4話 彼は部長に報告する。
「先輩。どうしたんですか?」
あっちゃんこと松村淳司は前日の日が変わる直前に受けた連絡を思い出しながら、部室である温室の扉を開けた。
『明日朝8時から部活をする。集合』
ただそれだけの連絡だった。僕は指示に従い、部活開始の10分前に来てみたが、すでに先輩がいた。
「これ。」
「何ですか?」
僕は先輩から差し出された紙を受け取りながら聞いた。
「で、クラスはどうなった?」
先輩は僕の問いかけを無視するように聞いてきた。
「クラスは35人中13人が停学または反省文を提出する罰を受けました。」
「そうか。」
僕の返答に先輩はそっぽを向きながら答えた。
「ところで、これは何ですか?」
僕が改めて問うと先輩は僕の顔を見た。
「地図。そこに行って冷凍マウスを10匹買って来てほしい。あと、ついでに星マークを付けている場所を訪ねてこの紙を渡して書いてもらってきて。」
先輩はそう言いながら紙を1枚渡して来た。
僕はそれを受け取って見ると、それは入部届だった。
「えっと…これは?」
僕が聞くと先輩はそっともう1枚紙を差し出してきた。
「これをその家の人に読んでもらってから、書いてもらってきて。」
先輩はそれだけ言うと再び目の前に置かれたアライグマの死体をゴム手袋をつけて触り始めた。
「あの…。」
僕が問いかけたが、先輩はもうすでに自分の世界に入ってしまって反応してくれなかった。
「あ、うえさん来た。」
しばらく待っていると、植松くんがやって来た。植松くん通称うえさん。先輩がそう呼び始めたので僕もそう呼んでいる。
「これは、どういう状況?」
うえさんはそっと先輩の方を指差しながら聞きてきた。
「ああ、それはね。いつも通り部長の世界へと消えていった。」
「うん。それは見れば分かる。
そうじゃなくて、その…」
うえさんは言い淀んだ。理由はすごくよく分かる。だって、先輩はいつの間にかアライグマの首元を切って血をドバドバとしていた。一体何をしてるのだろうか?
「まあ、いいや。」
うえさんは静かに言うとジョウロを持って栽培しているゴ―ヤやトマトに水をやりに行った。
そんなうえさんを見ながら、僕も軍手をつけて草を抜きに行った。やまちゃん先輩が来るまではここはやることがない。というか、やまちゃん先輩が来た時に自分の世界に入り込んでいる先輩を見たら間違えなく逃げ出してしまう。あ、いやあの先輩ならにこにこしながら横で自分の世界に入ってそう。そうなると、ここは、カオスになるよね。
そんなわけで待っているとやまちゃん先輩がやって来た。
「おう。おはよう!」
やまちゃん先輩はそう言いながらやってきて、先輩を見て1度頷くと飼育しているカメやメダカ、コイ、フナと言った魚類に餌をやり始めた。
だけど、お願いなのでにやけながらトノサマガエルに餌をやらないでほしい。はっきり言って身長が190超えで体重も120kgはある筋肉ムキムキの人がにやけながらトノサマガエルに餌をやっていて、その横で真剣な顔でアライグマの内臓を取り出している先輩という組み合わせはどんな人でも見たら逃げ出すと思う。
「あ、そうだ。
赤松に言われたと思うけど、冷凍マウス10匹とピンクマウスを数匹頼むわ。後、あっちゃん。こいつからもらったと思うけど、あれ書いてもらってきて。」
やまちゃんはそう言うと、1番大きな水槽に網を入れて中を優雅に泳いでいるアユとオイカワをすくって横のバケツに入れていた。どうやら水換えをするようだ。
僕とうえさんは、顔を見合わせると静かに頷いた。
「それじゃあ、買い物へ行きますか。」
僕達はそう言って静かに温室の扉を閉めて買い出しへと出かけた。




