ep:7
眩い陽射しが差し込み程なくして北斎は目を覚ます。
「ん…朝か。」
ムクリと起き上がりふぁ〜っと欠伸をすると。
「おはようございます。北斎様。」
視界の外れでマーリンが声をかける。
「うわ!びっくりした!何時からそこに居るのだ!?」
「昨夜から。」
「そ、そうか…。」
「…。」
「…。」
なんとも気まずい空気が部屋中に漂う。
「……今回は、起きるのが早かったですね?」
「ん?あぁ〜…そうなのか?」
「はい、貴方が倒れたのは夕べ、絵を披露してから数分後です。」
「…。」
「前回と今回、絵に消耗する体力の違いからなのでしょうか?何か心当たりは?」
「ん〜…。」
腕を組み頭を傾げる。
「…これは、飽くまで仮説ですが。」
(魂込めて描けばこいつらもそれに反応するんじゃねぇかな)
昨夜の北斎の言葉を思い出しながら語る。
「貴方は与えられた力を使えば使う程に命を削りいずれ死に至る…言わば呪いなのでは…。」
「…。」
頭をガシガシと掻き顔を撫でる。
ふと、違和感を覚える。
「ん〜?…皺が減っている…?」
「え?」
「写し身はあるか?」
「?」
「鏡だ!鏡!」
「あぁ…手鏡でよければ。」
鏡を向け顔周辺を念入りに覗き込む、すると。
「ん?黒髪が…あるな。皺も減っている…。」
その言葉にマーリンは戦慄する。
「では、やはり…」
バタン扉が開かれ大きな声が響く。
「おっはよーございます!師匠!朝食をお持ちしました〜!」
エレンが北斎の分の朝食を持ってきた。
「お早うございます。北斎殿。マーリンも看病お疲れ様です。」
マーリンにコーヒーを差し出す。
「頂きます。」
まとまらない思考と、眠気を流し込むように彼はコーヒーを飲み干した。
「朝から元気だな!えれん!」
「えっへへへ!あ!師匠!やっぱり黒髪が生えてる!」
「おう!似合うか?」
「そういえばお顔も以前より…。」
「あぁ、充分に休ますせてもらったからな!元気モリモリよ!」
「…。」
「…。」
北斎とマーリン、目配せで互いの心中を読む。
「それは、良かった!」
ホッと胸をなで下ろすオーレイ。
「では、今日には立たれるのですね?」
「ん?あぁ、そうだな!早速ふれいまんに伝えて来て貰えるか?」
「フレイマン殿の方はもう準備万端ですよ。」
「お早うございます。北斎様。良い朝ですな。」
オーレイの後方、フレイマンが顔を出す。
「後は稼ぎ頭…ゴホン!北斎様の荷造りで何時でも出立できまする。」
「此奴、もう売り捌く段取りを企みよるわい。」
「それが商人で御座いますからな。」
フフフフと不気味な笑みを浮かべる2人を3人は冷ややかな目で見ている。
「荷造りだったか…俺はもうできているぞ!」
「え?」
「ん?」
「師匠何も持っていかないんですか?」
「俺の身と、筆と紙それ以外に何がいる?」
「医務室に今だ散乱している大量の写本はどうするので?」
「あぁ~…捨て置いて構わんぞ!奴の事はもう身体が覚えたからな!」
「なんと勿体ない!あれこそ金の成る木!ならば儂が掻き集めて参ります!」
中肉中背の壮年とは思えぬ速さで部屋を出るフレイマン。
「やれやれ、江戸でもああいう奴は居なかったぞ。」
呆れ顔だが、彼を信頼している表情だ。
王都、外門前。
「それでは、ラルフの旦那、オーレイ団長、マーリン様。此度も良い商売をさせてもらいました。」
深々と頭を下げるフレイマン。
「ふむ、道中気をつけてな。」
ラルフも小さく挨拶を交わす。
「北斎殿!くれぐれも無茶はしてくれるなよ?」
「カカッ!そいつぁどうかな?」
「オーレイ団長行ってきます!」
「エレン…貴女も気をつけて。」
込み上げる涙が溢れ一筋の涙が頬を伝う。
「北斎様。」
マーリンが北斎へ歩み寄り、そっと紙を渡す。
「なんだ?」
「…何、ただのおまじないですよ。道中、北斎様御一行の安全を祈願した物です。どうかお気をつけて。」
紙を見ると不可思議な紋様と文字らしきものが刻まれた御守だった。
「かたじけない。」
ニッと笑いマーリンもニヒルにそれを返す。
「それでは…出発!」
バシンと手綱を叩き行商旅団の馬車がゆっくりと前へと進む。
かくして葛飾北斎の異世界旅が今動き出す。




