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ASTRAEON VELORIA――銀河を旅する自由傭兵――  作者: Ren Hazumi


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第99話「護衛名簿」

第99話「護衛名簿」


アストレオン・ヴェロリア――帝都軌道複合施設・セキュリティ分析室


セキュリティ分析室の扉が、音もなく閉じた。


政府の会議室のような長いテーブルはない。


壁に公爵家の紋章が掲げられているわけでもない。


そこは基本的に、アストレオン・ヴェロリア内部に設けられた分析施設の1つに過ぎず、必要に応じて室内の大部分の表面をデータ・インターフェースへと変えられる構造になっていた。


カイラ・ドレイヴェンは、部屋の中央に立っていた。


その正面には、2つの警護リストが並べて表示されている。


左側には、


公爵家警護部隊――旧構成


右側には、


公爵家警護部隊――現行構成


と表示されていた。


紬はメインパネルから少し離れた場所に座っていた。


自分の仕事ではないことを分析するつもりはない。


だが、先ほどからのカイラの表情を見ていると、この調査が単純な名前の照合だけで終わらないことくらいは理解できていた。


セラフィエルはパネルのそばに立っている。


レア、ラン、ヴェスペラ、カリスタは部屋の後方にいた。


オーレリアは、そこにはいない。


少なくとも今は、彼女自身から意図的に警備に関する話を切り離している。


カイラが腕を組んだ。


「セラフィエルさん。両方のリストのデータソースを表示してください。元の形式は変更しないでください」


「承知しました、カイラさん」


パネルが移動する。


それぞれのリストの下に、メタデータが表示された。


旧構成


情報源: 公爵家警備局

認証: 有効

タイムスタンプ: オーレリア帰還の7日前

完全性: 100%

改訂履歴: 4

指揮系統: 公爵家警備司令部

運用状態: アーカイブ済み/有効


その隣には、


現行構成


情報源: 公爵家警備局

認証: 有効

タイムスタンプ: 帝国護衛要請承認後

完全性: 100%

改訂履歴: 7

指揮系統: 公爵家警備司令部

運用状態: 稼働中


カイラは、すぐには人員名を見なかった。


むしろ下部の情報を読み取っている。


「タイムスタンプを」


「はい」


「新しいリストは、帝国護衛要請が承認された後に作成された?」


「その通りです」


カイラはセラフィエルへ視線を移した。


「時間差は?」


パネルがデータを拡大する。


護衛認証


護衛要請承認: 11:42:18

旧護衛構成: 11:42:21

現行構成改訂: 13:08:47

現行リスト最終検証: 13:09:02


カイラは数秒間、黙った。


「つまり、変更は最初の認証発行と同時に行われたわけではない」


「その通りです」


「最初の構成から最新の改訂まで、1時間26分29秒の空白がある」


「計算は正確です」


カイラは答えず、手を上げた。


「改訂履歴を表示してください」


新たに4行が現れた。


改訂履歴


改訂01: 初期警護部隊

改訂02: 護衛編成確認

改訂03: 移動調整

改訂04: 最終護衛名簿


続いて、別のパネルが開く。


現行構成


改訂05: 警備調整

改訂06: 人員交代

改訂07: アクセス認証更新


レアが眉を寄せた。


「それだけでも十分変じゃない?」


カイラが振り向く。


「まだです」


「まだ?」


「改訂回数が増えたことだけでは、規則違反とは言えません。大規模な公爵家の警備システムなら、誰かが出発するまでに何度も更新されることはあります。重要なのは、何が変更されたかです」


レアが近づく。


「じゃあ、まだ怪しいとは言えない?」


「変更された、と言うことはできます。まだ証明されていない意図を付け加えてはいけません」


それまで黙っていた紬が口を開いた。


「それ、昨日俺も言った」


カイラが紬を見る。


「ツムギさん。なぜセラフィエルがあなたのやり方に従っているのか、少し分かってきました」


「早く結論を出しすぎないほうがいい」


「結論を出しているわけではありません。観察しているだけです」


紬は肩をすくめた。


「続けて」


カイラは再び画面へ向き直る。


「セラフィエルさん。人員リストを比較形式で表示してください」


「承知しました」


2つのパネルが表へと切り替わる。


公爵家警護部隊――人員比較


機能| 以前| 現在| 状態

近接警護| 8| 8| 変更なし

戦術護衛| 12| 12| 変更なし

経路警備| 16| 16| 変更なし

医療警備| 4| 4| 変更なし

通信警備| 3| 3| 変更なし

侵入対策| 6| 6| 変更なし

機動対応| 4| 4| 変更なし

指揮連絡| 2| 2| 変更なし


総人員数は変わっていない。


総人員:55 → 55


ランが首を傾けた。


「人数は変わってない」


「その通りです」


「それなら、1つの部隊が削除されて、別の部隊が入った。最終的な人数が55人のままなら、直接の交代ってことね」


カイラが頷く。


「そこが確認すべき部分です」


セラフィエルが2つの項目を強調表示した。


旧構成


部隊: 公爵家警護部隊――DPU-04

役割: 近接警護

アクセスレベル: 3

主担当区域: 家族居住区/移動

武器認証: 標準

データアクセス: 警護業務


現行構成


部隊: 公爵家警備対応部隊――DSRU-11

役割: 戦術対応

アクセスレベル: 5

主担当区域: 家族居住区/移動/行政経路

武器認証: 強化

データアクセス: 警護業務/移動警備/戦術経路


部屋の空気が静まった。


レアは部隊名の横に表示された数字を見た。


「アクセスレベル3から5?」


「はい」


カリスタがパネルへ近づく。


「そのレベルが単なる内部名称なら、数字そのものに大きな意味はない」


カイラが振り向いた。


「その通りです。だから、私は数字だけを見ていません」


彼女は下部を指した。


「見てください。アクセス範囲です」


カリスタがもう一度読む。


「警護業務……移動警備……戦術経路」


「旧部隊が担当していたのは、直接的な警護と護衛任務だけです。新しい部隊は戦術経路へのアクセス権を持っている」


それまで航行データを見ていたヴェスペラが、ようやく口を開いた。


「つまり、誰を守るのかだけではなく、その人物をどのように移動させるのかまで把握できるということね」


カイラが頷く。


「はい」


ヴェスペラはセラフィエルを見る。


「戦術経路というのは、移動ルートを確認できるという意味?」


「記載されている認証範囲によれば、その通りです」


「どこまで?」


パネルが切り替わる。


戦術経路アクセス


現在経路: 全可視化

移動ノード: 認証済み

代替経路: 認証済み

緊急迂回: 認証済み

護衛編成: 認証済み

保護対象者位置: 認証済み

出発時間帯: 認証済み

目的地分類: 認証済み


ヴェスペラが黙り込んだ。


ランが両手をテーブルについた。


「それ、普通の護衛に必要な範囲を超えてない?」


カイラが頷く。


「私が『過剰アクセス』と呼んでいる部分です」


レアがその言葉を繰り返す。


「過剰アクセス」


「必要以上のアクセス権です」


カイラはDPU-04を指した。


「旧部隊はオーレリア様を守ることができる。指定された経路を追従し、司令部から指示を受け、脅威に対応する。それなら通常の任務範囲です」


続いて指をDSRU-11へ移す。


「新しい部隊は、本来ならより上位の調整レベルに置かれるべき情報へアクセスし、その一部に影響を与えることまでできます」


紬が立ち上がった。


「経路を変更できる?」


「技術的には可能です」


「実際に変更した?」


カイラは黙った。


「現時点では、経路を変更したことを示すデータはありません」


紬が頷く。


「それなら、やったとは言わない」


「同意します」


セラフィエルが付け加えた。


「ただし、もう1つあります、ツムギさん」


紬が振り向く。


「何?」


パネルに追加項目が表示された。


アクセス利用状況


DPU-04――旧部隊


- 警護業務:100%

- 移動警備:42%

- 戦術経路:0%

- 行政経路管理:0%


DSRU-11――交代部隊


- 警護業務:100%

- 移動警備:100%

- 戦術経路:100%

- 行政経路管理:100%


ランが数字を見つめる。


「待って。それって、新しい部隊は許可されただけじゃなくて、その全部のアクセス権をもう使ってるってこと?」


「その通りです」


カイラがパネルへ近づく。


「これで問題が、より明確になりました」


カリスタが尋ねる。


「どれくらい?」


カイラは最後の行を指した。


「この部隊は単に、より高いアクセス権を与えられただけではありません。そのアクセス権を使って、システムとの同期まで行っています」


レアは100%という数字を見た。


「どれくらいデータを取ったの?」


「セラフィエルさん?」


「現在確認できるデータでは、次の同期が行われています」


DSRU-11――システム同期


警護データベース: 100%

移動スケジュール: 100%

護衛編成: 100%

経路アーカイブ: 100%

緊急迂回テーブル: 100%

行政移動マップ: 100%

医療移動制限: 100%


最終同期: 18分前


カイラは最後の行を見つめた。


「18分」


「はい」


「まだ有効?」


「はい」


紬がセラフィエルを見る。


「それ、違法アクセス?」


「現時点で、そのような証拠はありません。使用されている認証は有効です。デジタル証明書も公爵家警備局から発行されたもので、現在も有効です」


紬が息を吐く。


「つまり、公式に認められたアクセスだけど、権限が高すぎる」


カイラが訂正する。


「より正確には、その部隊の運用上の必要性を超えた公式アクセスです」


「俺が言いたいのはそれ」


カイラがわずかに笑いそうになる。


「分かっています」


レアが2人を見る。


「あなたたち、セキュリティの話になると妙に息が合うわね」


「息が合っているわけではありません」


カイラは淡々と答えた。


「同じ用語を使っているだけです」


レアが笑う。


「その違い、かなり小さいけどね」


カイラは無視した。


そしてセラフィエルへ、指揮系統の表示を求める。


パネルが再び切り替わった。


公爵家警備指揮系統


公爵家警備局

↓

公爵家警備司令部

↓

警護作戦部門

↓

近接警護部隊


その横には別の経路が表示される。


公爵家警備局

↓

公爵家警備司令部

↓

戦術対応部門

↓

DSRU-11


カイラは2つ目の経路を拡大した。


「ここです」


「何?」と紬が尋ねる。


「交代部隊は、戦術対応部門から来ています」


「それも公爵家警備の一部なんだろ?」


「はい」


「なら、法的には権限がある」


「その通りです」


「じゃあ何が問題?」


カイラは紬を見る。


「法的権限と、運用上の必要性は別のものだからです」


彼女はDPU-04を指した。


「オーレリア様に必要なのは近接警護です。この部隊には、その機能があります」


次にDSRU-11へ指を移す。


「DSRU-11は戦術対応部隊です。武装を必要とする状況や、迅速な動員が必要な事態への対応を想定して編成されています」


「そのほうが安全なんじゃない?」


その質問は、オーレリアと共に入ってきたセレネからだった。


紬が振り向く。


「セレネさん?」


「先ほど、まだ送信が終わっていなかった医療データを受け取りに来ました」


セレネはセキュリティパネルを見る。


「邪魔をしてしまったなら、すみません」


カイラは首を横に振った。


「問題ありません、セレネさん。今の質問はもっともです」


セレネは表を見る。


「オーレリアへの脅威が高まっているなら、より強力な部隊のほうが適切では?」


カイラはすぐには否定しなかった。


「緊急事態であれば、そうです」


「では?」


「問題は、現在が緊急対応ではないことです」


カイラは運用状況を拡大する。


警備環境


現在攻撃: なし

既知の武装脅威: なし

緊急状態: なし

敵対接触確認: なし

保護対象者脅威レベル: 上昇/評価待ち

現在の作戦: 通常公爵家警護


セレネはすべてを読み取った。


「つまり、通常状態なのにDSRU-11へ戦術対応用の構成が与えられた」


「その通りです」


オーレリアが数歩近づく。


「カイラさん。それは、彼らが危険だということですか?」


カイラはオーレリアを見る。


「証拠がない状態で、そうは言いません」


そして同じ落ち着いた声で続けた。


「その部隊が公爵家に完全に忠実である可能性もあります。誰かが、オーレリア様の警護にはより高い対応能力が必要だと判断しただけかもしれません。それもすべて可能性として残っています」


「でも?」


「ですが、あなたの警護に必要な範囲を超えたアクセス権を持っているという事実は無視できません」


オーレリアは画面を見る。


「つまり、問題は彼らが誰なのかではない?」


「まだ、そこではありません」


「では、何が問題なのですか?」


カイラはゆっくりと答えた。


「なぜ、それほど大きなアクセス権が必要なのか。それが問題です」


オーレリアは答えなかった。


紬も何も言わない。


セラフィエルが簡単なグラフを表示した。


警護アクセス範囲


DPU-04

運用上必要な範囲: 100%

付与アクセス: 100%


DSRU-11

運用上必要な範囲: 100%

付与アクセス: 164%


グラフの下には詳細が表示される。


必要アクセス


警護業務――100%

移動警備――40%

戦術経路――0%

行政経路管理――0%


付与アクセス


警護業務――100%

移動警備――100%

戦術経路――100%

行政経路管理――100%


レアが小さく口笛を吹いた。


「164%」


カイラは首を横に振る。


「その数字はシステム上の比較指数であって、正式なリスク指標ではありません」


「それでも大きく見えるけど」


「実際に大きいです」


紬がグラフを見る。


「誰かが意図的にそのアクセス権を与えたなら、理由があるはずだ」


カイラが答える。


「はい」


「その理由が正当なものなら?」


「その理由は記録されているべきです」


セラフィエルが別の項目を開く。


認証理由


記録された理由: 強化警護態勢


紬がその文章を読む。


「それだけ?」


「認証文書に記録されている理由は、それがすべてです」


ランが短く笑った。


しかし、面白がっているような声ではない。


「強化警護態勢。便利な言葉だね」


カリスタが鼻を鳴らす。


「便利すぎる」


ヴェスペラが続けた。


「具体的な脅威はない。特定の場所もない。情報報告についても触れられていない」


カイラが頷く。


「だから、私はまだ納得していません」


セレネがカイラを見る。


「これから、どうするんですか?」


「この部隊を告発するつもりはありません」


カイラは一部のパネルを閉じた。


「変更を発行した司令部に、正式に任務理由を確認します。理由が正当なら、それで終わりです。ですが、回答が付与されたアクセス権の規模と一致しないのであれば、そこで初めて実質的な管理上の問題になります」


紬はポケットに手を入れた。


「筋は通ってる」


カイラが振り向く。


「ツムギさん」


「何?」


「あなたに1つ、お願いがあります」


「何?」


「私が警護名簿を確認するまで、アストレオン・ヴェロリアをこの区域の外へ移動させないでください」


部屋が突然静かになった。


紬は彼女を見る。


「命令?」


「いいえ」


カイラは落ち着いて答えた。


「専門的なセキュリティ上の助言です。最終的な判断はあなたにあります」


紬はすぐには答えなかった。


そして、


「経路が安全なら行く。安全じゃないなら行かない。それだけだ」


と言った。


カイラが頷く。


「それを期待しています」


オーレリアが紬を見る。


「私のせいで、また長く滞在することになるのですか?」


紬は彼女へ視線を移した。


「君のせいじゃない」


「でも、もし私が一緒に戻ってこなければ――」


「オーレリア」


紬の声は変わらず落ち着いていた。


「今は公爵家の警備システムについて話してる。全部を自分の責任にするな」


オーレリアは黙った。


セレネは2人を見ていたが、口を挟まなかった。


カイラも同じだった。


セキュリティ専門家として、彼女はその短い言葉が重要な意味を持つことを理解していた。


周囲で起きるすべての問題を自分が原因だと思い始めれば、その後の安全に関する判断は、はるかに難しくなる。


そのとき、セラフィエルが突然、1つの通知を表示した。


正式回答要請チャンネル


要請: DSRU-11任務配属理由の確認

宛先: 公爵家警備司令部

送信者: カイラ・ドレイヴェン

優先度: 専門セキュリティ審査

状態: 送信済み


カイラがそれを見る。


「回答までの予想時間は?」


「確定できません。先方の公爵家警備司令部の対応に依存します」


「分かりました」


紬が画面を見る。


「回答が来るまで?」


カイラが答える。


「私は引き続き警護任務を行います。1つの名簿が変更されたからといって、公爵家の活動すべてを停止する理由にはなりません」


「それでいい」


「ただし、追加の変更が確認なしに通過することがないようにします」


セラフィエルが小さなパネルを1つ表示した。


「もう1つあります、カイラさん」


「何ですか?」


「DSRU-11が、先ほど認証情報の更新を受けました」


カイラが即座に振り向く。


「いつ?」


認証更新


タイムスタンプ: 14:17:36

認証: 有効

アクセス範囲: 変更なし

情報源: 公爵家警備局

理由: 強化警護態勢の継続


カイラはタイムスタンプを読む。


「私が確認要請を送ってから、どれくらい?」


「41秒です」


誰も話さなかった。


カイラは証明書データを拡大した。


デジタル認証


証明書: 有効

権限機関: 公爵家警備局

署名: 有効

失効状態: なし

有効期限: 残り23日14時間


カイラは表示を通常サイズへ戻した。


「法的には、すべて問題ありません」


紬が彼女を見る。


「でも?」


カイラはそのリストをしばらく見つめてから答えた。


「ですが、私は速すぎる偶然というものが好きではありません」


紬は何も言わなかった。


ただ、今も並んで表示されている2つのリストを見た。


旧リスト。


新しいリスト。


裏切り者として印を付けられた名前はない。


偽造された証明書もない。


隠された武器もない。


攻撃もない。


誰かがオーレリアを傷つけようとしている証拠もない。


存在しているのは、ただ1つの具体的な事実だけだった。


誰かが護衛部隊を入れ替えた。


そして、その交代部隊には、公爵令嬢を守るために必要な範囲を大きく超えたアクセス権が与えられている。


カイラは旧リストを閉じた。


「セラフィエルさん。この比較データを保存してください」


「すでに保存済みです」


「配布はしないでください」


「承知しました」


カイラは紬を見る。


「まずは正式な警備経路を通して確認します」


紬が頷く。


「頼む」


オーレリアは残った画面を見つめていた。


「カイラさん」


「はい、オーレリア様?」


「もし、これが本当に公爵家警備側の通常の判断だったとしたら……」


カイラは待った。


「その場合、どうするのですか?」


「私の注意対象から外します」


オーレリアが小さく笑った。


「では、もし違ったら?」


カイラはすぐには答えなかった。


視線を再び戦術経路アクセスへ向ける。


そして、行政経路管理へ。


「通常の判断ではないのなら、誰がその権限を与えたのかを確認します」


紬が椅子から立ち上がった。


「それで十分だ」


カイラが振り向く。


「十分?」


「今は、ね」


紬は扉へ歩く。


「まだ敵はいない。攻撃もない。悪意がある証拠もない。だから、もうすべてが始まったみたいに動くな」


カイラが頷く。


「承知しました、ツムギさん」


紬は扉の前で一度だけ足を止めた。


「それと、あまり堅苦しく呼ばなくていい」


カイラが彼を見る。


「分かりました、ツムギさん」


レアが口元を押さえ、笑いを堪える。


紬が振り返った。


「何?」


「何でもないよ、キャプテン」


「笑ってるだろ」


「笑ってないって」


カイラが初めて、はっきりと小さく笑った。


「皆さんの関係が、少し分かってきた気がします」


「そこには口を出さなくていい」


「分かりました」


扉が開く。


紬はレアたちと共に部屋を出ていった。


カイラはパネルの前に残った。


その隣にはセラフィエルが立っている。


「カイラさん」


「はい?」


「比較画面を閉じますか?」


カイラは最後に、2つのリストを見た。


「いいえ。そのままにしてください」


「理由は?」


「また変更があったとき、その瞬間に確認したいからです」


セラフィエルが頷く。


「承知しました」


パネルはそのまま点灯し続ける。


旧警護部隊


55名


標準警護アクセス


右側へ切り替わる。


現行警護部隊


55名


戦術対応部隊追加


アクセスレベル:5


戦術経路:認証済み


行政経路管理:認証済み


その下で、小さなインジケーターがゆっくりと動いていた。


警備パターン監視:稼働中


まだ警報はない。


まだ攻撃もない。


まだ犯人と呼べる名前もない。


だが、カイラ・ドレイヴェンにとって、そのリストはすでに1つの仕事を始めるには十分だった。


誰かが公爵家の警備を単に強化しただけなのか――


それとも、本来なら扉の前に立つだけであるべき者に、あまりにも大きな鍵を渡したのか。


その答えは、まだ存在していない。


【第100話へ続く】


【次話予告――第100話「護衛が多すぎる」】


カイラは護衛名簿の変更が発見された後も、オーレリアの警護任務を続ける。


オーレリアは、自分が戻ってきたことで、以前と同じように護衛、予定、制限、許可に囲まれた生活へ戻りつつあることを感じ始める。


そして彼女は、帰還してから抱えていた気持ちについて紬と話すため、アストレオン・ヴェロリアを訪れる。


その一方で、カイラは自らの任務を継続し、今後の警備変更が確認なしに行われないよう監視を続けていた。


【第100話「護衛が多すぎる」へ続く】

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