>>16 魔法の練習は進んでます
開いていただけて感謝です。
さっきの土の魔法によって、広かった場所の三分の二が使えなくなってしまった。
仕方なく無事な三分の一に移動して、残りの魔法を使ってみることにする。
私以外のみんなは、はしっこの一箇所に集められて私から隔離。私はそこからできるだけ離れて魔法を使うのだ。
さっきは土の魔法を使った。あと残りは火と氷と水だ。どれから手をつけようと考えた時に、ルークス様が指先に小さな焔を灯せると言っていたのを思い出した。
ぴんと右手の人差し指を立てて、左手を翳すように向ける。とっても小さい焔をイメージして、ふんっと右人差し指に力を込める。
「えいっ! 」
ぽかぽかとした熱が指先に溜まっていき、次の瞬間、ボウッと大きく火柱が上がる。心の中で大きく悲鳴を上げてから、助けを求めるようにみんなが固まった場所に目を向けると、冷たい目をしたウルシュと目が合ってしまう。
ヤバい。これ自分でどうにかしないと、あとで……。
「さっき、二度目はないと言ったはずなんですが」なんて言いながら笑う、自分の執事候補を考えて顔が引き攣る。慌てて首を振ってその悪夢を追い出すと、私は目の前の炎に集中する。
私の髪の色のように薄い青色をしたそれの高さは、ゆうにその辺の木々を超えている。いや、二倍に近いと言った方が正確か。木に火が移ることはないみたいだが、葉が火に焼けて黒い粉がパラパラとふってきていた。
私も熱さを感じていて、それこそ髪の毛や睫毛など全身の毛がじりじりと音を立てるくらいに。
それに絶望的になりつつも、ただあるだけになってしまっている左手に力を込める。右人差し指から溢れるように出てる(ような気がする)火の魔力を、そのまま左手に吸い込ませるようにしてみる。
魔力が右手から出て左手に吸収される、巡回するような感覚。
けれど特に炎の大きさが変わるわけではなく、ああやっぱりダメかとため息をつきそうになる。ふと目線を落とすが、ソフィアの声ではっと顔を上げた。
「わぁ!凄いですねぇ、お嬢様。あんなに大きかった炎がちっちゃくなってます」
見ると、さっきまでとは比べ物にならない程の小さな焔が指先にぽっと灯っていた。
儚げに大きさを変えながらも親指一本くらいより大きくならないそれに私は思わず喜色を表す。
「やったぁー!」
それを確認してから、ゆっくりと四人が近づいてくる。いかにも恐る恐るという感じで、自分はそんなに信頼がないのかと悲しくなった。
ようやく私の元に到達すると、最初にウルシュが口を開く。
「あの大きな炎が上がった時は、もう一度注意しないといけないかとも思いましたがきちんと調整されてようございました」
「え、だってあのウルシュの目を見たら頑張るしかないわ」
「わたしの目?一体どんな目だったんでしょう」
だんだんと温度を失っていくウルシュの目を見て、私がそれ以上会話を続けられるわけが無い。
すっと目線を逸らして、そのまま兄様に目線を合わせる。
「大きな炎が上がった時、どうしようと思ったよ。
でもよく見ると、とても綺麗な色をしているんだね。さすがリジーの焔だ」
思慮深気に私の指先に灯る小さな焔を見て、兄様が目を細める。誰とは言わないが誰かさんのように背筋が寒くなることはない、穏やかな兄様らしく優しさが滲むその仕草に、私はもっと口角を上げる。
「いやいやいや……なんなんだお前。ほんと。さては人間じゃないな?そうだろ?そうだよな!?」
変な声が聞こえて、遂におかしくなったルークス様に視線を合わせる。顎に手を当てて、怪しげにブツブツと呟くルークス様に躊躇しながらも声をかける。
「あのルークス様?リジーはちゃんと人間ですよ?」
それにルークス様は飛び上がって、思わずと言った様子で仰け反った。
口をパクパクとさせるだけで何も話さないルークス様に首を傾げつつも、私はみんなに向き直る。
「これで、火の魔法の適性も大丈夫ですよね!つぎもじゃんじゃんいきましょー!」
そしてみんなが逃げる間も与えず、私は前世で見た『触れたものを凍らせることの出来るお姉ちゃんとその魔法を小さい時に受けて髪をひと房白くした妹』の映画のワンシーン、お姉ちゃんが足裏で触れた地面をスケートリンク状にする真似をする。
膝を曲げた状態の左足を、勢いよく地面に突き刺す。今まで手からだった魔力を、足裏から靴を通して地面に流す。ものを通して魔力を流すことはできるか分からなかったけど、あのシーンに対する憧れは決して弱くない。
地面がピキピキと音を立てて凍っていく。慌てた四人が私から離れようと駆け出すけど、凍っていくスピードがそれより早く滑って転んでしまう。
さっきの焔の要領で、右足と左足を上手く使いながら氷の厚やさ範囲を調整していく。と、他の使用人たちがいる場所ギリギリでうまく氷化を防ぐことが出来た。
さっきの土や火の魔法よりも上手く調整出来たことが嬉しくて、それを表すために氷の上を靴で滑っていく。前世でよくやった、掃除のあとの濡れた廊下を滑る男子の如く。
「うっわぁ。お嬢様ってほんと規格外」
「リジー__三種の魔法を使える人ってそう居ないよ」
「やっぱりあいつは人間じゃない」
「さすがお嬢様です!」
やっぱりお茶会の時に咄嗟に発動させたのが氷の魔法なだけあって、私は氷の魔法が得意みたいだ。他の魔法に較べて調整しやすいし、なんだかしっくりくる。
「お嬢様お嬢様、最後は水の魔法ですけど、どうするんですか?」
おたおたと地面に四つん這いになりながらソフィアが私に聞く。それに腕を組み、私は氷の上をもう一周する。
「んー。でも水の魔法って傷をいやす魔法でしょう?そのためだけに怪我をおうのはいやだもの、またにする」
けれどその私の声をかき消すように、ルークス様の声が被せられる。
「おいっ、ちょっとこれなんだよ!あぶねーよ!」
いつものキラキラ王子様では決してなく、本当の本音が漏れる。国民から見れば完璧に近い、なんでもそつなくこなす王子の本音に、私はニヤリと口角をあげた。
「あらまぁ王子様。まさか苦手なことがおありなんですか?」
そんな私を忌々しげに見つめて、ルークス様が吐き捨てるように言葉をぶつける。
「うるさい。さっさとこれをどうにかしろ」
「ごめんなさーい。魔法を解くほうほうがわかりませーん」
「ったく白々しい」
軽口を交わしながらも、私は珍しく焦るルークス様がおもしろくて仕方ない。
そんな時に、私が作った山の向こうからガサゴソと音が聞こえることに気づいた。思わずピクリと体を震わせる。それにルークス様も気づいたのか、片眉をあげた。
「おい。お前の魔力に引き寄せられた輩がお出ましだぞ」
兄様とウルシュ、ソフィアも私たちの方に近づいてくる。不安げなソフィアの表情が、私のスイッチをカチリと入れる。
「そうですね。私も自分の魔法がどれくらい出来るのかとっても興味があるんです」
それにため息をつくのは、やっぱりウルシュで。心配してくれるのは兄様だ。
「はぁぁ……ほんとに、うちのお嬢様は。やり過ぎないでくださいよ」
「ケガだけはしないように気をつけるんだよ、リジー」
不安を隠しきれないという2人に向かって私がブイサインを作るのと同時に、山の頂上に反対側から登っていたのであろういくつかの黒い塊が到達する。
黒の中にらんらんと光る金色がとても映えている。その全てが私のことを舌なめずりするように見ていて、全身の産毛が逆立った。
けれどそれを隠すように私は笑い__
六歳の公爵令嬢とは思えない動きを、数頭の魔獣たちとともにすることになる。
お疲れ様でした。
五話のサブタイトルを変更しました (4月5日)




