表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪直前の悪役令嬢、領地の税帳を読み上げただけで王子派閥が崩壊しました  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/50

半刻早い机印は、兄の外套が夜門をくぐる前に返書を読めません

夜門の外側には、晩餐会の音が届かなかった。


代わりに聞こえるのは、馬の鼻息と、濡れた外套から落ちる水の音だった。帰着馬溜まりの細い庇の下で、馬丁の少年が革紐を握りしめている。


リオネル帰着予定馬。


外套受取札。


交替馬丁半刻待機賃。


三枚の札のうち、上の二枚だけに「済」の朱が押されていた。


「リオネル様の机印写しは、半刻前に使用済みです」


王子府の式典係が、内門からまだ同じ紙を掲げた。


「したがって返書は読了扱い、兄君の所在も事務上は帰着済みとしてよろしいかと」


馬丁の少年が、外套受取札を胸に抱えた。


「ですが、外套はまだ戻っていません。替え馬も、まだ汗を拭いていません」


その声は小さかった。けれど、帳簿には十分だった。


わたくしは夜門帰着簿を木机に開いた。墨の濃い一行を、指でなぞらず、隣へ新しい欄を引く。


机印使用時刻。


本人帰着時刻。


外套受取時刻。


馬丁交替時刻。


「机は、外套を着て門をくぐりません」


式典係の眉が跳ねた。


「何を当然のことを」


「当然なら、当然の欄に分けます。机印が半刻前に使われたことは、リオネル様が半刻前に返書を読んだ証拠ではありません。外套が戻らず、替え馬が休めず、馬丁の交替賃が閉じられていないなら、その帰着はまだ生活へ届いていません」


アレン様が返書筒を抱え直した。


「兄上の名を、先に読了へ使わない」


ミリア様は、夜門待機札の端に自分の名を書いた。


「わたくしも、兄の机印を理由に返事を済ませません。兄が帰ったか、外套を受け取った人が言えるまで待ちます」


馬丁の少年が息を吸った。


「では、待機賃は……」


「半刻分を保留ではなく、待機中として記録します」


わたくしは交替馬丁半刻待機賃の札へ、青い線を引いた。


未払いではない。


未完了でもない。


返書読了のために消してよい時間ではない。


シェリア様が濡れ外套掛けを庇の奥へ動かした。北方使節の従者が、そこへ自分の外套を一枚掛ける。


「戻る者の外套を待つ場所があるなら、返事を待つ者の場所も残ります」


門番が、帰着灯を一本、馬溜まり側へ移した。内門ではなく、外套掛けと替え馬のあいだに置く。


灯の下で、馬丁の少年は自分の名を書いた。


「セリム。替え馬担当。リオネル様の外套、未受取」


名前が入った瞬間、式典係の「帰着済み」は、ただの朱印になった。


わたくしは机印写しを青札で封じる。


机印使用半刻早。


本人帰着未照合。


外套未受取。


馬丁待機賃継続。


「この四つが揃うまで、返書は読了済みになりません」


そのとき、帰着簿の下段に貼られた薄い控えが、夜風でめくれた。


リオネル外套受取人欄。


そこには、兄の名ではなく、ローゼン商会臨時荷受人の略印が押されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ