5話 彼は訪ねた。
「うえさん。先輩に渡された地図的にはここら辺だと思うんだけど、どう思う?」
「いや、あっちゃん。それでよくわかるね。僕にはそもそもその手書きの地図の見方すらわからないよ。」
「いや、見るのは簡単だよ。」
僕は地図を振りながら言った。
「あの人の地図は縮尺だけはきっちりとしてるから。」
ほんとにわけが分からないぐらいまでにどれだけ乱雑に書こうとも赤松先輩の地図は縮尺だけは正確なのだ。
それを理解してるからこそ、僕は迷うことなく住宅街に足を踏み入れていた。そして、僕達は赤松先輩に渡された地図をもとに住宅街を彷徨っていた。
最寄りの駅について最初の方は色々な店があって、冷凍マウスとピンクマウスは買えると思えた。だけど、冷凍商品を買ってこの夏の暑い時期をまだ10時前だとしても歩き回るのは品質を損なうリスクが高すぎると思い、先に星マークのついている場所を訪ねることにした。
実を言うと星マークがついた場所にはもう既に着いてはいる。ただ、どう見ても普通の一軒家でとてもじゃないけど何も知らされてない状態での突撃はしたくない。なので、僕はうえさんが地図を読めないことをいいことに何度もその家の周りをまわっていた。はっきりと言ってしまえばただの時間稼ぎだ。だけど、そろそろ限界のようだ。先ほどから星マークのついた家のカーテンのすき間からチラチラとこちらの様子をうかがっている人がいる。最初は1人だったのにいつの間にか2人に増えている。
僕は覚悟を決めて、その家のインターホンを押した。
通りには人気がなくインターホンのピンポーンの後しばらくの間音がない時間が続いた。
「はーい。」
しばらくすると男の人の声がして、玄関扉が開いた。
中から四十代ぐらいの男の人が出てきた。
僕は息を整えて外部の大人と話す時のモードに切り替えた。
「すいません。僕達山中高校の科学部のものなんですが、うちの部長がこの地図の星マークの家の人にこの手紙を渡して、これを書いてもらってこい。と言って送り出されたんです。この場所で間違えないですかね?」
僕は出てきた男の人に地図を見せながら聞いた。
男の人は地図を見るとしばらくして、頷いた。
「うん。ここであってるよ。」
「そうですか。では、この手紙を受け取ってもらえますか?とりあえず、読んでもらえたらいいので。」
僕はそう言いながら、男の人に手紙を渡した。
男の人は手紙を受け取るとしばらくの間真剣な表情でその手紙を読んでいた。
そして、顔を顰めたり、目を見開いたりとしていた。
「悪いが、少しだけ待っていてくれるか。」
男の人はそう言うと家の中へと入っていった。
そして、そのまま10分ほどが経過した。
再び玄関扉が開くと中から赤ちゃんを抱っこした女の人が出てきた。
「ごめんね。もう少しかかりそうだから、中で待ってて。」
女の人はそう言うと僕たちを家の中へと招き入れてくれた。家に入る直前、僕とうえさんは顔を見合わせたが、これ以上外で待っていれば、熱中症になる危険性もあるし、何よりも笑顔で招き入れようとしてくれている好意を無駄にすることはできないので、
「「お邪魔します。」」
僕達がそういいながら家に入った。
入ってすぐのリビングでソファーの上で膝を抱えながら手紙を読んでいる山本さんの姿があった。
僕とうえさんはその姿に息を飲んだ。そして、赤松先輩の意図を理解した。
「えっ!」
僕は赤松先輩の意図をすべて理解したうえで、そのために練られた準備の良さにびっくりして声を上げると山本さんは顔を上げた。そして、僕たちのことを見ると一瞬彼女の顔がこわばったのが分かった。そして、次の瞬間にはパッと顔を下げて、横に置いてあったタオルケットを頭から被った。
「えっと…」
僕が何と言っていいのか分からずに固まっていると男の人が近づいてきた。
「こちらへ。」
僕達はそう言われて、横の部屋へと案内された。




