表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

第1-4話:【朗報】元追放令嬢の王妃、効率化が極まりすぎて国家予算を秒で片付ける。――なお、隣国からは不穏な気配がする模様。

 カシム王子が国境の天幕から逃げ出すように去ってから、わずか三日後。


 商業大国ガザリアの命運は、私の計算通り――いえ、予測よりも少しだけ早く尽きることとなった。


 魔導通信の画面越しに飛び込んできたのは、かつての煌びやかな面影を失い、闇に包まれたガザリアの王都だった。


 制御を失った魔力は、都市の基幹インフラであった「模造・浄化塔(フェイク・クリーナー)」を内側から食い破り、今や街全体に不気味な紫色の霧を振りまいている。


 人々は咳き込み、魔法機具は次々と沈黙し、経済活動は完全に停止した。

 前世で言うところの「全系統ダウン」。それも、バックアップすら存在しない絶望的なシステム障害だ。


「……エリザベス、ガザリアの国王から緊急の親書が届いた。カシム王子を廃嫡し、全権を君に委ねる。だからどうか、国を救ってほしい、と」


 カイザーが差し出した書状は、震える手で書かれたのが分かるほど乱れていた。


 かつて我が国を「小国の女の小細工」と侮っていた大国のプライドは、自らが招いた自滅の火に焼かれ、塵となって消えたらしい。


「全権を、ですか。随分と高くつきましたわね、カシム殿下の授業料は」


 私はゆっくりと立ち上がり、王妃の正装を整えた。


「カイザー、準備はいいかしら? これは救済であると同時に、私たちの生活改善魔法(ライフ・ハック)が、この大陸の絶対的な『標準』であることを証明する儀式になりますわ」


「ああ。君の描く未来のためなら、どこへでも供をしよう」


 私たちは、アウグスト王国が誇る最新鋭の魔導飛行艦に乗り込み、国境を越えた。


 眼下に広がるガザリアの惨状は、見るに堪えないものだった。

 だが、私には分かっている。


 これは単なる崩壊ではない。

 古い、非効率なシステムを更地に戻し、新しい、合理的な世界を築くための「スクラップ・アンド・ビルド」に過ぎないのだ。


     *


 ガザリアの王宮広場に降り立った私たちを待っていたのは、泥にまみれ、膝を突くカシム王子の姿だった。


 かつての傲慢な宝石飾りは剥ぎ取られ、その瞳には恐怖と絶望だけが張り付いている。


「お、お願いだ……助けてくれ……! 私が悪かった! 術式を盗んだことも、書き換えたことも、すべて認める! だから、この霧を止めてくれ……!」


 カシムの背後には、彼を軽蔑の目で見つめるガザリアの国民たちがいた。

 彼らが求めているのは、もはや無能な王子ではない。


 自分たちの命を救い、日常を取り戻してくれる「本物の力」だ。


 私は彼を一瞥することすらなく、広場の中央にそびえ立つ、暴走した浄化塔へと歩み寄った。

 塔からは、毒々しい魔力が火花のように散っている。


「皆様、よくご覧なさい。魔法とは、権威を示すための飾りではありません。人々の命を守り、生活を豊かにするための『道具』です」


 私は手に持った「原典魔石(マスター・コア)」を天に掲げた。

 これこそが、私が下町で便利屋を営んでいた頃から磨き続けてきた、生活魔法の極致。


「|全域最適化・強制上書き《オーバーライト・システム・オール》――起動」


 私の指先から、純白の光が放たれた。

 それは波紋のように広がり、ガザリアの街を覆っていた紫色の霧を次々と飲み込んでいく。


 暴走していた術式が、私の提供する「正しいコード」によって整列され、正常な循環を取り戻していく。


 一分、二分。

 街に静寂が訪れた後、奇跡は起きた。


 カチリ、と。

 まるで巨大な歯車が噛み合ったような音が響き、街中の魔導灯が一斉に点灯した。

 止まっていた水路に澄んだ水が流れ込み、人々の咳が止まる。


「……消えた。汚染が、消えていく……!」


 誰かが叫んだ。

 それは瞬く間に歓喜の渦となり、広場を埋め尽くした。


 人々は抱き合い、そして、光の中心に立つ私に向かって、自然と跪いた。


「革新の聖女様……! エリザベス様万歳!」


 その声を聞きながら、私は地面に倒れ伏したままのカシム王子を見下ろした。


「カシム殿下。貴方の罪は、この国の法と、国際魔導連盟によって裁かれることになります。貴方が守ろうとしたプライドも、利権も、もはやこの地には存在しません」


 私は冷徹に、そして静かに告げた。


「今日から、この国のインフラはすべて、我が国の『生活改善ギルド』の管理下に置かれます。貴方は、自分たちが軽んじた『地味な魔法』に生かされる、最初の市民となるのです」


「……ぁ、ああ……」


 カシムは無様に泣き崩れた。


 彼を連行していく兵士たちの手にも、すでに我が国から提供された最新の「拘束魔法手錠(セーフティ・バインド)」が握られていた。


 こうして、ガザリアの反乱と自滅は幕を閉じた。

 いや、これは新しい時代の幕開けだ。


     *


 数ヶ月後。

 アウグスト王国の王宮。


 私は執務室で、大陸全土に広がる「生活改善ネットワーク」の稼働状況を確認していた。


 ガザリアは現在、我が国の事実上の保護国として、徹底的な「インフラ改革」が行われている。

 私の設計した高効率なシステムが、大陸の隅々にまで浸透しつつあった。


「エリザベス、また一つ隣国から視察の要請が来たよ。君の標準規格エリザベス・スタンダードを導入したいそうだ」


 カイザーが温かい紅茶を運んできてくれた。

 彼の指には、私とお揃いの、効率化された通信機能を持つ指輪が光っている。


「ふふ、嬉しい悲鳴ですわね。でも、これからは『救済』ではなく『共栄』のフェーズに入ります」


「ただ技術を与えるだけでなく、現地の魔導師たちが自ら改善を続けられるような、教育システムも構築しなくては」


「君は本当に、止まるところを知らないな」


 カイザーは私の後ろに回り、その肩を優しく揉みほぐした。


「かつて君を追放したレオナールやセシリアが、今のこの景色を見たら、一体どんな顔をするだろうね」


「……彼ら? もう、その名前を思い出すことも少なくなりましたわ」


 私は窓の外を見つめた。

 そこには、魔法の光に彩られた、かつてないほど美しく、効率的な王都の夜景が広がっている。


 かつての婚約破棄も、追放も。

 今思えば、私をこの場所へ導くための、壮大な「初期設定」に過ぎなかったのかもしれない。


「私は、今がとても幸せです。カイザー、貴方がいて、私の知識が誰かの役に立ち、そして世界が少しずつ、正しく書き換えられていく」


 私は彼の手に、自分の手を重ねた。


「さあ、明日のスケジュールを確認しましょうか。私たちの革命は、まだまだ終わりそうにありませんもの」


「ああ。君の隣で、永遠にその革命を見届けよう」


 夜の静寂の中に、二人の穏やかな笑い声が響く。


 かつて「無能」と呼ばれた少女は、今や世界の中心で、光り輝く未来の設計図を描き続けている。

 地味だが確かな魔法と、前世で培った揺るぎない知恵を武器に。


 彼女の歩む道の先には、常に、効率的で、穏やかな、愛に満ちた世界が広がっていた。

第1話「ガザリア編」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。 ログ一つで隣国の王子を論破するシーンは、エリザベスならではの「現代知識」の真骨頂です。 次回、ガザリアを吸収したエリザベスによる、大陸規模の標準規格化エリザベス・スタンダードが始まります。 引き続き、ブックマークや評価での応援をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ