第2話「話すと決めるは、別」
三日間、クロードに言えなかった。
隣を歩き、手を繋ぎ、図書室で隣に座った。
全部、いつも通りだった。
でも私の頭の中は、ずっとぐるぐるしている。
(言ったら、クロードが動く)
(動いてほしくない。これは私が決めることだから)
(でも、隠し続けるのは嫌だ)
「アルディア」
帰り道、クロードが言った。
「ああ」
「最近、何か考えてるだろう」
「……何で分かるの」
「六年間、隣にいたから」
(そうだ、この人は見抜く)
「考えてる」
「言えないか」
「……少し、待って」
クロードが黙った。
「怒ってないか?」
「怒っていない」
「隠しているわけじゃない。自分で整理してから話したくて」
「分かった」
「……簡単に分かるのね」
「お前が一人で抱えたいときは、整理が終わるまで待つ。いつもそうしてきた」
(この人は、いつもそうだった)
「クロード」
「ああ」
「整理できたら、必ず話す」
「ああ」
「それまで待てる?」
「待てる」
(待てる、と即答した)
私は繋いだ手を少し強く握った。
クロードも、同じくらい握り返した。その手は温かかった。
その夜、リリアから手紙が来た。
『アルディア様、王家の打診のこと、耳に入りました。話せる状態になったら、いつでも来てください。──リリア』
(どこから聞いたんだ、この子は。宮廷の情報網より速い)
返事を書いた。
『リリア、明日の午後、時間をもらえますか。──アルディア』
翌日の午後、リリアと中庭のベンチで話した。春先の風が頬に冷たく、花壇のラベンダーがかすかに香っている。
「全部知ってるの?」
「だいたい。宮廷の話は広まりやすいので」
「そう」
「クロード様には話しましたか」
「まだ」
「なぜ」
「クロードが動くから」
「動いてほしくない?」
「これは私が決めることだから。クロードに決めてもらいたくない」
リリアがしばらく考えた。
「それは正しいと思います」
「そう?」
「アルディア様の人生だから、アルディア様が決める。でも」
「でも?」
「クロード様に話すのと、クロード様に決めてもらうのは、別のことだと思います」
私は黙った。
「隠していると、クロード様は別のことを心配します。話すだけ話して、決めるのは自分でいい」
「……そうか」
「アルディア様は、また一人で抱えようとしてますよ」
「分かってる」
「分かっていて、やってしまうんですよね」
「……癖なの」
リリアが少し笑った。
「今日、クロード様に話してみてください」
「……分かった」
「応援してます」
「リリア、あなたはいつも正しいことを言う」
「友達だから」
私も少し笑った。
その夜、クロードに話した。
全部話したら、クロードは黙った。
長い沈黙の後、一言だけ言った。
「……話してくれてよかった」
「ごめん、遅くなって」
「謝らなくていい。それより」
「それより?」
「お前はどうしたい」
「……それを今、考えている」
「じゃあ考えろ。俺はここにいる」
(この人は、いつもそうだ)
「クロード、ずるい」
「どこが」
「そういうことを言うから、迷いが出る」
「迷っていい。その上で決めてくれ」
私は少し考えた。
「一つだけ確認していい?」
「何でも」
「どんな答えを出しても、クロードはここにいる?」
クロードが私を見た。
「ここにいる」
「本当に?」
「本当に」
「……分かった」
それだけで、少し楽になった。
◇
──アルディア・フォン・クレシェントの日記より。
『クロードに話した。「どんな答えを出してもここにいる」と言った。この人は、いつもそう言う。いつも本当にそうする。だから、ちゃんと決めなければならない』
次話:「アルヴィン殿下の本音」




