現時点では対象の調査船だと確定できる視覚的な識別結果は得られていません」
「通信はどうだ?」
「標準的な呼びかけに対する応答は、まだありません。捜索手順に従って確認を続けます」
俺は頷いた。
「わかった。最後の位置の周辺状況がわかるまでは、あまり近づかないようにしてくれ」
「了解しました」
アストレオン・ヴェロリアが捜索航路をゆっくりと進むうちに、時間が過ぎていった。
ヴェスペラは検出された小惑星の位置に合わせて航路を調整し続け、セラフィエルはさまざまな方向から得られるセンサーデータを確認していた。
俺もときどき地図を眺めては、届いた報告書へ視線を戻した。
戦闘が起きた形跡はない。
明確な敵対行動を取っている正体不明の船もいない。
ただ広大な小惑星帯があって、まだ発見できていない小型調査船が1隻あるだけだ。
正直なところ、こういう状況だからこそ、俺は慎重になっていた。
探している船が無事な状態で見つかれば、仕事はずっと簡単に終わるだろう。
けれど、その船が損傷していたり、通信能力を失っていたりするなら、接近に関する判断の1つひとつで、船内にいる人員の安全を考慮しなければならない。
俺たちが急ぎすぎたせいで、捜索活動そのものが新たな損傷を引き起こすような事態は避けたい。
「紬」
セラフィエルの声が、俺の思考を遮った。
俺は顔を上げた。
「何かあったか?」
「捜索区域の内側にあるセクターの方向から、非常に微弱な通信波を検出しました。ただし、完全な識別を行うには、まだパターンが不安定です」
ヴェスペラはすぐに、該当する地図の一部を拡大した。
「その方向は、大型の小惑星の1つに遮られています。信号源へ直接向かうと、天体の密集度が高い区域を通過することになります。よりよい観測角度を確保できるよう、外側からの接近を推奨します」
「賛成だ。短く見えるからというだけで、直行するのはやめよう」
セラフィエルが、次の確認結果を送ってきた。
スクリーンに信号パターンが表示される。
その電波は、連続して発信されているわけではなかった。
いくつかの部分が途切れ、次の信号列を受信する前に切断されている。
俺は身を乗り出した。
「探している調査船からのものなのか?」
「まだ確定できません、紬。ただし、発信の特徴は救難信号である可能性と一致しています。現在、識別情報と信号形式を、イリリオン調査協同組合から提供されたデータと照合しています」
俺はその表示を見つめた。
信号が再び現れた。
弱い。
途切れ途切れだ。
そして、しばらく姿を消した後、再び検出された。
ヴェスペラは地図上の大型小惑星に印をつけた。
「私たちの位置に対する信号強度の変化から考えると、発信源はこの天体の裏側にある可能性があります。ただし、位置を確定するには、別の角度からも観測する必要があります」
俺は頷いた。
「わかった。安全な接近経路を維持してくれ。セラフィエルは引き続き信号の識別を頼む。向こうに何があるのかわかるまでは、レアを艦外へ出さないようにな」
「了解しました」
数秒後、通信システムが再び同じ電波を捉えた。
今度は、識別情報の形式の一部を復元することに成功した。
セラフィエルは画面を確認してから、俺へ振り向いた。
「紬、この電波が救難信号である可能性が、さらに高まりました。発信源は、ヴェスペラが印をつけた大型小惑星の裏側にあります」
俺は地図上の点を見つめた。
ようやく、何かを見つけた。
探している船だとは限らない。
よい知らせだとも限らない。
それでも、少なくとも今は、報告書に記載された最終位置だけを頼りにするより、ずっと明確な手がかりがある。
「よし」と俺は背筋を伸ばして言った。「まずは安全な距離から確認しよう。次の判断を下す前に、あの小惑星の裏側で実際に何が起きているのか知りたい」
メインスクリーンに、救難信号が再び現れた。
そして、途切れた。
【次回・第126話】
「小惑星帯の交戦」
小惑星帯での戦闘接触――アストレオン・ヴェロリアは、推進システムが損傷した調査船を発見する。しかし、軽武装の船が3隻、調査船の調査モジュールを奪おうとしており、救援の接近を妨害していた。




