>>13 魔法の練習をすることにしました
開いていただけて感謝です
__ゲームのエリザベス、絶対嘘ついてたよこれ。
みんなが出ていった部屋の中で、私は大きくため息をつく。
ゲームでエリザベスは、本当に魔法が使えなかったはずなのだ。使ったのは幼い時の一度きり。侍女が彼女のお気に入りのカップを割ったことに癇癪を起こして地団駄を踏み__屋敷に大きなクレーターを作った。それによって魔法適正テストを受けることになったエリザベスだけど、そこで魔法を使うことも無くこう言ったのだ。
「リジーは魔法なんて一切使えませんの。この前の魔法もあれ以来使えませんもの」
試しにと魔法を使うように言われても、エリザベスが魔法を成功させることは何一つできず。あのクレーター事件はただのマグレだったのだろうということになるのだ。
ただ、魔法適性は認められなくても力のある公爵家の娘ということで学園に通うことは決められていたのだが。
魔法の練習をしながら、コレを思い出した私はため息をついた。ゲームをプレイしていた私は、この矛盾に気づかなかったのだろうか。
簡単に地面にクレーターを作るような人が、簡単な魔法一つ出来ないわけないだろう。私の予想では、エリザベスはめんどくさかったんだと思う。ただでさえ公爵家の娘として学園に通うことが決まっているのに、その勉強にプラスして魔法の勉強なんて、みたいな。
あ、あと勉強に関しては爵位なんかでクラスが別れて待遇も変わるそうだけど、魔法の授業では魔法のレベルによってクラスを分けられる。公爵家の嫡男も農民の子も同じ空間で同じ内容の授業を受けるのだ。貴族意識が高かったエリザベスは、それを許せなかったんじゃないかと思う。
でもそれはゲームの中のお話でして。今のエリザベスは私なんです。魔法の授業があるなら絶対に食いつく私なんですよ。
もちろん学園は行きたくないよ?乙女ゲームの舞台自ら突っ込んでいくのはもちろん拒否したいが、私がエリザベスの限り『学園に行かない』という選択はありえないだろう。ならば。
ならば!ただ学園で殺されるのを待つのは嫌だから勉強も魔法も磨いて、そう簡単に殺されないようにすればいいのだ。真面目に勉強すれば毒の解毒法とかも分かるかもしれないし、魔法が上手く使えれば暗殺者が送られてきても撃退できる。
ヒロインや私を殺す人たちと関わろうとも喧嘩を売ろうとも思わないけれどもう関わっている人も多い以上対策を練る必要がある。そのためには魔法は不可欠で、学園で魔法を学ぶためには魔法適正テストを合格する必要がある。
ベッドの上でその結論に至った私は拳を握り締めて、テストまでに魔法を磨くことを誓ったのだった。
その決意に燃えて、わたしは次の日完全回復を果たす。朝起きて、パパっとる用のドレスを脱ぎ散らす。そのままベッドの下に隠し持ったTシャツとロングパンツを着て、男物のスニーカーを履いた。髪を乱暴にとかし頭のてっぺんに近いところでひとつに結ぶ。何度か飛んでみて違和感がないのを確認してから、ドアの前のウルシュに声をかける。
「ウルシュー」
初めは誰とも目を合わせていなかったウルシュだが、何があったのか目を合わせてくれるようになった。
「はい、お呼びでしょうかお嬢様。今日はとてもいいお天気で__」
ニコニコと部屋に入ってきたウルシュがベッドの上に座る私とその横に脱ぎ散らかされたドレスを見て固まる。そしてきっかり三秒後に再び私に笑顔を向ける。口だけで。
「お嬢様。その格好は?」
声がさっきより僅かに低い。口元は笑ってるのに目が笑ってない。その目に完全にかいてある。『おいこれはどういうことだアァん?』。
「えっとね。朝ごはんをたべたら魔法のれんしゅうをしようとおもったのよ」
「その格好になる意味の説明になっていませんよ」
うぐっ!私が言い終わって直ぐにウルシュが否定する。いやほんと空白の時間が見えませんでした。
「……動きやすいわ」
「簡素なドレスも御座いますよ」
今ウルシュ、ドレスをすっごい強調した。そんなにTシャツとロングパンツはダメなの?私はこれこそ最強のコンビだと思ってるのに。それこそパンと牛乳のような、白ご飯と味噌汁のような!
「でもドレスでは動くと裾が上がるわ」
「公爵令嬢らしく大人しく、お淑やかに行動されていればそんなことにはなりません」
「今からするのは魔法の練習よ?ヒラヒラするドレスを毎回手でおさえていたらたまらないわ」
「だからってその格好は公爵家として困ります」
私が食い下がる度にウルシュの視線の温度が五度づつ下がっていく。それを前に私は僅かに身震いした。
がウルシュに文句を言われないいい案を思いついて思わず身を乗り出す。
「なら誰もいない場所で魔法の練習をしましょう!そうね、それがいいわ!たしか東の方に大きな森があったはずだわ!」
私の勢いに押され、ウルシュは少し後ろに下がった。
「確かにございますが……分かりました。公爵様に聞いてみましょう」
はぁ、と大きくため息をついてウルシュが了承する。ただもちろん、「見られないように気をつけてくださいよ」と釘を刺すのも忘れない。
氷のような雰囲気がいくらか和らいだウルシュにほっとして体の力が抜けていく。思わず頬が緩んだ。
「ありがとうウルシュ」
そんな私にもう一度溜息をつきながら、でもウルシュは目も一緒に笑う。
「だってお嬢様は、誰がなんと言おうとその格好でお出かけなさるのでしょう。いくらわたしが着替えろと言ってもきかないでしょうから。
けれど、それに私も連れて行って頂きますからね」
その発言に思わないところがない事ではなかったが、ウルシュが来ることを拒んだら、それこそ行かせてもらえない気がして私は頷いた。
そのまま私たちは連れ立って食堂へ赴き、父様と兄様に今日出かけることを報告する。
「それで公爵様。エリザベス様が東の森へ入る許可を頂きたいのです」
ウルシュが私の横にたち、父様を見つめる。
それに父様は渋い顔をし、パンを千切る手を止めた。
「あそこは魔獣が多く出る。リジーに何かあってからでは遅いのだ」
東の森には弱いながら多くの魔獣が出る。強いものは奥深くに行かない限り滅多なことがなければ出会わないが、確かにまだ六歳の女の子を向かわせるのは危ない気がしないでもない。
「とうさま、お願いです。リジーはうまく魔法が使えるようになって、がくえんにいきたいのです」
それでも私は父様にねだり、父様も満更でもなさそうな顔を去る。
父様、こんなにチョロくて公爵できるんだろうか。
「でもなぁ……」
珍しく私の第一撃に耐えた父様がうんうんと唸る。それに声をかけたのは兄様だった。
「父様。ウルシュもついて行くようですし、僕もついて行きましょう。それにソフィアも。
これだけいれば、間違ってもリジーが危ない目にあうことはないかと」
いや待って!
思わず出かかった言葉を飲み込む。せっかく兄様が父様を説得してくれているのだ。私が、ゲームでエリザベスを殺す人たちに囲まれることくらい我慢しなくては。
「__ん。分かった。くれぐれも危険のないようにな」
いつの間にか父様は許可を出してくれていて、再びパンを千切り始める。
そしてふと思い出したように私の方を見た。
「ところでエリザベス。いつまでその格好をするんだ?」
決して怒っている訳ではなく、素直に疑問に思っての問い。私はそれに満面の笑みを浮かべる。
「ずーっとです!」
私たちがご飯を食べている間に、この話はソフィアまで伝わっていた。朝ごはんを終えて部屋に戻ると、ソフィアが待っていた。
「わたしも連れて行ってもらえるのですね!」と私に抱きついてきたソフィアはとても可愛かった。
そのあとみんなの用意が出来たのを確認して、馬車に乗ろうと屋敷を出た。
と、
「エリザベス」
私たちが今から行こうとしている方向から、従者を連れた男の子が歩いてくる。金色の髪が太陽に反射して煌めき、聡そうな青色の瞳を持つ男の子__
「王子」
慌てて私たちが御礼すれば、王子は片眉をあげる。
「君は昨日目を覚ましたばかりでしょう。一夜しか経ってない今日、どこへ行くのです?」
じーっと頭の先から爪先まで観察され、この格好では言い訳できないかと肩を落とした。
「いまからひがしの森へ。まほうの練習をするのです」
その答えに、王子は僅かに面白気に瞳を輝かせた。
「そうですか。__なら、僕もついて行きましょう」
それにざわめいたのは王子のそばに控えていた従者たち。いけませんとか、お考え直しくださいとか言っているけど、王子は一向に耳を貸さない。
「いいですね、エリザベス様」
前にも経験した、背中のぞくりとするような笑み。それを受けた私が、王子の確認を覆せるわけがない。
ただ首を縦に振るだけの私に満足げに頷き、王子は従者たちに指示を出す。
それを終えると、爽やかに私たちを促すのだ。
「さぁ、みなさん。東の森へ参りましょう」
お疲れ様でした。
二話、改稿いたしました。




