8話 彼女は感情が溢れ出る。
松村くんが私に付き添って保健室まで来てくれた。
保健室の先生は私を見た瞬間に椅子から飛び上がった。そして、まるで瞬間移動でもしたのかと思えるぐらいの速度で私の前に現れた。
保健室の先生は私にソファーに座って休むようにと言ったあと、東田先生と何か話し合っていた。
「大丈夫?」
先生は、優しい声で私の肩に触れながら聞いてきた。
私が頷くと先生は横で一緒に、頷いてくれた。
最初のうちは、何も言えなかった。
喉が詰まったように固まっていて、言葉を出そうとすると息がひっかかる。
胸の奥が重く、まるで見えない何かが押し付けられているようだった。
ただ、身体の感覚だけが過剰に鋭敏になっていて、指先が微かに震えていた。
保健室の先生が優しい声で問いかけてくる。
「ゆっくりでいいからね。」
その言葉に、私はわずかに首を動かした。
でも、喉の奥がひどく乾いていて、何か言おうとしても声にならない。
ほんの数秒の沈黙が、やけに長く感じる。
「……こわかった。」
ようやく出た声は、かすれていた。
その瞬間、自分の心がひどく揺れたのがわかった。
胸の奥がざわついて、過去の記憶がぼんやりと浮かび上がる。
保健室の先生は、何も言わずにただそっと頷いた。
その小さな反応が、閉じかけた言葉を押し開くような気がした。
「……教室が見えたとき、息ができなくなった。
足が動かなかった。
全部が、また始まる気がして……。」
声に出した途端、心臓の鼓動が強くなる。
手のひらがじんわりと汗をかいているのがわかる。
「……ずっと、逃げたかった。
でも、逃げても、何も変わらないから……。」
変わらない。
それが、一番、怖かった。
言葉が途切れる。
息を吐く。
なのに、吐ききれなくて、胸の奥が締めつけられる。
「しんどかった。」
ぽつりと出た言葉に、全身が反応する。
指先の震えが強くなる。
唇が無意識のうちに引き結ばれる。
「ほんとに……しんどかった。」
喉の奥が締めつけられ、息が苦しくなる。
「……こわかった。
ずっと、こわかった。」
その言葉を発した瞬間、視界がぼやけた。
肩が微かに震える。
涙が、流れ始めた。
止めようとしても、止まらなかった。
ようやく、ずっと押し込めていた気持ちが解けていく。
あんなにいじめられて辛かった時も、飛び降り自殺をしようとした時ですらも出なかった涙がどんどんとあふれてきた。
あ、あ、私はとてもとてもこわくてこわくて、しんどかったんだ。と今改めて理解した。




