>>19 おうちへ帰りましょう
開いていただけてありがたいです。
たしか地の王は、乙女ゲー『愛の王冠をその手に』の隠しルートだ。人外というジャンルでプレイヤーの好き嫌いも別れ、また、もう一人いるもふもふと二つの派閥がネット上でファイティングしたのは結構有名な話だ。
ゲーム中でも基本的に偉そうだが、悪役令嬢に攻撃されて命の危機に晒されたところを心優しいヒロインに救われ契約を結ぶ。そこからはヒロインに対してのみ甘々で、ペット権オヤジ枠だった。
ちなみに、この王様ルートでは悪役令嬢にいじめられた地の王を助けるか助けないかの分岐だけで、あとはストーリーを楽しめる。助ければヒロインによって治癒されて元気になった地の王がその場でエリザベスを殺し、助けなければ地の王の呪いによってエリザベスは死ぬ。
…結局私にとってのバットエンドで間違いない。
私の言葉に、呆れたようにウルシュがため息をつく。
「御自分のことでしょう……」
「え、でもリジーが知らないうちにやっちゃったんだもの」
「まったく」
左右に頭を振り、ウルシュが片手でこめかみを押さえた。そしてそんなウルシュと交代するように兄様が私のそばで片膝をつく。
「地の王よ、ご機嫌麗しゅう」
「そう固くならなくてもいい。名を名乗ることを許す」
「ジロイド・オースティン。エリザベスの兄にございます」
「なるほどな、もう良い下がれ」
私の頭に乗ったまま、地の王は兄様と話していた。今はもう手のひらサイズのくせに兄様を見下すような話し方をした私の頭の住人に、人差し指を突き刺した。
「そんな話しかたじゃ、友達できないよ」
「別に友達なんていらん。我は王だ」
「あ、そうなの。じゃあ王様が寂しくなってリジーに遊ぼって言いにきても無視するんだからね」
「我とエリは契約者だろう、友達ではないじゃないか」
「契約だって、なかいいひととするものでしょ」
地の王の体の一部をつまんで私の目の前に持ってくれば、背中をつままれて不満げな地の王と目が合った。
「そうでしょ?」
「むぅ」
「ほら、にいさまにごめんなさいして?」
「……すまなかった」
「よくできました」
「可愛すぎる…!!」
よしよしと地の王の体を撫で、再び肩に乗せた。後ろでソフィアがなにか呟いた気がしたが、よく聞こえなかった。聞き返そうと口を開くが、地の王に先を越されてしまう。
「おいエリ。我に名を授けよ」
肩の上からそう言われ、私はもう一度肩から手のひらに地の王を移す。
「おうさまじゃいけないの?」
「契約者同士がお互い名を交換することで契約は完成する。我はエリザベスにエリの名を授けた。次はエリだ」
急にそんなことを言われても困ってしまう。ゲームではプレイヤーの好きなようにできる入力式だったし、そもそも私はネーミングセンスがある類の人間じゃない。はて困った、どうしようか。
「アジェストなんかは?」
絞りに搾った私の頭で思いついたのはそれだった。他にもアヒルとかホルモンとか考えたんだが、個人的にアジェストが一番しっくりきたのが理由だ。
「良いではないか。よし、よいか、我の名は今からアジェストだ」
アジェストという名前を気に入ったのか、伺うまでも無くすっかりご機嫌だ。手のひらから腕を伝い方に収まると、アジェストは大きくあくびをした。
「ああそうだリジー。アジェスト様の説明を父上にしなければいけないし、魔法の練習も十分できただろう? 今日はもう帰ろう」
「たしかにな。オースティン公爵もいきなり娘が魔獣の王を連れ帰ったら卒倒しかねない」
「大丈夫です、ルークスさま。とうさまはお強いですから」
「そういう問題じゃない。ほんっとに、この世界に魔獣の王と契約を結んだ輩が何人いることか……」
今日のルークス様はお疲れのようで、森に来てから叫んだりため息をついたり呆れていたり忙しそう。今もブツブツと何かを呟いている。王子、ストレスは肌荒れの原因ですわよ。
けれどたしかに私も疲れているので、屋敷に戻ることに異論はない。
「わかりました。おうちにかえろー」
「家に着いたら何か飲みものが欲しい。あとふかふかのベッドと湯浴みの場所」
「承りました。お嬢様と同じお部屋に全てご用意させていただきますね」
「アジェスト。ペットのくせにわがままね」
「誰がペットだ!」
ソフィアが優しく微笑み、アジェストに希望品を用意することを約束する。
もともと荷物が多いわけではなかったが荷物をまとめ、私たちは森を出ようと道を進む。
ようやく馬車が見えてきて、ほっといきを着いた。私は方向音痴ですからね、迷子になる率が異様に高いんですよ。
兄様に手を引かれて馬車に乗り、肩の上のアジェストを膝の上に乗せる。しばらく私の膝の上を歩いたと思ったら突然伸びたように倒れ、寝息を立てだした。
「おい。これって本当に地の王なんだよな?」
「そのはずですが。お嬢様は色々と変なことをしでかすので私も少し不安が」
「ウルシュったら失礼なんだから。へいきです、この子はちゃんと地のおうさまです」
「うん、リジーがそう言うなら心配いらないね」
行きとおなじように、ソフィアとは馬車が別だ。行きは四人で乗った馬車に王様がもう一匹追加されてると思うとなんとも言えない。
「まあ、良かったんじゃないかエリザベス。これでとりあえずお前が学園で魔術の授業を受けることは決まりだ」
「でももしかしたら魔力なしと測定されるかも」
「いやそれはありえないから心配ない」
ルークス様がそう言い切り、ウルシュも珍しく普通に笑っていた。おめでとうございますお嬢様と私の頭についていた葉っぱを取りながら言ってくれる。兄様も良かったねーと頭をなでなでしてくれた。
「あと心配があるとすれば、リジーが魔法を使う度にどれだけの被害が出るかだけど」
「学園で覚えて頂きましよう」
「それを直すのは税金だそ」
げっそりとした顔でルークス様がそう言い、はぁっとため息をついた。
「ルークス様、ため息をつくと、しあわせをはこぶ妖精がにげていきますのよ」
「その前に幸せの妖精はお前の魔法で殺されてる」
「まあ、しあわせの妖精が絶滅したら大変じゃない!」
冗談だ、とルークス様が少し笑を零した。それにひどいわと返し、私は膝の上で眠るアジェストを撫でる。
とてもあたたかい。呼吸する度に上下に動き、それがとても心地よかった。
(私がアジェストを連れ帰ったら、父様はなんて言うかしら)
テスト週間に入る前の投稿でした。
こんな時間でごめんなさい 笑




