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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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【第121話】「帝国は、もう遠い」

【第121話】「帝国は、もう遠い」


ヴェルドラコン出航後・1日目 場所:ヴェルドラコン星系外縁部 → FTL航行 → セレヴェイン自由 公共交通機関 ステーション POV:星崎紬


危うく政治や軍事の問題に巻き込まれかけた帝国を、ようやく離れることができた。その後で一番何をしたいのかと誰かに聞かれたら、俺の答えは実に単純だ。


うまいものを食べて、ぐっすり眠って、それから面倒に見合うだけの報酬がもらえる仕事を探す。


残念ながら、そんなささやかな願いを叶えるためにさえ、艦長という立場では、どこに艦を停泊させるのか、補給にはいくらかかるのか、そして目的地には行く価値のあるレストランがあるのか、といったことまで考えなければならない。


個人所有の宇宙船を持っている人間が、必ずしものんびりしているようには見えない理由が、少しずつわかってきた。


特に、その個人所有艦が全長8,600メートルもある場合は。


指揮デッキのパノラマウィンドウの向こうでは、FTL航行中に生じる光学現象によって、星々の光が長く伸びていた。


帝都の景色はもうない。出航回廊を監視していたヴェルドラコンの哨戒艇もいない。そして何より、次の会議の決定を待ってほしいと頼んでくる役人もいない。


アストレオン・ヴェロリアは、すでに帝国の中枢領域を離れていた。


俺は艦長席の脇にあるテーブルからコーヒーカップを取り、メインコンソールの近くでいくつかの投影画面を確認している長い髪の女性に声をかけた。


「セラフィエル、そろそろ次の目的地について、もう少し本格的に話し合わないか? 昨日、独立コロニーのある地域へ向かうことでは合意したけど、地図上で地域を選ぶのと、実際に最初の寄港地を決めるのは別の問題だからな」


セラフィエルが振り向いた。使っていた端末を置くと、その顔に柔らかな微笑みが浮かぶ。


「もちろんです、紬。交易路へのアクセス、港湾施設、傭兵協会のネットワーク、それにその先の旅程も考慮して、いくつか候補を用意してあります。星系間交易ネットワークで公開されている補給品の価格も反映しましたが、一部のデータについては、現地の市場情報を受信してから改めて確認する必要があります」


「いいね。全部見せてくれ。次にどうやって稼ぐかを考え始める前に、まずはいくら使う必要があるのか知っておきたい」


「最初に支出の話から始めてくださるとは嬉しいですね。ランも、きっとその判断を高く評価すると思います」


「普段の俺が、目についたものを片っ端から買っているような言い方はやめてくれ」


「そのようなことは申し上げていませんよ」


彼女の表情は、まったく変わらなかった。


なぜだろう。そのせいで、かえって返事が怪しく聞こえてしまう。


目の前に銀河地図が開き、ヴェルドラコン外縁領域から枝分かれする複数の航路が表示された。青い線は登録済みの交易路を示し、白い点は個人所有艦や商業事業者を受け入れている独立系の中継施設を表している。


セラフィエルは地図の中央部分を拡大した。


アストレオン・ヴェロリア――航路計画


| 項目 | 状態 |

| -------- | -------------------- |

| 出発位置 | ヴェルドラコン星系外縁部 |

| 航行状態 | FTL航行中 |

| 戦略上の目的地 | 独立コロニー航路 |

| 優先事項 | 中継、補給、傭兵業務、探査 |

| 選定上の制限 | 活動中の戦闘区域および政治的義務を回避 |

| 公開登録上の分類 | 超高級長距離航行型プライベート宇宙船 |

| 艦長のライセンス | 傭兵協会――Cランク・プロフェッショナル |


その下には、3つの目的地カテゴリーが、それぞれの施設情報とともに表示された。


俺は補給品の価格一覧を画面の中央へ移した。


「場所によって、消耗品の値段がずいぶん違うみたいだな。最初の寄港地で全部まとめて買ってしまったほうが、星系を移動するたびに調達手続きをするより楽じゃないか? 普通の旅行なら、アストレオン・ヴェロリアの保管容量を心配する必要もないだろうし」


セラフィエルが答えるより先に、背後からランの声が聞こえた。


「保管容量が大きいからこそ、積めるという理由だけで購入を決めていただきたくないのです、紬」


俺は振り向いた。


薄型端末を手に、モード・ラン・ヴァレスが指揮デッキへ入ってくる。淡い金色の長い髪が歩みに合わせて揺れ、その緑色の瞳は、俺が読んでいた価格一覧へまっすぐ向けられていた。


彼女が着ているのは、ヴェルドラコンでの公式会合に出席していた頃よりも、ずっと気楽な仕事着だった。


少なくとも今は、外交関係の書類を山ほど持ち歩く理由もない。


「おはよう、ラン。俺は補給品の購入を提案しただけで、まだコンテナ1基分を丸ごと注文したわけじゃないぞ」


「その提案が、私の帳簿に記入しなければならない決定へ発展する前に到着できて、何よりです。交易ネットワークの公開価格は参考にはなりますが、大量取引時の実際の価格を必ずしも反映しているわけではありません。貨物の取扱手数料も、実際の在庫状況も、独立事業者向けの割引があるかどうかも、まだ確認できていませんから」


ランは近づくと、仕入れ先一覧の1つを拡大した。


「こちらをご覧ください。単価を安く提示している業者がありますが、ステーションの倉庫から艦のターミナルまで商品を運ぶ費用が含まれていません。一方、別の業者は価格が少し高いものの、契約に配送サービスまで含まれています。最初に表示された数字だけを比較すると、安く見えた選択肢が、結果的には高くつくこともあるのです」


俺は2つの欄を読み比べた。


「なるほど。つまり、現地に着いて正式な見積もりを取るまで待ちたいわけか?」


「大量購入については、そのとおりです。必要数量がすでに確定している品目なら、事前発注をしても構いません。ただ、交渉の余地は残しておきたいですね。それに、今日中にすべての調達を終えなければならないほど、物資が不足しているわけでもありませんから」


セラフィエルが表示を在庫概要へ切り替えた。


艦内物流――予備調査


| 物資区分 | 状態 | 対応 |

| --------- | ---- | ------------ |

| 基本食料品 | 十分 | 現地価格に基づいて購入 |

| 生鮮食品・特殊食材 | 十分 | 市場調査 |

| 通常医療用品 | 運用可能 | 交換・補充の必要性を確認 |

| 機関部用消耗品 | 十分 | 整備予定と照合 |

| 推進・保守関連物資 | 正常 | 次回航行前に評価 |

| その先の旅行用物資 | 未確定 | 航路決定待ち |


「購入数量がまだ承認されていないため、総費用の見積もりも表示していません、紬。判断材料として使える金額をご希望でしたら、ランが価格比較を終えてから計算したほうがよいでしょう」


「それでいいよ。見栄えはいいけど、実は追加費用が隠れていた、なんて報告を見るより、根拠のある数字を受け取るほうがずっといい」


ランが満足そうに微笑んだ。


「そのご判断は、私の仕事を大いに助けてくださいます」


「まるで今、財政破綻を1つ未然に防いだみたいな言い方だな」


「艦の運営管理における、小さな成功と呼ばせていただきます」


セラフィエルが小さく笑った。


俺は、2人が協力して俺をからかう新たな理由を見つける前に、コーヒーを飲むことにした。


しばらくして、ヴェスペラも合流した。


スペース・ハイエルフの彼女が持ってきたのは、航行中に仕上げた航路計算の結果だった。セラフィエルの投影画面をいきなり切り替えるようなことはせず、補給品についての話が終わるのを待ってから、自分の航法地図を表示する。


「紬、現在位置から利用できる交易路を比較した結果、最初の中継地点について提案があります。直接どこかの惑星へ向かうよりも、適していると思われる独立系ステーションがあるのです」


「面白そうだな。俺も、現地の航路事情を知らないまま新しい星系へ急いで入るつもりはないよ。どんな場所を見つけたんだ?」


ヴェスペラは、いくつかの商業航路が交差する地点を拡大した。


セレヴェイン自由中継ステーション SEREVANE FREE TRANSIT STATION


その周囲では交易路が枝分かれし、一部は工業地域へ、ほかは独立星系やさらに先の中継施設へとつながっていた。


「セレヴェイン自由中継ステーションは、ヴェルドラコンの中枢領域へ戻ることなく、複数の商業航路へアクセスできる位置にあります。主要な観光地ではありませんが、商船、旅客船、独立事業者の乗り継ぎ地点として、重要な役割を担っています。そこで現地の詳しい情報を入手してから、次の旅程を決めることができます」


俺は、ステーションとほかの星系を結ぶ線を眺めた。


「つまり、そこで一度停泊して市場を調べ、中継登録の手続きを済ませて、条件の合う仕事を選ぶわけだな。面白いものが見つからなくても、帝国領へ引き返さずに、そのまま旅を続けられると」


「そのとおりです。また、イリリオン独立星系へ向かう後続航路も確認済みです。セレヴェインからなら、ヴェルドラコンの行政中枢を経由する遠回りをせず、同星系へ通じる登録航路に入れます」


ヴェスペラは地図を比較表示へ切り替えた。


提案航行ルート


| 段階 | 場所 | 目的 |

| --- | ---------------- | ----------------- |

| 01 | ヴェルドラコン星系外縁部 | 出発地点 |

| 02 | セレヴェイン自由中継ステーション | 中継・市場調査 |

| 03 | イリリオン独立星系 | 次の目的地候補 |

| 04 | イリリオン・ヴェスタ | 民間施設および現地業務へのアクセス |


表の横では、セラフィエルがセレヴェインからの選択肢を示す分岐図を表示した。


セレヴェインから利用可能な航路


```text

交易路

│

ヴェルドラコン ── セレヴェイン ──┼── イリリオン独立星系

│

その他のコロニー航路

```


俺はイリリオンを指さした。


「この星系はどうなんだ? 航路へのアクセスがいいという以外にも、第一候補にした理由があるのか?」


「イリリオンには、Cランクの傭兵が扱う仕事に適した民間活動や探査活動があります。個々の契約条件は、管轄する協会支部を通じて確認する必要があるため、現時点では特定の契約を推薦していません。ただ、大規模な軍事紛争へ直接関与することなく、調査や護衛の仕事へ戻る機会を得られる星系です」


「それは、俺が最初に傭兵になろうと決めたときに思い描いていた生活に、ずっと近いな。仕事を受けて、きちんと終わらせて、報酬をもらって、その金で旅を楽しむ」


ランは地図へ視線を向けたまま頷いた。


「私も、その方針を支持します。ただし、報酬額だけを契約選定の基準にはできないことを、改めて申し上げておきます。必要な期間、運用費用、保険上の義務、そして預かる貨物や人員に対する責任も計算しなければなりません」


「わかっているよ。ヴェルドラコンでの経験のおかげで、簡単そうに見えて隠れた義務が山ほどある仕事には、ますます興味がなくなったからな」


俺は椅子の背もたれに身体を預けた。


「報酬の高い契約があったら、まずは何を求められているのか、ちゃんと調べよう。協会の掲示板に魅力的な金額が載っているというだけで、仕事を引き受けたりはしない。まして、リスクの説明が最後のページに小さな文字で書かれているような契約なら、なおさらだ」


ランはおかしそうに俺を見た。


「紬が承認される前に、重要な条項はすべて確認いたします。もっとも、ヴェルドラコンでの契約関係の対応を拝見した限り、適切に確認しなかった義務がどれほど高くつくかは、もう十分ご理解されていると思いますが」


「実に貴重な教訓だったよ。残念ながら、ただ乗客を1人、家まで送り届けている最中に学ぶことになったけどな」


セラフィエルが付け加えた。


「良い面を挙げるなら、紬の傭兵協会ライセンスは、現在Cランク・プロフェッショナルへ昇格しています。契約範囲外の問題をわざわざ探さなくても、検討できる仕事の種類は増えましたよ」


俺はカップを持ち上げた。


「だったら、そのランクアップは、首都の前で攻撃艦隊と向き合うより、もっと楽しいことに使おうじゃないか」


俺たちがセレヴェインの施設について話し始めた頃、レアがやってきた。


投影画面の中央に表示されたステーション名を見るなり、彼女の狐耳がぴくりと動く。


「紬、そこが最初の目的地? 独立航路沿いにある訓練施設をいくつか調べ終わったところなんだけど、軍事組織の許可をもらわなくても利用できそうな場所があるんだよね」


「セレヴェイン自由中継ステーションを検討しているところだよ。もう何か見つけたのか?」


「民間のライセンス保有者を受け入れている、モビルフレーム訓練施設の事業者一覧があるんだ。まだ情報が全部揃っていないから、現地ネットワークに接続できたら運営者へ問い合わせたいと思ってる。十分な広さのアリーナを備えた戦術シミュレーターがあれば、カイラさんとの訓練で学んだ動きのいくつかを試せるからね」


レアは近づいて、検索結果を見せてくれた。


情報の一部には、未検証の公開データという印がついている。


「もちろん、いきなり施設を使わせてほしいって頼んでいるわけじゃないよ。正式に借りられる場所があるか知りたいだけ。ヴェルドラコンでの最後の訓練を終えてから、自分の戦い方には改善できそうな癖がいくつかあるって感じてるんだ。特に、ただ敵を倒すんじゃなくて、移動する対象を守らなきゃいけないときの動きとかね」


俺は頷いた。


「それなら、到着してから連絡してみてくれ。利用条件と、持ち込める装備の制限、それから個人所有機を使う場合に追加料金があるかも確認しておこう。次の出航準備に支障が出ない日程なら、訓練するのは構わないよ」


「ちゃんと計画を立てれば許可してくれると思ってた。あ、それと、紬にもアリーナを見に来てほしいんだ。別にモビルフレームを操縦しなくてもいいから、せめて私たちのシミュレーション結果について意見を聞かせてよ」


俺が答えるより先に、機関部との通信回線が開いた。


「個人所有機を外部施設へ持ち込むつもりなら、先にアクチュエーターと装備接続部の点検を予定へ入れておいてくれ。モビルフレームが格納庫へ戻ってから、初めて故障に気づいたなんて報告は受け取りたくないからな」


カリスタの声は、レアが通信コンソールへ振り向くほどはっきり聞こえた。


「まだアリーナの予約すらしてないんだけど、カリスタ。向こうがどんな設備を使えるのか確認してくれるまで、待ってくれてもよくない?」


「だからこそ、今のうちに言っているんだ。その施設に特定の技術要件があるなら、機体を搬出できる状態にする前に把握しておく必要がある。全部手順どおりだと確認できれば、好きなだけ訓練して構わないぞ」


「わかったよ。返事が来たら、施設の情報を送るから。でも、いいシミュレーターのあるアリーナが見つかったら、カリスタも見に来てよね。私が使っている機体構成について、あなたの意見も聞きたいんだから」


「機関部の予定が許せば行くよ。それに、他人の装備を見るのは、自社製品が一番優秀だと主張してばかりいるメーカーのパンフレットを読むより、ずっと面白いこともあるからな」


レアが笑った。


「うん、それならいい休暇の計画になりそう!」


俺は通信コンソール越しに2人を見た。


「お前たち、まだ最初のステーションにすら到着していないって、わかっているよな?」


「まだ到着していないからこそ、計画を立てる時間があるんだよ、紬」


あまりにも真面目な顔でそう答えられてしまい、俺には反論するだけの理由が見つからなかった。


そこでランが端末を持ち上げた。


「皆さんが活動予定の一覧を作り始めるのであれば、私からも1つお願いがあります。個人的な支出、訓練費用、運用上の購入費は、それぞれ分けてください。休日に購入したというだけで、モビルフレームの装備代が娯楽費として計上されているような取引は見つけたくありませんので」


「ラン、本当に予算の分類なしでは、誰にも楽しませてくれないんだな?」


「むしろ、後から請求書について議論することなく、皆さんに旅を楽しんでいただきたいのです。だからこそ、最初から記録を明確にしておく必要があります」


セラフィエルも、いかにも賛成しているとわかる笑顔で頷いた。


「私もランに賛成です。仮の予算配分を作っておいて、現地価格がわかってから更新すればよいと思います。そうすれば紬も、ご自身が楽しみたい活動の予算を決められますから」


俺は彼女へ顔を向けた。


「どうして俺は、行き先を尋ねただけなのに、話がだんだん財務会議に変わってきたような気がするんだろう?」


「紬が、とても大きな艦を所有していらっしゃるからです」


「反論しにくい答えだな……」


中継地点についての話し合いを終えると、俺たちは昼食のためにグランドダイニングへ移動した。


公式の晩餐会も、貴族の護衛も、特別な儀礼に従って応対しなければならない客人もいない。


あるのは十分な広さの食卓と温かい料理、そして帝都から緊急連絡が入るのではないかと気にすることなく、ようやく一緒の時間を楽しめる仲間たちだけだった。


セラフィエルが用意してくれたのは、炊きたてのご飯に味噌汁、焼き魚、数種類の野菜のおかず。それから、身体訓練を終えてお腹が空いたと先ほどから訴えていたレアのための肉料理だった。


俺が最初の一口を食べたところで、ランが再び端末の報告書を開いた。


「紬、食事の時間を会議に変えたとおっしゃる前に、補給予算について1点だけ確認させてください。セレヴェインでの中継後は、イリリオンへ向かうことを優先しますか? それとも、より興味深い情報が見つかった場合には、ほかの星系も検討されますか?」


俺は口の中のものを飲み込んでから答えた。


「イリリオンを第一候補にしておいてくれ。ただし、最終決定だとは考えないでほしい。まずはセレヴェインの様子を見たいんだ。航路を変えるだけの合理的な理由が見つかったら、みんなで話し合えばいい。誰かの締め切りに追われているわけじゃないからな」


「承知しました。それなら、購入をすべて確定させることなく、イリリオン航路を基準とした必要物資の概算を作れます。現地の価格と市場状況を確認した後で、数量を更新すればよいですね」


肉料理を楽しんでいたレアが振り向いた。


「それなら、ステーションのレストランを試す時間もあるよね? 面白そうな料理のレビューをいくつか見つけたんだけど、全部が中継客の立ち入れるエリアにあるかは、まだわからないんだ」


俺は危うくむせそうになった。


「訓練施設を確認するより先に、もうレストランを探していたのか?」


「両方探してたんだよ。訓練の後に食べる場所を考えておくのって、何か悪い? そもそも、次の旅ではおいしいものを食べたいって言ってたのは紬でしょ?」


「悪いとは言ってないよ。ただ、お前の優先順位のつけ方には感心しただけだ」


ヴェスペラがスプーンを置いた。


「セレヴェインはいくつかの商業航路が交わる場所ですから、さまざまな地域の料理を選べる可能性は高いと思います。個人的には、あのようなステーションが、訪問者の日常生活をどのように支えているのか見てみたいですね。中継地点では、人々の多くが誰かを迎え、そして送り出すことに慣れています。そのため、目的地となる惑星とは異なる文化が見られることも多いのです」


「俺もそこには興味があるな、ヴェスペラ。帝国の社会構造に強く影響されたヴェルドラコンの環境には、もう十分長くいたからね。どこの家の出身かとか、どんな役職についているかとか、そんな自己紹介から毎回会話を始めなくても、いろいろな星系の人たちが商売できる場所を見てみたい」


ランが微笑んだ。


「独立系の商人なら交渉しやすい、とは期待しすぎないでくださいね、紬。貴族の称号にはあまり関心がなくても、初めて訪れた客から利益を得る方法については、皆さんよくご存じでしょうから」


「だったら俺は幸運だな。適正価格と、高そうな艦に乗ってきた客向けの特別価格を見分けられる商人が、仲間にいるんだから」


「お褒めの言葉として受け取っておきます。ただ、予算は問題ないなどと、すべての売り手に自己紹介しないでいただけると助かります」


「そんなこと、一度も言った覚えはないぞ」


「結構です。ぜひ、その習慣を維持してください」


レアが大きな声で笑い、椅子の後ろで尻尾が揺れた。


ちょうど合流したカリスタは席につくと、食卓の様子を見回した。


「何か聞き逃したか? 紬が市場の商品を全部買い占めないようにする方法でも話していたみたいだが」


「誰も市場の商品を全部買ったりしないって!」


「だったら、小さなお願いをしてもいいか? セレヴェインに、見に行く価値のある技術材料や民生用部品の供給業者がいるか、調べたいんだ。何か買う必要はないが、ほかのメーカーの商品を見れば、現地の産業水準を知る参考になるだろう?」


ランはため息をついた。今度は、その笑みが少しはっきりしていた。


「市場調査の一覧に追加してください。ただし、必要性と価格について合意するまでは、発注しないようお願いします」


カリスタは両手を上げた。


「まだ何もしていないぞ、ラン。昼食が終わる前から、もう全員が購入ボタンを押すのを怖がるようになってしまったじゃないか」


「それで帳簿が整うのであれば、よい成果だと思います」


俺は目の前の料理を見つめ、それから仲間たちへ視線を戻した。


いつからだろう。こうした雰囲気が、こんなにも当たり前のものに感じられるようになったのは。


セラフィエルが俺の隣にいて、ランが財務を管理し、ヴェスペラはまだ訪れたことのない場所について考えている。レアは訓練の予定を探すのに忙しく、カリスタはいつだって技術の話をする理由を見つけてくる。


俺たちが途方もなく大きな艦の中にいるからといって、誰も自分以外の誰かを演じる必要はなかった。


アストレオン・ヴェロリアは、俺をある星系から次の星系へ運ぶだけの乗り物ではない。


ここはもう、俺たちの家になっていた。


「よし、みんな。食事が終わったら、それぞれの担当に沿って準備を続けてくれ。セレヴェインの進入区域に入るまでに、航路報告、予算の概算、それから確認が必要な施設の一覧を揃えておきたい。中継の手続きが終わったら、次の旅に本当に合った仕事を探し始めよう」


レアがグラスを持ち上げた。


「それと、おいしいレストランもね。その項目を一覧から消さないでよ、紬」


「忘れないって。むしろ、その件については俺も喜んで現地調査に参加するよ」


「じゃあ、決まりだね!」


ランが俺たち2人を見た。


「価格とレビューを比較してから、ですが」


俺とレアは顔を見合わせた。


どうやらヴェルドラコンからどれほど遠く離れても、決して変わらないことがいくつかあるらしい。


予定されていた航行期間の終わりが近づいた頃、俺は指揮デッキへ戻った。


ヴェスペラはすでに航法席に座っており、セラフィエルはメインコンソールの近くに立って、中継予定の更新情報を確認していた。


銀河地図には、セレヴェイン自由中継ステーションが現在の目的地として表示されている。


「紬、航路の再確認を完了しました。使用中の航法データに大きな変更はなく、初期進入予定も予測どおりです。到着手続きに関する公開情報も受信済みですが、ドッキング枠と登録審査については、次の段階でステーション管制官を通じて確認する必要があります」


俺は席に座り、表示された報告書を確認した。


アストレオン・ヴェロリア――中継航法状況


| 項目 | 状態 |

| ------- | ---------------- |

| 最初の目的地 | セレヴェイン自由中継ステーション |

| FTL航路 | 検証済み |

| 中継予定 | 計画どおり |

| 航法情報更新 | 完了 |

| 公開進入情報 | 受信済み |

| ドッキング枠 | 未確認 |

| 登録審査 | 到着手続き待ち |

| 次の目的地候補 | イリリオン独立星系 |


「いいね。ヴェルドラコンから来たというだけで、特別扱いを求める必要はないからな。個人所有艦の艦長として、通常の手続きを使いたい。追加書類が必要なら、施設を利用するすべての事業者に適用される条件である限り、求められたとおりに用意しよう」


ヴェスペラが頷いた。


「公開されている民間航行規定に合わせて、進入計画を調整してあります。私たちの艦の大きさを考えると、ステーション管制側は対応可能な施設の空き状況に基づいて、停泊位置を指定する必要があるかもしれません。正式な確認を受けるまでは、どのターミナルでも自由に利用できるとは想定しないつもりです」


「自信満々で到着してから、目当ての場所がこの大きさの艦を受け入れていないと知るより、ずっといいよ」


セラフィエルがセレヴェインの画像を拡大した。


その構造は、輸送用の軸と貨物取扱施設によって結ばれた、複数の軌道モジュールの集合体のように見えた。外周部にはいくつものターミナルが突き出し、商船と旅客船の到着航路は、それぞれの用途に応じて分けられている。


帝都のような壮麗さはない。


だからこそ、俺は興味を惹かれた。


立ち寄り、商売をし、働き、そして再び旅立っていく人々によって成り立っているステーション。


「ヴェスペラ、イリリオンへの航路はどうなっている? 中継が終わった後、出航経路を決めるだけで長い時間を使わずに済むよう、明確な選択肢を用意しておきたいんだ」


彼女は地図の次のレイヤーを開いた。


「後続航路は候補として準備済みです。セレヴェインへ到着した後、現地のFTL航路状況について更新情報を入手したいと考えています。特に、遠距離の公開ネットワークにはまだ反映されていない可能性のある航行通達ですね。それらを利用すれば、イリリオン独立星系へ安全に出航できる時刻を決められます」


「だったら、その方針で進めてくれ。合理的な理由があるなら、ステーションで少し余分に時間を使っても構わないよ。その機会に市場を見たり、仕事の情報を集めたりもできるからな」


そこでセラフィエルが、新しいパネルを俺の前へ移動させた。


「お仕事の話でしたら、紬。中継通信網を通じて利用できる傭兵協会のネットワークから、たった今、更新情報を受信しました。紬のライセンス区分に基づいて閲覧できる募集がいくつかあります。ただし、詳細情報と受注条件については、引き続き管轄支部を通じて確認する必要があります」


「ようやく面白そうな話が出てきたな。まずはCランクに合った仕事を表示してくれ。受けられない契約や、旅の計画にまったく合わない仕事で画面を埋めたくはないからな」


セラフィエルがフィルターを実行した。


募集一覧からいくつもの行が消え、俺の独立宇宙傭兵Cランクライセンスに関係する情報だけが残った。


俺は更新が終わるのを待ちながら、そのパネルを眺めていた。


やがて、適合マークのついた2件の項目が表示された。


傭兵協会――契約募集・予備情報


| 抽出結果 | 件数・状態 |

| ----------- | --------------- |

| 使用ライセンス | Cランク――プロフェッショナル |

| 初期分類に適合する募集 | 2件 |

| 特別条件の検証 | 未完了 |

| 受注状況 | 受注済み契約なし |


俺は少し身を乗り出した。


「2件か。まだ到着もしていないのに、もう検討できそうな仕事があるんだな。詳しい情報は今すぐ見られるのか?」


「すべてはまだ揃っていません。初期データでは、どちらの募集も紬のライセンス区分に適合していますが、技術的要件、契約上の責任、完了条件については確認を終えていません。セレヴェインで正式な情報を入手するまでは、受諾の返答を送らないことをお勧めします」


俺は頷いた。


「賛成だ。両方とも検討一覧に保存しておいてくれ。どちらかがイリリオンへ向かう航路と合っているなら、詳しい条件が揃ってから、ランやヴェスペラも交えて話し合おう」


「承知しました、紬。承認の送信は一切行わず、比較資料を準備しておきます」


メインスクリーンでは、航法計算上の目的地であるセレヴェイン自由中継ステーションが、少しずつ近づいてきていた。


俺は椅子の背もたれに身体を預け、その地図を見つめた。


昨日までの俺は、帝都にいて、誰も新しい問題を持ち込んでこないでくれと願っていた。


それが今日は、中継地点を選び、補給品の価格を比較し、次の旅の資金を稼げるかもしれない2件の仕事を眺めている。


ずっといいじゃないか。


「セラフィエル、到着手続きが終わったら、いいレストランを探すのを忘れないように言ってくれ。もう一度傭兵としての生活を始めるなら、腹を満たしてからにしたいんだ」


セラフィエルは微笑んだ。


「もちろんです、紬。登録審査と停泊施設の割り当てが完了した後の予定に追加しておきますね」


「昼食を食べるだけなのに、正式な予定を組まなくてもいいんだぞ」


「それでは、個人的なおすすめとして保存しておきます」


それまで航法データを確認していたヴェスペラも、ついに微笑んだ。


「レアも喜ぶと思いますよ。まだすべてが立ち入り可能なステーション区域にあるかどうかもわからないのに、すでにいくつかのレストラン候補を共有回線へ送ってきていますから」


俺はしばらく目を閉じた。


もちろん、もうやっているに決まっている。


「わかった。後で確認しよう。今はセレヴェインへの進入に集中してくれ。帝国を離れて最初の旅くらい、できる限り普通に進めたいんだ」


「了解しました、紬」


アストレオン・ヴェロリアは、設定された航路に沿って航行を続けた。


背後ではヴェルドラコンの中枢領域がますます遠ざかり、前方では、乗客や商品、そしてそれぞれの目的を持つ人々を乗せた船を迎え入れる独立系の中継ステーションが、俺たちの到着を待っていた。


これから出会うものを、今のうちにすべて知っておく必要はない。


大切なのは、今度こそ俺自身が行き先を選んでいるということだ。


それに、あの2件の契約募集が十分に面白そうなものだったら……。


まあ、まともな昼食を楽しんだ後で、また仕事を始めるのも悪くないだろう。


【次回・第122話】


「セレヴェイン自由中継ステーション」


艦船登録、Cランクライセンスの確認、補給品市場の調査。そして、もう1つの重要課題――ランが請求書を見て眉をひそめることなく、レアの基準を満たすレストランを見つけること。


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