↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/169

第102話「最初の襲撃」

第102話「最初の襲撃」


ヴェルドラコン帝都――帝都行政回廊


これまで行政システム上の追加された1行にしか見えなかった航路変更は、ついにその本当の理由を示した。


航法ミスではない。


交通渋滞でもない。


ましてや医療上の緊急事態でもない。


公爵家の居住区と帝都行政地区を結ぶ軌道回廊の1つで、承認済みの航路に従って1つのコンボイが進んでいた。


中央にいるのは公爵家の輸送艦。


前方には護衛艦が2隻。


後方にも2隻が配置されている。


アストレオン・ヴェロリアは安全距離を保ったまま、その後方を追従していた。


先頭にも立たず、公爵家の防護陣形にも入っていない。


紬はその位置を好ましく思っていなかった。


恐れているからではない。


航法用のメインウィンドウから見れば、選択された航路が以前の計画とは明らかに異なっていることが分かるからだ。


セラフィエルはメインコンソールの近くに立ち、目の前には複数の透明なデータ層が展開されていた。


「紬、コンボイ周辺の交通状況に変化があります」


それまでキャプテンシートに身体を預けていた紬が、すぐに顔を上げた。


「どれくらい?」


「まだ艦隊と呼べる規模ではありません。ただ、この回廊へ新たに進入した複数の物体が、民間交通との明確な関連を持っていません」


反対側にいたレアが近づく。


「さっきの保安艦じゃないでしょうね」


「違います。識別情報が異なります」


ランが1つの画面を紬の前へ移動させた。


「なら、たまたま同じ航路を通過しているだけの船じゃない。速度パターンを見て。複数のベクトルから同時に進入している」


移動グラフが表示された。


横軸は時間。


縦軸はコンボイに対する相対距離。


最初は互いに離れていた複数の線が、次第に同じ1点へ向かって動き始める。


紬はすぐに指示を出さなかった。


数秒間、そのグラフを見つめる。


「セラフィエル」


「はい」


「コンボイと関係のある識別情報を持たずに移動している全物体を表示して。脅威レベルがまだ確定していないからって、データを隠さないで」


「承知しました」


表示が切り替わった。


戦術宇宙監視


防護対象コンボイ: 公爵家輸送グループ

現行回廊: 帝都行政回廊

交通密度: 74.2%

民間交通: 高

軍事交通: 中

未確認物体: 17

未登録攻撃シグネチャ: 検出

電子妨害: 増加中

脅威分類: 現在敵対接触


アストレオン・ヴェロリアの内部にいたオーレリアは、個人用システムから通知を受け取った。


彼女はセレネと共にいた休憩室を出る。


そして、そのままセレネとともに指揮室へ向かった。


「何が起きているの?」


紬が振り返る。


数分前までの落ち着いた表情は、オーレリアの顔からすでに消えていた。


だが、紬が答えるより先に、通信回線からカイラの声が響いた。


「キャプテン・星崎、たった今、複数の未確認機がコンボイへ接近しているとの報告を受けました。オーレリア様の状況を確認したいと思います」


紬は通信チャンネルを開く。


「オーレリアはここにいる。まだこちらの艦とは直接接触していない」


「承知しました。しかし、状況の変化があまりにも速すぎます。公爵家保安部隊が電子妨害の発信源を絞り込もうとしています」


カイラは一瞬だけ言葉を止めた。


そして、その声がさらに鋭くなる。


「キャプテン・星崎、コンボイに近づきすぎないでください。もし彼らが本当にオーレリア様を狙っているのであれば、アストレオン・ヴェロリアも標的になります」


紬は戦術画面を見る。


「誰かが航路を変更した時点で、俺たちはもう標的として扱われている」


すぐには返事がなかった。


やがてカイラが答える。


「……それについては、反論できません」


紬は再び通信ボタンを押した。


「カイラ。自分の位置を維持して。誰が攻撃しているのか分かるまでは動かないで」


「承知しました、紬さん。ただ、もし彼らが公爵家輸送艦へ接近した場合は――」


「分かっている」


紬の声は変わらない。


「ここへ来るなら、俺が対応を決める」


コンボイから12キロメートル


センサー吸収素材で覆われた迎撃艇のコックピット。


1人のパイロットが、黄色だった標的表示が赤へ変わるのを見つめていた。


内部通信回線には電子戦担当者の声が流れている。


「電子妨害が機能しました。コンボイの通信経路は61%まで低下」


「公爵家の主艦は?」


「護衛艦ネットワークとの接続は維持しています。ただし、連携に約2.4秒の遅延が発生しています」


攻撃集団の指揮官は3次元マップを見た。


コンボイはすぐ前方。


複数の護衛艦が陣形を維持しようとしている。


大型戦艦はない。


艦隊もない。


軌道爆撃もない。


ただ1つの目的だけを持って動く小規模な集団だった。


「公爵家の船を破壊するな」


指揮官の声が戦術回線を通る。


「標的は生かしたままにする。主要規則を復唱しろ」


1人のパイロットが答える。


「オーレリア・ヴェイリエンを生け捕りにする。妨害する支援艦は無力化してよい。民間区域に広範な被害を生じさせる攻撃は禁止」


「よし。陣形から離れた船は追うな。俺たちは帝都と戦いに来たわけじゃない。標的を確保するだけだ」


主要標的の表示が点滅する。


1隻。


続いて攻撃側のシステムが、コンボイから数キロメートル後方に位置する大型艦を表示した。


アストレオン・ヴェロリア。


全長8,600メートル。


民間船舶区分。


法的区分:


高級プライベート・スターシップ


指揮官は一瞬、言葉を失った。


「……あの船か?」


電子戦担当者が答える。


「アストレオン・ヴェロリア。登録データ上は民間私有船です。ただし、規模が通常ではありません」


「関係ない。あれを主要標的にするな。こちらへの介入を阻止すればいい」


「承知しました」


指揮官が手を上げる。


「第1段階を開始する」


アストレオン・ヴェロリア――指揮室


警報が変化した。


艦全体に響き渡るような大音量ではない。


セラフィエルが指揮室内で十分に聞き取れる音量を選択したのだ。


「武装接触を確認しました」


メインディスプレイが即座に戦術マップへ切り替わる。


17個の物体が複数の集団に分かれた。


武装迎撃艇――8


電子戦機――2


攻撃ドローン――4


モビルフレーム――3


レアが背筋を伸ばす。


「本当に来た」


ランが配置を確認する。


「8隻の迎撃艇が分散している。後方に電子戦機が2隻。ドローンは回廊の下側から進入している。モビルフレームはまだ動いていない」


ヴェスペラが民間交通を確認した。


「今、撃ち始めたら、この範囲内に民間船がいる」


カリスタが続ける。


「それに、この回廊は密集しすぎている。大規模な撃ち合いになれば、外れた1発が戦闘の存在すら知らない船に当たる可能性がある」


紬は黙っていた。


セラフィエルが別の画面を開く。


「攻撃パターンを検出しました。彼らはコンボイの破壊を試みていません。離脱経路を遮断しようとしています」


オーレリアは紬から数歩離れた場所に立っていた。


「彼らは……私が目的なの?」


紬が彼女を見る。


「まだ、そこまで結論を出す必要はない。公爵家のコンボイが攻撃されている。それが今分かっていることだ」


「でも、もし本当に私が目的なら――」


「オーレリア」


紬は声を荒らげなかった。


だからこそ、次の言葉がはっきりと響いた。


「他人が選んだ行動まで、自分の責任にしないで。武器を持ってここへ来ると決めたのは、あいつらだ。その選択をしたのも、あいつら自身だ」


オーレリアは黙った。


その後ろにいたセレネも戦術画面を見つめている。


「紬、状況が悪化したら、どうするつもり?」


「どこまで俺たちに無理をさせてくるかによる」


セラフィエルが少し身体の向きを変えた。


「紬、今すぐ判断が必要です。アストレオン・ヴェロリアの一部兵装システムなら、数秒以内に準備できます」


別の画面が開く。


アストレオン・ヴェロリア――戦闘承認


主兵装システム: 待機

重兵装システム: 待機

ミサイルシステム: 待機

魚雷システム: 待機

モビルフレーム展開: 使用可能

近接防御: 準備完了

防御シールド: 準備完了

電子対抗措置: 準備完了

ノクティス・ヴェイル: 待機

戦闘モード: 未承認


セラフィエルが紬を見る。


「戦闘モードは?」


紬はその一覧を1度だけ確認した。


そして、迷いなく答える。


「まだだ」


誰も、それ以上は尋ねなかった。


セラフィエルは攻撃系システムの一部を閉じる。


「防御構成を使用します」


「必要になるまでは、相手の主艦を撃つな。コンボイへ到達しようとするものを止めて」


「承知しました」


レアが眉を寄せる。


「それでも攻撃を続けてきたら?」


紬は画面へ視線を移す。


「その場合は、少しずつ対応を強める。武装艦が数隻、俺たちを慌てさせようとしているだけで、艦の全戦力を開くつもりはない」


カリスタが短く息を吐いた。


「理にかなっていると思う。でも、1つ問題がある」


「何?」


「この船、本当にそこまでできるんだって、今さら実感した」


レアが彼女を見る。


「今さら?」


「理論上は知っていた。でも、表示が『準備完了』に変わるのを見ると、やっぱり違う」


紬はわずかに笑いそうになった。


「慣れて」


襲撃開始


最初の閃光は遠方から来た。


ミサイルではない。


主砲でもない。


電子妨害だった。


2隻の電子戦機が回廊全域へ干渉波を放つ。


一瞬で、一部の民間通信が途絶えた。


輸送船が次々と航路を変更し始める。


複数の自動航法システムが安全モードへ移行した。


その一方で、8隻の迎撃艇が加速する。


「始まった!」


レアの声が響いた。


戦術表示が変わる。


敵性迎撃艇――8


攻撃ドローン――4


電子戦機――2


モビルフレーム――3


交戦区域内の民間船――31


紬は即座に指示した。


「セラフィエル、まず民間船を守って」


「すでに最優先に設定しています」


「近接防御、相手が撃つのを待つな。攻撃距離へ入る前にドローンを落として」


「実行します」


アストレオン・ヴェロリアの外観は戦艦へ変わらなかった。


巨大な砲塔が現れることもない。


格納庫の扉が劇的に開くこともない。


ただ、艦体表面の各所に小さな光点がいくつも現れた。


そして――


数十発の防御用迎撃弾が発射される。


射撃区域へ入ったばかりの4機のドローンは、方向を変える時間すらなかった。


1機が破壊される。


2機目が複数の破片へ砕かれる。


3機目は民間船へ向かって旋回しようとした。


アストレオン・ヴェロリアの防御システムが、その進路を切断する。


最後の1機は、推進モジュールを精密射撃で破壊され、制御を失った。


大規模な爆発は起きなかった。


残された破片は局所重力場によって捕捉され、民間航路から離れる方向へ誘導された。


ヴェスペラは数秒間、黙っていた。


「破片の飛散方向まで計算している……」


セラフィエルは防御ネットワークを調整しながら答える。


「標的を撃墜するだけでは不十分です。残骸が他の物体への脅威にならないことも確認する必要があります」


紬は民間交通の表示を見る。


「コンボイは?」


「公爵家輸送艦の通信障害は17%。護衛艦2隻が4.2秒間、陣形同期を失いました。しかし、移動は継続しています」


「航路を維持して」


「はい」


攻撃集団――視点


「今のは何だ?」


レーダー担当者は、目の前のデータを信じられない様子だった。


「ドローンが射撃距離へ入る前に破壊されました」


「誰に?」


「アストレオン・ヴェロリアです」


指揮官は大型艦を見つめる。


形状に変化はない。


随伴艦隊もない。


格納庫から戦闘艦が出てきたわけでもない。


それなのに、4機のドローンが数秒にも満たない時間で消えた。


「迎撃艇を使え。あの艦を複数方向から圧迫しろ。公爵家の主艦を直接攻撃するな。あの大型艦を忙しくさせればいい」


先頭のパイロットが答える。


「接近すれば、あの艦の防御圏内に入るのでは?」


「だから真正面から近づくな。陣形を分散しろ。民間船を視覚的な妨害に使え」


電子戦担当者がすぐに割り込んだ。


「問題があります。あの艦のシステムは通常のレーダーに依存していません」


「説明しろ」


「センサーネットワーク全体を読み取れません。検出層が多すぎます。こちらが局所通信を圧迫しても、追跡能力を維持しています」


指揮官は歯を食いしばる。


「なら、あの艦を盲目にしようとするな。連携だけを乱せ。標的はあくまでオーレリアだ」


それまで待機していた3機のモビルフレームが、ついに命令を受ける。


「動け」


アストレオン・ヴェロリア


3つの新たなシンボルが表示された。


レアがすぐに画面を指差す。


「モビルフレーム」


紬はその機体を確認する。


「まだ入ってきていない」


「公爵家の船へ向かっている。俺たちじゃない」


カイラが通信回線へ入る。


「紬さん、こちらでも確認しています」


紬が答える。


「カイラ、その位置を維持して」


「彼らはモビルフレームを侵入部隊として使っています。公爵家の船へ到達する前に、私が阻止できます」


「まだだ」


短い間があった。


「なぜです?」


「他に待機している部隊がいるか分からない。今、前へ出て相手に誘い出されたら、オーレリアの防護層が薄くなる」


カイラは反論しなかった。


「承知しました。コンボイとともにいます」


紬は視線を切り替える。


「セラフィエル、公爵家の船の状況は?」


「1隻の迎撃艇が下方から侵入を試みています。重攻撃兵器を使わず、防御シールドで抑え込めます」


「やって」


「承知しました」


最初の迎撃艇がミサイルを発射した。


ミサイルはアストレオン・ヴェロリアへ向かわなかった。


標的は公爵家保安護衛艦だった。


警報が鳴る。


「ミサイル接近!」


カイラが即座に命令する。


「左へ陣形を分散! 第1防護層を突破させるな!」


1隻の護衛艦が激しく機動する。


ミサイルが追尾する。


その瞬間、2つの間に細い光が現れた。


アストレオン・ヴェロリア。


ミサイルを撃ったわけではない。


迎撃艇を破壊したわけでもない。


空間にエネルギーの層が展開された。


ミサイルがそれへ衝突する。


爆発。


しかし爆発エネルギーは防御フィールドの表面へ分散し、そのまま消滅した。


紬の表示には、次の情報が映し出されていた。


アストレオン・イージス――防御迎撃


エネルギーシールド:稼働中

運動エネルギーシールド:待機

プラズマバリア:待機

量子バリア:待機

重力バリア:待機

次元シールド:待機


シールド負荷: 0.0047%

構造損傷: 0.00%


レアがその数値を見る。


「0.0047%?」


カリスタが短く息を吐いた。


「エネルギーを使ったっていうより、『まだ始まってすらいません』って船自身が言ってるみたい」


紬はその言葉には反応しない。


「セラフィエル、次の防御層は本当に必要になるまで上げないで」


「承知しました」


カイラも保安回線を通じて同じデータを見ていた。


アストレオン・ヴェロリアを評価し始めてから初めて、彼女の表情が変化した。


驚嘆ではない。


より正確には、その艦に対する計算そのものが変わった。


これまで彼女は、アストレオンを通常の個人所有船と呼ぶには大きすぎる艦だと考えていた。


今、彼女が見ているのは、規模と能力の違いだった。


この艦は、攻撃を止めるために大規模な砲撃を必要としない。


ただ、自分の周囲の空間における規則そのものを変えている。


第2次攻撃


3機の敵モビルフレームがついに近距離へ入った。


1機は長距離兵器を装備している。


1機は重装シールドを使用している。


そして、もう1機は低い軌道で公爵家の船へ向かっている。


カイラがすぐに気づいた。


「3号機は攻撃機ではありません。搭乗・侵入経路を開こうとしている」


紬は即座に理解した。


「セラフィエル」


「すでに検出しています」


「パイロットを殺さずに止められるなら、あのモビルフレームを破壊しないで」


「主推進系を停止できます」


「やって」


アストレオン・ヴェロリアが防御パターンを変更する。


短い光線がモビルフレームの背部を捉えた。


爆発は起きなかった。


機体の推進系だけが停止する。


機械の身体は運動量を失い、その場で回転した。


敵パイロットが動揺する。


「何が起きた!?」


「推進系が死んだ!」


「予備を起動しろ!」


「反応しません! 航法システムもロックされています!」


指揮官がコンソールを叩く。


「その機体を引き出せ! パイロットを捕らせるな!」


しかし、牽引部隊が動くより先に、2号機が発砲した。


エネルギー弾はアストレオン・ヴェロリアを外れ、民間船の航路へ向かった。


セラフィエルが反応する。


「迎撃」


近接防御システムが動く。


1発。


2発。


3発。


4発。


4発の防御射撃が、民間船へ到達する前にエネルギー弾を破壊した。


セラフィエルが通信を開く。


「紬、敵2号機が現在、民間の安全を無視しています」


紬の表情が変わる。


「なら、武装を止めて。パイロットではない」


「兵装システムを標的にします」


数秒後――


モビルフレームの兵装が停止した。


機体全体ではない。


兵装モジュールだけだ。


敵パイロットが赤い表示を見る。


「兵装システムが停止した!?」


「この距離から、どうやってこちらの制御系へ侵入した!?」


返答はなかった。


コンボイ内部


オーレリアは通信ネットワークから響く警報を聞いていた。


直接、戦闘を見ているわけではない。


それでもシステムが状態の変化を表示するたびに、何かが起きていることだけは分かる。


セレネが彼女のそばに立つ。


「大丈夫?」


オーレリアはゆっくり息を吸った。


「大丈夫なのかは分からない。でも、まだ考えることはできる。今はそれで十分なのかもしれない」


セレネは彼女を見つめる。


「無理に平静を装わないで。身体は、表情に出していなくてもストレスを記録するから」


オーレリアは薄く笑った。


「ドクターさん、誰かが襲撃されている時も、いつもそんな話し方をするの?」


「患者がまだ冗談を言えるなら、たいていは良い兆候よ」


警報が鳴ってから初めて、オーレリアは小さく笑った。


しかし、その笑みはすぐに消えた。


画面に、公爵家の船へ向かって移動する1つの赤いシンボルが表示されたからだ。


「まだ来ている」


セレネが画面を見る。


「ええ。でも、まだこちらには到達していない」


オーレリアは指揮室の扉へ視線を向ける。


その向こうに紬がいることを知っている。


そして初めて、これまで高級な邸宅のように見えていたこの船が、なぜこれほど大規模な防御システムを備えているのかを理解した。


アストレオン・ヴェロリア――指揮室


「セラフィエル」


「はい、紬」


「まだ稼働しているのは?」


「迎撃艇6隻。電子戦機1隻が妨害を維持しています。もう1隻は位置を変更中。モビルフレームは2機が稼働中。1機は推進系を失っています」


戦術画面が拡大される。


敵性状況


武装迎撃艇・稼働:6

無力化:2


攻撃ドローン・稼働:0

破壊/無力化:4


電子戦機・稼働:2


モビルフレーム・稼働:2

無力化:1


公爵家コンボイ


構造健全性:99.97%

護衛陣形:91.4%

通信安定性:83.0%


アストレオン・ヴェロリア


構造健全性:100.00%

防御シールド負荷:0.012%

戦闘モード:未承認


ランがそのデータを確認する。


「ドローンとモビルフレーム1機を失っても、撤退しない」


ヴェスペラが答える。


「標的が艦そのものじゃないから。まだ侵入する理由が残っている」


レアが拳を握る。


「オーレリア……」


紬が立ち上がった。


「そうだ。オーレリアを連れ去れる可能性がある限り、止まらない」


セラフィエルが通信回線を開く。


「戦闘モードを起動すれば、今すぐこの戦闘を終わらせることができます」


室内が静まり返った。


紬はデータを見る。


それから、周囲にまだ存在する民間船の数を確認した。


1。


それが、この場で判断を決める数字だった。


「ダメだ」


セラフィエルは、それ以上何も尋ねなかった。


「防御構成を維持します」


「それでいい」


紬は再び席へ戻った。


「俺たちは戦争艦隊から身を守っているわけじゃない。誰かを誘拐しようとしている小規模な集団を止めているだけだ。武器を持って来たからといって、この民間回廊を戦場に変えるな」


カイラは通信回線越しにその言葉を聞いていた。


「紬さん」


「何?」


「状況を理解しました」


カイラの声は、それまでより重かった。


「私、モビルフレームに乗ります」


紬は画面を見る。


敵モビルフレームの1機が、たった今コンボイの外側防護層を突破していた。


距離が徐々に縮まっている。


カイラが続ける。


「公爵家保安部隊は、あなたの艦の後ろに隠れているだけではいられません。もし彼らの1機がオーレリア様へ接近するなら、私が止めます」


紬はすぐには答えなかった。


位置データを見る。


それから通信ウィンドウに映るカイラを見る。


ドラゴンキンは勝利を求めて許可を求めているのではない。


自分の任務を果たすために許可を求めている。


紬はようやく口を開いた。


「行って」


カイラはわずかに頭を下げる。


「承知しました、紬さん。オーレリア様を守ります」


「追いすぎないで。優先するのはコンボイの防護だ。相手が撤退するなら、追わなくていい」


カイラが顔を上げる。


「理解しました。必要のない撃破を求めて追撃するつもりはありません」


その会話を聞いていたレアがすぐに立ち上がった。


「紬、カイラが出るなら私も――」


紬は手を上げる。


「まだ」


レアが止まる。


「どうして?」


「今は艦に残って。相手に第2波があるか分からない。もし来たら、ここから対応できるようにしておきたい」


レアは不満そうな表情を見せた。


しかし、その理由は理解していた。


「……分かった。でも状況が変わったら、私を止めないで」


「止めない」


カイラが通信を閉じる。


数秒後、公爵家保安部隊のハンガーシステムがモビルフレームの発進準備を確認した。


攻撃集団――視点


指揮官は、コンボイから新たな信号が移動するのを見た。


「何だ?」


レーダー担当者が対象を拡大する。


モビルフレーム。


彼らの所属ではない。


「公爵家保安部隊です」


指揮官が黙る。


「何機だ?」


「1機」


「パイロットを識別しろ」


生体情報の一部が読み取られる。


ドラゴンキン。


戦闘専門官。


公爵家保安部隊。


指揮官が小さく悪態をついた。


「ようやく戦闘要員を出してきたか」


担当者が尋ねる。


「指示は?」


指揮官は、コンボイの後方にまだ留まっているアストレオン・ヴェロリアを見る。


巨大な艦はまだ変化していない。


戦闘モードもない。


重兵装もない。


あるのは防御だけ。


だが、それこそが、この艦の能力の限界を予測することを難しくしていた。


「大型艦には近づくな。主要標的に集中しろ」


担当者が頷く。


「公爵家のモビルフレームは?」


指揮官は、徐々に近づいてくる赤い点を見つめる。


「コンボイへ到達する前に止めろ」


アストレオン・ヴェロリア――モビルフレーム・ハンガー


ハンガーの扉が開いた。


全体ではない。


1本の発進レーンだけだ。


カイラは準備を終えたモビルフレームの前に立っていた。


システムパネルが1つずつ点灯していく。


モビルフレーム――戦闘構成


パイロット:カイラ・ドレイヴェン

種族:ドラゴンキン

役割:公爵家保安/重戦闘

任務:コンボイ防護

主要目標:オーレリア・ヴェイリエン防護

副次目標:敵モビルフレーム迎撃

交戦規定:防御的追撃

行動許可:制限付き


カイラは操縦グローブを装着する。


もう一度だけ、任務データを確認した。


殺害命令はない。


追撃命令もない。


名誉のために戦闘へ勝利しろという命令もない。


ただ1つの目的だけ。


守ること。


「よし」


キャノピーが閉じる。


システムがロックされる。


「アストレオン・ヴェロリア、こちらカイラ・ドレイヴェン。発進準備完了」


格納庫システムからセラフィエルの声が響く。


「発進可能です。安全航路を確保しました」


カイラが息を吸う。


「紬さん」


キャプテン回線が開く。


「何?」


「任務が終わったら、戻ります」


紬はシートへ身体を預ける。


「なら、遅れないで」


カイラが薄く笑った。


「遅れるつもりはありません」


発進が開始される。


モビルフレームがハンガーから宇宙空間へ飛び出した。


前方では、2機の敵モビルフレームがコンボイへ向かって移動している。


その後方では、アストレオン・ヴェロリアが宇宙空間に静かに留まっていた。


追わない。


勝利を追い求めない。


全戦力も開放しない。


ただ、公爵家コンボイと、オーレリアを奪うために現れた武装集団との間に立ち続ける。


しかし攻撃側にとって、全長8,600メートルのその艦の存在は、もはや小さな障害ではなく、無視できない問題へと変わり始めていた。


そして、接近していく2つのモビルフレーム集団の間で――


カイラ・ドレイヴェンは、初めての戦場へ入った。


【次回予告――第103話「最前線のドラゴンキン」】


カイラが公爵家保安部隊の戦闘専門官として戦闘へ入る。コンボイ周辺でモビルフレーム戦が始まり、レアもついにアストレオン・ヴェロリアから支援へ参加する。規律を重視するカイラとは異なり、より攻撃的な戦闘スタイルを見せるレア。紬はアストレオン・ヴェロリアから指揮を続け、直接戦闘には参加しない。次話では戦術的な一騎打ち、オーレリアの防護、そしてカイラとレアの戦い方の違いに焦点を当てる。


【第103話「最前線のドラゴンキン」へ続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。