【第123話】「Rank C の仕事」
【第123話】「Rank C の仕」
ヴェルドラコン出航後・2日目――午後 場所:セレヴェイン自由中継ステーション――傭兵協会支部 POV:星崎紬
傭兵協会の事務所に入るとき、自分が仕事を任せるに値する人間だと証明しなければならない初心者ではなく、すでにCランクのライセンスを持つプロの傭兵になっているというのは、なかなか気分がいいものだ。
少なくとも、個人端末に表示された身分証を眺めながら、俺はそう思っていた。
星崎紬 独立宇宙傭兵 Cランク――プロフェッショナル
ヴェルドラコンでの一件を終えた後に受けた、EランクからCランクへの昇格。
それには、今でも少し不思議な感覚が残っている。
昇格が早すぎたと思っているわけじゃない。
ただ、1人の女性を家族のもとへ送り届ける仕事が、まさか自分の傭兵としての経歴評価に影響するほど、長い一連の出来事へ発展するとは想像していなかっただけだ。
最初から誰かに、公爵家と関わり、帝都で保安事件に巻き込まれ、最後にはランクまで上がることになると教えられていたら、俺はきっと真っ先に1つのことを尋ねていただろう。
手取りはいくらになるんだ?
「紬、身分証の確認はもうお済みですか?」
俺は顔を上げた。
キャプテン・レジデンスの扉の近くに、セラフィエルが立っていた。公式な訪問にもふさわしく、それでいて目立ちすぎない服装をしている。長い髪はきれいに整えられ、左手には薄型の端末を持っていた。
「終わったよ。ただ、最初にEランクで登録してから、本当にいろいろあったなと思ってさ」
「実に多様な経験を積まれましたね。その一部は、当初の旅行計画には含まれていなかったかもしれませんが」
「むしろ、大半が計画外だったよ」
セラフィエルは微笑んだ。
「それでは、今日の訪問は予定どおりに進むことを願っています」
「俺もだよ。行って、契約書を読んで、質問して、納得できる仕事を見つけたら帰ってくる。それだけでいい。突然、どこかの国の問題を解決してほしいなんて頼まれる必要はないからな」
「紬の個人的な希望として記録しておきますね」
「契約条項にまで入れたりするなよ」
「もちろんです、紬」
どういうわけか、その返事と一緒に浮かべられた笑顔を、俺は完全には信用できなかった。
グランドサロンに着くと、ランがすでに待っていた。
彼女はスクリーン上の書類をいくつか確認しており、テーブルの隣には、イリリオン独立星系への航路図を開いたヴェスペラが立っていた。
レアはソファに座り、先ほど訪問したモビルフレーム訓練施設の情報を読んでいる。俺たちが入ってきたのを見ると、狐耳がぴくりと動いた。
「紬、やっと来た! そのCランクのカードを眺めるだけで、午後を全部使っちゃうのかと思ったよ」
「まだ遅刻すらしてないぞ」
「わかってる。でも昨日から、もう何回も見てるでしょ」
「お前だって、あの焼き肉レストランへ行く前に、広告を何度も見ていたじゃないか」
レアは一瞬、黙り込んだ。
「それは別だよ。あの広告は本当に魅力的だったんだから」
「俺の新しいライセンスだって魅力的だぞ」
「うーん……それなら、反論できないかも」
ランは読んでいた書類を閉じ、小さくため息をついた。
「身分証とレストランの広告を比較するのが終わったのでしたら、出発前に1つ確認させてください。紬、イリリオンへの旅と同じ方向にある仕事を優先する方針は、変わっていませんね?」
「ああ。報酬が少し高いからというだけで、別の星系へ大きく遠回りしなきゃいけない契約は受けたくない。もともと通るつもりだった航路上に仕事があるなら、そのぶん移動費用を効率よく使えるだろう?」
「よい方針です。ただし、報酬が完了後の一括払いなのか、前払い金があるのか、それとも運用費用をすべてこちらで先に負担しなければならないのかは、確認する必要があります」
ランは準備していた確認項目の一覧を見せた。
契約審査――内部チェックリスト
| 確認項目 | 担当者 |
| ----------------- | --------- |
| ライセンスおよびCランクの受注資格 | 紬/セラフィエル |
| 報酬と支払条件 | ラン |
| 貨物に対する責任 | ラン/紬 |
| 航路と航法状況 | ヴェスペラ |
| 保安上のリスクと運用準備状況 | レア/セラフィエル |
| 輸送に関する技術要件 | カリスタ |
| 最終承認 | 紬 |
俺は最後の行に目を留めた。
「どうして俺の名前は、最終承認とライセンスの確認にしか出てこないんだ?」
ランは落ち着いた表情で俺を見た。
「すでに私たちの担当となっている仕事にまで、紬の時間を使っていただきたくないからです。もちろん、決定を下す前には契約全体を確認していただきますよ」
「そういうことか。てっきり、俺の仕事をできる限り減らそうとしているのかと思った」
「その結果、旅行を楽しむ時間が増えるのであれば、むしろよいことではありませんか?」
反論できなかった。
続いてセラフィエルが、傭兵協会のネットワークで見つけた2件の募集を表示した。
詳細書類は契約登録を担当する支部を通じてしか入手できないため、一部の情報はまだ閲覧制限がかかっている。
「今日は、この2件について正式な詳細情報の開示を求めます」と彼女が説明した。「1件はイリリオン・ヴェスタへの輸送に関するものです。もう1件は星系外縁部での調査活動に関係していますが、詳しい条件はまだ公開回線から確認できません」
ヴェスペラが頷いた。
「イリリオン・ヴェスタへの航法データは、すでに準備してあります。最初の契約が受注可能であれば、予定していた旅行先を変更する必要はありません」
「いいね。もう1件は、その後で考えよう。実際の状況がわからないうちに、2つ目の仕事まで承認したくはないからな」
レアが手を上げた。
「私も協会の事務所に行くんだよね?」
「もちろん。ただし、前回の訓練の後でモビルフレームを試したくなったからといって、戦闘任務を探しに行くわけじゃないぞ」
「そんなこと言ってないよ! 面白そうな護衛契約があるか、ちょっと気になるだけだってば」
「ほとんど同じじゃないか」
「違うよ、紬」
俺は、その小さな言い争いについては彼女に勝ちを譲ることにした。
カリスタには引き続きエンジニアリング部門の予定を監視してもらい、特殊な輸送要件があった場合には技術情報を受け取れるようにしてから、俺たちはアストレオン・ヴェロリアを出る準備を整えた。
セレヴェイン傭兵協会支部は、メインターミナルと接続された専門サービス地区にあった。
民間バースS-09からの移動は、それほど面倒ではなかった。ステーション内の交通施設を利用し、昨日はまだ訪れる機会のなかった商業エリアをいくつか通り抜ける。
道中では、実にさまざまな人々を見かけた。
配送書類を抱えた商船の乗組員、作業服姿のスペース・ドワーフたち、軽武装の傭兵、それに別の星系へ向かう前に立ち寄っただけらしい旅行者たち。
セレヴェインは、本当に2つの目的地の間にいる人々のために造られた場所なのだと感じた。
協会地区へ到着すると、レアが真っ先に大きな案内板を指さした。
「わあ、結構賑わってるね。見て、護衛、調査、貨物警備の仕事で、登録エリアが分かれてるよ」
傭兵協会の建物は、かなり広いサービス複合施設の数フロアを占めていた。入口の上には協会の紋章が掲げられ、右側のデジタル掲示板には、ライセンス区分に応じて閲覧できる契約一覧が表示されている。
扉の近くでは、大柄な傭兵が仲間と護衛契約の報酬について話していた。そこから少し離れた場所では、調査機材のケースを持ったスペース・エルフの女性が、個人端末で書類を確認している。
俺は中へ足を踏み入れた。
雰囲気は、初めて登録したときの協会事務所を思い出させる。
ただ、今はもう、Eランクのライセンスで簡単な契約を受けられるかどうか、いちいち考える必要はなかった。
「セレヴェイン傭兵協会支部へようこそ」
受付の職員が俺たちを迎えた。
『新規契約の登録、募集中の仕事の確認、あるいは会員向けの事務サービスをご希望でしょうか?』
「イリリオン独立星系に関係するCランク向けの募集を確認したいんです」と俺は答えた。「独立宇宙傭兵の星崎紬です」
俺は認証端末を通じて身分証を提出した。
職員は画面に表示された情報を確認する。
『星崎紬……Cランク・プロフェッショナル。登録状態は有効ですね。承知しました、星崎艦長。ご自身の名義で登録された艦を使用する、独立事業者としてのご利用でしょうか?』
「そうです。アストレオン・ヴェロリアです」
職員は公開登録データを読み始めた。
その手が、一瞬止まった。
『超高級長距離航行型プライベート宇宙船……』
彼女は顔を上げた。
『失礼ですが、こちらは先ほど民間バースS-09への割り当てを受けた艦でしょうか?』
「そうです。何か問題でも?」
『いえ、まったくございません。ただ、先ほど大型の個人所有艦が到着したという通知を受けておりまして。その艦長がCランクの契約を確認しにいらっしゃるとは思っていませんでした』
こういう反応にも、だんだん慣れてきた。
「個人所有艦だって運用費用は必要ですからね。銀河の景色を眺めているだけじゃ、全部は払えませんよ」
職員は小さく笑った。
『おっしゃるとおりですね。それでは、契約相談カウンター6番へお進みください。担当者が募集中の仕事の条件確認をお手伝いいたします』
「ありがとうございます」
受付を離れて歩き始めると、レアが近づいてきて、小声で囁いた。
「紬、さっきの職員さん、艦の登録情報を見たときの顔が面白かったね」
「俺も見たよ」
「きっと、傭兵として仕事を探しに来たんじゃなくて、個人用の護衛を雇いに来たんだと思ったんじゃない?」
「食事に出かけるたびに自分の護衛を雇うようになったら、ランはその支出が本当に必要なのか、真っ先に聞いてくるだろうな」
「実際にお尋ねしますよ」と、後ろからランが答えた。
セラフィエルが小さく笑った。
相談カウンター6番は、メインの受付ホールよりも静かなエリアにあった。
会員情報の確認が終わると、短い茶髪の女性職員が俺たちを迎えた。彼女の机には複数の端末が置かれ、投影画面には活動地域別の仕事一覧が表示されている。
『こんにちは、星崎艦長。本日の契約相談を担当いたします。事前のお申し出によりますと、イリリオン独立星系に関係する仕事を確認したい、ということでよろしいでしょうか?』
「はい。セレヴェインでの中継関係の用事を済ませたら、あの星系へ向かう予定なんです。旅行経路を大きく変えずに受けられるCランクの仕事がないか、知りたくて」
『承知しました。募集情報を開く前に、現在お持ちのライセンスの一般条件をご説明させてください。Cランクでは、調査、特定の輸送業務、中程度のリスクを伴う護衛など、専門的な仕事を受注できます。ただし、個々の契約を受ける資格があるかどうかは、依頼主が定める個別条件にも左右されます』
俺は頷いた。
「理解しています。Cランクのライセンスがあるからといって、Cと書かれている仕事なら何でも受けられるわけじゃない、ということですね」
『そのとおりです。艦の輸送能力が高いことも、許可や認証、契約上の責任に関する確認の代わりにはなりません。たとえば、大量の貨物を運べる艦であっても、特殊な取扱いが必要な貨物については、事業者側が所定の輸送条件を満たさなければなりません』
その説明を聞いて、ランは満足そうだった。
「承認前に、貨物、乗客、そして業務完了に関する義務が明確に記載されていることも確認したいと考えています」と彼女が言った。
『もちろんです。当支部を通じて発行される契約には、すべて正式な条件書類がございます。依頼主が追加条件を設定することもできますが、その場合も契約を受諾する前に確認できる状態でなければなりません』
「いいですね。それでは、まずイリリオン・ヴェスタ行きの仕事からお願いします」
職員は1つの書類をテーブルの中央へ移動させた。
契約カードが表示される。
傭兵協会――契約募集
| 項目 | 詳細 |
| ----- | -------------- |
| 契約コード | C-121-SV |
| 依頼主 | イリリオン調査協同組合 |
| 目的地 | 惑星イリリオン・ヴェスタ |
| 分類 | Cランク |
| 業務内容 | 調査人員および調査機材の輸送 |
| 総報酬額 | 180,000 GC |
| リスク区分 | 低~中 |
| 状態 | 審査可能 |
俺は業務内容に目を通した。
技術者1名と複数の調査機材を、イリリオン・ヴェスタの調査ステーションまで送り届ける仕事だ。
大規模艦隊の護衛を求められているわけでもなければ、軍事作戦でもない。戦闘区域への進入を直接義務づける条項も見当たらなかった。
今のところ、なかなかよさそうだ。
「契約を完了するには、具体的に何をすればいいんですか?」と俺は尋ねた。
職員は次のページを開いた。
『事業者には、イリリオン調査協同組合が指定する技術者1名と、貨物目録に記載されたすべての調査機材を、イリリオン・ヴェスタの指定受入施設まで輸送していただきます。到着後、受取側が身元、数量、貨物の状態を確認します。契約の完了には、引渡証明と航行報告書の提出が必要です』
「出航後に、その技術者が目的地の変更を求めてきた場合は?」
『目的地の変更には、契約手続きに従った正式な承認が必要です。乗客個人からの要望によって、事業者の義務が自動的に変更されることはありません』
俺はすぐに頷いた。
「いいですね。その部分は気に入りました」
ランが俺を見た。
「私もです。少なくとも、誰かからの追加要望が当初の仕事に含まれるのかどうか、議論する必要はありませんね」
なぜか、俺たちは2人とも以前の経験を思い出していた。
セラフィエルも気づいたようだったが、賢明にも何も言わなかった。
職員は説明を続けた。
『この契約では、輸送完了後に調査活動へ参加する義務はありません。主な責任は、目録に従って人員と貨物を輸送し、事業者の管理下にある間は両者を保護すること、そして必要な完了書類を提出することです』
俺はその説明に注目した。
「つまり、機材を届けたからといって、自動的に調査チームの一員になるわけではないんですね」
『そのとおりです、星崎艦長。追加業務には、別途承認と書類が必要となります』
「そこは重要ですね」
先ほどから書類を眺めていたレアが、ようやく口を開いた。
「航行中の安全についてはどうですか? イリリオン・ヴェスタへ向かう航路に、特別な脅威の報告はありますか?」
『契約の初期リスク評価は、低から中となっています。事業者には、輸送中に合理的な安全措置を講じる責任があります。ただし、これは戦闘任務ではありません。輸送する人員と貨物を保護するために必要な範囲を超えて、第三者を追跡する義務もありません』
「了解」
レアは、その仕事に戦闘が含まれていないことを少し残念がっているようだった。
よし。
一発も撃たずに180,000 GCを得られるなら、俺としては非常によい結果だと思う。
ランは、支払条件と責任範囲をさらに詳しく確認したいと申し出た。
俺はしばらく、彼女に会話を任せることにした。
「記載されている総報酬額は180,000 GCですね。この金額は、事業者の義務全体に対するものですか? それとも、追加業務の完了に応じて発生する別の報酬項目がありますか?」
『180,000 GCは、記載された業務に対する総報酬額です。書類に明示的な別段の定めがない限り、艦の運用費用は事業者側の負担となります。報酬は、完了条件の達成が確認された後に処理されます』
「承知しました。もう1点、機材自体の初期不良や、貨物目録の記載が不正確だったことによる損害について、原因調査を行わずに事業者へ自動的に責任が転嫁されることはない、と確認したいのですが」
職員は該当条項を開いた。
『書類上では、事業者の管理下にある間に発生した損傷と、最初の引渡し以前から記録されていた不適合は区別されています。そのため、出航前に状態確認を行い、受領時の記録を残すことを強く推奨しています』
ランは頷いた。
「発送側と共同で確認を行います。また、保管区画の構成を決める前に、最終貨物目録の写しも入手したいと思います」
『そのご要望は、正式な関心登録が承認された後、最終的な契約受諾までの間に提出できます』
俺は椅子の背もたれに身体を預け、2人のやり取りを眺めていた。
180,000 GCという数字だけを見れば、ヴェルドラコンで受け取った報酬と比べて、特別に大きな仕事には見えない。
けれど、そういう比較にはあまり意味がない。
もともと行きたいと思っていた場所へ向かう仕事には、それ自体の価値がある。
俺たちは、いずれにせよイリリオンへ行くつもりだった。その道中で、責任範囲が明確な状態で技術者1名といくつかの機材を運べるなら、契約収入によって、遠回りすることなく運用費用の一部を賄える。
もちろん、180,000 GCがそのまま純利益になるわけじゃない。
ドッキング費用、食費、貨物の取扱費用、旅行に必要な物資、その他さまざまな支出は、きちんと計算しなければならない。
それでも、何に対して報酬が支払われ、どんな仕事を完了すればいいのかがわかっているだけでも十分だ。
「ヴェスペラ、航法面ではどう思う?」
ヴェスペラは準備していた地図を拡大した。
「契約の目的地は、私たちの旅行候補と一致するイリリオン・ヴェスタです。セレヴェインからは、登録済みのFTL航路を利用してイリリオン独立星系へ向かい、その後は現地の到着手続きに従えます。航法上、この契約を断らなければならない理由は、今のところ見当たりません。ただし、出航予定は依頼主側の人員と貨物の準備状況に合わせて調整する必要があります」
「アストレオン・ヴェロリアでの輸送に、何か問題はありそうか?」と俺はセラフィエルに尋ねた。
「初期情報に基づく限り、運用上の支障はありません。ただし、最終貨物目録が届いた後で、調査機材の仕様と保管条件を確認する必要はあります。技術者の方に適した旅客区画も準備しておきますね」
レアが手を上げた。
「積み込み前の貨物保安検査なら、私も手伝えるよ。航行中に特別な保護が必要な機材だったら、仕様を確認してから手順を決めればいいし」
「いいね。契約が始まる前に、全員が自分の担当する責任を理解しておいてほしい」
俺は協会の職員へ向き直った。
「それでは、C-121-SVへの正式な関心登録をお願いします。詳細書類を受け取った後、こちらで最終確認を終えてから判断します」
『承知しました、星崎艦長。関心登録を処理いたします』
最終書類の準備を待つ間、職員はイリリオンに関係するもう1件の募集についても情報を見せてくれた。
一覧には追加の調査業務が表示されていたが、条件と運用情報については、まだ確認が必要な状態だった。
俺はしばらくそれを眺めた。
「これは、昨日の通信を失った調査船に関する通知と関係しているんですか?」
『その事件に関する情報は、確かに協会ネットワークへ入っています。ただし、依頼主から正式な詳細情報が発行されるまでは、システム上に表示された調査関連の募集を、すべて同じ仕事の一部だと判断しないことをお勧めします』
「もっともですね。掲示板の情報だけで結論を出すつもりはありません」
『イリリオン調査協同組合では、現在いくつかの運用報告を更新しています。イリリオン・ヴェスタへ向かわれるのであれば、現地の協同組合か協会支部を通じて、より詳しい情報を入手できる可能性があります』
俺は頷いた。
内容すら理解していない追加の仕事を、今ここで引き受ける理由はない。
まして、最初の契約だってまだ終わっていないんだから。
ランは2件目の募集パネルを閉じた。
「まずはC-121-SVに集中することをお勧めします。イリリオン到着後に追加の仕事があれば、別の契約として審査すればよいでしょう」
「俺も同じ意見だよ。普通の傭兵生活に戻りたいんだ。面白そうな仕事を片っ端から集めて、結局食事をする時間もなくなるような生活はしたくないからな」
レアが振り向いた。
「最後の部分、かなり本気に聞こえたんだけど」
「本気だよ」
セラフィエルが微笑んだ。
「旅行計画には、食事の時間もきちんと組み込んでおきますね、紬」
「ありがとう。少なくとも、艦長の優先事項を理解してくれる人がいて助かるよ」
ランが俺を見た。
「私も理解していますよ。だからこそ、不要な契約上の義務を果たすために、食費まで使い切るような仕事を受けないよう、確認しているのです」
「……わかった。お前の勝ちだ」
C-121-SVの書類審査は、想像していたよりも順調に進んだ。
イリリオン調査協同組合が用意した輸送条件は、十分に明確だった。一方的な目的地の変更はなく、追加の調査活動を行う義務もない。引渡し業務の範囲外にある仕事を、強制的に受けさせる条項も存在しなかった。
初期貨物目録と貨物受入条件を入手すると、セラフィエルはアストレオン・ヴェロリアの運用構成との適合性を確認した。
ランは支払条件をもう一度審査した。
ヴェスペラは、配送予定が、計画済みのイリリオン方面の航路を利用するうえで支障にならないことを確認した。
俺も最終書類を最初から最後まで読んだ。
そして、すべての確認が完了すると、協会の職員が最後の意思確認を求めてきた。
『星崎艦長、表示された条件に基づき、契約C-121-SVを受諾されますか?』
俺は目の前のパネルを見た。
契約 C-121-SV――最終確認
| 項目 | 条件 |
| ------- | ------------------- |
| 依頼主 | イリリオン調査協同組合 |
| 事業者 | 星崎紬/アストレオン・ヴェロリア |
| 目的地 | 惑星イリリオン・ヴェスタ |
| 貨物 | 貨物目録に記載された調査機材 |
| 人員 | 協同組合が指定する技術者1名 |
| 総報酬額 | 180,000 GC |
| 完了条件 | 人員および貨物を欠損なく到着させること |
| 必須証明 | 引渡証明および航行報告書 |
| リスク | 低~中 |
| 追加の調査業務 | 対象外 |
俺は受諾確認を押した。
「契約C-121-SVを受諾します。合意した条件に従って、輸送業務を遂行します」
職員は端末から承認処理を行った。
ほどなくして、契約状態が切り替わった。
受諾済み――契約有効
『受諾が記録されました。おめでとうございます、星崎艦長。イリリオン調査協同組合との調整に必要な情報は、正式な通信回線を通じて送信されます。出航前に、人員と貨物の確認を完了してください』
「了解しました。ご対応ありがとうございました」
『安全な航行をお祈りしております』
俺は契約書類の写しを保存してから、席を立った。
ようやくだ。
ヴェルドラコンを離れてから、俺たちが初めて受けた傭兵の仕事。
政治的な約束もなければ、軍への参加要請もない。誰かから役職を提示されたからといって、人生の目的を変えなければならないような義務もない。
ただ、報酬が明確に定められた輸送契約が1件あるだけだ。
どういうわけか、それがなかなか嬉しかった。
相談室を出ると、レアが俺の隣を歩きながら、セラフィエルから共有された契約概要を読んでいた。
「つまり、技術者1人と調査機材をイリリオン・ヴェスタまで運ぶんだね。結構のんびりした仕事になりそう」
「そうなることを期待しているよ」
「でも、航行中に何か起きたら?」
「緊急事態が起きたら、そのときの状況に応じて対処するさ。ただ、仕事があまりにも平穏そうだからって、自分から問題を探しに行くつもりはないぞ」
レアは頷いた。
「わかった。出航前にモビルフレームの準備状況は確認しておくね。戦闘が起きることを期待しているんじゃなくて、今回は他人の人員と荷物を預かるわけだから」
「いい判断だ。カリスタと調整してくれ。明確な理由もなく装備構成を変更したりしないようにな」
「了解!」
少し前を歩いていたヴェスペラが、旅行経路の地図を開いた。
「正式な積み込み予定を受信した後、出航計画を更新します。現時点では、次の目的地は変わらず、セレヴェインから登録航路を通って向かうイリリオン独立星系です」
ランも付け加えた。
「契約額は、未実現の総収入として計上しておきます。完了条件をすべて満たす前から、180,000 GCをすでに手に入れたものとして扱う理由はありませんから」
「わかっているよ。まだ何も届けていないんだから」
「結構です。今日の午後、高価なものを購入する理由として、その報酬を使わないよう確認しただけです」
「どうしてみんな、俺が契約を受けた途端に買い物を始めると思っているんだ?」
セラフィエルが俺を見た。
「今朝、商業地区を通ったとき、娯楽用品のショーウィンドウの前で、紬はかなり長い間立ち止まっていましたから」
俺は黙った。
レアがすぐに振り向いた。
「えっ? 何があったの? どうして私も誘ってくれなかったの?」
「別に何もないよ。ちょっと気になっただけだ」
「じゃあ、この後で寄ってみようよ!」
「いや。まだ仕事が残っているからな」
ランは満足そうに微笑んだ。
「とてもよい判断です、紬」
どうやらCランクのライセンスを手に入れたからといって、クルーに対する俺の威厳まで自動的に上がるわけではないらしい。
艦へ戻る前に、俺たちは協会の公共エリアへ少し立ち寄り、最新の通知を確認することにした。
本当は、受諾したばかりの契約に突然の変更がないか確かめたかっただけだ。
ところが、セラフィエルがイリリオン調査協同組合の情報回線を開くと、輸送調整書類とともに追加の通知が表示された。
「紬、協同組合から運用上の連絡が届いています」
「何て書いてある?」
セラフィエルが表示を拡大した。
その連絡によって、俺たちの輸送業務が変更されるわけではなかった。ただし、協同組合は、イリリオン独立星系へ進入する事業者に対し、航法情報の更新に注意し、航行中にセンサーデータの不整合を発見した場合には報告するよう求めていた。
下部には、次の注意書きがあった。
イリリオン調査協同組合――運用上の注意通達
イリリオン領域で活動する複数の調査船から、センサー障害が報告されています。原因はまだ特定されていません。関連領域へ進入する事業者は、正式な航法情報の更新に従い、未検証の観測データに依存しないよう求められます。
俺は通知を最後まで読んだ。
「センサー障害、か……」
ヴェスペラが近づいてきた。
「複数の船舶から同様の事象が報告されているのであれば、現地の環境、調査区域における物質の密集、通信上の問題、あるいは別の要因のどれが原因なのか、確認する必要があります。ただし、この通知だけでは原因を特定するための情報が足りません」
「俺もそう思う。いきなり誰かに襲撃されたと決めつけるのはやめよう」
レアは腕を組んだ。
「でも、無視するわけにもいかないよ。センサーのデータと実際の状況が一致していなかったら、小型の調査船は深刻な問題に遭うかもしれない。特に、小惑星帯の近くで作業しているときはね」
「そのとおりだ。だから、出航前に正式な更新情報を確認しよう」
俺はセラフィエルを見た。
「その通知は航法書類と一緒に保存しておいてくれ。航行の安全に関係する情報は、全部ヴェスペラが確認できるようにしてほしい。出航前に更新があったら、俺たちにも知らせてくれ」
「了解しました、紬。入手可能なデータと、民間交通ネットワークの情報も照合しておきます」
ランは通知の末尾を読んだ。
「現時点で、私たちの契約はあくまでも人員と機材の輸送です。到着後に協同組合から追加の支援を求められた場合は、別途条件を審査する必要がありますね」
「もちろん。安全通達が出たからといって、契約もないまま新しい仕事を引き受ける理由にはしないよ」
俺は端末を閉じた。
どうやら、イリリオンにはまだ全容が明らかになっていない問題がいくつかあるらしい。
けれど、限られた情報だけを理由に、旅を取りやめる必要はない。
俺たちには、正式に受諾した仕事があり、目的地も決まっている。出航前に確認できる航法計画も用意されている。
今のところ、それで十分だ。
アストレオン・ヴェロリアへ戻った後、俺たちはグランドサロンに少しだけ集まった。
セラフィエルから送られた契約書類を受け取ったカリスタも、エンジニアリング部門の端末を通じて参加している。
「つまり、調査機材と技術者1人を輸送するんだな?」
「そうだよ。積み込み前に最終貨物目録を確認する」と俺は答えた。「使用する保管区画が、貨物の要件に合っているか確かめてほしい。標準的な取扱いだけで済む機材なら、必要以上に大掛かりな準備をすることもないからな」
「了解。発送側から最終仕様が届くのを待って、必要な検査を決めるよ。振動や温度、特定の保管環境に敏感な機器があるなら、搬入前に把握しておかないとな」
「よし。レア、保安検査はカリスタと調整してくれ。ヴェスペラは航路の更新を完了させてほしい。ランは旅行予算と補給品の調達を続けてくれ。セラフィエルは協同組合との通信と積み込み予定を頼む」
全員がそれぞれ了承した。
俺は、メインスクリーンに表示された契約概要へ目を向けた。
アストレオン・ヴェロリア――有効契約
| 項目 | 状態 |
| ----- | --------------- |
| コード | C-121-SV |
| 依頼主 | イリリオン調査協同組合 |
| 目的地 | イリリオン・ヴェスタ |
| 業務 | 技術者1名および調査機材の輸送 |
| 総報酬額 | 180,000 GC |
| 状態 | 受諾済み |
| 積み込み | 正式な調整待ち |
| 報酬 | 未実現 |
| 次の旅行先 | イリリオン独立星系 |
俺は満足して頷いた。
「さて。これでようやく、傭兵としての仕事に戻れたな」
レアが満面の笑みを浮かべた。
「しかも今回は、家まで送り届けなきゃいけない貴族の女性から始まる仕事じゃないしね!」
「思い出させないでくれ」
セラフィエルが小さく笑い、ランは満足そうな表情で端末を閉じた。
ヴェスペラは、まだ開かれているイリリオンの地図を見つめていた。
「次の旅は、なかなか興味深いものになりそうですね。まだ直接見たことのない調査区域が、たくさんありますから」
「それなら、仕事が終わった後で少し探検してみてもいいな。立入禁止区域へ入ったり、ほかの人の作業を邪魔したりしない限り、新しい場所を見て回るのに時間を使うのは構わないよ」
「いくつか候補を準備しておきます、紬」
俺はソファの背もたれに身体を預けた。
これこそ、俺が望んでいた生活だ。
自分の意思で仕事を引き受け、信頼できる仲間たちと一緒に艦を運用し、見合った報酬を受け取り、そして次の星へ向けて旅を続ける。
もちろん、イリリオンで通信を失った調査船や、センサー障害に関する通知は、まだ少し気になっていた。
けれど、実際の事実を確認する前に、結論を出すつもりはない。
今はただ、輸送の準備を終えればいい。
技術者が1人。
調査機材がいくつか。
180,000 GC。
十分に納得できる、Cランクの仕事だ。
俺はセラフィエルを見た。
「今日の準備が終わったら、少し早めに夕食にしないか? 出航予定が忙しくなる前に、のんびりした時間を楽しんでおきたいんだ」
「もちろんです、紬。何かご希望のメニューはありますか?」
俺は少し考えた。
「日本のカレーなんてどうだろう? もう結構長いこと食べていない気がするんだ」
「では、準備しておきますね」
レアがすぐに顔を上げた。
「それなら、私は大盛りで!」
ランはため息をついた。
「少なくとも今回は、レストランの価格を比較する必要はありませんね」
通信越しにカリスタが笑った。
「いいね。残ってたら、私の分も1皿取っておいてくれ。エンジニアリングの点検が終わったら行くよ」
ヴェスペラも航法図を閉じた。
「私もご一緒します」
俺はみんなの様子を見て、微笑んだ。
どうやら、俺たちの傭兵生活は本当に元どおりになったらしい。
ただ、イリリオンへの旅では、あまり面倒な驚きが待っていないことを願いたい。
せめて、あの技術者と調査機材を無事に届け終えるまでは。
【次回・第124話】
「Ilyrion Vesta への航路」
イリリオン・ヴェスタへの旅――アストレオン・ヴェロリアは、登録済みのFTL航路を通ってセレヴェインを出航する。しかし、軌道港への到着が近づいた頃、本来なら彼らを出迎えるはずだった調査船が、呼びかけに応答しなくなる。




