ep:11
翌朝、一行はリザードマンの村に到着した。
「やっぱり話に聞いてた通り、オスが見当たらねーな。」
と漏らすガイにグェンが釘を差す。
「しっ!声が大きいよ!ガイ兄!」
「先にダミエルさんが事情を説明してくれているとは言え連中もきっと私等の事を警戒している。下手な言動は良しとくれ!」
「すまねぇ…。」
表情が曇るガイを余所に北斎の開口一番が響く。
「いやはや!本当にオスがおらんな!まぁ!オスの姿形を見た事無いがな!」
すかさずエレンが北斎の頭を叩くきシーッとまるで子どもを躾る親子の様なやりとりがガイとグェンの後方で繰り広げられている。
そのやり取りにガイが見てみろよと何故か得意気な表情でグェンの頭が痛くなる。
「…ともかく。あたいとギンちゃん、それにゲルドは情報収集を、ガイ兄とゴウは必要な物資を買い各々支度していきましょう。」
「だな、村へは日没後に立てば夜中には港街に着く。そこでもなるべく情報は集めておく。常に念話の範囲を広げておくからそっちもなにかあったら直ぐ知らせてくれ。」
「あいよ。」
その様子を遠くから監視している連中がいた。
「随分のんびりした到着じゃないか。」
朱雀帝国准将フォルク・ス・イェーガー。
「あれが件の異世界人…。普通の爺じゃないか。報告書によるともっと高齢かとも思ったが。」
北斎に目を向けて監視していると、北斎と目が合い咄嗟に視線を逸らす。
(……気のせいか?目があった気がしたが…。)
フォルクと北斎、互いに視線が合うのを同時に気付くがフォルクは不信に北斎は確信であった。
「師匠?」
北斎の不敵な笑みについ、槍を握る手に力が入る。
「案ずるな、まだ、戦は始まらんよ。奴さんも此方の様子を伺っているだけさ。」
「なんだ、もう場所が割れたのかい?」
二人のやり取りを見ていたフレイマンが割って入る。
「あぁ、だが…人の眼だな、これは。居るのは間違いない。」
「旦那の顔はやはり連中にバレていると踏んで間違いなさそうだな。」
「その為の陽動でもあるのだろう?」
「流石旦那…話が早い。」
時は少し遡り、昨晩の事。
「よし、ザッと考えが纏った。皆んな聞いてくれて!」
各自のテントで休息中の皆にガイから念話が送られてきた。
「先ず、村に着くキャラバンの数が十台。
日没後九台のキャラバンが港街に向けて出発先頭は俺、最後尾にはゴウを配置。
一台はわざと村に置いていき敵の目が村を出たキャラバンの数が足りないと判断するとして二手に分断させる。
ギンとゲルドは森での情報収集及び敵の監視を掻い潜り日没後村で合流。
エレン嬢は暫しグェンと行動を共にして敵の目を欺いて欲しい。」
「と、ざっくりにはなるがだいたいこんなもんだ。後、村に到着した後、敵がどう出てくるか迄は解らねぇから各自のアドリブにはなるが…ま!俺達、兄妹と頼もしいエレン嬢が付いてるなんとかなるだろ!」
「最後、お頭…何かあるかい?」
「うむ……何度も言って来ているが何も武功欲しさに始めた行商旅団じゃ無え!出来るだけ戦闘は最小限に、命、大事に!だ!以上!」
「了解!」
「了解。」
「わかっているわ、お頭!」
「お頭、わかった。」
「あい!おかしら!」
「便利な術だな〜。」
北斎が呟く。
「映像付きの念話でのやり取り…とてもわかりやすかったですね!師匠!」
彼女にとっても始めてで本格的な作戦会議だったのであろう口調からもかなり興奮しているのが見て取れる。
「一応、ダミエルさんにも俺達の念話が聞けるアイテムを渡しておきます。わかっちゃいると思うが敵にも味方のリザードマン達にも悟られないでくれ。」
ガイからマジックアイテムを手渡されるダミエル。
「心しておくわ。」
「あんま気負わなくてもいいぜ?いつも通りで頼む。」
「ありがとう。」
ガイの爽やかな笑顔でダミエルの緊張が解れた。
時は戻り、正午。
リザードマン村。
ダミエルが住む居住地。
ダミエルと、エレン、そして北斎に変装したグェンとフレイマンが帝国軍の出方を探る。
村中心地でガイとゴウが普段通り物資の購入に勤しむ。
一方、ギンとゲルドは隠密に森から村へと向かう。
北斎は一人、村から東の森の側でひっそりと息を殺す。
「はてさて…鬼が出るか蛇が出るか…はたまたその両方か。」
そして森の奥深くでグリフィンがゆっくりと身体を起こす。
日没後。
ゲルドがダミエルの居住地へと合流した。
「お帰り、ゲルド。ギンちゃんは?」
「北斎と一緒にいる。」
「グリフィンが居るという森での情報は?」
「動物が居なすぎて相変わらず…でも…。」
「ん?」
「皆が村に着いてからだと思うけど異様なまでに殺気が濃い。」
「それでギンは北斎と一緒に居る。」
「実はね…リザードマン達も異様な殺気に気がついて昼過ぎには皆んな閉じこもってしまったんだ…あたい達も寒気が止まらない。」
腕を擦りながら平静を保つグェン。
「よし!物資は必要な分買ったし、ギンとゲルドとも合流できた。俺とゴウは先に出てお頭達を待つとするよ!」
「あぁ。ガイ…くれぐれも気をつけてな。」
「らしくねぇぜお頭!いつも通り、背中を叩いて送り出してくれや!」
ニッと笑い、背中を指差すガイに
「気を使わせた、すまんな。行ってこい!馬鹿息子!」
バシンと大きな音が部屋中に響く。
「痛った〜!あぁ、行ってくるぜ!親父!」
そして、ガイを先頭に行商旅団がリザードマンの村を出発する。
音を聞きギンとゲルドが交代でダミエルの居住地へ訪れる。
「いよいよだな。」
「ギンちゃん…向こうはどう?」
ニッと笑う顔に一筋の冷や汗を流す。
「旦那から一切眼を逸らさねえ、お陰で奴の眼に干渉できたがよ。旦那も旦那だ…眼を逸らさずずっと薄ら笑いを浮かべていたよ…んで?あちらさんは?」
「ゲルドが言うには、鹿や猪が以前より減っているみたいだ。これで隊のだいたいの数が割れるな。恐らく1個団体かそれより少ない数で動いているのであろう。聞こえる声から人族のものだそうだリザードマンの若者達は恐らく帝国本土だろうな。さしずめ労働力として各地から掻き集めて来ているのであろう。以前監視は続いているそうだ、ここに居るグェンを旦那と信じ切っているって証だ。」
「何よりエレン嬢が側に居るのがデカいな。」
エレンは槍を磨き、静かにその時を待つ。
反射して映し出される顔は一人の騎士の顔であった。
リザードマン村、東側の森。
北斎サイド。
「北斎…ご飯持ってきた…置いていくね。」
「ん?おぉ!すまんな!ありがとう。さてさて、どちらが先にしびれを切らすかな?」
パンをカジリながら、作業を開始する北斎。
リザードマン村の北側の森。
帝国サイド。
「准将!」
「あぁ、見えている奴らめ動き出したな。」
「しかし、准将。村を出たキャラバンの数が…123456…九台!一台足りません!」
「ふん!所詮、陽動であろう。件の異世界人は乗っていない…いや…今、チラリと見えた…あれは、本物か?」
微かに揺れる布の切れ間からチラリと北斎が見えた。
「どうします?追いますか?」
(動き出す時間、そして数を減らしての出発…陽動である事は明らか…しかし、本人という説も捨てきれない…。)
「准将?」
答えを急かされついにしびれを切らす。
「えぇい!三名を直ぐに招集し奴らを追え!残りの者は私と共に村へ!ゲブィッターを可動準備!何時でも出れるようにしておけ!早くしろ!」
「は、はい!」
「いいか!歯向かう者は殺しても構わん!だが、異世界人だけは絶対に殺すな!」
リザードマン村。
フレイマンサイド。
「お。奴さん達動き出したぜ!」
ギンもまた、帝国サイドの兵の目で奴等を見ていた。
「あらら、奴さん達相当慌ててるな。旦那が用意した絵に食い付いて三人、ガイ兄のケツ追っかけてらぁ。」
その言葉を聞いてグェンから皆に念話が送られる。
「奴さん動いたよ。皆、準備はいい?」
「何時でも来やがれってんだ!」
「うん。」
「はい!」
北斎一行、戦闘開始!




