第4話「お前が決めることだ」
クロードとアルヴィン殿下が直接話したのは、私がいないところだったらしい。
後から二人に別々に聞いて、初めて知った。
(クロード視点・後から聞いた話)
クロードが殿下に会いに行ったのは、私がアルヴィン殿下と話した翌日だった。
「アルヴィン、少し時間をくれ」
「……来るとは思っていた」
二人で王宮の庭を歩いたらしい。薔薇が咲き始めの頃で、甘い香りが漂っていたという。
「アルディアのことだ」
「知っている」
「お前は、あいつのことを……」
「好きかどうかを聞くのか」
「そうだ」
殿下が少し間を置いた。
「昔から、気になっていた。それは認める」
クロードが黙った。
「だが」殿下が続けた。「お前がいる。それも、以前から知っていた」
「知っていて、婚約を断らなかった」
「……お前が怒るのは当然だ」
「怒っていない」
「え?」
「怒る気になれない。お前がアルディアのことを大事に思っているのは、俺には分かるから」
殿下が黙った。
「ただ」クロードが言った。「俺は諦めない。アルディアが自分で答えを出すまで、俺はそばにいる」
「それでいい」
「アルヴィン」
「何だ」
「お前はどうする」
殿下が少し考えた。
「……アルディアに聞いた。どうしたいかと。あの人は、自分で決める人だ。俺が何かをするより、答えを待つ」
「同じだな」
「そうかもしれない」
二人はしばらく黙って歩いたらしい。
「クロード」
「ああ」
「あの人を、頼む」
「……それはどういう意味だ」
「どんな答えが出ても、そばにいてやってくれ、ということだ」
クロードが少し黙った。
「お前は、諦めているのか」
「諦める前に、アルディアが決める。それだけだ」
「……分かった」
後からクロードにこの話を聞いたとき、私はしばらく黙った。
「二人で、そんな話をしていたのか」
「した」
「何で私には言わなかったの」
「お前が決めることだから。俺たちが話し合っても意味がない」
「……でも、話したんでしょう」
「どんな答えが出ても対応できるように、確認しただけだ」
私は少し考えた。
「クロード、アルヴィン殿下のことを、どう思ってる」
「親友だ」
「それだけ?」
「……複雑ではある。でも、親友だ」
(この人たちは、変な関係だ。恋のライバルで親友って、乙女ゲームでもなかなかないルートだよ?)
(でも、お互いを大事にしているのが伝わる)
「私が決めないといけないのね」
「ああ」
「逃げたい」
「逃げなくていい」
「逃げなくてもいい?」
「ゆっくり決めろ。俺はここにいる」
クロードの声の低さが、胸の奥にじんわり沁みた。
(いつもそう言う)
(いつも本当にそうする)
◇
──アルディア・フォン・クレシェントの日記より。
『クロードとアルヴィン殿下が私のいないところで話していた。二人とも「アルディアが決める」と言っていた。逃げ場がない。でも、二人がいてくれるなら、決められる気がする』
次話:「リリアが動く」




