ep:4
青龍王国、セントリー市場
「おぉ!」
通りを埋め尽くす程の人集それは、何時の日か見たかつての江戸での賑わいに思わず笑みがこぼれる。
「江戸の祭りでもここまでの人集りは無かったな!」
「年に一度開催されるマーケットですからね!」
普段のセントリー市場は毎週末に市が行われているが、年に一度行商旅団が各地を周り戻ってくるこの日は王国周辺の町の人々も来城して賑わう。
王国では祭りの1つだと得意気に話すエレンを置き去りに、「お〜いえれん!早う!」
何時この群衆をを抜けたのか北斎は人混みの先で手招きをしている。
威勢良く商売している店は様々、
見たことも無い果物に、色とりどりの調味料。
多種多様な鎧兜や豪華な装飾が施された武器の類。
怪しい煙が立ち込める店や箒に杖。
その先に。
「あった!」
お目当ての筆屋を前に感極まり小躍りしそうな程北斎は身震いしている。
「いらっしゃい!お客さん、うちはいい筆を取り揃えているよ!」
気前良く話しかける筆屋の主人。
一本手に持つ柄が長く筆先は短く墨をつけても軽く、筆が走る。
「良い。」
もう一本手に取り
「試してもよいか?」
「もちろん!」
今度のは柄は短いが筆先が雫の形をしており墨をもったり持ち上げるような感触、線は力強い印象を与える。
思わず笑みが出る。
「気に入ってくれたかい?そりゃあ、うちのはどれも逸品物だ!」
「あぁ…全部くれ!」
「全部って…お客さん金は持ってんのかい?」
「はぁ〜…やっと追いついた…師匠、ちっとも待ってくれないんだもん。」
ようやく北斎にたどり着いたエレンの頭を鷲掴み
「この嬢ちゃんが大金を持っておる!」
その言葉にギョッとするエレン。
「だ、ダメですよ!このお金は…」
「エレン…私は暫く王国を留守にします。」
前日、騎士団団長執務室。
「なにかあったのですか?」
連日北斎からの要求でエレンの顔は10歳は老け込んだかのように疲労が刻まれており、部屋に入るとその場でへたり込んでしまった。
「グリフィンの足跡が南の国で消えた。それに、帝国軍の動きが何やら怪しい。」
マーリンに連れられソファ席に深く座るエレン。
「でも、なんで団長自ら?」
「お恥ずかしい話、私が扱う魔法と帝国軍の装備では相性が悪すぎまして。」
「私一人の方が小回りが利いて動きやすい。それに、断言できない事だが騎士団の中に内通者がいるという噂もある。帝国軍の大半、元は王国からの脱走者で作られた軍という事はエレンも知っているでしょう?」
「えぇ…。でも条約があって国同士の争いは御法度じゃあ…。」
「その条約を武器に宣戦布告をするという事も戦術としてなりたつのよ。」
「…。」
言いしれない不安がエレンの顔を曇らせる。
「今夜にも私は王国を出る私が不在中、マーリンには団長代理を務めてもらう。」
「お任せを。」
落ち込むエレンの前にオーレイは膝をつき。
「貴女に北斎さんを押し付けてしまって申し訳ないわね、明日のマーケット是非貴女にも楽しんで欲しいの。これは僅かばかりですが私からの気持ちです。受け取って下さい。」
僅かばかりとは裏腹なギチギチに詰まった小さな革袋を手渡す。
少しエレンの顔に明るさが戻ってオーレイも安堵する。
「このお金は団長が私にって!」
涙目に訴えるエレン。
気まずさから空を見上げ
「あ!」と閃く北斎
「こういうのはどうじゃ?俺の名を使ってくれ!商売繁盛のご利益があるに違いないぞ!?」
「葛飾北斎」と書いた紙を自慢げに店主に渡す。
ワナワナと震える店主。
「おぉ!嬉しさに震えとるわ!」
ビリッ!と豪快に紙を破りでてくるは真っ赤な顔の店主
「こんな読めもしねぇ字で何が商売繁盛だ!詐欺でももうちょっとマシな商品売りつけるぞ!?冷やかしもいいとこだ!2度と面ぁ見せんな帰れ!」
「はぁ…。」
深く落ち込む北斎。
「まぁまぁ、また来年もありますから。」
宥めるエレン。
目の前の夕日にオレンジに照らされた街並みと父娘、行き交う人々。
なんとも絵になる光景だが、相当参ってしまったのかそんな気もおきない。
珍しい事もあるのだなとちょっぴり面白がっているエレンをまたもや頭を鷲掴みふと物陰からの視線に気付く北斎。
(監視か…あの身なり…成程、まーりんとやらの手下じゃな?それになんじゃ、地鳴り?)
「オーレイ団長は不在中につき、私が団長代理となります。」
騎士団団長執務室にてマーリンが応接する相手は、
恰幅の良い体格に金の装飾品を散りばめた如何にもな身なりの壮年。名を行商旅団|頭取フレイマンという。
「いやはや、そうでしたか。」
と笑いお茶を啜り
「良い茶葉ですな。西の国由来の茶葉か…それに北の国にも同じ造りの茶器がございましてな。」
「こちらは事前に支払は済んでいると思いますが…まさか商談をしにわざわざ来られた訳ではないでしょう?」
持ちかけるマーリンに対し、
「マーリン様、交渉とはここぞというタイミングがございます。」
眉をひそめるマーリン
「ご心配無く、ちゃんと戴いた金の分の情報はお渡ししますよ。」二口でお茶を飲み干し、続ける。
「帝国軍は妙なものを作っておりましてな、鉄の箱に人が入りあまつそれが自動で動かすんだそうです。」
「そんな物を作って何になるというのだ?」
「…。」
察しがついたマーリンはフレイマンに金を渡す。
「その鉄の箱、大筒が箱の先端に取り付けられておりまして。」
ドォォン!
けたたましい轟音が城の内部まで届いた。
「何事か!?」
「申し上げます!帝国軍が攻撃を仕掛けてきました!」
執務室へ慌ただしく入ってくる騎士団。
「いやはや、こんなに早く来るとは…。」
「貴様ッ!」
「お待ち下さいマーリン様、先ずは民の命が最優先でございましょう。」
杖を突きつけ魔法唱えるのを制止するフレイマンに焦りは無い。
「くそ!第1、第2騎士団は速やかに民と行商旅団を安全な城内へ!第3、第4、そして魔法特務隊帝国軍を食い止めるぞ!」
「はっ!」
「頭。」
「…。我々も手を貸そう、このまま帝国軍に売られたと縛り首にあっちゃあ商売あがったりだ。」
「へい、おい!」
数人の屈強な男どもがマーリンと共に執務室をでる。
「王国は我々にとって大事な取引先だそれと、マーリン様。」
「帝国軍の装備や動く鉄の箱は水が弱点だ。」
にやりと笑いながら先程の金を見せる。
「マーリン様」
問い詰める騎士団にマーリンは
「フレイマン様に護衛を、彼を死なせるな!」
「はっ!」
「お代は確かに受け取りました。マーリン様ご武運を。」
押し寄せる人の波に立ち止まり城外のあちこちに黒煙が立ち昇る。
地面は小刻みに揺れ、人々の悲鳴がこだまするかのように響く。
「火事では無さそうだの…」
「に、逃げたほうがいいのでは師匠?」
怯えるエレンの頭を撫でて落ち着かせる。
ふと顔を上げると無人の筆屋が目の前に、
「店主は逃げたか…」
ニヤリと笑う北斎を見て嫌な予感しかないと青ざめるエレン。




