第100話「護衛が多すぎる」
第100話「護衛が多すぎる」
ヴェルドラコン帝都――アストレオン・ヴェロリア、キャプテン・レジデンス
帝都の朝は、決して本当の意味で朝らしく感じられることはなかった。
軌道システムによって作られた人工太陽の光が複合施設の外層ガラスに反射し、その遥か彼方では、何千もの船が宇宙交通管制によって定められた航路に沿って移動している。
しかし、アストレオン・ヴェロリアの内部は、それとは比べものにならないほど静かだった。
警報はない。
緊急要請もない。
戦闘状態の変更もない。
聞こえるのは、穏やかな換気システムの音と、時折、行政上の更新情報を受信する通信端末の小さな通知音だけだった。
星崎紬はキャプテン・レジデンスのソファに座り、薄型端末を手にしていた。
その向かいでは、セラフィエルが新たに届いたいくつかのデータを確認している。
レアは部屋の反対側で軽食を手にしていた。
ランは幾つかの航行書類を確認している。
ヴェスペラは帝都の軌道航路に関する情報を読んでおり、カリスタは、実際にはすでに何の問題もないドッキング・システムの報告書に取り組んでいた。
すべては、いつも通りに進んでいた。
少なくとも、キャプテン・レジデンスの自動扉が開くまでは。
そこに立っていたのは、オーレリアだった。
誰も連れていない。
紬が顔を上げる。
オーレリアはすぐには中へ入らなかった。
数秒間、ただ扉の前に立っていた。
まるで、アストレオン・ヴェロリアを離れる前と比べて、この場所がまだ同じように感じられるのかを確かめているかのようだった。
その表情の変化に最初に気づいたのはレアだった。
口にしていた軽食を止める。
「オーレリア様?」
オーレリアは薄く微笑んだ。
「朝からごめんなさい」
「邪魔じゃない」
紬は端末を置いた。
「入ればいい」
オーレリアが中へ入る。
扉が背後で閉じた。
しかし、今回はすぐに座らなかった。
彼女の視線が室内をゆっくりと巡る。
テーブル。
ソファ。
軌道複合施設を映し出す大きな窓。
護衛はいない。
使用人もいない。
次の予定を知らせるために、数歩後ろに誰かが立っていることもない。
オーレリアはようやく息を吐いた。
「紬さん。少しお話ししてもいいですか?」
「いい」
レアがすぐに立ち上がった。
「じゃあ、私は先に行くね」
ランも読んでいた書類を閉じる。
「私も失礼します」
カリスタが小さく鼻を鳴らした。
「私は邪魔しない」
ヴェスペラも端末を閉じる。
「私は観測室にいます」
セラフィエルは小さく微笑んだ。
「皆さんの意図は理解しました」
紬は一人ずつ彼女たちを見る。
「分かりやすすぎる」
レアが小さく笑った。
「だったら、分からないふりをさせないでよ」
彼女たちは空気を妙に気まずくすることなく、メインルームを出ていった。
それからほどなくして、残ったのは紬、オーレリア、そしてセラフィエルだけになった。
セラフィエルは座らなかった。
二人から少し離れた場所に立ち、完全にその場を離れることなく、二人のための空間を作っている。
オーレリアはようやく腰を下ろした。
両手を膝の上に置く。
しばらく時間が流れた。
紬は急かさなかった。
ただ待っている。
オーレリアが俯いた。
「帰ってきたばかりなのに……本当に戻ってきたような気がしないんです」
紬はすぐには答えなかった。
その言葉自体は単純だった。
しかし、オーレリアの言い方を聞けば、彼女が言っているのが旅のことではないのは明らかだった。
家には戻っている。
父と母にも会った。
家族の領域にも戻っている。
行政上は、すべてが終わっている。
だからこそ、すべてが元通りになったことそのものに、何かがおかしいと感じている。
オーレリアが顔を上げる。
「船を降りた瞬間から、予定が全部元に戻りました」
「予定?」
「検査。家族会議。保安検査。衣服の調整。家族との昼食。休憩時間。それから、また検査」
彼女は小さく笑った。
面白いからではない。
「少し歩きたいと言っただけでも、どこへ行くのか、誰と行くのか、どの扉を使うのか、何時間なのか、それから誰が護衛するのかまで説明しなければなりません」
紬は背もたれに身を預ける。
「そうなることは分かっていたんだろ」
「分かっていました」
オーレリアは反論しなかった。
「だからこそ、問題なんです」
セラフィエルは二人を見ながら、口を挟まなかった。
オーレリアは、さらに声を落とす。
「出発する前は、ただ世界を見る時間が必要なんだと思っていました」
「見てきた後は?」
「旅だけが必要だったわけではないと、初めて気づきました」
オーレリアは自分の手を見る。
「私には、選択が必要だったんです」
部屋が再び静かになる。
今度は紬もすぐに答えなかった。
オーレリアが求めているのは船ではない。
護衛でもない。
まして、紬に家族の問題を解決してほしいわけでもない。
彼女はただ、自分の家族にさえ説明することが難しい何かを、言葉にしようとしていた。
「あなたの船では、どこかへ行きたいって言っても、どうして行きたいのか聞かれなかった」
「行きたいなら、そう言えばいい」
「そんなに簡単なんですね」
「そうだ」
オーレリアは淡く微笑んだ。
「それが、かえって私には不思議に感じます」
紬は首を少し傾ける。
「どうして?」
「私は、自分で決めることに、他の人が慣れていることに気づいていなかったんです」
オーレリアは少し間を置いた。
「最初は、それを守ってもらっているのだと思っていました」
「実際、そういう面もある」
「でも戻ってきてから……その保護が、近すぎるように感じるんです」
そこで、セラフィエルが初めて口を開いた。
「オーレリア様」
オーレリアが振り向く。
「はい、セラフィエルさん?」
「ご家族の予定に関する情報を、船の通信システムから制限しましょうか?」
オーレリアは首を横に振った。
「それではありません」
「承知しました」
セラフィエルはすぐにその答えを受け入れた。
紬がオーレリアを見る。
「セラフィエルに何かしてほしくて来たわけじゃないんだな」
「はい」
「じゃあ、何がしたい?」
オーレリアは長い間、黙っていた。
そして、ようやく口を開く。
その声は、それまでよりもずっと正直だった。
「私が、公爵令嬢ではなかった頃の私を見ていた人と話したかったんです」
紬が僅かに眉を上げる。
オーレリアは微笑んだ。
「ここでは、私はただのオーレリアです」
「ここでも公爵令嬢だろ」
「分かっています」
オーレリアは小さく笑った。
「でも、紬さんは一度も私をそういうふうには扱わなかった」
紬は否定しなかった。
「話すたびに君の爵位を意識しなきゃならないなら、7か月の旅は疲れるからな」
オーレリアが笑う。
今度は、本当に軽い笑いだった。
「それ、すごく紬さんらしい理由ですね」
「他に理由があるのか?」
「あるかもしれません」
「俺は知らない」
「そうでしょうね」
少しだけ、空気が和らぐ。
しかし、それも長くは続かなかった。
オーレリアが再び真剣な表情になる。
「紬さん」
「ん?」
「私がこう感じるのは、間違っていると思いますか?」
その問いは、遥かに重かった。
紬は彼女を見る。
「思わない」
答えは迷いなく返ってきた。
オーレリアが少し驚く。
「考えなくていいんですか?」
「必要ない」
「どうして?」
紬はソファに背を預ける。
「君は、家族を捨てたいなんて言ってない」
オーレリアは黙った。
「爵位を捨てたいとも言ってない」
オーレリアがゆっくりと顔を上げる。
「ただ、自分で決めたいことが幾つかあるだけだ」
「……はい」
「それなら、何もおかしくない」
オーレリアは息を呑む。
「でも、家族はそう思わないかもしれません」
「かもしれないな」
「それでも、彼らが間違っているとは言わないんですか?」
「俺は、君の家族をそこまで知らない。だから、そうは言えない」
その答えに、オーレリアは黙り込んだ。
紬は続ける。
「君の父親には、君を守る理由がある。母親にもある。7か月も君がいなくなっていたんだ。安全を軽く考えるはずがない」
「分かっています」
「でも、誰かの理由を理解することと、自分の決定を全部その人たちに渡すことは別だ」
オーレリアは長い間、紬を見つめた。
劇的な言葉はない。
約束もない。
だからこそ、その言葉は余計に現実的に感じられた。
「家というのは、動けなくなる場所じゃない」
オーレリアが瞬きをする。
紬は同じ調子で続けた。
「自分を失わずに帰ってこられる場所だ」
オーレリアは俯いた。
それまで絡めていた指が、ゆっくりと緩んでいく。
「自分を失わずに帰ってこられる場所……」
彼女は、その言葉がこれまで感じてきたものに合っているのか確かめるように繰り返した。
「では、紬さんにとって家って何ですか?」
紬はすぐには答えなかった。
視線が窓へ移る。
その向こうでは、帝都が動き続けている。
貨物船が商業航路を通過する。
外交船には優先通過権が与えられている。
民間シャトルが軌道ステーションへ向かっている。
誰が家の意味について考えているのかなど気にも留めず、あまりにも巨大な世界が動いている。
「自分を失わずに帰ってこられる場所だ」
オーレリアが紬を見る。
今度は何も言わなかった。
セラフィエルは彼女の表情の変化を見守っていた。
涙はない。
感情の爆発もない。
ただ、呼吸が少しだけ軽くなっていた。
しばらくして、オーレリアが尋ねる。
「それなら……私、またここへ来てもいいですか?」
「どうして駄目なんだ?」
「家族のところへ戻ってきたからです」
「それは、ここへ来ちゃいけない理由にはならない」
「家族は、アストレオン・ヴェロリアは自由すぎると思うかもしれません」
紬はため息をついた。
「この船は、確かにそうだ」
セラフィエルが微笑む。
「それはアストレオン・ヴェロリアの主要な特徴の一つです、オーレリア様」
オーレリアが小さく笑う。
「セラフィエルさん、否定する気すらないんですね」
「嘘をつく理由が見つかりませんので」
紬が立ち上がる。
「来たいなら、来ればいい」
オーレリアも立ち上がった。
「ありがとうございます」
「いい」
「でも、それでも言いたいんです」
紬は答えなかった。
オーレリアは扉へ向かう。
そして出る直前に、足を止めた。
「紬さん」
「ん?」
「私、外へ出たいです」
紬が彼女を見る。
「どこへ?」
「まだ決めていません」
「なら、先に決めろ」
オーレリアが微笑んだ。
「自分で決めたいです」
「それでいい」
キャプテン・レジデンスへ入ってから初めて、オーレリアの笑顔が本当に軽く見えた。
しかし、扉が開いた瞬間、セラフィエルが持っていた端末から通知音が響いた。
セラフィエルが画面を確認する。
表情は変わらない。
だが、すぐには何も言わなかった。
紬はそれに気づいた。
「何だ?」
セラフィエルが表示をメインパネルへ切り替える。
「公爵家保安局から更新情報です」
オーレリアが足を止めた。
「私について?」
「はい」
二人の間にホログラフィック表示が浮かび上がる。
公爵家警護ステータス
保護対象者: オーレリア・ヴェイリエン
現在地: 公爵家邸宅
警護レベル: 引き上げ
単独移動: 制限
外部移動申請: 許可制
護衛要件: 必須
航路許可: 個別審査
家族区域外への退出: 条件付き
保安審査: 継続中
オーレリアはすべてを読んだ。
その視線が、ある一行で止まる。
単独移動:制限
何も言わない。
紬もパネルを見る。
「これはどういう意味だ?」
セラフィエルは落ち着いた声で答える。
「オーレリア様は家族区域の外へ出ること自体は可能です。ただし、自由に移動することはできません」
「許可が必要なのか」
「その通りです」
オーレリアが息を吐く。
「つまり、まだ本当の意味では自由じゃないんですね」
紬は答えなかった。
セラフィエルが次の詳細を開く。
限定外部移動
許可状態: 審査中
許可目的: 私用・家族・医療・教育
護衛: 必須
最低護衛: 保安部隊1個
航路: 公爵家保安局が指定
出発時間帯: 申請ごとに許可
帰還要件: 必須
予定外の迂回: 禁止
オーレリアは上から下まで読む。
「航路まで決められているんですね」
「はい」
「もし、途中で別の場所に寄りたくなったら?」
セラフィエルが答える。
「航路変更を申請する必要があります」
オーレリアはため息をついた。
「食べ物を買いたいだけでも?」
「承認された航路の外にある場所であれば、航路変更にも許可が必要です」
オーレリアが紬を見る。
「ほら」
「見た」
「これが私の言っていたことです」
紬はパネルへ近づいた。
触れはしない。
「許可にどれくらいかかる?」
セラフィエルが行政データを開く。
「常に同じではありません」
「数字を」
セラフィエルが処理統計を表示する。
公爵家移動許可――最近の処理統計
通常申請: 18~42分
優先申請: 7~16分
医療申請: 3~9分
緊急申請: 即時
平均航路確認: 11分
平均護衛割当: 8分
手動保安審査: 21~57分
紬は数秒間、表示を読む。
「結構遅いな」
オーレリアは苦笑した。
「私にとっては、それでも早いほうなんです」
紬が振り向く。
「慣れてるんだな」
「はい」
短い答えだった。
しかし、それだけで十分だった。
セラフィエルが再び表示を切り替える。
「一つ変更があります」
オーレリアが画面を見る。
「何が変わったんですか?」
「以前保留されていたあなたの外出申請が、限定許可を取得しました」
紬が眉を寄せる。
「今?」
「はい」
新しいパネルが表示される。
外部移動許可
保護対象者: オーレリア・ヴェイリエン
状態: 許可――限定
許可者: 公爵家保安局
護衛: 必須
移動区域: 帝都――許可済み民間区域
出発: 承認済みスケジュールに従う
滞在時間: 制限あり
航路: 指定
帰還: 必須
有効期間: 一時的
オーレリアはゆっくり読む。
「外へ出てもいいんですか?」
「行政上は、はい」
「一人で?」
「いいえ」
「紬さんと一緒なら?」
セラフィエルは一度、紬を見る。
「それは家族側の承認と、護衛名簿への登録次第です」
オーレリアが少し残念そうな表情を浮かべる。
紬はそれを見る。
「期待しすぎるな」
「分かっています」
「行きたいなら、与えられた規則の範囲で行けばいい」
オーレリアは頷いた。
「やってみます」
紬はセラフィエルに尋ねる。
「護衛を決めるのは誰だ?」
「公爵家保安局です」
「カイラか?」
「カイラさんも、その情報を受け取れる保安ネットワークには含まれています。ただし、最終的な割り当てはまだ記録されていません」
オーレリアの表情が少しだけ和らぐ。
「カイラさんが護衛なら、あまり気になりません」
紬が彼女を見る。
「どうして?」
「彼女は、自分が考えていることをそのまま言ってくれるからです」
セラフィエルが微笑む。
「カイラさんについての評価としては、かなり正確ですね」
オーレリアが笑いそうになる。
しかし、メインパネルがデータを更新した瞬間、その表情が変わった。
先ほどまで空欄だった一行が表示される。
護衛割り当て
主担当部隊: 公爵家保安部隊
状態: 割り当て済み
副次支援: 審査中
航路調整: 保留中
行政調整: 帝都保安ネットワーク
紬は最後の項目を読む。
「帝都保安ネットワーク?」
セラフィエルが頷く。
「はい」
「以前は公爵家保安局だけじゃなかったか?」
セラフィエルが履歴を開く。
「以前の申請では、主な調整は公爵家保安局が担当していました」
「今は変わった?」
「調整機関が追加されています」
オーレリアが二人を見る。
「それは、悪いことなんですか?」
紬がセラフィエルより先に答えた。
「必ずしもそうとは限らない」
そしてオーレリアを見る。
「すべての変更を脅威だと思うな」
オーレリアは頷いた。
「分かりました」
紬は再びセラフィエルを見る。
「ただ、変更は記録しておけ」
「すでに記録しています」
「記録以外のことはするな」
「承知しました」
オーレリアが息を吸う。
「今日の午後、外出許可を申請してみます」
紬が頷く。
「許可されたら、行け」
「拒否されたら?」
「理由を聞け」
オーレリアが微笑む。
「紬さんは、いつも何でも簡単に聞こえるように言いますね」
「実際、簡単だからな」
「紬さんにとっては、でしょう?」
「たぶんな」
オーレリアが小さく笑った。
そして軽く頭を下げる。
「それでは、先に失礼します、紬さん」
「ああ」
彼女はセラフィエルへ振り向く。
「またね、セラフィエルさん」
「またお会いしましょう、オーレリア様」
扉が閉じた。
紬は数秒間、その場に立ったままだった。
セラフィエルが彼を見る。
「紬」
「何だ?」
「オーレリアがどこへ行くべきかについて、何も助言しませんでしたね」
「それは彼女が決めることだからな」
「理解しました」
セラフィエルが微笑む。
「だからこそ、私はあなたの答えが好きです」
紬は再び座る。
「始めるな」
「私はまだ何も言っていません」
「顔が何か言ってる」
セラフィエルが小さく笑う。
窓の外では、大型の外交船が定められた速度で軌道航路を通過していく。
帝都は変わらず忙しい。
そして、これほど巨大な軌道都市の中心で、一人の公爵令嬢が初めて、自分自身で次の一歩を決めるための、ほんの少しの余白を手に入れた。
ほんの少し。
それ以上ではない。
それでも、オーレリアにとっては十分な意味があった。
数時間後。
公爵家邸宅。
オーレリアは正門の前に立っていた。
最初に到着した時のような豪華な外出着ではない。
余計な装飾もない。
ただ、外へ出るために必要な服装だけだった。
その前で、一人の保安担当官が個人端末を差し出す。
「オーレリア様。外出許可が承認されました」
オーレリアは端末を受け取った。
「外にはどれくらいいられますか?」
「4時間です」
「4時間……」
「その通りです、オーレリア様」
「そして、指定された航路に従う必要があるんですね?」
「はい」
「分かりました」
オーレリアはホログラフィック地図を見る。
承認済み移動航路
出発地点: 公爵家邸宅
通過区域: 帝都民間航路
承認区域: 中央文化地区
最大滞在時間: 04:00:00
護衛状態: 稼働中
帰還期限: 必須
航路変更: 許可が必要
オーレリアは薄く微笑んだ。
4時間。
完全な自由ではない。
しかし、牢獄でもない。
戻ってきてから初めて、家族の義務でも、公式行事でも、医療検査でもない理由で外へ出る機会を手にした。
自分自身で外へ出ることを選んだ。
「それじゃあ」
保安担当官が待つ。
「オーレリア様?」
オーレリアが顔を上げる。
「準備できました」
小さな護衛車列が動き始める。
しかし、出発して数分後、護衛担当官の端末が更新情報を受信した。
警報はない。
赤色警告もない。
ただ、行政上の変更だけだった。
移動航路上の一行が変わる。
通過地点更新
続いて、もう一つ。
護衛航路同期――更新
そして、さらにもう一つ。
副次調整――帝都行政保安
端末を持っていた担当官が、一瞬だけ動きを止めた。
そのデータを読み直す。
オーレリアが気づく。
「何か問題がありますか?」
担当官はすぐに職務上の表情を取り戻した。
「いいえ、オーレリア様」
「航路が変わったんですか?」
数秒の沈黙。
「はい」
オーレリアが地図を見る。
先ほどまで中央文化地区へ一直線に向かっていた青い線が、方向を変えていた。
ほんの少しだけ。
しかし、それだけで護衛車列は別の通過航路を通ることになる。
オーレリアは眉を寄せる。
「どうして?」
担当官が許可情報を確認する。
「正規の保安調整システムからの変更です」
「誰が申請したんですか?」
担当官は黙った。
「申請者情報は現在、処理中です」
オーレリアはもう一度、新しい航路を見る。
この変更が、見た目以上に重要な意味を持つことを、彼女はまだ知らなかった。
別の場所では、別系統の保安ネットワークに接続していたカイラ・ドレイヴェンも、同じ更新情報を受け取っていた。
そして今回は、その変更はもう、名簿の中にある小さな一行ではなかった。
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【第101話――「変わった航路」】
「変わった航路」
カイラは、オーレリアの移動航路が正規の許可によって変更されたことを知る。しかし、その変更は通常の保安指揮系統から発生したものではなかった。
通過地点が移動され、オーレリアはより高い政治的統制が及ぶ区域へ近づく航路へと誘導されていた。
カイラは確認なしにその航路を実行することを拒否する。
一方、紬はその対立から距離を置いたまま、航路が安全ではないと判断されるのであれば、その航路では出発しないということだけを明確にする。
【第101話「変わった航路」へ続く】




