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悪役令嬢、王子に婚約を申し込まれました  作者: 夜凪 蒼


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2/12

第2話「話すと決めるは、別」

三日間、クロードに言えなかった。


 隣を歩き、手を繋ぎ、図書室で隣に座った。


 全部、いつも通りだった。


 でも私の頭の中は、ずっとぐるぐるしている。


 (言ったら、クロードが動く)


 (動いてほしくない。これは私が決めることだから)


 (でも、隠し続けるのは嫌だ)


 「アルディア」


 帰り道、クロードが言った。


 「ああ」


 「最近、何か考えてるだろう」


 「……何で分かるの」


 「六年間、隣にいたから」


 (そうだ、この人は見抜く)


 「考えてる」


 「言えないか」


 「……少し、待って」


 クロードが黙った。


 「怒ってないか?」


 「怒っていない」


 「隠しているわけじゃない。自分で整理してから話したくて」


 「分かった」


 「……簡単に分かるのね」


 「お前が一人で抱えたいときは、整理が終わるまで待つ。いつもそうしてきた」


 (この人は、いつもそうだった)


 「クロード」


 「ああ」


 「整理できたら、必ず話す」


 「ああ」


 「それまで待てる?」


 「待てる」


 (待てる、と即答した)


 私は繋いだ手を少し強く握った。


 クロードも、同じくらい握り返した。その手は温かかった。




 その夜、リリアから手紙が来た。


 『アルディア様、王家の打診のこと、耳に入りました。話せる状態になったら、いつでも来てください。──リリア』


 (どこから聞いたんだ、この子は。宮廷の情報網より速い)


 返事を書いた。


 『リリア、明日の午後、時間をもらえますか。──アルディア』




 翌日の午後、リリアと中庭のベンチで話した。春先の風が頬に冷たく、花壇のラベンダーがかすかに香っている。


 「全部知ってるの?」


 「だいたい。宮廷の話は広まりやすいので」


 「そう」


 「クロード様には話しましたか」


 「まだ」


 「なぜ」


 「クロードが動くから」


 「動いてほしくない?」


 「これは私が決めることだから。クロードに決めてもらいたくない」


 リリアがしばらく考えた。


 「それは正しいと思います」


 「そう?」


 「アルディア様の人生だから、アルディア様が決める。でも」


 「でも?」


 「クロード様に話すのと、クロード様に決めてもらうのは、別のことだと思います」


 私は黙った。


 「隠していると、クロード様は別のことを心配します。話すだけ話して、決めるのは自分でいい」


 「……そうか」


 「アルディア様は、また一人で抱えようとしてますよ」


 「分かってる」


 「分かっていて、やってしまうんですよね」


 「……癖なの」


 リリアが少し笑った。


 「今日、クロード様に話してみてください」


 「……分かった」


 「応援してます」


 「リリア、あなたはいつも正しいことを言う」


 「友達だから」


 私も少し笑った。




 その夜、クロードに話した。


 全部話したら、クロードは黙った。


 長い沈黙の後、一言だけ言った。


 「……話してくれてよかった」


 「ごめん、遅くなって」


 「謝らなくていい。それより」


 「それより?」


 「お前はどうしたい」


 「……それを今、考えている」


 「じゃあ考えろ。俺はここにいる」


 (この人は、いつもそうだ)


 「クロード、ずるい」


 「どこが」


 「そういうことを言うから、迷いが出る」


 「迷っていい。その上で決めてくれ」


 私は少し考えた。


 「一つだけ確認していい?」


 「何でも」


 「どんな答えを出しても、クロードはここにいる?」


 クロードが私を見た。


 「ここにいる」


 「本当に?」


 「本当に」


 「……分かった」


 それだけで、少し楽になった。




    ◇


 ──アルディア・フォン・クレシェントの日記より。


 『クロードに話した。「どんな答えを出してもここにいる」と言った。この人は、いつもそう言う。いつも本当にそうする。だから、ちゃんと決めなければならない』




次話:「アルヴィン殿下の本音」

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