>>20 家に着きました
開いていただけてとても嬉しいです!
「ただいま戻りました」
屋敷に帰ると、兄様とルークス様は中庭で待っていると言って先に行ってしまう。私は父様に言うことがあるから、合流するのはもう少しあとになる。ドッチボールをしようと人を集めに行った二人を羨ましく思いながら、ウルシュに父様の空き時間を聞いてもらえるようにお願いし、私とソフィアは部屋に戻る。
「お嬢様、お着替えをしてくださいませ。今日の魔法の練習はもう終わりですよ」
軽く湯浴みをしてから、Tシャツではなくドレスに袖を通した。
白の生地に、裾に大胆なピンク色で刺繍の施されたドレスはレースがふんだんに使われているもののケバケバとした印象は与えない。
これも、記憶が戻る以前の私が一度も袖を通すことなく隅に追いやられていたドレスだった。
髪もポニーテールではなくサイドにお団子でまとめられ、鏡にはさっきまでTシャツとロングパンツを履いていたなんて想像できないほどお嬢様感漂う女の子がげっそりとした顔で立っていた。
お腹が苦しい。長袖暑い。ドレス重い。スカートムシムシする。
だけどソフィアはそんな私に構わずに瞳を輝かせた。
「お嬢様はなんでも似合いますねぇ」
「リジーてきにはTシャツとロングパンツがいちばん似合うとおもうわ」
「私もお嬢様のあの格好はかっこよくて大好きですけど、ウルシュが顔色を変えて止めに来ますからね」
「ほんとに。少しぐらいいいじゃない」
「でも私はかっこいいお嬢様と同じくらい可愛らしいお嬢様も大好きです」
なにその殺し文句。ソフィアが私にそれを言うなんて殺しに来てるよね、エリザベスちゃんキュン死しちゃうよ!
思わずソフィアに駆け寄ってソフィアの腰にがしっと抱きつき、ソフィアの顔を見上げた。
「じゃあリジー、ドレスを着る日もちょっとふやすね!」
「ちょっとじゃなくて毎日にしてください」
ソフィアと見つめあっていたのにも関わらず、後ろから誰かに引き離された。そのまま一気に身長が伸びたように目の高さが変わり、いつの間にか戻ってきていたウルシュに抱き上げられていた。
「お嬢様、公爵様がすぐにお時間を調整してくださるそうです」
「ありがとうウルシュ」
すごい近い位置での報告に思わず仰け反りながらもお礼を言った。今、ウルシュの顔がすぐそこにあったよ。さすが攻略対象、どんな距離で見ても眼福です。
すぐに地面に降ろしてもらい、ドレスを軽く持ち上げた。
「ウルシュ、一緒にきてほしいな。ソフィアはさきにお庭でまってて。リジーもすぐに行くから」
「かしこまりました」
「はい。先にお菓子の準備をしておきますね!」
ウルシュに扉を開けてもらい、しずしずと歩き出す。最近では滅多に見ない私のドレス姿にすれ違う使用人や護衛たちは目を見張ったり物を取り落としたり。全く、公爵家の一人娘のドレス姿くらいで動揺しすぎだ。……やめて、最近の行動で将来を心配されてたんだとか言わないで。
「すぐにおわるかなぁ」
「どうでしょう。まあでも、今日お嬢様がやらかしたことを考えれば公爵様が倒れられても不思議じゃないですね」
「それは大変ね。じゃあリジーはその間に遊びに行こっかな」
ウルシュに白い目を向けられ、私は冗談だと舌を出した。てへっ☆ と副声音を乗せれば、大きくため息をつかれる。
「でも結果だけなら、リジーは火も土も氷も水も使えました、だよね?」
「はい。それも『大きく常識を外れた』威力で。さらに、お嬢様にはペットが増えたようですしね」
「な! 我はペットなんかではないぞ!」
「こらこらアジェスト、リジーの頭の上で暴れないで」
さっきまで寝ていたのに、今のウルシュの言葉で目を覚ますとは。一体どうしたらそんな器用なことができるんだろう。私も今度教えてもらおうかな。
アジェストは落ちるように私の頭から肩へ移動し、私の首に自分の体を擦り付けた。
「我は立派なリジーの契約者だ。それを忘れるな、人間」
「ほらまたそんな言い方するんだから。この人はウルシュ。私のお母さんみたいな人」
「いや誰がお母さんですか」
ウルシュのツッコミの速さにくすくすと笑っていると、ついに父様の執務室の前にたどり着く。
何度かノックを重ねると、部屋の中から少しくぐもった声が聞こえてくる。
「失礼します、とうさま。ただいま戻りました」
中に入り、父様に一礼をする。ドレスを上品に持ち上げて膝を曲げる礼は苦手でバランスを崩しそうになったが、なんとか持ちこたえた。
ほっと顔をあげると、頬の緩みきった父様が私を優しく見つめていた。
「おかえり、リジー。無事なようで何よりだ。さて、報告をしてもらおうかな」
父様に手招きされ近づくと、身体を持ち上げられる。今日はよく抱き上げられる日だなぁと思っていると、そのまま父様の膝の上に下ろされた。
ウルシュたちのように攻略対象ではないが、美形の父様の超至近距離。眼福眼福。
「はい。ええと、まず、リジーは全ての魔法を使えることが出来ました」
「詳細については、火魔法は上手にコントロールしておられましたが、土魔法は暴走させていましたね。氷魔法がお得意のようでした。水魔法も難なく使われておりましたね」
「ああ、あの森の一部が急に盛り上がったり火柱が上がったりしていたのはやっぱりリジーのせいだったか。というか、四種全て使えるとは。さすがリジーだな」
「ありがとうございます。……それで父様、一つお願いがあるのです」
「お願い?」
両手の指を絡ませて、上目遣いに父様を見た。
言ってごらんと私の頭を撫でて、そこで私の肩の上に乗ったアジェストに気がついたようだった。
「リジー、この生き物は?」
「この子は、リジーの新しいお友達です。一緒に暮らしてはダメですか?」
渋られることを覚悟していた私の予想は空回りし、父様は特に考えることも無く頷いてくれた。
「リジーがそう言うなら、別に構わないよ。でも見た事のない生き物だね。じゃあウルシュ、この生き物の正体と必要なものをすぐに用意するように」
「何を食べるのかは知りませんが、この生き物は魔獣です」
アジェストに触れようと伸ばしていた手を、父様が直前でピタリととめた。
「今変な言葉が聞こえたが?」
悪ふざけはよせ、と言いたげな顔をしながら、父様がウルシュに目を向ける。しかしウルシュが口を開く前に、アジェストが自己紹介をした。
「我の名はアジェスト。地の魔獣を統べる王だ」
普通、生き物は話さない。いくら魔物でもそれは一緒だ。
いきなり口を聞いたアジェストに、父様はしばらくフリーズしてからがっくりと項垂れた。
ありがとうございました、お疲れ様でした。




