【第122話】「セレヴェイン自由中継ステーション」
【第122話】「セレヴェイン自由中継ステーション」
ヴェルドラコン出航後・2日目 場所:セレヴェイン自由中継ステーション――民間バース S-09 POV:星崎紬
自分の宇宙船を持つようになってから、初めて気づいたことが1つある。
個人所有艦での旅は、確かに目的地を自由に決められる。けれど、その自由があるからといって、銀河中の港が何の手続きもなく入港を歓迎してくれるわけではない。
まして、乗っている艦が全長8,600メートルもあるなら、なおさらだ。
「紬、指定された到着航路に従って、まもなくFTLから離脱します。セレヴェイン交通管制局は事前到着通知を受理していますが、進入許可が下りるのは、艦の識別情報と航路状況の照合が完了してからです」
艦長席の隣から、セラフィエルの声が聞こえた。
俺はほとんど空になったコーヒーカップを置き、メイン航法スクリーンへ目を向けた。パノラマウィンドウの外では、長く伸びていた光がゆっくりと変化し、ヴェスペラが投影した航路線にも、今回の旅の終点が表示され始めている。
「問題ないよ。向こうの手順に従おう。独立領域へ初めて到着した途端、間違った航路に入ったせいで注意されるなんて、勘弁してほしいからな」
「進入速度は、現地の民間航行規定に合わせて調整済みです」と、航法席のヴェスペラが答えた。「外側の到着地点でFTLを離脱し、その後は管制官から指定された回廊に従います。あのステーションはかなり混雑していますので、停泊施設の割り当てを待つ必要があるかもしれません」
「ヴェルドラコンへ戻れと言われない限り、待つくらい構わないさ」
俺の返事を聞いて、セラフィエルが微笑んだ。
「セレヴェインの管制官が、そのような指示を出す理由はないと思いますよ、紬」
「それならいい。帝国の紋章は、当分の間もう十分だからな」
数秒後、船体の外側に広がっていたFTL特有の光学現象が消えた。
星々は再び、遠方に静止する光の点へと戻る。外部センサーには、民間船舶の往来、航法ブイ、そして複数の交易路が交差する地点の近くに浮かぶ巨大な軌道構造物が映し出された。
あれが、セレヴェイン自由中継ステーションだ。
国家権力の象徴や壮麗な建築様式が目立っていた帝都の港とは異なり、セレヴェインの外観はずっと実用的だった。主構造体をいくつもの環状施設が取り囲み、貨物ターミナルや旅客用の桟橋が、さまざまな方向へ突き出している。
商船はそれぞれの回廊を通って出入りしていた。一方ではコンテナ輸送船が荷役施設へ向けてゆっくり移動し、別の場所では、それよりもはるかに小さな個人所有船が専用の到着航路に従っている。
俺は映像を拡大した。
「なかなか面白そうな場所だな。この交通量を見る限り、いくつもの商業航路が交差する地点だというヴェスペラの説明は、確かに正しかったみたいだ」
「商船と旅客船の往来は、実際にかなり多いですね」と彼女は答えた。「ただし、それだけ回廊の分離にも注意が必要です。私たちの航法システムなら対応できるとしても、過度に積極的な機動はお勧めしません」
「港の職員の前で、艦の機動性能を見せびらかすつもりなんて最初からないぞ」
「念のための確認です」
どうしてだろう。ヴェスペラの短い返事を聞くと、まるで俺に何か怪しいことをしてきた前歴でもあるかのような気分になる。
抗議する間もなく、外部通信回線が開いた。
『アストレオン・ヴェロリアとして識別された入域船へ。こちらセレヴェイン自由中継ステーション交通管制局。到着通知を受信しています。登録上の識別情報と訪問目的を確認してください』
セラフィエルが通信を俺へ切り替えた。
「こちらアストレオン・ヴェロリアの艦長兼所有者、星崎紬。公開登録上の分類は、超高級長距離航行型プライベート宇宙船です。訪問目的は民間中継、補給品の確認、港湾サービスの利用、および傭兵協会施設の利用検討です」
『受信しました、星崎艦長。指定された到着航路を維持してください。貴艦の寸法は標準的な個人所有船の区分を超えているため、停泊施設の割り当てにはターミナルの収容能力審査が必要です。登録確認用の書類一式を送信します』
「了解しました。管制の指示に従います」
通信はいったん終了した。
俺はセラフィエルをちらりと見た。
「ほらな。入る前から、もう艦の大きさが問題になっているじゃないか」
「問題ではありませんよ、紬。通常とは少し異なる行政手続きが必要なだけです」
「お前にかかると、大抵のことが面倒じゃなさそうに聞こえるな」
「実際に、その手続きを私がお手伝いしていますから」
それには返す言葉がなかった。
ほどなくして、セレヴェインから確認書類一式が届いた。
セラフィエルが俺の前の投影画面にそれを開く。すでに合流していたランは、航法テーブルの反対側に立っていた。手には、航行中に準備しておいた交易書類と財務データの入った端末を持っている。
「何か変わったものを要求されているのか?」と俺は尋ねた。
「今のところはありません」とセラフィエルが答える。「ステーション施設を利用する個人所有艦に対する、通常の行政審査です。ただし、いくつかの書類については、登録概要を提示するだけではなく、認証済みの通信回線から送信する必要があります」
確認項目の一覧が表示された。
セレヴェイン自由中継ステーション――到着時確認
| 書類 | 状態 |
| ----------------- | ---- |
| アストレオン・ヴェロリアの登録情報 | 送信済み |
| 星崎紬の身元情報 | 送信済み |
| 傭兵協会Cランクライセンス | 送信済み |
| 乗客・クルー名簿 | 送信済み |
| 公開分類に基づく武装申告書 | 送信済み |
| 艦船保険証明書 | 送信済み |
| 格納庫アクセス申請 | 審査待ち |
| 整備施設利用申請 | 審査待ち |
| ドッキング枠の割り当て | 承認待ち |
俺は武装申告の項目に目を留めた。
「セラフィエル、送信する書類は、公開登録情報と適用される申告義務の範囲に合わせてくれ。向こうのシステムが自動同期を要求したからといって、通常の審査範囲に含まれない艦内データまで公開されるのは避けたい」
「対応済みです。提出書類には民間登録用のプロファイルと、港湾アクセスに必要とされる情報のみを使用しています。艦内ネットワークへの直接アクセスは許可していません。審査担当者から範囲外の追加情報を求められた場合は、処理する前に紬へ確認します」
「よし。規則に従うのは構わないけど、初対面の相手に家の中身を全部見せる理由にはならないからな」
ランも頷いた。
「同感です。行政手続きにおける情報開示と、無制限のアクセス権を与えることは別です。これからは多くの独立組織と関わることになりますし、書類管理の手順は最初から一貫させておいたほうがよいでしょう」
画面の反対側では、ヴェスペラが交通情報の更新を確認していた。
「紬、ステーション管制が、私たちの到着回廊を大型船用の優先航路として指定しました。旅客ターミナルの交通を妨げずに進入できるよう、小型船を数隻、並行航路へ振り分けています」
「俺たちのせいで、あの船たちに遅れが出ているのか?」
「ほかの船舶に対する遅延通知はありません。大型船向けにあらかじめ用意されている交通調整手順のようです」
俺はほっと息をついた。
少なくとも、訪問早々、港の半分を順番待ちにさせるような事態にはなっていないらしい。
外部通信が再びつながった。
『アストレオン・ヴェロリア、こちらセレヴェイン港湾登録事務局。初期書類を受領しました。星崎紬名義の傭兵協会Cランクライセンスは、協会ネットワークを通じて確認済みです。最終ドッキング許可の発行前に、実際の乗員名簿と保険状況の確認が必要となります』
「審査を続けてください。必要な裏付け書類は、すべて正式な通信回線から提出できるよう準備してあります」
『受信しました。また、貴艦が以前、ヴェルドラコン銀河帝国の領域から出航したことも確認しています。今回の中継施設利用は、政府からの任務に基づくものですか。それとも独立事業者としての利用ですか』
そういう質問が来る可能性は、俺も予想していた。
「独立事業者としての利用です。アストレオン・ヴェロリアは俺個人の所有艦であり、セレヴェインでの施設利用申請は、政府からの任務に基づくものではありません」
『承知しました。独立事業者として到着手続きを進めます。審査結果をお待ちください』
通信が切れると、ランが俺をちらりと見た。
「ヴェルドラコンとの過去の専門的な関係を説明するために使える書類なら、実際にはかなりお持ちですよね」
「わかっているよ。でも、俺たちは帝国に便宜を図ってもらおうとしているわけじゃない。ただ停泊場所を借りて、少し買い物をして、仕事を探したいだけだ。そんな簡単なことをするのに、いちいち帝都の誰かの名前を持ち出さなきゃいけないなら、いつまで経っても向こうの事情から離れられないだろう?」
セラフィエルは薄く微笑みながら俺を見た。
「通常の手続きに従う理由として、とてもよいと思いますよ、紬」
「それに、自分の名前が独立領域での艦の審査を早めるために突然使われたのはなぜか、なんてヴェルドラコンの誰かから連絡をもらいたくもないからな」
「それも、十分に合理的な判断ですね」とランが付け加えた。
俺は、その声に混じった面白がるような響きを無視することにした。
次の審査は、書類のやり取りと身元確認を通じて進められた。
港湾職員から求められたのは、アストレオン・ヴェロリアに現在乗っている人員の一覧だった。常勤クルー、乗客、そして俺たちの管理システム上で外部連絡先としてのみ登録されている人物を、明確に区別する必要がある。
今回は、ヴェルドラコンから預かっている乗客は誰も同行していない。
オーレリアは家族のもとへ帰った。セレネは自分の医療業務を続けているし、カイラにもヴェルドラコンの保安組織で果たすべき専門的な責任が残っている。
3人のうち誰についても、現在乗艦している人物として記載する理由はなかった。
「実際の乗員名簿は更新済みで、出航記録とも一致しています」とセラフィエルが報告した。「外部連絡先の人物が、クルーや乗客として記載されていないことも確認しました」
「よし。保険のほうは?」
ランが説明を引き継いだ。
「現在加入している保険は、引き続き有効です。ただし、独立系の港湾施設に停泊している間の賠償責任に関して、いくつかの条項を確認対象として抽出しました。セレヴェインは、艦の寸法と登録区分に適合した補償の証明、およびドッキング施設に損害を与えた場合の規定を求めています。該当する証明書は送信済みで、最終請求を受け入れる前に、ターミナル費用の内訳も請求してあります」
「補償内容に問題があるのか?」
「拒否された項目はありません。ただ、何が実際に補償対象となるのかを把握する前に、追加費用を承認したくないだけです」
「そういう仕事は、やっぱりお前に任せたほうがよさそうだな」
ランは微笑んだ。
「そう認識していただけて嬉しいです」
書類の審査が完了すると、港湾職員が映像通信に現れた。
濃い灰色の事務制服を着ており、胸にはセレヴェインの紋章がついている。その隣には、いくつかのデータウィンドウが浮かんでいた。
『星崎艦長、主要書類は初期審査を通過しました。民間バースS-09をご案内できます。この施設は大型の個人所有艦に対応しており、旅客用アクセスと貨物サービスは、それぞれ独立した接続ターミナルを通じて提供されます』
俺は頷いた。
「民間バースS-09ですね。了解しました。格納庫と整備施設へのアクセスについて、追加条件はありますか?」
『艦内施設の使用については、港湾業務を妨げない限り、ステーションの格納庫を別途借りる必要はありません。ただし、車両、モビルフレーム、技術装備などを外部施設へ移動させる場合は、活動区分に応じたアクセス申請の承認が必要です。ターミナル区域に関わる整備作業についても、別途届け出をお願いします』
「わかりました。外部施設を利用する前に申請します」
『承知しました。ドッキング費用および任意サービスの料金明細は、管理用通信回線から送信します。表示された進入回廊に従ってください。セレヴェイン自由中継ステーションへようこそ』
「ありがとうございます」
通信が終了すると、メインスクリーンに新たな航路線が表示された。
ドッキング許可
| 項目 | 確認内容 |
| ------------- | ----------- |
| 施設 | 民間バース S-09 |
| 訪問区分 | 民間中継 |
| 登録状況 | 確認済み |
| 艦長の身元 | 確認済み |
| 傭兵ライセンス | Cランク――確認済み |
| 旅客ターミナルへのアクセス | 所定の手続きに従い許可 |
| 外部施設の利用 | 活動ごとの許可が必要 |
| ドッキング状況 | 承認済み |
「ヴェスペラ、その回廊に従って進めてくれ。セラフィエル、最終進入機動はステーション管制と調整してほしい」
「了解しました、紬」
「通信と、施設までの距離監視は私が担当します」とセラフィエルが答えた。
アストレオン・ヴェロリアは、S-09へ向けて動き始めた。
遠くからセレヴェインを眺めるのと、自分の艦で接近するのとでは、ずいぶん印象が違った。
外部映像では、ステーションの構造物が視界を大きく占めるようになっていく。先ほどまでは建物の小さな一部分にしか見えなかった巨大モジュールにも、今では窓の列や整備用通路、貨物取扱車両、交通を誘導する案内パネルが見て取れた。
右舷側の十分に離れた位置を商船が通過していく。その下では、小型のタグが数隻、物流ターミナルへコンテナを移送していた。
「S-09付近の交通密度は、規定の範囲内です」とヴェスペラが報告した。「割り当て区域へ進入する前に、相対速度を落とします」
俺は距離表示を確認した。
「頼むよ。急ぐ理由もないからな」
セラフィエルは航法コンソールの近くに立っていた。彼女の指がインターフェース上を動くたびに、艦とステーション施設の位置データが更新されていく。
「管制側から最終姿勢の確認を受けました。艦内のドッキングシステムも準備完了です。今回の機動に外部タグの補助は必要ありませんが、位置固定が完了するまでは、ターミナルの担当者との通信を維持します」
「旅客用の接続通路は?」
「ステーション側の安全確認が終わってから起動されます。下船許可が届くまでは、艦内で待機できます」
俺は頷いた。
艦はゆっくりとターミナルの外側境界を通過した。
そのとき一瞬、ステーションの観測パネルに、アストレオン・ヴェロリアの船体が映り込むのが見えた。
その姿は相変わらず、優雅な高級プライベート宇宙船そのものだった。港を訪れる人々が知るべきでないものは、何も外から見えない。
ターミナルで働く人間の目には、俺たちの到着は、ものすごく大きな駐機場所を必要とする金持ちの艦がやってきた程度にしか映らないのかもしれない。
俺は、そういう印象のほうが好きだった。
『アストレオン・ヴェロリア、貴艦の位置はドッキング許容範囲内です。現在の姿勢を維持し、施設側の固定確認をお待ちください』
「了解、セレヴェイン管制。位置を維持します」
しばらくすると、固定状態を示す表示灯が緑色に変わった。
セラフィエルは結果を確認してから、俺へ振り向いた。
「ドッキング完了です、紬。アストレオン・ヴェロリアは民間バースS-09へ停泊しました。初期安全検査にも異常はありません」
俺は肩を伸ばした。
「ようやくだな。ヴェルドラコンを離れて最初の旅は、攻撃艦隊と戦うことも、貴族を護衛することも、軍から緊急要請を受けることもなく終わったわけだ」
「その成功を、あまり特別な出来事だとは思わないでいただきたいのですが」
「前回の経験を考えたら、これくらい祝う権利はあると思うぞ」
セラフィエルは小さく笑った。
指揮デッキを出ようとしたところで、ランから、少しだけグランドサロンへ集まってほしいという連絡が入った。
どうやら、セレヴェインの複数のサービス事業者から、正式な価格表が届いたらしい。
俺が到着したときには、彼女はすでにテーブルの上へいくつかの見積もりを表示していた。
「見て回り始める前に、初期調査の結果をご説明しておきたいと思います。価格競争力のある商品はいくつか見つかりましたが、大量購入はまだ承認していません。発注数量と配送予定が確定してからでなければ、最終価格を提示しない業者もあるためです」
俺は彼女の向かいに座った。
「つまり、昨日と同じ方針だな。まず現地価格を確認して、それから購入数量を決める」
「そのとおりです。ただ、必要のない業者を訪問して時間を無駄にしないよう、初期比較表は作成できました」
ランは表を拡大した。
セレヴェイン――補給品市場調査
| 分類 | 初期調査結果 | 判断 |
| ------------ | ------------ | ------------ |
| 基本食料品 | 複数の供給業者あり | 大口価格を比較 |
| 生鮮食品 | 品質・産地にばらつきあり | 現物確認 |
| 技術材料 | カタログ入手可能 | カリスタが仕様を確認 |
| 通常医療用品 | 登録済み販売業者あり | 在庫と照合 |
| S-09への配送サービス | 業者ごとに費用が異なる | 書面による見積もりを請求 |
| 大量購入 | 未承認 | 最終評価待ち |
「私からも追加したいことがある」と、ランの隣に座っていたカリスタが言った。「現地の産業認証に基づいて部品を販売している業者が、いくつかあるんだ。購入を検討する前に、品質を確認したい。仕様が合わないなら、結局使わない予備品のために保管スペースを使うのは無駄だからな」
「構わないよ。技術面で何が必要か、一番よくわかっているのはお前だからな」
「よし。それと、軽微な整備作業に使える汎用材料があるかも見ておきたい。艦内で製造する能力が足りないわけじゃないが、価値の小さな品物のために内部生産工程を割り当てるより、港で規格品を買ったほうが実用的な場合もあるからな」
ランもすぐに頷いた。
「価格と品質が妥当であれば、私も賛成です。艦内で製造できるものが、必ずしも安く済むとは限りません。内製費用と購入費用は、きちんと比較する必要がありますから」
俺は2人を見た。
「物資調達の話をしているときのお前たちって、本当に相性がいいよな」
「無駄な仕事を防ごうとしているだけだよ、紬」とカリスタ。
「そして、無駄な支出もです」とランが付け加えた。
だろうな。
ランとカリスタが調達一覧を整理している間、ヴェスペラは現地のFTL航路状況を確認するため、航法情報ターミナルを訪れる予定だった。
彼女は、セレヴェインのネットワークを通じて受信した通知をいくつか見せてくれた。
「交通予定の更新と、商業航路における一時的な制限がいくつかあります。どれがイリリオン独立星系への旅に関係するのか、確認したいと思います。昨日受信した遠距離データは計画の基礎として十分ですが、現地情報のほうが通常は更新が早いですから」
「航路が使えなくなるような変更はあるのか?」
「現時点では、そのような通知はありません。ただ、確認を終える前に出航予定を確定させたくはありません」
「わかった。ターミナルへのアクセス許可が有効になったら行ってきてくれ。もっと効率のいい代替航路が見つかったら、報告書に加えておいてほしい。費用や交通密度の条件が悪いなら、最短航路にこだわる必要もないからな」
ヴェスペラは小さく微笑んだ。
「時間が残れば、公共展望室も見てみたいと思っています。このステーションの位置からなら、複数の交易回廊を直接観察できますから。さまざまな星系から来る船舶の動きを、現地の事業者がどのように管理しているのか興味があります」
「景色を楽しむだけなら、わざわざ俺に特別な許可を求めなくてもいいんだぞ。今は中継で立ち寄っているのであって、軍事作戦をしているわけじゃないからな」
「それでは、仕事が終わった後の個人的な予定として入れておきます」
一方、レアは先ほどから妙に静かだった。
経験上、そういうときこそ少し警戒したほうがいい。
「レア、昨日見つけた訓練センターはどうなった?」
彼女の狐耳が、すぐにぴんと立った。
「返事が来たよ! 民間の操縦者や、ライセンスを持つ傭兵向けのモビルフレーム訓練施設があるんだって。シミュレーターに戦術ブリーフィング室、それから活動内容に応じて借りられる訓練エリアもあるみたい。まずは見学に行って、それから個人所有機の持ち込みが可能か聞いてみたいんだ」
「その施設が、ちゃんと合法的に運営されていることは確認したか?」
「したよ。運営者の情報はステーションのサービス案内に載っているし、訓練へのアクセスを認める前に、操縦者の身元と適切なライセンスの提示を求めている。こっちの機体の技術データも、まだ送っていないよ。一般的な利用条件の一覧をお願いしただけ」
俺は満足して頷いた。
「いいね。まずは見学してきてくれ。施設の利用許可と輸送許可、それからカリスタの点検が全部終わるまでは、格納庫からモビルフレームを出さないようにな」
「わかってるよ、紬。早くアリーナへ行きたいからって、旅客ターミナルの中をモビルフレームで走ったりしないから」
「俺はまだ、そんなこと一言も言ってないぞ」
「でも、今そう考えてたでしょ?」
くそっ。
席に座っていたカリスタが笑った。
「レアが情報を持ち帰ったら、技術要件は私が確認するよ。いいシミュレーターがあるなら、メーカーの異なる機体構成を、その施設がどう扱っているのかも見てみたいな」
レアは親指を立てた。
「やっぱり興味を持つと思ってた!」
俺はセラフィエルを見た。
「どうやら、みんなそれぞれ行きたい場所が決まったみたいだな」
「紬もですよ」
「俺も?」
セラフィエルは微笑みながら、現地の観光情報ページを開いた。
「昨日から、おいしいレストランを探してほしいと頼まれていましたからね。S-09の旅客ターミナルから行ける場所を、いくつか用意してあります」
ああ。
そうだった。
危うく、今日一番大切な予定を忘れるところだった。
接続通路の安全確認が完了し、ようやくターミナルへのアクセス許可が下りた。
すべての用事を済ませるために、全員が一緒に外へ出る必要はない。セラフィエルはアストレオン・ヴェロリアの運用システムとの接続を維持しているため、実体の身体で指揮デッキの外にいても、艦の活動を監視できる。
俺は、まず彼女とランの2人と一緒に出かけることにした。
レアは訓練センターへ、ヴェスペラは航法情報施設へ向かう。カリスタは部品地区まで直接足を運ぶ必要があるか判断するため、引き続き仕入れ先のカタログを確認する予定だった。
接続通路の扉が開くと、濾過システムを通したステーションの空気が俺たちを迎えた。
S-09の旅客通路は、想像していたよりもずっと広かった。滑り止め素材で覆われた金属製の床がメインターミナルへ向かって伸び、その脇には、外を行き交う船舶を眺められる大きな窓が並んでいる。
何人かの訪問客が足を止め、観測パネル越しにアストレオン・ヴェロリアを眺めていた。
気持ちはわかる。
俺だって普通のターミナルにいて、外にあれほど巨大な個人所有艦が停泊しているのを見かけたら、少しくらい立ち止まると思う。
「紬、艦を見ている人々を観察し始める前に、そろそろ移動したほうがよいかと」とランが言った。
「ただ見ているだけだよ」
「もちろんです。ただ、昼食までに済ませておきたい用事が、まだいくつかありますので」
「本当に、予定を思い出させる機会は逃さないんだな?」
「書類を忘れたせいで管理ターミナルへ戻ることなく、今回の訪問を楽しんでいただくためのお手伝いですよ」
左隣を歩くセラフィエルが微笑んだ。
「到着関係の書類は、すべて手続きが完了したとの確認を受信しています。現時点で、紬が艦へ戻らなければならない行政上の用件はありません」
「ほらな。だったら、そのまま食事に行けるじゃないか」
「レストラン地区へ向かう途中にある、2社の仕入れ先の見積もりを確認してからですが」とランが付け加えた。
俺は足を止めた。
「まさか、レストランへ行く道沿いにある業者を、わざわざ選んだのか?」
「もちろんです。遠回りをさせたくありませんから」
セラフィエルは手の甲で口元を隠し、笑いをこらえていた。
どうやら、ランの交渉能力が発揮されるのは、商人を相手にするときだけではないらしい。
セレヴェインは、宇宙の真ん中に造られた小さな都市のようだった。
メインターミナルには、さまざまな銀河言語で書かれた案内板、配送サービスの広告、両替窓口、旅行用品店、そして各地の料理を提供する飲食店がひしめいている。
スペース・ドワーフの1人が、部品箱の寸法について配送担当者と言い争っていた。その少し先では、スペース・エルフの商人が2人、ショーウィンドウに飾られた合成繊維の見本を確認している。さらに、旅行鞄を持った商船の乗組員たちが、宿泊エリアへ向かって歩いていた。
それぞれの取引や用事が無事に済むのであれば、相手がどこの国の出身かなど、誰もそれほど気にしていないように見える。
もちろん、これは俺の第一印象にすぎない。
地元の商人たちが新しい訪問客から利益を得るために使っている、さまざまな方法を、ランはきっとすぐに見つけるだろう。
俺たちは、小さな展示スペースを備えた仕入れ先の事務所に立ち寄った。
ランは購入数量ごとの価格、配送条件、そして商品をS-09まで直接運ぶ場合の追加費用について、詳細を求めた。
最初は満面の笑みを浮かべていた営業担当者も、ランがカタログ価格と最終取引価格の違いについて尋ね始めると、少し驚いた様子を見せた。
「こちらに記載されている配送サービスには、艦の貨物受入口までの移送が含まれていますか? それとも、ステーションの物流ターミナルまででしょうか?」
『こちらの価格には、物流ターミナルまでの配送が含まれております、お客様。その先の移送につきましては、通常、コンテナ数と取扱予定に応じて計算しております』
「それでしたら、両方の場合について、それぞれ見積書を作成してください。また、注文を2回の配送予定に分けた場合でも、大口割引が適用されるか確認したいと思います」
『もちろんです。商社向けの仕入れをご予定でしょうか?』
「個人所有艦の運用に必要な物資です。ただ、複数の仕入れ先を比較している段階ですので、最終的な数量はまだ決めておりません」
担当者は再び笑顔になった。
ただし今度は、明らかに先ほどより慎重な態度だった。
俺はセラフィエルの隣に立ち、2人のやり取りを眺めていた。
「まだ一度も値引きを要求していないのに、もう担当者をかなり働かせているみたいだな」と、俺は小声で言った。
「ランは、実際の取引費用を調べているのです、紬。見積もりの構造を知らないまま値引きだけを求めても、かえって交渉の余地が狭くなってしまいますから」
「わかっているよ。ただ、自分でやらずに済んでよかったと思っているだけだ」
「ラン自身も、仕事を楽しんでいると思いますよ」
見積書を受け取ると、俺たちは再び歩き始めた。
大量購入は、まだ何もしていない。
ランはほかの業者と比較できる情報を手に入れて満足そうだったし、俺はようやくレストラン地区へ向かえることに満足していた。
ところが、大きな広告パネルの前を通り過ぎた瞬間、個人端末が通知音を鳴らした。
レアからのメッセージだ。
開いてみると、画面のほとんどを焼き肉の写真が埋め尽くしていた。
その下には、こう書かれている。
グランド・フレイム・グリル――セレヴェイン
プレミアムカットの肉、厳選されたグリル料理、船舶クルー向け特別メニュー。
すぐに次のメッセージが届いた。
『紬! ものすごくおいしそうなお店を見つけたよ! 訓練センターもよかったけど、セレヴェインを離れる前に絶対ここへ行ってみよう!』
俺は画面をセラフィエルに見せた。
「どうやら、レアが俺たちの食事場所を決めたみたいだな」
「確かに、魅力的な広告ですね」
会話を聞いていたランが、すぐに振り向いた。
「まずはメニュー一覧を見せてください」
俺は端末を持ち上げた。
「ラン、たまには料理がおいしそうだからって理由だけで、レストランを選んでもいいんだぞ」
「もちろん構いません。ただ、広告に表示されているものと、実際に提供される料理が一致しているか知りたいのです」
「それと、値段も?」
「それも重要ですね」
俺は少しくらい味方してくれることを期待して、セラフィエルを見た。
残念ながら、彼女はそのレストランのレビュー画面を開いていた。
「肉の品質とサービスについて、いくつか評価が見つかりました。全体的な評判は良好です。ただし、一部のプレミアムメニューは、通常の料理よりもかなり高額ですね」
ランがすぐに近づいた。
「それでしたら、予約する前に選択肢を比較しましょう」
俺はため息をついた。
ヴェルドラコンでは、保安関係の会議や貴族の家庭問題に向き合わなければならなかった。
セレヴェインでは、2人の女性によるレストランの適格性審査に向き合わなければならないらしい。
自由というものにも、いろいろな形があるようだ。
結局、俺たちはグランド・フレイム・グリルを訪れることになった。
俺が議論に勝ったからではない。
価格表、食材の品質、客のレビューを確認した結果、ランが、この店には試す価値のあるメニューがいくつかあると結論づけたからだ。
訓練センターの初回見学を終えたレアも、そこで合流した。
軽やかな足取りで現れた彼女の狐耳は、艦内にいたときよりも、ずっと活発に動いている。
「紬! もうメニュー見た? 何種類かのソースを選べるグリルセットがあるんだけど、私は独立農業コロニー産の香辛料を使ったやつを試してみたいんだ。あ、訓練センターのほうも、Cランクの操縦者向けの詳しい利用条件を送ってくれるって。食事が終わったら、カリスタと相談するつもり」
「2つの用事を同時に済ませてきたわけだな」
「もちろん。いいレストランを見つけたからって、訓練をおろそかにしたりしないよ」
「それは何よりだ」
俺たちは窓際の、十分な広さがあるテーブルを選んだ。
そこからは、訪問客で賑わうターミナル内部が見渡せた。ウェイターがメニューを持ってきて、その日に提供される料理をいくつか説明してくれる。
俺は焼き肉に野菜とスープがついた料理を選んだ。
レアはもっと量の多いものを注文し、ランは品質と価格の組み合わせが最も妥当だと判断した料理を選んだ。
セラフィエルも自分の料理を注文すると、少し驚いた様子の俺へ目を向けた。
「何かお聞きになりたいことがありますか、紬?」
「いや。ただ、到着する前からその料理を選ぶつもりだったのかなって」
「食材の構成と調理方法を読んで、試してみたいと思ったのです。いつも私が用意した料理ばかり食べる必要はありませんからね」
「もちろんだよ。むしろ、食べた後の感想を聞いてみたいな。グランドダイニングのメニューに取り入れられるものが見つかるかもしれないし」
「それでは、食後に評価をお伝えしますね」
ランがグラスを持ち上げた。
「その評価が、新しい厨房設備の購入申請に変わらないことを願っています」
「俺はまだ何も言ってないぞ!」
レアが笑った。
やがて料理が運ばれてくると、焼き上がった肉の香りがテーブルいっぱいに広がった。
俺は最初の一切れを取り、口に運んだ。
なかなかうまい。表面の焼き加減は適切で、中にはその部位に合った柔らかさがきちんと残っている。
レアは、俺よりもずっと興奮しているようだった。
「おいしい! 紬、このソースも試してみて。いつも艦で食べているものとは、ちょっと味が違うんだ」
彼女はソースの容器を俺の皿の近くへ寄せた。
俺も試してから頷いた。
「悪くないな。香辛料は結構強いけど、肉の味を消していない」
「でしょ? 広告を見たときから、いい店だと思ってたんだよね」
ランは料理を切り分けながら微笑んだ。
「今回は確かによい選択でしたね、レア。通常メニューの価格も、主要中継地区にあるレストランとしては妥当な範囲です」
「じゃあ、また来てもいい?」
「まだ最初の食事すら終わっていませんよ」
「聞いてみただけだってば」
俺は食事を続けながら、2人のやり取りを眺めていた。
誰かが突然の依頼を持って現れるかもしれない、なんて考えずに、こんなに単純な時間を楽しむのは久しぶりな気がする。
ここには、公爵家の問題に関わった人物として俺たちを知る人間はいない。ヴェルドラコンの事件について報告を求めてくる職員もいない。
レストランの客たちにとって、俺たちは停泊後の昼食を楽しんでいる、ただの船舶クルーだった。
俺は、そういう状況が好きだった。
食事の後、俺たちは再びそれぞれの用事に分かれた。
ランはセラフィエルとともに価格調査を続け、レアは訓練施設の利用条件について話し合うため、カリスタに会いに行った。
俺は、航法情報ターミナルにいるヴェスペラのところへ向かうことにした。
その施設は中継地区の上層部にあり、FTL航路の状況、安全通達、商業船舶の運航予定を表示するコンソールが並んでいた。
俺が到着したとき、ヴェスペラは地図を確認しているところだった。
「どうだった?」と近づきながら尋ねる。
彼女が振り向いた。
「順調です。イリリオン独立星系への航路に必要な更新情報は入手できました。現地の交通予定にいくつか変更がありますが、登録航路を使った私たちの旅を妨げるような閉鎖情報はありません。出航予定の提案を送る前に、もう1つだけ確認を終えたいと思っています」
「それなら、急がなくていいよ。こっちもまだ補給関係の用事が残っているし、昨日セラフィエルが見つけた契約も確認しないといけないからな」
ヴェスペラは頷いた。
「セレヴェインには傭兵協会の支部もあるようです。独立星系に関係する契約情報は、通常、現地ネットワークを通じて更新されています。イリリオン方面の仕事をお探しなら、最終的な出航予定を決める前に、直接確認したほうがよいかもしれません」
「そのつもりだよ。セラフィエルが見つけた2件のCランク向け募集がまだ残っているか、それと、どんな条件がついているのかを見たいんだ」
「契約の評価に必要となりそうな航法データは、私が準備しておきます。そうすれば、報酬額だけが魅力的に見える仕事なのか、それとも本当に旅行経路に合っている仕事なのか、判断できますから」
俺は彼女の前にある地図を眺めた。
「ありがとう、ヴェスペラ。確認が終わったら、見たがっていた景色も忘れずに楽しんでくれよ。ここの展望室については、昨日から話していただろう?」
彼女は小さく微笑んだ。
「紬がいらっしゃる前に、もう訪問してきました。あそこからは、商船の到着航路がよく見えます。それに、私たちがまだ訪れたことのない独立コロニーについても、いくつか情報を見つけました」
「お前はいつも、面白そうな新しい場所を見つけるな」
「それも、私たちがヴェルドラコンを離れた理由の1つではありませんか?」
俺は少し彼女を見つめ、それから微笑んだ。
「確かにそうだな。行ってみる価値があると思う場所を見つけたら、旅行候補に加えておいてくれ。立ち寄る先々で、必ず仕事を受ける必要なんてないんだから」
「そうさせていただきます」
アストレオン・ヴェロリアへ戻る頃には、その日の活動から十分な量の報告が集まっていた。
ランはいくつかの比較可能な補給品の見積もりを入手した。カリスタは部品カタログを受け取り、さらに詳しく確認する価値のある商品に印をつけ始めている。レアはモビルフレーム訓練センターの利用条件を持ち帰り、ヴェスペラは現地の航法データの更新を完了していた。
急いで承認された大きな支出はない。
新たに受注した契約もない。
そして何より、国家の政治問題を解決してほしいと頼みに来る人間が、1人もいなかった。
俺はグランドサロンに座り、セラフィエルが用意した概要報告書を読んだ。
セレヴェイン――2日目・活動概要
| 活動 | 結果 |
| ------------ | ---------- |
| 到着登録 | 完了 |
| ドッキング | 民間バース S-09 |
| Cランクライセンス | 確認済み |
| 保険審査 | 完了 |
| 補給品価格調査 | 進行中 |
| イリリオン方面の航路確認 | 更新情報受信済み |
| モビルフレーム施設の調査 | 初期情報を入手 |
| 大量購入 | 未承認 |
| 新規傭兵契約 | 未受注 |
「なかなか充実した1日だったな」と俺は言った。
セラフィエルが隣に座った。
「私もそう思います。ヴェルドラコンとの専門的な関係を利用することなく、ステーションのサービスへアクセスすることもできましたし」
「そこが一番気に入っているところだよ」
端末を確認していたランが顔を上げた。
「購入数量を確定する前に、調達費用の比較を終える予定です。現時点では、中継予定を変更しなければならないほど緊急の補給需要はありません」
「よし。それなら明日は、傭兵協会の支部で利用可能な仕事を確認できそうだな」
「その前に、紬にご覧いただきたいものがあります」
セラフィエルがテーブルの中央へパネルを移動させた。
見覚えのある表示だった。
傭兵協会の契約ネットワークだ。
「昨日の2件の募集に、更新があったのか?」
「はい。到着登録が完了した後、現地の契約掲示板から更新情報を受信しました。表示された通知の1つは、イリリオン独立星系からのものです」
俺はその情報を開いた。
最初は、ただの輸送か調査の募集だと思った。
しかし、情報パネルの下部には、注意を促す印のついた告知が表示されていた。
傭兵協会――イリリオン独立星系
運用上の通達
民間調査船1隻が、小惑星帯の外縁区域へ進入した後、通信を喪失したと報告されています。追加情報および関連業務の条件については、管轄する傭兵協会支部を通じて確認できます。
俺は、その告知をもう一度読んだ。
「通信を失った調査船、か……」
ちょうど部屋へ入ってきたヴェスペラも、パネルに目を向けた。
「小惑星帯の外縁区域は、十分な航法計算なしに進入できる場所ではありません。ただ、通信を失ったという情報だけでは、原因を特定するには不十分です。通信設備の問題かもしれませんし、機器の故障、あるいはまだ報告されていない別の状況が発生している可能性もあります」
「わかっているよ。いきなり襲撃だと決めつけるつもりはない」
ランも近づき、表示された情報を読んだ。
「この通達が、私たちの検討している募集のいずれかに関係するのであれば、まず正式な契約書類を確認したいですね。依頼主が誰なのか、実際に何を求められているのか、そして受注する事業者の責任範囲がどこまでなのか、把握する必要があります」
「賛成だ。短い告知だけを見て、仕事を引き受けたりはしないよ」
俺はセラフィエルを見た。
「明日、傭兵協会の支部へ行こう。利用可能なCランクの契約を確認したい。特に、イリリオン方面への旅に関係する仕事をな」
「承知しました、紬。初期審査に必要なライセンス、登録書類、艦の情報を準備しておきます」
俺は再び告知へ目を向けた。
正直なところ、ヴェルドラコンを離れて最初の仕事は、もっと単純なものになることを期待していた。
荷物を運んで、報酬を受け取って、それから次の旅を楽しむ。
けれど、小惑星帯の外側で通信を失った民間調査船というのは、傭兵の助けが必要になるかもしれない問題に聞こえる。
もちろん、だからといって俺が引き受けなければならないわけじゃない。
実際に何が起きたのか、契約の報酬はいくらなのか、そしてその仕事が、俺たちの引き受けてもいいと思える責任の範囲に収まっているのか。
まずは、それを知りたかった。
「セラフィエル」
「はい、紬?」
「その告知は保存しておいてくれ。明日、協会から詳しい情報を入手してから確認しよう」
「了解しました」
俺はパネルを閉じ、ソファの背もたれに身体を預けた。
少なくとも今日は、無事にセレヴェインへ到着し、港湾審査を終え、それなりに満足できる昼食まで楽しめた。
帝国を離れたばかりの傭兵にとっては、十分すぎるほど順調な旅の始まりだと思う。
あとは、この自由な航路で受ける最初の仕事が、俺の期待どおりに単純なものになるかどうかだな。
【次回・第123話】
「Rank C の仕事」
Cランクの仕事――セレヴェイン傭兵協会支部への訪問、イリリオン・ヴェスタ方面の契約審査、そして複数の調査船から報告されているセンサー障害に関する情報。




