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悪役令嬢、王子に婚約を申し込まれました  作者: 夜凪 蒼


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3/12

第3話「何年も言わずにいた」

翌日、アルヴィン殿下から呼び出された。


 執務室ではなく、王宮の端にある小さな談話室だった。古いインクと革装丁の匂いがする部屋。


 「座れ」


 「はい」


 殿下は窓の外を見ていた。しばらく、どちらも何も言わなかった。


 「先日の質問の、答えを言う」


 「……聞きます」


 「今回の婚約の打診は」アルヴィン殿下が低い声で言った。「俺の意思ではない」


 「そうですか」


 「ただ」


 「ただ?」


 「俺が断れば、話は終わる。でも、断っていない」


 私は黙った。


 「なぜ断らなかったのか、自分でも整理できていなかった。だから先日、答えられなかった」


 「今は、整理できましたか」


 殿下が少し間を置いた。


 「……少しだけ」


 「聞いてもいいですか」


 「聞いてみろ」


 「殿下は、私のことを……」


 「好きかどうか、という話か」


 「はい」


 アルヴィン殿下が、初めてこちらを向いた。


 切れ長の灰色の瞳。涼しい顔。でも今日は、その奥に何か重いものがあった。


 「……正直に言う」


 「はい」


 「気になっていた。随分前から」


 (やっぱり)


 「ただ」殿下が続けた。「クロードがいる。そしてお前は、クロードを選んだ。それは知っていた」


 「知っていて、婚約を断らなかった」


 「……お前に、会って話したかった。それだけかもしれない」


 (王子に告白されるルート、前世のゲームにDLCとしてもなかったんだけど)


 (いや、告白じゃないって本人は言ってるけど)


 「殿下」


 「何だ」


 「それは、とても正直な告白です」


 「告白ではない」


 「でも、本音ですよね」


 殿下が少し目を逸らした。


 「……そうかもしれない」


 私は少し考えた。


 「殿下に一つだけ言っていいですか」


 「言え」


 「殿下が正直に話してくれて、よかったです。ずっと、何かを抱えているように見えていたから」


 「……そうか」


 「一人で抱える人の気持ちは、少し分かります。私も、そうだったから」


 殿下が黙った。


 「殿下はどうしたいですか。本当に」


 長い沈黙。


 「……お前に幸せでいてほしい」


 「それだけですか」


 「それが、正直なところだ」


 私はしばらく黙った。


 「殿下」


 「何だ」


 「ありがとうございます」


 「礼はいらない」


 「でも言いたい。正直に話してくれて、ありがとうございます」


 殿下がため息をついた。


 「……お前は、昔からそういうことを言う」


 「昔から?」


 「王家に来た最初の日から。礼を言うべきでない場面で礼を言う」


 「それは失礼でしたか」


 「いや」殿下が小さく笑った。「悪くなかった」


 (笑った)


 (今日の笑顔は、少し寂しかった)


 談話室を出ると、廊下の空気が冷たく頬に触れた。




    ◇


 ──アルディア・フォン・クレシェントの日記より。


 『アルヴィン殿下が「気になっていた」と言った。「お前に幸せでいてほしい」と言った。この人は、何年もそれを言わずにいた。一人で抱えていた。私と、少し似ている。どうすれば、この人も幸せになれるのだろう』




次話:「クロードとアルヴィン、直接話す」

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