>>9 王子の裏側が覗いたような.......
開いていただけて感謝です。
もう続々とアクセスとブックマークが増えるのが見ていて恐縮です。ありがとうございます!
「にいさまのお顔はカッコいいと、妹のリジーも思いますわ。だから、王女様がにいさまを好きになる気持ちも、リジー分かります。だってリジーもにいさまのことがだいだいだい好きですもの。
けれど、にいさまはリジーとたくさんお話してくださるとお約束をしたの。王女様のお友だちになったら、にいさまはリジーとの約束をきっと忘れてしまうわ。それはリジーが嫌だから、ごめんなさい王女様。兄様を王女様に差し上げることは、まだ出来ないようです」
一つ歳下の私に言われた言葉に、王女は隠そうともしないで歯ぎしりをする。すっと細められた目で見られるけど、私は表情筋を総動員してスマイルをキープする。
そうだ、ゲームの中のリアンヌもこんな性格だった。偉いのは自分、美しいのも自分。自分が法律で世界の正義。自己中をそのまま体現したような子。自分が認めた『美しいもの』以外は存在する価値もないと鼻で笑い、自分に逆らうものは身の程知らず、と嘲笑って罰を与える。
大丈夫、こんな目線、前世では一日に何度も向けられたもの。『私を怒らせたわね』的な目線なんて、学校のクラスの女子たちの得意技だったじゃない。
「お前、何様のつもりかしら。誰にものを言っているのか分かってる?」
絶対零度の声が私に突き刺さる。リアンヌの十八番のセリフ。はい、公爵令嬢様です、とは王女相手には使えないな、くそう。
何も言わない私に対してイライラしたように王女が一歩前に出ようとする。が、それを隣にいた王子が王女の腕を掴むことによって阻止する。
「リアンヌ、これ以上はいけないよ。
リアンヌと一緒に、令嬢たちのところに行ってくれ。わたしは少し、この方たちと話す必要があるみたいだ」
首を横に振った王子は、後ろにいた取り巻きの女の子の一人に掴んでいた王女の手を渡す。が、王女は女の子の手を振り払う。
「触らないでちょうだい。
……今回は兄上が言うから言う通りにするけど、次はないと思いなさい」
靴の踵を鳴り響かせながら、王女が私たちから離れていく。もちろん、最後に王子に甘えるように頭を撫でて貰うことも忘れない。
遠ざかっていく王女たちの背中を見送ってから、王子が私たちに頭を下げた。
「すまない、わたしの妹が迷惑をかけた。」
「顔を上げてください」
それに慌てたのは私たちの方で、兄様がすぐさま声をかける。それを聞いてゆっくりと顔を上げた王子は、じぃっと私のことを見つめていた。__ん、なんで?
「君はおもしろいね。リアンヌに言い返す子は初めて見た。怖くなかったの?」
あぁ、たしかに。たった六歳の公爵令嬢が王女に言い返すなんて、きっと私が初めてなんだろうなぁ。
「怖いっていうか。にいさま確かにかっこいいし仕方ないかなぁと思いました。けどやっぱり取られちゃうのはいやなので」
ふうん、と言って、王子は私を品定めするように頭の先から爪先までじっくりと見る。その行動が謎で、私は首をかしげた。
それに対して王子はくつくつと笑うと、さっきまでとは違う背筋がぞくりとするような笑みを浮かべる。
「そうか。お前は兄が好きなんだな」
一瞬たじろいたけど、私は目線を合わせたまま頷いた。
「だいすきです」
それに満足気に頷くと、手近にあったマカロンを一つ掴み口に入れる。さくっと小気味よい音がして、マカロンの半分が消えた。
「オレも、久しぶりに面白いのを見つけたよ」
さらに口角を吊り上げて笑うとマカロンの残りを口に入れ、取り巻きを引き連れて男の子が多くいる輪に近づいていく。
それを確認して、私たち三人は大きく息を吐いた。王女より、王子と話していた時の方が緊張が凄い。手汗をかいたのを感じて、両手のグーパーを繰り返した。
「もうリジー!王女様にあんな物言いをするなんて、不敬罪で囚われていてもおかしくないですからね!?」
そんな私に、後ろからナナの怒気を含んだ声が聞こえる。その声に、『特にあの女の場合』っていう副声音が聞こえた気がして、私は心の中で大きく同意した。
「ごめんね、ナナ。けどあんな女ににいさまを取られたくないわ。」
あんな女、は流石に声を潜めたが、ナナが焦ったように私の口に手を押し当てる。しーっていうジェスチャーをするナナがおかしくて、つい笑い声が漏れる。
「リジーが嫌がってくれて兄は嬉しかったけど、ああいうのは無茶っていうんだよ。かっこいいとか大大大好きとか取られたくないとか、嬉しかったけど」
私の頭を撫でながら兄様も私に釘を刺すように、もうあんなことはしないこと、と言う。それにはぁいと返して、私は近くにあった一口サイズのケーキを頬張る。小さなチョコレートケーキで、ほんのりと甘みが口に広がる。控えめに言ってめちゃくちゃおいしい。もう一つ、と手を伸ばせば、兄様は苦笑した。
「ほらリジー。もうドッジボール一回戦をしよう。令息たちが鼻息荒く待ってる」
やんわりとケーキに向かって伸ばした手を払われ、促される。それに対してもはぁいと返事を返して、自分がドレスを着ていることに気づく。本当は一回戦が始まる前に着替えているつもりだったんだけど、王子たちに捕まってしまったおかげで予定が狂ってしまった。でもただでさえ遅れている一回戦を、これ以上遅らせるのは無理だろう。
私は一つため息をついて、兄様に言った。
「兄様、リジーはちょっと用事があるので先に一回戦を始めておいてください」
兄様の返事を待たず、足の周りを纒わり付くドレスの布を抱え、走りにくい膝のすぐ下まであるブーツで近くの空き室に入る。そこは使われていない一室で、ソフィアにお願いして着替えを置いておいて貰っていた。
手早くドレスを脱ぎ捨てて、服を着替える。靴も変えて頭につけたリボンも外し、長い髪を高い位置でポニーテールにする。鏡の前でくるりと一回転してみておかしな所がないか確認し、その場で側転や転回をしてみる。動きやすいことに満足し、私は部屋を出た。
中庭に戻るとやはり一回戦は始まっており、間に合わなかったかと少し悔しく思う。一番近いテーブルからさっきとは違うバームクーヘンのような一口ケーキを取って口に入れる。おいしくて思わず頬が緩む。そのままいくつかのお菓子を食べていると、試合終了のラッパの音が聞こえた。
その方向に目を向けると、勝ったチームの内野には王子や兄様がいる。相手チームにも内野がいるから、五分の制限時間を使い切った感じか。ざっと参加している子を見渡しても女の子で参加している子は三割程度。それも全員外野にいた。
「リジーもやる!」
その状況が私のドッジボール魂に火をつける。二回戦、という合図が聞こえて、私はさっき負けたチームの中に駆け込む。審判をしてくれているのはネルとケントで、二人の指示に従ってラッパを吹くのはアズとレズの仕事だ。男子二人は駆け込んできたのが声で私だと分かると顔を強ばらせたまま振り向き__私の格好を見て顔を青ざめた。ケントに至っては膝から崩れ落ちる始末だ。
けれどそんな二人とは対象的にアズとレズは私を見て「「お嬢様、かっこいいー!」」と目を輝かせる。
そんな四人を私は笑い、ゴタゴタとしたままアズのラッパで第二回戦が始まる。
私がボールを避ける度に少し遅れて水色の髪が舞う。ボールをキャッチする度にTシャツがばたつき、ボールを投げようと踏み出した足はロングパンツでラインがはっきり分かる。
公爵令嬢らしさが壊滅的な私の格好に中庭にいた全員が唖然とする。兄様だけが試合をしながら面白そうに笑い、見ていた王女は持っていた扇子を取り落とした。
再びラッパの音が響いたのは試合が始まって四分が経った時。__私のチームの完全勝利だった。
その結果に会場はざわめき、いつの間にか大広間から中庭に移動してきていた大人たちの顔にも戸惑いの表情が見られる。
だけど私はそんなこと気にしないで、同じチームだった子たちとハイタッチを交わしていた。
一旦休憩、となりケントたちや話を聞いたウルシュなんかに捕まる前に隠れようと足を踏み出した私の手を、誰かが掴んだ。不思議に思って後ろを見ると、掴んでいたのは金髪青瞳の美青年。王子、と口の中で呟いた。
「君、さっき話したエリザベス嬢だよね」
さっき話していた時の後半と同じような雰囲気で王子は私に問う。聞いていると言うよりは確かめているような感じで聞かれて、私ははい、と頷いた。それにくつくつと笑って、王子は両目をすぅっと細めた。
「やっぱりオレの目は間違ってなかったみたいだ。
__リアンヌに逆らった子が、王子であるオレの腹に思いっきりボールを当てるなんて」
「ご、ごめんなさい。流石に王子様の顔にボールを当てるのはまずいかなぁって」
「いや普通のヤツはオレにボール当てないから」
私は小さくなってもう一度謝った。顔じゃなくお腹に妥協したのに、それでもダメだったのか。でも当てちゃダメってことは、王子と敵チームになったら全滅させれないじゃん……。
私はげっそりとして、王子を見た。けれど王子は、私の考えなんて知るか、とでも言いたげにくつくつと笑っているだけだ。
「エリザベス、だったな。お前はそこら辺の令嬢たちとはいんな意味で違うんだな」
「よけいなおせわです」
私がふんっとそっぽを向くと、こちらにやってくるケントの姿が見える。
見つかったらドレスを着せられてドッジボール禁止令が出るに決まってる。まだこのお茶会は二回戦しかやってない。今終わるなんて勿体ないの極みだ。
「王子、リジーはケントから逃げなくては行けないのです、ごきげんよう」
慌てて王子に挨拶をして、私はテーブルに敷かれた長いテーブルクロスの下に潜り込んだ。
お疲れ様でした。
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