【第114話】「セキュリティ・スペシャリスト」
【第114話】「セキュリティ・スペシャリスト」
ヴェルドラコン帝都――公爵家保安局居住区 → アストレオン・ヴェロリア
カイラ・ドレイヴェンが送られてきた文書を読み終えた時も、テーブルの上に置かれた端末には、ヴェイリエン公爵家の紋章が表示されたままだった。
窓の外では、帝都がほとんど途切れることのない慌ただしさの中で動き続けていた。旅客船が軌道移送航路から離れ、都市間交通車両が高層塔の間を通過し、識別灯を点灯させた複数の保安シャトルが政府複合施設へ向かっている。人工大気層のはるか上方には、船舶間の航路が、光の点と点を結ぶ細い線のように見えていた。
カイラは、こうした光景を何度も目にしてきた。
首都を何日も周回しながら外交艦隊の動向を監視し、貴族の輸送航路を警備する護衛艦に勤務した経験さえある。窓の外の景色が原因で、集中力を失うことなどなかった。
彼女がまだ端末を閉じていない理由は、任用通知の内容にあった。
ヴェイリエン公爵家
警護任務配置審査
対象者: オーレリア・ヴェイリエン
候補者: カイラ・ドレイヴェン
現在の任務: 臨時警護専門員
提案されている任務: 常任警護部隊への配置
任務範囲: 身辺警護、経路評価、脅威対応
行政上の権限: 公爵家保安局
状態: 候補者の回答待ち
その下には、施設、連絡調整経路、アクセス権限、そして常任配置を受け入れた場合の報酬改定について、詳細が記載されていた。
カイラは一行も見落とすことなく、すべてを読み通した。
専門職として考えれば、理にかなった提案だった。困難な時期にオーレリアの警護を担当し、彼女の行動パターンを理解している。さらに、単純に護衛の人数を増やすだけでは対処できない脅威に立ち向かうための戦闘経験も備えていた。
公爵家も、彼女の能力を超える役職を提示しているわけではない。
むしろ、その逆だった。
これまでの経験に適した仕事だった。
しかし、彼女が確認ボタンに触れる前に、画面右側へ別のパネルが表示された。
追加専門協力審査
対象: アストレオン・ヴェロリア
分類: 独立系私有宇宙船
提案されている審査: 保安作戦および防御連携
現在の認可: 予備評価
常任配置: 未設定
カイラは、その船名へ視線を移した。
アストレオン・ヴェロリア。
帝都周辺に脅威が出現した時、あの船がどのように変化したのか、今でも鮮明に覚えている。
それまで高級な私有宇宙船にしか見えなかった船体は、民間登録船としては到底不釣り合いな防御構造を露わにした。武装システムが外装の内側から展開し、ドローンは互いに支え合う軌道で移動し、6層のシールドが船体周囲の防護を維持していた。
だが、彼女の記憶に最も強く残っていたのは、それらではなかった。
忘れがたいのは、船長の判断だった。
星崎紬は、敵を最短時間で殲滅する方法を選ばなかった。敵の機動能力を奪い、通信を妨害し、指揮系統を圧迫しながら、戦闘中も民間人の避難経路を維持した。
カイラは、素早く命令を下せる指揮官を何人も見てきた。
兵器の威力を理解している指揮官にも出会ってきた。
しかし、民間船の位置、船体破片が飛散する可能性、敵の撤退経路、そして自軍要員の安全を、一つの判断の中で同時に考慮できる者は、決して多くない。
紬は、それを誰かに自分の能力を証明しようとしているようにも見せず、実行した。
カイラは任用通知を画面左側へ移動させ、アストレオンを初めて観察した時から作成していた評価記録を開いた。
予備保安観察記録
- 指揮判断:一貫性あり
- 民間人保護の優先:確認済み
- 乗員安全対策:稼働中
- 防御対応:多層構造
- 外部アクセス管理:厳格
- 兵装展開:選択的
- 脅威撤退後の追撃:確認されず
- 独立検証:未完了
彼女は最後の項目で手を止めた。
独立検証:未完了。
それが問題だった。
外部からの観察で分かるのは、どのような判断が下されたかということだけだ。紬の命令が船内の何千ものシステム要素にどのように伝達されるのか、センサーから得られた情報がどのように指揮所へ届くのか、周囲の民間船を破壊しかねない脅威に直面した後、乗員たちがどのように通常業務へ戻るのか。
カイラは、まだそれを理解していなかった。
印象だけで結論を出すつもりはない。
優れたセキュリティ・スペシャリストなら、防御システムを外見の派手さで評価するべきではなかった。
計画どおりに進まない事態に直面した時、そのシステムがどのように反応するかを知る必要がある。
カイラは数秒間、端末をロックした後、常任配置の通知を再び表示した。
確認ボタンは、まだそこにあった。
彼女は押さなかった。
代わりに、内部通信回線を開いた。
「局長、送付された常任配置の提案書は確認しました。正式な回答を出す前に、いくつか確認したい点があります。特に、作戦上の権限の境界と、オーレリア様の警護に関する私の任務範囲についてです」
通信の向こうにいる男性は、返答するまで数秒を要した。
「君がそれを尋ねるだろうとは思っていたよ、カイラ。公爵家は警護体制の継続性を求めているが、オーレリア様の状態に対処するには、単に人員を増やせばいいという話ではないことも理解している。提示した条件に、何か不適切な点があるのかね?」
「施設や配置構造そのものに問題はありません。私が確認したいのは、常任配置によって、専門的な評価に基づき警護方法を調整する権限が与えられるのか、それとも即時対応が必要な状況であっても、変更のたびに行政上の承認を待たなければならないのか、という点です」
「緊急時には、君は規定に従って行動する権限を持つ。長期的な変更については、局に評価を申請する必要がある。ただし、脅威がすでに確認されているのに、行政手続きが終わっていないという理由だけで、それを無視するよう求めるつもりはない」
カイラは、男性が説明を終えるまで黙って聞いていた。
「それなら、基本的な手続きについて異論はありません。ただ、今日この場で常任配置を確定するつもりはありません。まだ完了していない専門的な評価があるからです。次の任務の形を決める前に、現在進めている仕事を終わらせたいと考えています」
「その評価は、アストレオン・ヴェロリアに関するものかね?」
「はい。隠す理由はありません。あの船は、オーレリア様の安全保障状況を変えた事件に直接関与しました。私はすでに予備評価の許可を得ています。今後の警護体制について提言する前に、その評価を完了させるほうが責任ある判断だと考えています」
通信の向こうの声が、少し真剣になった。
「あの船に、懸念すべき点を見つけたのか?」
「現時点では、結論を出せる段階にありません。登録情報から受ける印象を大幅に超える防御能力を確認しました。しかし、能力が高いことと、脅威であることは同じではありません。本当に危険なものと、単に私の経験の範囲を超えているものを区別する必要があります」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、局長は落ち着いた声で答えた。
「分かった。評価を完了させなさい。常任配置の判断は、最終報告を待っていると記録しておく。公爵家から与えられた許可の範囲を守るように。特に、我々の所有物ではない船のシステムを扱う際にはな」
「その境界は理解しています。評価範囲を広げる必要が生じた場合は、局に連絡します。また、所有者の許可を得ていないシステムにはアクセスしません」
「検査が終わったら報告を期待している」
「結果に責任を持てる段階になり次第、提出します」
通信が終了した。
カイラは常任配置の提案書を閉じたが、アストレオンの評価記録は開いたままにしておいた。
公爵家の提案を断ったわけではない。
かといって、受け入れたわけでもない。
今は、今後の仕事の方向性を決める前に、どうしても済ませておきたいことが一つあった。
あの宇宙船の船長と、直接話すことだった。
アストレオン・ヴェロリア――外部ドッキング・インターフェース
アストレオン・ヴェロリアは、依然として帝都の軌道区域に停泊していた。
遠くから眺めると、その船は銀河を航行するために建造された巨大建築物のように見えた。船体表面は周囲の軌道構造物から届く光を反射し、戦闘形態で露出していた外装部分は、すでに通常構成へ戻って閉じられている。装甲の接合線は整然としており、大規模戦闘に参加したばかりだという印象はほとんど残っていなかった。
ドッキング・インターフェース周辺では、複数の整備車両が指定された経路に沿って移動していた。保守ドローンが接続部を点検し、交通管制システムは、小型車両が作業区域を横切らないよう誘導している。
カイラは、移送車両の中からその光景を観察していた。
「防御システムが稼働していた時の船体は、すでに外から見ています。しかし、通常構成に戻った今のほうが、むしろ大きさを把握しにくいですね。主要構造は見えますが、外形だけを頼りにしても、船体の内側にどれほどの空間が収められているのかは推測できません」
運転手は航法画面に目を向けた。
「私はカイラさんを検査地点までお送りするだけです。船の中を知りたければ、所有者に尋ねてください」
カイラは薄く微笑んだ。
「そのために来たんです。外見だけで勝手に推測するつもりはありません」
車両は指定されたドッキング回廊へ入ると、速度を落とした。
正面に識別パネルが点灯する。
アストレオン・ヴェロリア――外部アクセスゲート
訪問者: カイラ・ドレイヴェン
所属: 公爵家保安局
認可: 臨時専門評価
アクセス区分: 外部訪問者
医療区画: 制限
船長居住区: 制限
シークレット・アーカイブ: 制限
兵装システム: 制限
モビルフレーム格納庫: 条件付きアクセス
機関システム: 条件付きアクセス
保安システム: 観察のみ
指揮権限: 星崎紬船長/セラフィエル・ヴェロリア
カイラは車両が停止する前に、表示された情報をすべて確認した。
驚きはなかった。
この制限は、事前に合意した許可範囲に沿ったものだった。彼女は船を支配する権限を持つ代表者として来たのではない。ましてや、役職を理由にアクセス権を要求できる軍人として来たわけでもなかった。
彼女は、専門職として訪れた客人だった。
だからこそ、与えられていないアクセス権について不満を述べる理由はなかった。
車両の扉が開くと、セラフィエルがすでに受付区域で待っていた。
いつもどおり、整った身なりだった。目立つ戦闘装備はなく、背後に武装した護衛が立っているわけでもない。彼女が携えているのは、訪問者の身元と現在有効な許可状況を表示する薄型端末だけだった。
「お帰りなさい、カイラさん。ご来訪については、すでに通知を受けています。初回の承認に記載されたアクセス権限は、すべて引き続き有効です。検査中に権限の範囲について誤解が生じないよう、私が同行します」
カイラは頷いた。
「ありがとうございます、セラフィエルさん。最初に明確な説明をいただけるのは助かります。どちらかが許可の範囲を実際の合意より広く解釈したせいで、専門的な検査が問題に発展することは避けたいので」
セラフィエルは微笑んだ。
「それなら、私たちの認識は一致していますね。各扉の状態を一つずつ尋ねる必要がないよう、アクセス設定の概要も用意してあります。機密情報は引き続き表示されませんが、訪問者用の経路、許可された施設、そして船内に滞在する間の安全に関わる緊急対応手順は確認できます」
カイラはセラフィエルに続いて通路へ入った。
最初の扉をくぐると、彼女は見慣れない場所へ入った時にいつも行うことを始めた。監視カメラの向き、扉の位置、出口への経路、そして立っている場所からは見えない可能性のある地点を確認していく。
通路は、小型の整備車両が2台並んで通過できるほど広かった。壁に沿って埋め込まれた照明は均一な光を生み出し、情報パネルには複数の公共区域への方向が表示されている。一方、制限区域へ続く扉には、訪問者が容易に見分けられるような目立つ標識が設けられていなかった。
この船は、客人を威圧しようとしているようには見えない。
それこそが、カイラに細部をさらに注意深く観察させた。
優れた保安システムは、必ずしも目立つ必要がない。
「先へ進む前に、一つ確認させてください、セラフィエルさん。すべての訪問者が同じ経路を利用するのですか? それとも、目的地やアクセス権限に応じて、システムが異なる経路を設定するのでしょうか?」
「経路は、許可された目的地、船の運用状態、安全上の必要性に基づいて決定されます。診察室へ向かう医師と、格納庫での作業を許可された技術者では、同じ経路を割り当てられることはありません。また、通路が保守作業に使用されている場合や、何らかの制限状態に入っている場合には、システムが別の経路へ誘導できます。その際も、目的に関係のない施設へのアクセス権が与えられることはありません」
カイラは、壁に表示された航路パネルを見た。
「つまり、経路が変更されても、訪問者のアクセス権が新しく付与されるわけではない。システムが変更するのは、利用を許可された移動経路だけですね」
「そのとおりです。経路の変更によって、アクセス権限が変化することはありません。許可された経路では目的地に到達できなくなった場合、システムは手続きを保留し、適切な承認を求めます。緊急時には人命の安全が優先されますが、緊急対応も記録され、状況が収束した後に検証されます」
カイラはゆっくりと頷いた。
「アクセス権と移動経路を分離しているのは重要ですね。全員が手順どおりに動いている間は整然としていても、自動的な経路変更によって本来閉鎖されている区域への道が開いてしまうと、問題が生じる保安システムは少なくありません。許可の追加が必要になるかもしれませんが、その可能性にどう対処するのかを確認したいと思います」
「評価項目に加えていただいて構いません。船の機密情報を公開せずに、どこまで説明できるかは私が確認します。実際にシステムを動かす試験が必要になった場合は、最終判断をツムギに委ねることになります」
2人は通路の分岐点へ到着した。
透明なパネルの向こうでは、整備車両の1台がサービス用通路へ進んでいた。車両を誘導するために人が立っている様子はない。床面には航行経路を示す線が投影され、車両はその線に従い、近くの区域を歩いている人々を妨げることなく進んでいく。
カイラは、車両が扉の向こうへ消えるまで、その動きを観察した。
「なぜ最初からアクセス権限の境界を強調していたのか、少し分かってきました。この規模の船で、すべての移動を人間の監視だけに頼ることは不可能でしょう。細かな判断の一つひとつに誰かの承認が必要なら、対応が遅くなります。しかし、すべてを制限なしに自動化へ委ねれば、一つの設定ミスが船内の多くの区域へ波及する可能性があります」
セラフィエルは彼女を振り返った。
「だからこそ、自動化は無制限の権限を与えることを意味しません。システムは事前に定められた権限の範囲で行動できますが、その範囲を超える変更には適切な承認が必要です。また、人間の行動が一般的なパターンから外れているというだけで、すべてを脅威だと判断することもありません。まだ理解できていないことと、危険だと確認されたことには違いがあります」
カイラは、少し違った関心を込めてセラフィエルを見た。
「単純に聞こえるかもしれませんが、一つ質問させてください。通常のパターンから逸脱するものを発見した場合、あなたは直ちに脅威と見なすのですか? それとも、まず原因を理解しようとしますか?」
「リスクの程度に応じて、両方を組み合わせます。生命を危険にさらす可能性のある逸脱には、直ちに安全確保の措置を取る必要があります。一方、差し迫った脅威を生じさせない行政上あるいは運用上の逸脱であれば、さらに調査できます。船の安全を維持するために、誰かを規則違反者だと決めつける必要はありません」
カイラは、しばらく黙った。
彼女は、あらゆる逸脱を反抗と見なす指揮官の下で勤務した経験があった。問題を指摘して日常業務を乱すことを避けるため、対応を先延ばしにする上司もいた。
どちらも、異なる形で問題を生み出す。
セラフィエルは、そのどちらか一方に偏ることには関心がないようだった。
「理にかなった考え方ですね。規則が作られた理由を理解するよりも、手順を守ることそのものに執着したせいで、保安体制が機能しなくなる場面を見たことがあります。反対に、自分の経験があれば、あらゆる検査を省略しても問題ないと思い込む人もいました。私は、そのどちらもこの船を評価する際の基準にしたくありません」
「それなら、まずは訪問者に公開されている手順から確認してください。その後、より具体的な評価が必要になれば、ツムギと相談できます」
2人は再び歩き始めた。
通路の突き当たりで、グランドサロンへ続く扉が開いた。
室内の雰囲気は、受付区域とは大きく異なっていた。大きな窓から差し込む光が床一面に広がり、透明な保護層の向こうには、軌道構造物と星々が見える。ソファからそれほど離れていない場所に食卓があり、周囲には個人用端末がいくつか置かれていたが、部屋全体が指揮所のような印象になることはなかった。
レアはソファの一つに座り、狐耳をぴんと立てていた。彼女の前にある画面には、モビルフレームの整備データが表示されている。カリスタはテーブルのそばで技術端末を操作し、ランは運用報告を確認していた。窓際に座るヴェスペラは、帝都からの出航に関係する航路データを見直している。
ツムギは扉に向かい合うソファに座っていた。
カイラが入ってくると、彼は顔を上げた。
「カイラさん、予想していたより早かったですね。保安評価について話したいと聞いたので、初期アクセスの確認が終わったら、セラフィエルにここまで案内してもらうよう頼んでおきました。どうぞ座ってください。皆がそれぞれの仕事に戻る前に、確認したいことを聞かせてもらえますか」
カイラは軽く頭を下げた。
「お時間をいただき、ありがとうございます、紬さん。許可内容を改めて確認しましたが、初期アクセスの範囲に問題はありませんでした。ただ、訪問者の経路管理とシステムの権限分離を見て、外部からの観察だけでは、状況が急速に変化した時に防御システムがどのように機能するかを評価できないと分かりました」
レアが端末から顔を上げた。
「つまり、いよいよこの船の保安システムが実際に稼働するところを見たい、ということですか? 最初の評価にはモビルフレームと格納庫の設備も含まれていたので、いずれはその話になると思っていました」
「その部分も調べたいと思っています、レアさん。ただし、許可されていない装備に触れるつもりはありません。監視システム、扉の制御、経路管理、そして侵入者に対応する人員の連携が、どのように機能するのかを理解したいのです。モビルフレームは、その対応を評価するために必要となる可能性がある要素の一つにすぎません」
レアは端末をテーブルに置いた。
「それなら、モビルフレームは武装の仕様だけでは評価できないことも理解しているんですね。パイロットの能力、指揮所との通信、作戦区域の状態も同じくらい重要です。私の機体がどう動くかは見せられますが、格納庫を見て機体の数を数えただけで、検査が終わったと思われるのは困ります」
カイラは頷いた。
「同感です。優れた武装を持つ機体が、パイロットと現場管制官の連携不足によって任務を遂行できなかった場面を見たことがあります。反対に、装備がより簡素でも、緊急時に長い説明を待たず、それぞれが自分の役割を理解していたために陣地を維持できた部隊もありました。システムが圧力を受けた時にも、アストレオンがそのような連携を維持できるのか知りたいのです」
カリスタは技術端末を少し持ち上げた。
「この話が船内のすべての扉を試す口実になる前に、一つだけ明確にしておきます。承認された手順の検査は構いませんが、私かツムギの許可なしに技術的な設定を変更することは認めません。保守作業中のモジュールを停止させて、保安システムの限界を試そうとする人が出てくるのは御免ですから」
カイラは気分を害した様子もなく、彼女を見た。
「自分の所有物ではないシステムを変更するつもりはありません。検査に設定変更が必要であれば、申請して承認を待ちます。また、すべての試験には明確な目的を設けます。同じ結果をシミュレーションで得られるのに、実際の設備や資源を使って、できることを証明するだけの時間を費やしたくはありません」
カリスタは数秒間、彼女の表情を見てから、再び端末に目を戻した。
「いいでしょう。最初から全員がそれを理解していれば、技術者の仕事はずっと楽になります。システムの動作を見せること自体には異論ありません。ただ、特定の役職を持っているというだけで、この船を自由に調べられる実験施設だと思われるのは困ります」
ランは確認していた費用報告を閉じた。
「運用面からも、評価によって保守日程が乱れたり、合理的な理由もなく出航が遅れたりしないようにしていただきたいですね。帝都で処理すべき行政上の用件も残っていますし、遅延が生じるなら、それに見合う利点が必要です。防御上の弱点を把握するために有益な検査であれば、承認前に必要な資源を計算することはできます」
カイラはランへ顔を向けた。
「必要な時間、人員、設備を提案書に記載します。同じ目的を限定的なシミュレーションで達成できるなら、費用のかかるシステムの使用を求めるつもりはありません。優れた検査とは、実際に活用できる情報を生み出すものであって、誰かの能力を見せつけるためのものではないはずです」
ヴェスペラが航路画面から顔を上げた。
「人員や車両の移動が関わるのであれば、予定を事前に知っておきたいですね。船内の経路は調整できますが、始まってから初めて知らされるような活動のために、運用計画を変更するつもりはありません。使用する区域が保守作業や航行準備と重ならないよう、確認する必要があります」
「許可を求める前に日程を提出します。船内の重要な機能が稼働している場合には、検査範囲を制限することにも同意します。アストレオンに評価のための全面的な運用変更を求めているわけではありません。乗員の仕事を妨げずに検査できる方法を探したいのです」
ツムギは、口を挟まずに会話を聞いていた。
カイラの質問を迷惑だと思っている様子はない。しかし、提案が合理的に聞こえるというだけで、承認を与えることもなかった。
ランとヴェスペラが話し終えると、ツムギは個人端末をテーブルに置いた。
「防御システムを調べたい理由は理解できます。あの戦闘を見た後なら、能力が実際の作戦でどのように使われるのか知りたいと思うのも当然でしょう。ただ、誰かが学びたいと言っただけで、船のシステムをすべて公開するつもりはありません。専門的な評価と、こちらが持っているものをすべて調べられる権限を与えることは別の話です」
カイラは真剣な表情で彼を見た。
「その違いは理解しています、紬さん。船への全面的なアクセスを要求するために来たのではありませんし、評価の許可を、所有者ではない私がシステムを管理する権利だとも考えていません。必要なのは、双方が合意した手順に基づいて、いくつかの保安上の仮説を検証する機会です。そうすれば、アストレオンの能力について推測するのではなく、実際に観察した結果から評価を下せます」
「見るだけなら構いません。君には、すでに任務に関係する部分を観察する許可が出ています。セラフィエルが訪問者向けの手順を説明できますし、レアも公開可能なモビルフレーム関連施設を案内できます。ただし、それ以上を望むなら、何を試したいのか、そして結果から何を知りたいのかを先に説明してください」
カイラは、すぐには答えなかった。
ツムギを見た後、レアとカリスタへ視線を移す。2人は仕事に対する姿勢こそ異なるが、検査そのものを最初から拒絶すべき迷惑事だと考えている様子はなかった。
ただ、目的と境界を知ろうとしている。
そのことが、カイラの決意をさらに明確にした。
「見るだけとは考えていません、紬さん。保安システムが、侵入を試みる脅威に直面した時、この船がどのように機能するのかを理解したいのです。受動的な観察だけでは、アクセス経路、監視、扉の制御、人員の連携が、本当に一体となって機能するかどうかを評価するには不十分です。そこで、アストレオン側と共同で設計する、範囲を限定した保安シミュレーションを提案したいと考えています。すべての行動は、事前に合意した条件の下で実施します」
レアはすぐに背筋を伸ばした。
カリスタの手が止まる。
ランは運用報告を再び開いた。
ヴェスペラも、新たな関心を込めてカイラを見た。
ツムギはソファの背もたれに身を預けたまま、その提案に時間を割く価値があるかどうかを判断しているようだった。
「どんなシミュレーションを考えている? 武装したチームを船内に連れ込み、許容される行動の範囲も分からないまま、こちらに阻止させるような話は聞きたくない。試験を行うなら、全員がこれを実戦ではないと理解している必要がある。興味深い結果を得るためだけに、乗員の安全を危険にさらす理由はない」
「共同で設定した模擬目標に対する、保安侵入訓練を提案します。私のチームは試験用に正式に許可された経路を通って目標への到達を試み、アストレオン側は承認済みの防御対応を実行します。必要だと判断されれば、戦術要員、保安ドローン、モビルフレームを使用できます。ただし、すべての機器を訓練モードで運用します。実弾の使用、システムの破壊、許可範囲外の区域へのアクセスは行いません」
ツムギはセラフィエルへ視線を向けた。
「運用中の船のシステムに影響を与えずに実施できるか?」
「可能です、ツムギ。運用システムから分離したシミュレーション環境を構築し、参加者全員の識別情報を設定できます。訓練用機器に、船の設定を変更する権限を与えないようにすることも可能です。ただし、事前に試験範囲を把握する必要があります。自動扉、保安ドローン、経路制御を使用する場合は、訪問者の移動や保守作業に影響を与えないよう、各行動の境界を明確に定めなければなりません」
カイラは頷いた。
「最初の段階では、目標を一つに限定し、事前に合意した経路だけを使用することを提案します。侵入側のチームには計画を立てるために必要な初期情報を与えますが、検査対象となる防御設定そのものは知らせません。一方、アストレオン側は、訓練中に使用を認められた監視システムと防御対応を利用できます。終了後、双方で行動記録、対応時間、そしてシミュレーション中に下された判断を照合します」
ランは端末画面に触れ、必要事項を記録するための空のパネルを表示した。
「人員数、所要時間、必要な設備を提案書に記載してください。訓練中、すべての要員が船内にいる必要があるとは限りません。一部を訓練用ネットワーク上でシミュレーションできるなら、通常業務への影響を減らせます。詳細な計画を受け取った後、運用日程への影響を確認します」
「その計画を作成します。最初の段階では、監視、経路制御、侵入対応要員の判断が、どのように連携するかを検証したいと考えています。物理的な試験が必要だと判明した場合には、すべての可能性を一つの訓練に詰め込まず、次の段階として別途申請します」
レアは大きく笑った。
「本当にこの船の防御がどう機能するか知りたいなら、図面を見るだけより、そういう訓練のほうがずっと面白いと思います。モビルフレームと指揮所の連携についてなら、私も説明できます。ただし、操縦する人には、これは保安訓練であって、自分のほうが優秀だと証明する機会ではないと理解してもらいたいです。訓練に勝とうとして安全命令を無視するような人は見たくありません」
カイラは、落ち着いた表情で微笑み返した。
「私のチームが目標へ到達できたかどうかだけで、成功を判断するつもりはありません。防御側が適切な方法でこちらを阻止できたなら、それも有益な結果です。さらに、各判断の理由も確認したいと考えています。対応時間の数値だけでは、その行動が本当に必要だったのか、それとも新たな危険を生み出したのかまでは分かりませんから」
「それなら、安全性については同じ目的を持っているようですね。ただ、あなた自身の予想と違う結果が出た時にも、それを受け入れられるのかは知りたいところです」
「証拠によって裏付けられた結果なら受け入れます、レアさん。私のチームが判断を誤って失敗したのなら、その間違いを記録します。防御システムに弱点が見つかった場合は、どちらか一方をよく見せるために報告を飾ることなく、説明します。すべてが完璧だったと聞きたいだけなら、評価を行う意味はありません」
カリスタはしばらくカイラを見てから、小さく頷いた。
「少なくとも、技術者が褒め言葉だけの評価報告を嫌う理由は理解しているようですね。何も触らなければ安定して見えるシステムでも、想定外の条件に直面した時に機能し続けるとは限りません。訓練用機器の使用を認める前に、あなたの計画を確認したいと思いますが、目的そのものには異論ありません」
ツムギは自分の端末を手に取った。
「分かった。計画書を作成して、セラフィエル、カリスタ、ランに送ってくれ。それぞれが担当する部分を確認できるようにしてほしい。何を検証するのか、どれくらい時間がかかるのか、運用中のシステムに影響が及ばないことをどう確認するのか。それを把握した上で、最終判断を下す。承認が出るまでは、君の評価は現在のアクセス権限の範囲内だ」
カイラは頭を下げた。
「承知しました。検証目的、安全規則、権限の分担、結果の記録方法を含む計画書を提出します。また、訓練を中止しなければならない条件も明記します。状況が安全な範囲を超えた時に、参加者が自分で判断しなければならないようなことは起こさないようにします」
ツムギは頷いた。
「それはいい出発点だ。この船の防御に弱点があるなら、それを知ることには異論はない。ただし、別の方法で確認できるかもしれない問題を見つけるために、新しい問題を作り出すことは認めない。提案には、本当に役立つ情報を得られるだけの価値を持たせてくれ」
「そうします。評価を提案する機会をいただき、ありがとうございます、紬さん。この船には一般の訪問者が確認できない能力が数多くあると理解しています。今回、許可の範囲内で与えられた信頼を、好き勝手に利用していいとは考えていません」
「それなら問題ない。提案書ができたら、セラフィエルに連絡してくれ。安全に実施できない部分があれば、無理に押し通すのではなく、別の方法を探そう」
カイラはセラフィエルと共にグランドサロンを後にした。
だが、扉が完全に閉じる直前、室内からレアの声が聞こえた。
「船長、もし訓練が承認されたら、モビルフレームが関わる部分には私も参加したいです。カイラさんのような保安の経験を持つ人が、この船の防御にどう接近しようとするのか、前から見てみたいと思っていました。以前の戦闘での彼女の動きも見ていますから」
ツムギの返事は落ち着いていた。
「提案書を確認してから話そう。参加したいからといって、訓練が承認されたと思うなよ」
「分かってます、船長。参加したいと言っているだけです。決定が出る前に訓練日程を変更してほしいと頼んでいるわけではありません」
「いい。その姿勢を維持してくれ。本当に何が必要なのか分かるまではな」
カイラは振り返らなかった。
しかし、その会話を記憶に留めた。
別の船なら、セキュリティ・スペシャリストからの要請は指揮日程への妨害だと見なされたかもしれない。だが、アストレオン・ヴェロリアでは、全員がそれぞれの責任に応じて意見を述べていた。それでも、自分が望んでいるというだけで、船長の判断を変更できると思っている者はいなかった。
ツムギは彼らの話を聞く。
同時に、境界線も定める。
そして最終的な判断が下されれば、議論は再び、実行すべき仕事へと戻っていく。
カイラにとって、それは規律について長々と語る演説よりも、はるかに大きな意味を持っていた。
アストレオン・ヴェロリア――外部訪問者用通路
セラフィエルは、カイラを受付区域へ送り届けるため、再び通路を進んでいた。
その途中、カイラは保守日程、通路の状態、訪問者向けの通知を表示する複数の情報パネルに目を向けた。表示される情報は、船内の環境を理解するには十分だったが、許可に関係のない詳細まで公開されているわけではない。
彼女は、あるパネルの前で足を止めた。
「セラフィエルさん、シミュレーションの記録が実際の事案記録と混ざらないことを確認しておきたいのですが。保安システムが訓練中の参加者の行動を記録する場合、その記録は船の監視に使用される運用ログとは別に管理されますか?」
「はい。訓練記録には、セッション識別情報、実施時刻、使用した機器の一覧が付与されます。誤った解釈を招かないよう、実際の事案記録とは分離されます。訓練中に本物の事案が発生した場合は、運用上の事案として識別し、安全手順に従ってシミュレーションを停止します」
カイラは頷いた。
「重要な点ですね。訓練報告が実際の作戦報告と似た形式で保存されていたせいで、後から確認する人が、ある行動が本当に起きたのかを確かめるために大量の記録を調べなければならなかったことがあります。このように分離されていれば、関係のない事案を混ぜずに、複数回の訓練結果を比較することも容易になります」
「許可された関係者向けに、結果の要約を用意できます。要約には、対応時間、行動の順序、訓練機器の状態、セッション中に下された判断を表示できます。ただし、船の機密構成や、評価範囲に含まれない弱点を明らかにする情報については、引き続きアクセスを制限します」
カイラはもう一度パネルを見た。
「その制限に異論はありません。優れた報告書とは、利用可能な情報をすべて詰め込んだものではなく、検証対象の疑問に答えるために必要な情報をまとめたものです。閲覧できない部分があれば、そこが評価範囲外だと分かれば十分です。報告書を完全に見せるためだけに、アクセス権を要求するつもりはありません」
セラフィエルは微笑んだ。
「それなら、協力はずっと進めやすくなると思います。提案書を受け取るまで、訓練環境の準備は保留しておきます。計画を確認した後、必要な技術要件を満たせるか調べ、安全性や船の保安に関して変更が必要な部分があれば、お知らせします」
2人は受付区域に到着した。
カイラは移送車両に乗り込む前に立ち止まった。
「お時間をいただき、ありがとうございました、セラフィエルさん。保安システムについていくつも疑問を持って来ましたが、今は、与えられた権限を超えることなく検査を申請する方法が、より明確になりました。できるだけ早く計画書をまとめ、正式な連絡経路から提出します。それぞれの担当者が、自分の責任範囲を確認できるようにします」
「提出をお待ちしています。お帰りの移動が順調に進むことを願っています、カイラさん」
車両の扉が閉じた。
ドッキング・インターフェースから離れ始めると、カイラは個人端末を開き、新しい文書を作成した。
タイトルは簡潔だった。
アストレオン・ヴェロリア――保安訓練提案書
人員の詳細も、使用する機器の数も、まだ記載していなかった。それらは共同審査を待たなければならない。
今は、達成したい主要目的だけをまとめる。
主目的: 管理された侵入シミュレーションを通じた、連携型保安対応の評価。
評価項目:
- 検知および識別
- アクセス制御への対応
- 経路管理
- 人員連携
- モビルフレームによる支援(承認された場合)
- 安全確保および中止手順
- 訓練後のデータ検証
その下に、カイラは一つの注記を追加した。
評価原則: 能力に関する推測ではなく、観察可能な結果に基づいて運用上の有効性を判断する。
カイラは、その一文を読み返した。
そして、文書を保存した。
公爵家保安局居住区――個人執務室
居住区へ戻ったカイラは、すぐに局へ報告を送ることはしなかった。
まず、保留にしていた常任配置の提案書を開き直した。
提案されている任務: 常任警護部隊への配置
対象者: オーレリア・ヴェイリエン
その文書には、明確なキャリアの道筋が示されていた。より広い責任、十分な資源、そして公爵家の規定に従ってオーレリアの警護を管理する正式な権限が与えられる。
その仕事を悪いものだと考える理由はなかった。
また、船に興味を引かれたからといって、現在の任務を放棄するつもりもなかった。
しかし今、カイラはアストレオンの評価が、自分自身の仕事にも役立つ情報をもたらす可能性があると理解していた。あの船がアクセスを制限し、経路を管理し、適切な権限へ判断を委ねている方法は、セキュリティ・スペシャリストにとって学ぶ価値のあるものだった。
それを学ぶために、乗員になる必要はない。
専門職としての能力を示すために、先に常任配置を受け入れる必要もない。
カイラは局へのメッセージを開いた。
「常任配置の提案について、進捗をご報告します。現時点では、まだ受諾も辞退もしていません。アストレオン・ヴェロリアの保安評価が初期段階にあるためです。許可された検査を完了した後、オーレリア様の警護に必要な措置をより正確に判断できる報告書を提出したいと考えています」
彼女は入力を止め、文章を確認してから、さらに書き加えた。
「また、アストレオン・ヴェロリアの船長に、保安シミュレーションの計画を提出しました。実施はまだ承認されておらず、技術審査と安全審査を待っている段階です。実施された場合も、訓練結果は実際の脅威評価とは分離し、裏付けとなる証拠なしに問題が存在すると結論づけるためには使用しません」
カイラはメッセージを送信した。
自動返信によって、報告が受理されたことが確認された。
彼女は端末を閉じ、窓の外へ目を向けた。車両の通る経路の間に街の明かりが灯り、首都の上空では軌道交通が動き続けていた。大半の住民にとって、それは日常の一部にすぎない光景だろう。
だが、カイラにとって、すべての経路には安全上の問いがあり、すべての扉にはアクセスの境界があり、すべての判断が、自分が守っていることさえ知らない人々に影響を与える可能性があった。
彼女は、その仕事が簡単だと思ったことはない。
しかし、帝都での戦闘が終わって以来、初めて、自分自身の専門的な前提を改めて検証してみたいと思わせる船に出会った。
それは、あの船が驚異的な兵装を持っているからではない。
船長が攻撃艦隊を撃退したからでもない。
それほど大きな力を行使できる船が、なぜ船内で誰が何をしてよいかについて、これほど厳格な制限を設けているのか。
そして、誰かが本当に防御を突破しようとした時にも、その原則は維持されるのか。
それを知りたかった。
カイラは新しく作成した訓練計画書を再び開いた。
最下部に、自分自身へ向けた一文を追加する。
保安システムは、何を阻止できるかだけで評価すべきではない。その前提が試された時、どのように対応するかによっても評価されるべきだ。
彼女は文書を保存し、椅子から立ち上がった。
明日には、双方が確認できる計画を仕上げるつもりだった。
その後も、常任配置についての判断は保留のままだ。
ただ機会が与えられたからといって、急いで決める必要はない。
自分がこれから行おうとしている仕事に、本当にふさわしい決断なのかを確かめたかった。
そして今、その仕事は一つの明確な目標から始まる。
許可を得て、合意した境界を守り、結果に責任を持てる形で、アストレオン・ヴェロリアの防御を検証すること。
アストレオン・ヴェロリア――指揮デッキ
船内では、セラフィエルがカイラの訪問記録を行政システムへ保存していた。
ツムギの前に、小さなパネルが開かれる。
外部専門評価――状況更新
訪問者: カイラ・ドレイヴェン
所属: 公爵家保安局
現在のアクセス: 臨時専門評価
保安システム: 観察のみ
モビルフレーム格納庫: 条件付きアクセス
機関システム: 条件付きアクセス
提案活動: 保安シミュレーション
運用承認: 保留
技術審査: 保留
安全審査: 保留
ツムギは全項目を読み、パネルを横へ移動させた。
「セラフィエル。提案書が届いたら、出航準備に必要なシステムへ影響を与えずに訓練を実施できるか確認してくれ。検証結果には価値があってほしいが、船がどれほど突破しにくいかを知りたいというだけの理由で、航行を遅らせるつもりはない」
「分かりました、ツムギ。必要な機器、アクセス範囲、運用日程との競合の可能性を確認します。安全に実施できない部分があれば、判断を求める前に代替案を提示します」
ツムギは背もたれに身を預けた。
「いい。船に弱点が一つもないことを証明する必要はない。実際に存在する弱点と、単なる推測を区別して、もし本当の状況で弱点が見つかった時に何をすべきか。それを把握したいだけだ」
セラフィエルは、まだ保留中の提案データを見つめた。
「その方針は、評価の目的と一致しています。訓練記録が運用データと混ざらないようにもします。そうすれば、誤った結論を生み出すことなく、各結果を検証できます」
ツムギは頷いた。
指揮デッキの窓の外では、軌道移送航路へ向かう船舶が、アストレオン・ヴェロリアの巨大な構造と比べて小さく見えていた。
帝都には、まだ終わっていない用件が数多く残っている。
しかし、今この船は戦闘中ではない。
乗員たちは仕事へ戻り、システムは保守作業を続けていた。
そして公爵家のセキュリティ・スペシャリストは、自分に勝利を約束しない検証を準備していた。
ツムギはパネルをもう一度見てから、閉じた。
「提案書が完成したら知らせてくれ。それまでは、彼女自身に計画を練ってもらおう」
「承知しました、ツムギ。書類が届くのを待ちます」
指揮デッキには、航法システムのかすかな作動音が再び満ちていった。
警報はない。
新たな脅威もない。
ただ、準備中の提案書と、通常業務を続ける船があり、そして、防御能力が見た目どおりに優れているのかを知りたいと考えている一人の女性がいた。
答えは、まだ出ていない。
しかし、カイラが完全な計画書を提出した時、アストレオン・ヴェロリアは、もはや遠くから観察するだけの対象ではなくなる。
彼女は初めて、意図的にその防御を突破しようと試みることになる。
そして、どこまで進むことを許すのかは、ツムギが決める。
【NEXT BAB 115――「保安訓練」】
カイラは、ツムギの正式な承認と、セラフィエル、カリスタ、ランによる技術審査を経て、保安侵入シミュレーションを設計する。戦術チーム、保安ドローン、モビルフレームは、合意された範囲に従って使用され、アストレオン・ヴェロリアは訓練モードで防御システムを稼働させる。
カイラは、あの船を破壊するために来るのではない。
すべてが正常に動いている時には見えない弱点を見つけたいのだ。
しかし、シミュレーションが始まった瞬間、彼女は知ることになる。
防御システムを突破することと、そのシステムがどのように考え、判断するのかを理解することは、まったく別の問題なのだと。
【第115話へ続く……】




