ep:2
「おい!」
遠くから声が聞こえてくる。
「おい!起きろ!」
荒々しい声が段々と近づいてくる。
「親父!まったく、いつまで寝てんだ!」
薄目を開ける、仁王立ちで北斎を見下ろしながら呼びかける女性の姿。
「まったく!今日引っ越しの日取りなんだろ!?いつまでも寝てっと荷物と一緒にほっぽっちまうよ!」
葛飾応為、北斎の娘である。
「あぁ?あ〜…そうだったか?」
「ん〜…」
と伸びながら起き上がろうと身体を動かそうとするが身体中に痛みがはしる。
「あ痛たたた…!」と
もがくが北斎に目もくれない応為、続けて。
「おおかた転んだり壁や柱ににぶつかりながら帰って来たんだろうさ、血だらけで帰って来たと思ったら大いびきかいて寝てんだから世話ないよ!まったく。」
「何してんでぃ?」
ふぁ〜っと欠伸をし、身体をさすりながら問う。
「鶏さ!引っ越し先に持って行くんだ!」
今朝産みたての卵と鳥籠に入れられた鶏を掲げる。
「馬鹿野郎ッ!んなもん荷物になっちまう!さっさと締めるか隣に売っぱらちめぇ!」
と声を荒げる北斎に
「何言ってんだい!うちが大事に育てて食い扶持繋げてきてくれた子だよ!そんな事できっこない!」
と返す応為の声で籠の中の鶏が驚きバタバタと羽音をたてながら鳴く。
が、明らかにそれは鶏の鳴き声では無かった。
はっと目が覚める北斎。
(そうだ俺ぁ、獣に落とされて…。)
辺りを見回すがそこは見慣れぬ場所。
「ここは…何処だ?」
さっきまでいた森の何処かなのかは、みる風景から察する事ができたがそれにしても。
「臭ぇ」
酷い匂いだ、立ち込める血の匂いと布団らしき布から漂う獣臭。思わず払い除けると、やはり身体に痛みがはしる。
「痛てて…」
ゆっくりと身体を起こし、掛け布団を捨てると目線がいつもより高い事に気付く。
それに身体がビクッと反応すると共に痛みがはしる。
「あ痛たたた。」
ゆっくり深呼吸をして身体の痛みを和らげる。
思わず声を荒げてしまったのだろう誰かが近づく音がしてくる。
「おぉ、御老体!気が付かれましたか!?」
西洋の顔立ちに見慣れぬ鎧姿の女性騎士が現れる
「ん?あんた、誰だい?」
痛みにうずくまりながらの北斎の問いに
「私はオーレイ、オーレイ·パトル。青龍王国騎士団長を務めさせて貰っている」鎧の左側ちょうど心臓がある位置に家紋の様な紋様があり騎士団長はそこに右手を添え、頭を下げた。
「我が王国領内にてグリフィン侵入との報せを受け出陣したが御老体を人質に取っているとは思わず我が槍を投擲してしまい御老体に大怪我を…命があるとは言え…申し訳ない。」
再度頭を下げるオーレイ。
(あんなでけぇ槍を嬢ちゃんが…。)
一瞬の事だか北斎の観察眼がその槍を名槍である事それを扱うオーレイの並外れた筋力、煌びやかな鎧に目が行きがちだか、常人離れな体格に思わず唾を飲み込む。
「怪我の具合が良くなるまで、我が騎士団が使用している医務室でどうか傷の手当てを。これは私の独断ではあるが、私が出来得る償いと受け取ってくれまいか?」凛々しく顔立ちから申し訳無さがでたのであろう、少し困った様な表情で微笑みかけるオーレイ。
「いやいや礼を言わにゃならんのはこっちだ!命を救ってもらった。」北斎は軋む身体でゆっくりと座を正し頭を下げた。
「かたじけない。」
「頭を上げてくれ!御老体!」
怒鳴られるのを覚悟で来ていたのであろう、オーレイは北斎の土下座に面食らい慌てる。
「そもそも、こちらの確認不足が招いた結果だこちらに非がある…だから、当分はこちらの医務室で療養なされよ。」
菩薩様の様な柔らかい顔だオーレイ自身も北斎がの回復力に安心したのであろう。
「ところで…」さて、筋は通した。本題は、
「ぐりふぃん?とか言ったかあの獣は?」北斎の笑みに少しの寒気を感じる。
そう、その名が出るまで忘れていたのだがあの獣を描きたくて堪らない執着にも似た欲が今までの痛みを消す。
「あぁ、あのグリフィンなのだが…。」オーレイは渋った後に続ける
「実は逃げてしまって今辺りを捜索中なのだ。」
「何!?あれだけの深手を負ってなお逃げる胆力、獣ながらあっぱれじゃ!」北斎の笑みにオーレイは息を呑む。
目の前の老人から立ち込める何か…魔力では無い。
圧倒されるほどのその何かに医務室の窓や飾られている装飾品がカタカタと音を立てる。
(この御老体は一体?)
冷や汗がオーレイの頬を伝う。
当の北斎はそんな事露ほどにも気にせず、
「カカッ」
と不気味な笑みを浮かべる。




