>> 21 ナナがやって来ました
ありがとうございます
「ああリジー……」
「実はいろいろあって、リジーはアジェストと契約したんです」
「契約なら魔法生物とでも出来ただろう」
「魔法生物なんかより我の方が何倍もいいぞ?」
「それにもう契約しちゃった」
何か言いたげな父様にたいして、私とアジェストは顔を見合わせ、ねっと声を揃えた。
私だって知らない間に契約しちゃってたんだもん。その契約に今文句を言われても私にはどうすることも出来ない。それにこの時間でアジェストに愛着湧いちゃったし。
そんな私たちを見て、父様が再び深いため息をつく。そして顔を上げて私と目を合わせた。
「わかったよ、リジー。アジェスト様にはリジーと一緒に生活してもらおう。人間と契約した魔獣は契約相手から魔力を補給すればいいみたいだからそれが一番だろう」
よろしいですかとアジェストに確認を取ると、父様の頬が緩む。
「そういえば、リジーに会いに来た御令嬢が中庭で待っているよ。たしかカナーニャ嬢と名乗っていたな」
「え、ナナが来てるの?」
あのお茶会で友達になったナナとは、私が倒れたせいでしっかりと別れの挨拶ができていなかった。ナナが私のことを忘れたらどうしようかと思っていたから、まさか来てくれるとは思っていなかった。
ぱっと瞳を輝かせ、私は父様に挨拶をする。
「父様、リジーはこれで失礼します」
「ああ。ウルシュは残れ。詳しいことをいろいろと聞かねば」
「かしこまりました」
ドレスの裾をちょこんとつまんでお辞儀をし、ぱたぱたと扉まで早歩きで行く。ウルシュが開けてくれていた扉を走ってくぐりぬけ、中庭まで急いだ。
「おいこらエリ、我がいるのを忘れてる」
私の頭にしがみついたアジェストが、揺れるせいで変なアクセントで話す。その言葉にはっと我に返り、走っていた足を緩めた。
「ごめんね、アジェスト」
「全く……。お前は鈍臭いんだから気をつけろ。それに今は変な布の塊を被っているのだろう。転ぶぞ」
アジェストの言う変な布の塊は、きっとこのドレスのことだ。たしかに服を着ないアジェストからしたらこんなのをわざわざ着るのはおかしいのだろう。
私の身近にそんなことを言う人はいないから、アジェストの新しい意見に吹き出してしまった。
「ああリジー、待っていたよ」
「早かったな。ーーああ、あの執事を置き去りにしてきたのか」
「リジー、もう体調は大丈夫なんですか? 心配したんだからね?」
「ナナー!」
中庭に置かれた白いテーブルを囲むように、兄様とルークス様、ナナがお茶をしていた。私に一番に気づいた兄様が私に笑いかけるのと同時に、私に背を向けていた二人もくるりと振り向いた。
この、【愛の王冠をその手に】の中の二人の攻略対象に挟まれていても全く見劣りしないほどにナナは今日も可愛く、可愛らしいピンク色のドレスが尚更可愛さを引き立てていた。
思わず突進してナナに抱きつく。たじたじとナナが数歩後ろに下がったが、それでもしっかりと抱きとめてくれた。
「こらリジー?」
しばらくそうしていたが、兄様に優しく注意される。渋々ナナから体を引き剥がし、それでも手だけは離さずにソフィアがナナの隣に置いてくれた椅子に座った。
「まさかナナが来てくれるなんて! この前はおわかれの挨拶ができなくてごめんね?」
「いいんだよ。この前はリジーにそんな余裕なかったでしょう?」
ごめんねと繰り返し、テーブルの上に置かれたマカロンをひとつ手に取った。さくりと子気味良い音がして口の中に柔らかな甘みが広がる。
少しの間、その幸せを噛み締めていたが頭の上からドレスの上に落ちて来たアジェストに驚いて思わずマカロンをしっかり噛んでいないまま飲み込んでしまった。
「エリ、なんだこの食べ物は。良い匂いがするな」
「もうアジェスト! あぶないよ」
アジェストの催促に答えて、マカロンを細かく割ってあげる。それをアジェストの口元に近づけると、ひとしきり匂いを嗅いだあとにぱくりと食べた。
「あ、美味いではないか」
そう呟いた後、一瞬のうちに体が大きく膨らみ、二回りほど大きくなる。そしてテーブルによじ登り、その大きさのまま両手でマカロンを抱えて自分で食べだしてしまう。
「え、あの、リジー……その子は?」
今まで黙って見ていたが、ついにナナが声を上げる。それに私が今日あったことを掻い摘んで説明し、アジェストが魔獣を統べる地の王であることと私と契約したことを説明した。
「わあすごい! 可愛いし強いなんてかっこいいなぁ」
花が咲くように笑ったナナに私は自慢げに顎を少しあげる。ナナがちょんちょんとアジェストをつつくが、アジェストはマカロンを食べるのに一生懸命なようで全く反応しなかった。
「魔獣ってマカロン食べるんだな」
「それは個体によって好き嫌いがあるのでは?」
「なるほどな。リジーが契約したおかげで色々な研究が進む。城の研究者たちも放っておかないだろうな」
「その時は頼りにしてます、ルークス様」
「大丈夫だ。リジーに何かあった時のお前たちの反応が怖い」
「何も無かったら何もしませんよ?」
私たちとは別の人達が、同じテーブルを囲んでそんな話をしていた。一体何の話か分からず首を傾げたが、すぐに美少女と動物が戯れる場面に視線を戻す。本当に眼福だ。幸せだ。
「ああ、そういえば私、リジーにお話することがあって来たんです」
「お話?」
一体なんだろうとナナの言葉を繰り替えせば、ナナはひとつ頷いて少し姿勢を正した。
「ナナは大きくなったら学園に行くと聞きました。そして魔法適正テストに合格すれば、魔法の授業も受けるのだと」
「うん」
私の話がそんなに出回っているのかと驚きながらもその言葉は正しかったから頷いた。するとナナは今までよりも頬を僅かに強ばらせる。
「私ね、リジーと友達になれて本当に嬉しいの。だから学園にも一緒に行きたくて。私がもし魔法適正テストに合格したら、学園に行っても仲良くしてくれないかな……?」
お疲れ様でした。
機会があればまたよろしくお願いします。




