【第117話】「自分で選ぶ令嬢」
【第117話】「自分で選ぶ令嬢」
ヴェルドラコン帝都――アストレオン・ヴェロリア、グランドサロン → 公爵家の居館 → グランドサロン
グランドサロンのパノラマ窓の向こうには、果てしなく広がる光の海のような帝都の姿があった。
ヴェルドラコンの大気層は、惑星の反対側へと傾き始めた太陽の黄金色を反射している。軌道複合施設の遥か下方では、大陸間輸送路が雲の合間に細い線を描き、旅客船や貨物輸送機が港湾当局の指定した航路を絶えず行き交っていた。
隣接するターミナルでは、大型輸送船が係留作業を終えたばかりだった。2隻の軌道タグボートが順番に磁気クランプを解除し、サービスエリアへ向かって移動していく。
紬はしばらくその動きを眺めてから、オーレリアへ向き直った。
向かいに座る金髪の少女の前には、まだほとんど口をつけられていない温かい飲み物があった。身に着けている服はヴェイリエンヌ家の公式な装いに比べればずっと簡素だったが、生地や仕立てには、一般的な衣料品店ではまず見かけない品質の高さが表れていた。
カイラは少し離れたソファに座っている。オーレリアが保安担当者へ報告しているような気分にならずに話せるよう、距離を取っているのだ。
セラフィエルは彼らの間に小さなテーブルを用意していた。
「さっき、家族の状況は落ち着き始めたけど、またお前の予定について話し合っているって言っていたよな。実際、俺に何を相談したいんだ? 公爵家の内部事情に関わる問題なら、俺はあまり適任じゃないかもしれないぞ。自分の艦の出航手続きすら、まだ終わらせられていないくらいだからな」
最後の一言を聞いて、オーレリアは微笑んだ。
「家族の問題を解決していただこうというつもりではありません、紬。以前の事件を経て、家族の何人かは、実際に何が起こったのかという説明をようやく聞き入れてくれるようになりました。保安体制についても、責任の所在が明確な担当者へ戻され始めています。状況がよい方向へ進んでいることは嬉しいんです。でも、安全についての話し合いが終わった途端、皆はこの7か月間などなかったかのように、また私の人生の予定を組み始めてしまったんです」
彼女は個人端末を起動した。
ヴェイリエンヌ家の紋章が入った文書が、テーブルの上に表示される。
ヴェイリエンヌ家――個人活動予定案
対象者: オーレリア・ヴェイリエン 状態: 家族内での予備審査 承認: 保留中
| 活動内容 | 初期配分 |
| ------------- | -------- |
| 教育および家族専属家庭教師 | 週24時間 |
| 公式行事の準備 | 週8時間 |
| 予定された社交会合 | 週6時間 |
| 家族儀礼・礼法の指導 | 週4時間 |
| 医療評価および回復管理 | 医師の推奨に従う |
| 個人的な活動 | 承認に基づく |
| 帝都外への旅行 | 特別承認が必要 |
紬は表を最後まで読んだ。
それから、下部の注記を拡大する。
追加条件
すべての外部旅行計画は、引き続き家族の保安審査および現在の医療回復計画に従うものとする。
彼はオーレリアを見た。
「俺たちが出会う前、お前がどんな予定で生活していたのかは知らないけど、この文書を見る限り、ほとんどの活動がもう決められているように見えるな。個人的な活動に至っては、時間の配分すらはっきりしていない。ここに書かれていることは、全部お前自身が望んでいるのか?」
オーレリアは表を見つめた。
「大切だと思うものもあります。教育を続けることに異論はありませんし、家族が私の健康状態を引き続き確認する必要があることも理解しています。公爵家の令嬢という立場に責任が伴うことも、なかったことにはできません。ただ、私が納得できないのは、すべてが先に組み立てられ、その後で、私には同意することしか残されていないかのように渡されることなんです」
紬は文書を彼女のほうへ戻した。
「つまり、予定があること自体が問題なんじゃない。お前が本当は何をしたいのか聞かずに、ほかの人が全部決めてしまうのが嫌なんだな」
「そうだと思います。ただ、それを家族へ説明しようとすると、どうしても、自分の責任を理解していない子供のわがままのように聞こえてしまう気がして……」
それまで話を聞いていたカイラが、カップを置いた。
「オーレリア様、特定の取り決めに異議を伝えることと、家族への責任を拒否することは同じではありません。保安の観点から申し上げても、予定に従っているだけで本当は別の場所へ行きたいと思っている方より、ご自身の旅行目的をきちんと説明してくださる方のほうが、私は適切な警護計画を立てやすいのです」
オーレリアが振り向いた。
「本当にそうお考えですか、カイラさん? 旅行を希望すれば、かえって護衛の仕事を増やしてしまうのではないかと心配なんです。特に、私たちの輸送船団が襲撃された後ですから」
「旅行に伴う危険は、確かに考慮しなければなりません。しかし、それは居館の外で行う活動をすべて禁止すべきだという意味ではありません。以前の問題は、アクセス管理と護衛経路が不正に操作されたことで発生しました。改善すべきなのは、その手順です。保安システムが悪用されたことを理由に、あなたを家から一歩も出られない方にしてはいけません」
紬は小さく頷いた。
「そこは俺も同感だ。でも、自由を得た後に何をしたいのかは、お前自身が考えておく必要があると思う。今までの予定が嫌だと言うだけなら、家族は少し余裕を増やした新しい予定表を渡してくるだけかもしれないからな」
オーレリアは、自分の手元へ視線を落とした。
アストレオン・ヴェロリアとともに旅をした間、彼女は、それまで授業でしか知らなかった場所を実際に訪れていた。
ペラギア・ノーヴェの市場を、今でも覚えている。そこでは買い手の家系など気にすることなく、さまざまな商品が売られていた。メリディエン・ヴェイルの歴史地区や、家族の教科書に載っている簡潔な説明だけでは捉えきれない文化も、記憶に残っている。
自分で食べ物を選ぶことや、どの店へ入るかを決めることさえ、当時の彼女には新鮮な経験だった。
しかし、ヴェルドラコンへ戻ると、それらの思い出は少しずつ、すでに終わった出来事として扱われるようになっていた。
まるで、あの旅は元の生活へ戻るまでの、一時的な寄り道にすぎなかったかのように。
「私は教育を続けたいです。でも、家族とのつながりだけを基準に選ばれた家庭教師から学ぶだけではなく、もっと広い環境で勉強したいんです。異なる環境で育った人たちと出会える授業に参加して、ほかの惑星の歴史や文化を学び、今まで私が知っていた世界の外で、人々がどのように暮らしているのかを知りたいと思っています。機会があれば、また旅もしたいです。しばらくは、安全に行ける場所だけでも構いません」
オーレリアは一度言葉を切り、顔を上げた。
「それから、ヴェイリエンヌ家の評判を高めるかどうかだけで決められるのではない、私自身の経験が欲しいんです。家族を離れるつもりも、自分が何者なのかを忘れるつもりもありません。でも、何かを選ぶ機会さえないまま、人生のすべてが先に計画されてしまうのは嫌なんです」
ちょうど軽食を取りに行って戻ってきたレアが、最後の部分を耳にした。
狐の耳がぴくりと動く。
「オーレリアちゃん、いろんな環境の人に会ってみたいっていうのは、私も賛成だよ。でも、1つだけ忠告しておくね。旅先で出会う人が、みんな公爵家の使用人みたいに礼儀正しいとは思わないほうがいいよ。普通の商品を、古代文明の貴重な遺物みたいに説明するのがものすごく上手な商人だっているんだから」
オーレリアは小さく笑った。
「市場を訪れたときに、実例を見たことがありますね。確かレアさんご自身も、有名な操縦士が使っていた品だと店主に言われて、何かを買いそうになっていませんでしたか?」
レアの口が、もぐもぐと動くのを止めた。
「あれは形が面白かったからで、店主の話をすぐ信じたわけじゃないよ。それに、結局ヴェスペラさんが、同じモデルは今でも3つの交易星系で大量生産されているって調べてくれたんだから」
窓際にいたヴェスペラが、航行図から視線を上げた。
「当時の提示価格も、市場価格のほぼ4倍でした。私は、有名な操縦士にまつわる話がその差額に見合うものなのか、レアが判断できるよう比較をお見せしただけです」
「まだ覚えてるの? あの惑星を離れた時点で、もう終わった話だと思ってたのに」
紬はレアの表情を見て微笑んだ。
「本当に買っていたら、ランは今でも価格差の話をしていたかもしれないな」
別の端末で報告書を読んでいたランが、顔を上げずに応じた。
「好きだからという理由で何かを購入することには、異論はありません。私が問題にしているのは、一般向けのカタログに今でも掲載されている商品に、収集品としての価格を支払うことです。その2つは、財務上まったく異なる判断ですから」
オーレリアも、皆と一緒に笑った。
笑いが収まると、彼女は再びテーブルの上の家族の予定表へ目を向けた。
今度は、その文書が、疑問を差し挟むことさえ許されないものには見えなかった。
セラフィエルは、予定表のいくつかの項目を見比べているオーレリアを見守っていた。
「オーレリア様、ご家族へ提案されるのであれば、まずご自身の希望と、実際に無視できない条件とを分けてみると、話し合いやすくなるかもしれません。私があなたに代わって決定を下すという意味ではありません。どの部分について関係者と話し合う必要があるのか、整理するお手伝いならできます」
オーレリアは頷いた。
「やってみたいです、セラフィエルさん。でも、以前私を助けてくださった紬の立場を利用して、家族に要求を受け入れさせるようなことはしたくありません。私が伝える理由にきちんと筋が通っているからこそ、耳を傾けてもらいたいんです」
「それでしたら、オーレリア様ご自身の個人文書として作成しましょう。アストレオン・ヴェロリアの身分情報や認可を使用する必要はありません」
セラフィエルは予定表の写しを一時閲覧画面へ移し、その隣に空白の作業領域を開いた。
オーレリアは、いくつかの項目を書き始めた。
オーレリア・ヴェイリエン――個人提案書
| 分野 | オーレリアの希望 |
| ------- | -------------------------- |
| 教育 | より幅広いプログラムから選択できる形で教育を継続する |
| 旅行 | 段階的に旅行の機会を得る |
| 個人的な経験 | 家族の環境外で、社交・文化・学習活動に参加する |
| 家族への義務 | 合意した責任は引き続き果たす |
| 安全 | 専門的なリスク評価に従う |
| 健康 | セレネ・アルカディアの医療上の推奨に従う |
| 個人の意思決定 | 予定が確定される前に本人も協議へ参加する |
紬は内容を読んだ。
「単に自由な時間が欲しいと言うより、ずっと明確になったと思う。護衛なしで好き勝手に出歩きたいとか、医療検査を無視したいと言っているわけじゃない。自分の活動を選ぶ機会が欲しい。そのうえで、責任のある人たちには、本当に必要な制限を説明してもらいたいってことだろう?」
オーレリアは頷いたが、その表情にはまだ少し迷いがあった。
「もし、家族が、この7か月間の経験で私が家の外の生活に影響されすぎたと言ってきたら、どうすればいいでしょうか。以前と同じ活動に戻すための理由として、誰かがそう言い出す姿を想像できるんです」
紬は皿から軽食を1つ取った。
「実際、旅はお前に影響を与えたんじゃないのか? いろんな場所を見て、新しい人に出会って、以前は考えもしなかったような希望を持つようになった。ほかの人が安心するためだけに、そういう経験に意味はなかったと装う必要があるとは思えないけどな」
「確かに、私は変わりました。ただ、その変化を家族への拒絶だと思われたくないんです」
「だったら、その違いを説明すればいい。すぐに納得してもらえるとは保証できないけど、お前自身がその話を避け続けていたら、本当は何を考えているのか、家族にはいつまで経ってもわからないだろう?」
オーレリアは、しばらく彼を見つめた。
「紬、もしあなたが私の立場だったら、どうしますか?」
紬は手に取った軽食を皿へ戻した。
「俺はお前の立場じゃないよ。自分の艦を持っていて、旅の目的地を決められるし、誰かが俺の予定について話し合いたいと言うたびに、公爵家の会議へ出席する必要もない。俺たちの状況が同じであるかのように答えたら、かえって役に立たない助言になると思う」
彼は、オーレリアが作ったばかりの提案書を指さした。
「でも、さっきから話していることを聞く限り、お前の希望はもう十分にはっきりしている。それが本当に望んでいることなら、自分で家族に伝えてみればいい」
オーレリアは黙り込んだ。
彼女が答える前に、紬は続けた。
「セラフィエルに完璧な決定を作ってもらおうとしなくていい。カイラに代わりに話してもらう必要もないし、家族が断りにくくなるよう、俺を理由に使うこともない。手続きを理解したり、書類を準備したりするために助けを求めるのは構わない。でも、オーレリア・ヴェイリエンが何をしたいのかを説明するのは、やっぱりオーレリア自身であるべきだろう?」
カイラは紬を見た。
保安演習の後に交わした会話を思い出す。
この艦長は、ただ自分が優れていると証明するためだけに、力を使うことを好まない。
どうやら、その考え方は、他人の個人的な問題に向き合うときも同じらしい。
自分のものではない決定を、勝手に引き受けようとはしないのだ。
オーレリアは少し俯いた。
それから、頷いた。
「わかりました。今までの私は、どの選択が最も正しいのか、誰かに教えてもらうのを待ちすぎていたのかもしれません。そうすれば、自分の決断が間違っていたかもしれないという可能性に、向き合わずに済みますから。でも、自由を持ちたいのであれば、自分が選んだことに責任を負う覚悟も必要なんですね」
紬はかすかに微笑んだ。
「うん。今のお前は、本当に自分の将来について話し合いたい人間らしい言い方をしているよ。あと、家族がもっともな反対意見を出してきたら、それにも耳を傾けること。すべての制限が、お前を困らせるために作られているわけじゃないからな」
「覚えておきます。それでも賛成してもらえなかったら、少なくとも今回は、私自身が参加する話し合いの中で、その理由を知りたいと思います」
訪問が終わると、カイラはオーレリアをドッキング接続口まで案内した。
アストレオン・ヴェロリアの旅客用通路が、彼女たちの前に伸びている。車内交通用の経路に沿って柔らかな照明が灯り、透明パネルの向こうでは、軌道施設から新たに受け取った補給コンテナを積んだ自動輸送ユニットが、艦の別区画へ向かって移動していた。
オーレリアは急がずに歩いている。
カイラも、その歩調に合わせた。
「オーレリア様、今回の提案をいつご家族へお伝えするか、もうお決めになりましたか? 個人的な予定を私が管理するためにお聞きしているのではありません。護衛の調整が必要となる活動変更があるかどうか、把握しておきたいのです」
オーレリアは端末の文書を見た。
「今日のうちに話したいと思っています。考えていることが、まだはっきりしているうちに。でも、先にカイラさんから内容を伝えていただくつもりはありません。本当に私の意見を聞いてもらいたいのであれば、その話が保安担当者の報告から始まるのは、少し違う気がするんです」
カイラは頷いた。
「私も同意します。居館まで安全にお送りし、職員へ面会の機会を用意するよう依頼することはできます。その後の話し合いの内容は、あなたとご家族の問題です。正式な依頼がない限り、その個人提案書を保安上の勧告へ変更することはありません」
オーレリアは微笑んだ。
「ありがとうございます、カイラさん。それから、今もこのような姿勢でお仕事を続けてくださっていることを、嬉しく思っています。あれだけのことがあった後ですから、誰もが私を守るということは、まず私の活動をすべて決めてしまうことだと考えるようになるのではないかと、少し心配していたんです」
カイラはすぐには答えなかった。
開き始めたドッキング扉へ目を向ける。
「私の任務は、オーレリア様の安全を守ることです。受け入れられない危険を伴う計画があれば、当然、異議を申し上げなければなりません。しかし、安全を理由に、本来あなたご自身が下せる個人的な決定まで、私が代行すべきではありません。その2つを適切に区別できれば、私の仕事もむしろ明確になります」
オーレリアは頷いた。
通路の先では、公爵家保安局の車両が待機していた。
今回は、車両の扉が開くと、オーレリアは自分自身で決めた目的を胸に乗り込んだ。
公爵家の居館は、アストレオン・ヴェロリアが係留されている軌道複合施設とは、まったく異なる景観を持っていた。
ヴェイリエンヌ家の本館は、広大な居住区画の中央に建ち、周囲には段状の庭園と専用車両の通路が広がっている。通信塔や隠された防衛装置は、何世代にもわたって維持されてきた貴族建築の中へ自然に溶け込んでいた。
オーレリアの乗った車両が検査ゲートを通過する。
乗員の身元は正規のシステムによって検証された。今回使用されている護衛名簿は実際の担当者と一致しており、手順に記載されていない管理部門からの突然の経路変更もない。
車両が居館の玄関に停車する前に、カイラは最後の確認を行った。
公爵家居館――到着確認
```text
警護対象者 オーレリア・ヴェイリエン
護衛の身元 検証済み
隊員名簿 一致
経路認可 有効
予定外の経路変更 なし
到着状況 確認済み
```
彼女は端末を閉じた。
「すべての確認が完了しました、オーレリア様。居館の職員には、面会のご希望も届いています。関係のない人員を同席させずにお話しできるよう、公式の大広間ではなく、小さな家族用の会議室を用意したそうです」
オーレリアは玄関を見つめた。
「そのほうがいいです。まずは家族の一員として話したいんです。評議会全体へ請願を出す人のようには、したくありませんから」
彼女は車両を降りた。
カイラは内部通路まで付き添い、家族の専属職員が案内を引き継いだところで立ち止まった。
オーレリアは、自分の端末を手に会議室へ向かう。
誰かが代わりに用意した演説はない。
彼女を擁護するために訪れたアストレオン・ヴェロリアの代表者もいない。
あるのは、自分が本当にしたいことを基に作った、簡潔な提案書だけだった。
扉が開くと、数名の家族がすでに待っていた。
年長の家族の1人が、落ち着いた声で迎えた。
「オーレリア、今後の活動予定について話し合いたいという希望は受け取っているよ。教育予定の変更を求めたいのかと思っていたが、職員からは、ほかにも話したいことがいくつかあると聞いている。以前の案に、何か納得できない部分があったのかな?」
オーレリアは勧められてから席に着いた。
端末をテーブルに置き、自分の文書を開く。
「お話ししたい部分がいくつかあります。帰還後の私の安全と回復を確保するために、家族が尽力してくださっていることには感謝しています。ただ、私が何を望んでいるのかを伝える機会もないまま、すべての活動を再び決められてしまうのは嫌なんです。ヴェイリエンヌ家の令嬢としての責任は、これからも果たしたいと思っています。その一方で、教育を続け、これまで私が知っていた環境の外にある暮らしを学ぶための余地も欲しいんです」
家族の1人が、表示された表に目を向けた。
「帝都外への旅行も含まれているね。以前の護衛事件を考えれば、この希望については慎重に検討する必要がある。目的地、健康状態、同行する保安担当者の能力を確認せずに、許可を出すことはできないよ」
オーレリアは頷いた。
「その懸念は理解しています。ですから、無制限に旅行する許可や、すでに定められた手順をすべてなくしてほしいとお願いしているわけではありません。まずは計画を立てられて、専門的な評価を受けられる旅行から始めたいと思っています。ただ、目的地や活動内容を選ぶときには、私自身も話し合いに参加したいんです。皆さんが私に何をさせるべきか話し合い終えた後で、結果だけを知らされるのではなく」
別の家族が文書を動かした。
「教育についてはどうだい? これまで授業を担当してきた家庭教師からは、もう学びたくないということかな?」
「これからも教えていただきたいと思っています。特に、家族への責任に関わる分野については、引き続き学ぶ必要があります。ただ、それと同時に、ほかの人たちと一緒に勉強できるプログラムにも参加したいんです。以前の旅で、本を通じて惑星を理解することと、実際にその住民と出会うことは、2つの異なる経験なのだと気づきました。私は、その両方を得たいと思っています」
話し合いは、オーレリアが予想していたよりも長く続いた。
安全面に関する反対意見もあった。
医療予定についての質問も出された。
彼女がほかの活動をしたいという理由だけで、変更できない家族行事もあるのだと、念を押す者もいた。
オーレリアは、そのすべてに耳を傾けた。
希望したことのすべてが承認されたわけではない。
しかし、帰還して以来初めて、予定表の話し合いは、彼女を文書の最上部に記載された名前としてしか扱わないものではなくなっていた。
アストレオン・ヴェロリアでは、紬がすでに指揮デッキへ戻っており、セラフィエルが出航準備の更新状況を表示していた。
パノラマ窓には、軌道航路に従って移動する複数の民間船が見えている。1隻のコンテナ船が主航路を離れ、星系間ジャンプゲートへ向かっていた。アストレオン・ヴェロリアの周囲では、サービス車両が残っていた作業を終え始めている。
ヴェスペラは、帝都領域から離脱するための航路候補を確認していた。
ランは、これまで何度も予定変更の原因となっていた事務案件について、完了確認を待っている。
紬は報告書を開いた。
アストレオン・ヴェロリア――出航準備
| 項目 | 状態 |
| ----------- | ------ |
| ドッキング関連サービス | 最終確認中 |
| 補給物資の照合 | 進行中 |
| 保安演習 | 完了 |
| 技術検査 | 完了 |
| 外部の事務案件 | 完了処理待ち |
| 出航許可 | 未発行 |
表の下には、艦内作業の完了状況を示すグラフがあった。
```text
艦内準備状況
技術検査 100%
演習設備の原状復帰 100%
補給物資の照合 92%
航行準備 100%
外部許可 保留中
```
紬は最後の項目を見つめた。
「つまり、艦のほうはほとんど終わっているんだな。これ以上滞在することになっても、修理が必要な機械があるとか、演習で使った装備が戻っていないとか、そういう理由じゃないわけだ」
セラフィエルは頷いた。
「そのとおりです。すべての演習装置が返却され、カイラさんが使用した区域も通常の構成へ戻っていることを確認済みです。カリスタも、艦の運用準備を妨げることなく、技術的な発見事項を後続調査用に保存しています。出航申請を完全に処理できるようになるまで、あとは外部案件がいくつか完了するのを待つだけです」
ランがため息をついた。
「すべての書類がようやく片付きそうになったところで、追加の要求が届かないことを願います。当初の計画より、この領域にはずいぶん長く滞在していますし、係留期間が延長されるたびに、その費用も記録しなければなりませんから」
紬は彼女をちらりと見た。
「俺もそろそろ出発したいよ。もうずいぶん長い間、同じ窓から帝都を見ているからな。このままここにいたら、通り過ぎる貨物船の船体形状だけで、運航予定を覚え始めるかもしれない」
ヴェスペラは小さく微笑んだ。
「そうなりましたら、軌道交通の識別をお手伝いいただけますね。少なくとも、待ち時間を利用して新しい技能を身に付けられます」
「出航できないからって、余計な仕事まで増やしたくないよ」
そのとき、紬の端末に個人宛ての通知が現れた。
送信者はオーレリアだった。
セラフィエルは内容を開かず、送信者の身元と、艦長個人へ宛てられたメッセージであることだけを表示した。
紬は画面に触れた。
個人メッセージ――オーレリア・ヴェイリエン
> 紬、先ほど一緒に考えていただいた提案について、家族と話し合いました。希望した活動のすべてが承認されたわけではありませんが、教育予定の見直しと、健康状態や保安評価を考慮したうえでの、限定的な個人旅行の許可については、前向きに検討してもらえることになりました。当面、旅行には明確な目的が必要で、出発前に承認を受けなければなりません。また、欠席できない家族行事にも、引き続き出席する必要があります。最初の話し合いとしては、十分によい結果だったと思います。何より嬉しかったのは、今回は皆が、決定をまとめる前に本当に私の意見を聞いてくれたことです。私の話を聞いてくださって、ありがとうございました。これからは、自分の力で選んだ道を歩いてみたいと思います。
メッセージの下には、簡潔にまとめられた文書が添付されていた。
紬はそれを開いた。
ヴェイリエンヌ家――個人活動計画の審査
| 申請内容 | 初期結果 |
| ---------------- | ------ |
| 教育プログラムの選択 | 見直し承認 |
| 外部での文化・学習活動 | 条件付き承認 |
| 個人旅行 | 限定的許可 |
| 医療上の経過観察 | 必須 |
| 保安リスク評価 | 必須 |
| 家族への義務 | 維持 |
| 予定策定へのオーレリア本人の参加 | 確認済み |
状態:家族内の予備合意
紬は、その許可がオーレリアに無制限の旅行の自由を与えるものではないという注記も含め、すべてに目を通した。
それから添付文書を閉じた。
「どうやら、話し合いはうまくいったみたいだな。希望したものを全部手に入れたわけじゃないけど、少なくとも、これからは自分の活動の一部を自分で決められるようになった」
セラフィエルは彼の表情を見つめた。
「オーレリア様も、自由には、自分に対して責任を持つ人々と話し合う過程が伴うのだと、理解し始めたようですね。自分の意見に意味があることを示すために、すべての希望を一度に承認してもらう必要はありませんから」
紬は頷いた。
「ただ、限定的な許可をもらった途端、銀河中の旅行先を一覧にし始めないことを祈るよ。いきなり20の惑星を訪問したいなんて申請を送ったら、家族がまた緊急会議を開くことになりそうだからな」
ヴェスペラが航行コンソールから振り向いた。
「私たちと旅をした経験を考えると、オーレリア様には訪れてみたい場所がかなりあるでしょうね。ただ、星系間の旅行には相応の計画が必要であることも、すでに理解されていると思います。特に定期交通機関を利用し、護衛の日程も調整しなければならない場合は、なおさらです」
ちょうど指揮デッキへ入ってきたレアが、その会話を耳にした。
「オーレリアちゃんが本当に行きたい場所のリストを作ったら、私も見てみたいな。有名なモビルフレームの競技場がある惑星とか、まだ行ったことのない食の祭典が開かれる場所とか、入っているかもしれないでしょ? 前の旅では、面白そうな場所でも滞在時間が短すぎたところが、まだいくつもある気がするんだよね」
ランはすぐに顔を上げた。
「オーレリア様の個人的な旅行先一覧が、この艦の目的地を追加する提案に変わらないことを願います。私たちは、まだヴェルドラコンを離れる許可すら得ていないのですから」
紬は微笑んだ。
「今回ばかりはランに賛成だ。まずはここの用事を終わらせよう。その後は、貴族の家族会議なんて考えずに、次の目的地を選びたいからな」
彼はオーレリアからのメッセージを再び開き、返信を入力した。
> 話し合いがうまくいってよかったな。1回の面会で、これからの人生の計画を全部決める必要はないよ。得られた機会を楽しんで、何かやりたいことができたら、よく考えて自分で決めればいい。こっちはまだ出航手続きの最中だから、しばらくは別の惑星への護衛依頼を俺に送ってこないでくれよ。次の休暇くらい、本当に休暇にしたいんだ。
メッセージが送信されてから、少し経った頃。
オーレリアから、小さな画像が返信されてきた。
それは、以前彼らと旅をしていたときに購入した、旅行用の手帳の写真だった。
開かれたページには、いつか訪れてみたい場所がいくつか書き込まれている。
出発日は記されていない。
護衛の予約もない。
ただ、彼女の興味を引いた場所の一覧があるだけだった。
写真の下に、もう1つメッセージが続いた。
> まずは、私だけの計画として大切にしておきます。それから、心配しないでください、紬。行ってみたい場所を見つけたからという理由だけで、また私を送り届けてほしいとはお願いしません。でも、いつか別の惑星で再会できたら、そのときは私自身が選んだ旅について、あなたにお話しできたら嬉しいです。
紬はその返信を見て微笑んだ。
指揮デッキの窓の外では、先ほどまで出航許可を待っていた旅客船が、ようやく軌道複合施設を離れ始めていた。
そのエンジンの光は、行き交う宇宙船の群れの中で小さくなり、やがて星系間航路の向こうへ消えていった。
アストレオン・ヴェロリアは、まだその場にとどまっている。
しかし、オーレリアがヴェルドラコンへ帰還して以来、初めて紬は、自分たちを帝都に引き留めていた用件が、本当に終わりへ近づき始めていると感じていた。
かつてスリーピングポッドの中で発見した少女は、家族のもとへ帰った。
そして今、彼女は自分の人生をどのように歩んでいきたいのか、自ら決め始めていた。
【次回・第118話――「一つずつ、終わっていく」】
ヴェイリエンヌ家の内部手続きが、少しずつ決着を迎え始める。護衛名簿の不正操作に関する問題は正式な対応段階へ移り、オーレリアの状態もさらに安定し、セレネとカイラの専門的な任務も終盤へ近づいていた。
アストレオン・ヴェロリアも、ついに出航許可を取得するための準備を整え始める。
しかし、艦がヴェルドラコンを離れる前に、これまで異なる用件を通じて紬と関わってきた2人の女性には、まだ彼に話しておきたいことが残されていた。
【第118話へ続く……】




