>> 18 契約を結ばれました
開いていただけて感謝です
けれど、ちがう、とルークス様がさっきのウルシュよりもさらに低い声で言った。
「魔獣は毛の色が黒に近ければ近いほどその力が強いという。そして額の三日月形は魔獣の王を表す、と城の書物で読んだことがある」
「魔獣の王?」
聞き返しながら、私は魔獣たちが走る足元に、五センチ程度の『ボコッ』をたくさん作る。私が張った薄い氷から顔を出すように土が出てくる。すると面白いくらいに引っかかり、足が短いのも相まってコロコロと転がった。やっぱり魔獣とは思えないほど可愛らしくて、締まりのない顔をした。
「ああ。魔獣といっても、『地』『空』『海』と種類があるらしいが、その三種類にはそれぞれ王たる魔獣がいるという。あれはきっと、地の王だ」
たしかにあの一匹は他の魔獣と違って転んだりせず、ぴょんぴょんと私の作った『ボコッ』をかわしている。
すごいですねぇとソフィアが呟いた瞬間、地の王が纏う空気が変わる。
ピリピリと肌を焼くような力を感じたと思ったら、ボンッと音のしそうな勢いでーー王が、巨大化した。元の大きさが私の腰ぐらいだったのが、一気に私の身長を超え、ウルシュの身長を超え……あっという間に私たちが見上げるくらいまで大きくなった。
「ルルルルークス様、地の王は巨大化するものなんですかっ?」
思わず同様で噛みまくった私を嘲笑う余裕もなく、ルークス様も動揺を隠せない様子で答える。
「ししし知らん!」
「お二人共意味の無いことを言ってないでください」
そんな私たちをウルシュは呆れたように見て、にこりと笑った。
「心配しないでも、私たちの生存確率がぐっと下がっただけです。今そんなことを言ったってしょうがないでしょう」
うん、私が一番問題だと思っていた事をウルシュさらりといいやがった。
まあ確かにこのまま何もしなかったら踏み潰されるか食べられるかの究極の二択だ。そうなったらもちろん、なにか対抗した方がいいに決まってる。
よし、と自分で自分に気合を入れる。ぎゅっと手を握り、爪が手の裏に刺さる感覚を感じていたが、ぱっと手を離しにやりと、笑った。とても六歳の公爵令嬢がするような笑じゃなかったらしく、周りからは苦言を呈される。
「お嬢様かっこいいー!」
「品の欠けらも無いですね」
「リジー、無理しないようにね」
「なんか嫌な予感がする……!」
それに私が答えるようなことはなく、巨大化した地の王の頭に両手を向ける。
「王様、今からすることはきっと痛いと思います。それが嫌なら、今すぐお家へお帰りになって」
けれどそれに対し、地の王は耳を劈くような奇声を上げ、短い前足を上げて後ろ足に全体重を預けた。
ーーこっちに突っ込んでくるつもりだ。そう思ったあとの私の反応は早かった。
「おりゃぁーーー!」
王の頭の少し上に向かって、魔力を込める。キラキラと光の粒子が集まって王の頭上三メートルほどに王の顔の大きさと変わらない程の氷塊が現れる。丸、と言うよりはゴツゴツでこぼことした感じで、当たったら痛いだろうなぁと思った。
「えい」
ひょい、と。ひょいっと氷塊に向けていた両手を下に落とすように振り下ろせば、それに合わせて氷塊も王の頭に落下した。
ゴン、と鈍い音がなり、血のの体がぐらりと傾いた。そのままばたりと木々をなぎ倒しながら倒れ、徐々に体が元のサイズに縮んでいく。しかし体の縮小はそれにとどまらず、手のひらサイズにまで縮んでしまった。
兄様たちの制止の声は聞こえたがあえて無視し、そのまま縮んだ地の王に駆け寄った。いつの間にかほかの四匹は伸びており、だらんとお腹を向けて倒れていた。
さっきの氷塊は大きすぎたか。頭に大きなコブができているのを見つけて、両手で地の王を掬いあげた。指先をそのコブに当てる。
水の魔法は使ったことがないが、慎重に慎重に指先に魔力を伝える。火の魔法とは違うポカポカとした暖かな力が指先を通して地の王のこぶに伝わる。僅かに光を発しながらだんだんとそのこぶを小さくしていった。
完全にこぶが収まったのを確認し水の魔法をやめ、ほっと息をついた時パチリと地の王の目が開いた。
「あ」
「ほらリジー、戻っておいで!」
完全に、目が合ってしまった。かぷり、と私の掌に地の王が噛み付くが全く痛くない。掌の上でちょこちょこと歩いたり転んだりしている地の王がとても可愛らしくてふふふ、と笑みが零れた。
『お前が、我を助けたのか?』
不意に声が聞こえた。否、声が聞こえたのではなく意思が直接脳に響いてくる感じ。脳に反響するようにごぉぉんと響く低い声に目をぱちくりとさせた。
けれど掌の上に乗る地の王と目が再び会った時に、この声はこの王様のものなんだと気づいた。
「ええ、そうです。ごめんなさい、まだ上手く魔力調整が出来なくて氷塊がとても大きくなってしまったの」
とりあえず謝った。すると地の王はふんと鼻を鳴らし、鼻先をつんと上に向けた。
『幼子の癖に無茶をするからだ。ーーだが確かに、お前からは強い魔力の香りがする』
上に向けていた鼻を私の掌に押し付け、すんすんと匂いを嗅ぐ。それが妙にこしょばゆくて少し身をよじった。
『まあよい。幼いということは我と一緒にいられる時間が長いということ。魔力も十分だ。
よし小娘、名を名乗れ』
「エリザベスです、地の王様」
掌を持ち上げ、王と目を合わせる。笑みを浮かべたまま名乗ると、王は満足気に短いしっぽを振る。
『なるほど、エリザベスか』
そして目を瞑ると、何故か地の王の体が光り出す、いや違う、これは周りから光る何かを地の王が吸収しているのか。
『祝福の女神、しかと聞き届けよ。これより我、地を治めし魔獣の王と愛し子エリザベスは契約を結ぶ』
今までよりも威圧感のある地の王の姿に、私は思わず見入っていた。……つまり、私は王様の言葉を聞き逃した。
『互いの名のもとに結ばれるこの契約は何者にも解く事は出来ず。永遠なる誓をここに』
地の王が吸収していたように見えた光が、一気に放たれて私と王様を包む。いく筋もの光が光の中で交差し、私の手首と地の王の耳に絡みつく。
その場所がちりりと熱を持ち、あっと気がつくと左の手首には何重にも絡まりあった蔦に小ぶりの花がいくつも付けられたブレスレットがはまっている。驚いて顔をあげれば、地の王の右耳にも私と同じようなものがはまっていた。
『地の王とその愛し子よ。確かにその願い聞き届けました』
呆然としていた私の頭に、地の王とは違う凛とした声が響く。地の王と同じように脳に直接響くような声だったが、一瞬、私の脳裏に腰まで届く美しい銀髪をなびかせた美女が浮かび上がった。彼女が大輪の花が綻ぶように柔らかく微笑んだ直後、風に散る花の如く掻き消えた。
程なく光は私と地の王に付けられた蔦のアクセサリーに吸い込まれるようにして消え、私はただ呆然と視線を漂わせていた。
「リジー!」
兄様の声にビクリと振り返ればその直後に後ろから抱きしめられた。
その後からルークス様もウルシュもソフィアもやってくる。
「お嬢様ご無事ですか」
私の傍らに膝をつき、ウルシュが心配げに私の頬を撫でた。その手の温かさに思わず深く息を吐く。ソフィアがそっと差し出してくれた手に縋るようにして自分の左手を重ねる。
「まあお嬢様。そのブレスレットはどうしたので?」
とても可愛らしいデザインですね、とソフィアが目を輝かせる。そしていつの間にか私の頭に座っていたらしい地の王の耳にも同じものがついていることに気づいた。
「おそろいなのですか?」
私が頷くのと、地の王が口を大きく開けるのは一緒だった。
「当たり前だろう。我とエリは契約を交わしたのだから」
「地の魔獣の王と、契約……!?」
ルークス様が目をむきだして頭を抱えると、他の三人も反応した。
「リジーはすごいねぇ」「お嬢様……かっこいい!」「っとにあなたは……」
「へ!? リジー、王様と契約しちゃったの!?」
お疲れ様でした。
更新遅くなってしまって本当に申し訳ないです……。 これからもゆっくり更新にはなると思いますがしっかりと物語を進めていきたいと思います。




