ep:8
早朝。
南の国、朱雀帝国。
首都作戦本部内、一人の男が物思いにふけりながら歩く。
朱雀帝国、参謀フォルク・ス・イェーガーは極秘と書かれた書類をその手に携え歩く。
目的の部屋に到着し、再度身嗜みを整え扉を3回ノックする。
コン、コン、コン。
「…入れ。」
低く唸る様な声だ、フォルクは辺りに人がいない事を確認し静かに入室した。
「失礼致します。」
帝国作戦本部の最奥、積み上がる書類の中央に一人の男がタバコを蒸しながら書類に目を通していた。
「……准将か…悪いが後にしてくれんかね。今はちと虫の居所が悪い…。」
「急ぎ閣下のお耳に入れたい情報が。」
男は暫しフォルクを見つめ、人差し指でフォルクを近づけさせる。
フォルクは男に耳打ちで呟く。
「件の異世界人を連れ行商旅団が青龍王国を出ました。3日前の事です。」
男が訝しむ様に見つめていた書類はにわかに信じがたい報告書と北斎が描いたグリフィンの絵であった。
男は書類を机に絵はそっと引き出しに仕舞い、深く考え込む。
「…領内を通過するのは…。」
「例年通りであれば2週間以内には我が領域内を通過するかと。」
「策はあるか?」
「ゲブィッターの使用許可を戴ければ万全な形で遂行してみせます。」
男はニヤリと笑う。
「よし、早速取り掛かれ。」
「はっ。」
フォルクは男に帝国式敬礼をし、部屋を出た。
「絵が動き出す能力…にわかには信じられんが……これで我が帝国はより不滅の帝国に成り得る。…ククク。」
名を、帝国軍 総統 ブルータス・パトル。
青龍王国、国王ラルフ・パトルの実兄でオーレイの叔父。
一方、北斎達行商旅団は。
「なぁ〜ふれいまんよ!」
「なんでしょう?」
御者台からフレイマンが顔を覗かせる。
「これじゃあ、景色が見れん!俺ぁ荷物か!?」
北斎がいる馬車は分厚い布で覆われている。
「旦那ぁ。こりゃあ仕方の無い事なんです。今儂らが通るのは先日青龍王国と一戦交えちまった帝国を微かに通っちまうんです。」
「だから、どうした?」
「旦那は連中に顔が割れてる恐れがあるってんでラルフの旦那からもくれぐれもって言われちまったんでさぁ。ですから、仕方の無ぇ事なんでもう暫く。」
不貞腐れ、大の字に寝転がる北斎。
「この先の湿地帯地域を抜けると直ぐ港があります。そこからは船です。ですからもう暫くの辛抱ですよ。」
エレンはオーレイから託された槍を大事に抱えながら北斎に話かける。
西側諸国、白虎公国へと向かう為一行は港を目指し歩みを進める。
「それに、師匠!湿地帯には多くのリザードマンが住んでいるんですよ!」
「りざ?なんて?」
「リザードマンです!私も会った事は無いですが。温和な性格で人族にも友好的だそうです!」
「リザードマンか…描きがいがあるな!」
「ふふふ。元気になられましたね!師匠!」
「あぁ、ふれいまんよ!」
「へい?」
「急げ!リザードマンとやらが逃げてしまうぞ!」
「逃げやしませんって旦那」
「変われ!」
荷台から北斎が飛んで、フレイマンから手綱を強引に奪い取る。
「ちょっと旦那!」
「師匠!」
「いざ!リザードマンとやらがいる所へ!」
数分後。
行商旅団はリザードマンの村の手前、湿地帯のど真ん中で立ち往生していた。
「言わんこっちゃ無い!旦那が無茶な運転するから!荷台の車軸が壊れちまったでしょう!」
「面目ない……」
「頭ぁ、馬も数匹逃げにまったみてぇだ…」
「…こりゃあここいらで野宿か…。」
「……面目ない……。」
泥に塗れて、より一層深く落ち込む北斎。
「ゴメンなさい。フレイマンさん、私が付いていながら…。」
「エレンの嬢ちゃんが謝る事ぁねーよ。まぁ、幸い怪我人もいねーみたいだし。」
周囲を見渡すフレイマン。
「お〜い!ガイ!ギン!グェン!それにゲルド!ゴウ!」
「はっ!」
「へい!お頭!」
「なんだい?お頭?」
「…。」
「あ〜い!」
5人組の男女が北斎達3人の前に駆けつける。
「そう言えば紹介がまだだったな?北斎の旦那、あ〜こいつ等5人兄妹はうちの用心棒でさぁ!よし!1人ずつ旦那に自己紹介!俺ぁ、他のキャラバンの様子を見てくる!エレン嬢!一緒に来てくれ!」
「はい!」
エレンは北斎に一礼してフレイマンの後を追う。
キラリと爽やかな笑顔に白い歯と逞しい筋肉が映える男が名乗り出る。
「自分はガイって言います!一応こいつ等の中で歳が一番上なんで、まぁ長男っす!よろしく!」
「おう!よろしく!」
北斎もそれに答え、握手を交わす。
続けて、ガイと比べると線は細いがちゃんと鍛え上げられた身体つきの男が名乗る。
「俺はギン。よろしく。」
「うむ!よろしく!」
続けてギンにも握手を交わす。
続けて、均整のとれた体型で見る者を惹きつける美女が名乗り出る。
「あたいはグェン!よろしく北斎の旦那!」
「おぉ!これは描きがいのある別嬪!よろしく!」
「気をつけなよ旦那…グェンは剣術、槍術をオーレイ団長からめっきり仕込まれてるからな。」
ガイが北斎にそっと耳打ちする。
「あぁ、だろうな…。芯がしっかりしている身体付きだ。それに俺ぁ、別嬪を描くのは好きだがどうも食餌が動かん。もう血気盛んでもねーしな!」
ガイに向かって童の様に舌をだしておちょける北斎。
「へへっ!そいつぁ安心した!」
ガイも釣られて笑う。
そこに、マントで目以外を塞いでいる女性がヌッと北斎の目前に現れる。
「うお!びっくりした!」
驚く北斎に
「……ゲルド…。」
とだけ告げて去っていった。
「すまねぇな旦那、あれで良くやってる方なんだ。」
ガイが困った様に話す。
「あぁ、気にするな。うちの娘はあれより酷い」
「へぇ〜!旦那に娘がいるのかい!?」
「これに内弁慶ときたもんだから俺ぁ頭上がんね〜わけよ!」
「はははっ!一度会ってみたいもんだぜ!さて、次が最後、我らが末っ子のゴウだ!」
末っ子と聞き北斎は小さな童を想像したが、その想像は一瞬にして砕け散った。
「おで、ゴウ!よろじぐ!」
ガイが小さく見えるほどの巨躯、そんな体躯とは似合わない口調に戸惑いが隠せない北斎。
「こいつぁガキの頃は病弱で一番チビだったんだが…俺等があまりにも甲斐甲斐しく世話してたらこんなにでっかくなっちまってよ…。」
と染み染み語るガイと感慨深い表情のギンとグェン。
「いやいやいや!それでここまでデカくなるもんかね!?グリフィンと同じくらいじゃぞ?」
「とまぁ、俺等兄妹5人とエレン嬢という即戦力も加わった事だし。これからの旅、旦那も安心安全って訳だ!」
「キャラバンの連中は国や街でそれぞれ入れ替わったりもするから追々紹介していくわね。」
「各々の得意分野もあるのだがそれも追々でいいだろ?」
「おでの好物はハンブルグ!」
途中、変なのが混じったが北斎は4人に笑顔で告げる。
「あぁ、実に頼もしい奴等だ!何卒、よろしく頼む!」
かくして北斎一行はリザードマンの村目前の湿地帯のど真ん中で野営の陣地を敷き一夜を明ける事とした。




