表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪直前の悪役令嬢、領地の税帳を読み上げただけで王子派閥が崩壊しました  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/50

代読可の机印は、夜門の封蝋を割る前に返事を閉じられません

夜門の鎖が、半分だけ下ろされていた。


晩餐会場の灯りはまだ遠く、ここでは皿の銀ではなく、馬車灯の油が数えられている。門番が木札を二枚、外套の袖で押さえていた。


北方使節待機札。


温石返却籠。


その横に、割られていない返書筒が置かれている。北方の封蝋は冷たいままだった。


「代読可の机印がございます」


王子府の式典係が、夜門の内側で声を高くした。


「リオネル様の机印写しにより、返書内容は進行側で確認済み。本人読了を待たず、温石を返却籠へ入れ、夜門を閉じられます」


門番の手が、鎖から離れなかった。


「返却籠へ入れると、使節待機終了です。馬車灯も一本、消します」


シェリア様がその一本を見た。夜門の外では、北方使節の馬車がまだ動かない。灯が消えれば、彼らは返事を待つ場所を失う。


ミリア様は封蝋を見つめたまま、胸の前で手を組んだ。


「……わたくし、まだ読んでいません」


「ですから代読可です」


式典係は薄い写しを差し出した。底に、小さく押された机印がある。


リオネル机印写し。代読可。


わたくしは、その紙を受け取らず、門番の木机の上へ置かせた。


「代読可を、三つに分けます」


夜門の風で、灯油札が少し震える。


「封蝋を割った者。声に出して読んだ者。読まれる人が待てる状態を残した者。いま、この三つのうち確認できるのはどれですか」


式典係は言葉を詰まらせた。


アレン様が、返書筒へ手を伸ばした。けれど封蝋は割らない。彼は先に、返書席札の裏へ自分の名を書いた。


「読んでいない返書に、僕の返答は乗りません」


その一文を、門番が読み上げる。


ミリア様も、夜門待機札を引き寄せた。


「私は、読まれていない返書へ返事をしません。返事をしないために黙っているのではなく、読む時間を待っています」


彼女の字は震えていた。けれど、三音管の音ではなかった。本人の手だった。


シェリア様は馬車灯の油札に、小さく追記した。


「帰る者の灯は、代読済みで消さない」


門番が、初めてうなずいた。


「ならばこの灯は、返答待機中の灯です。閉門灯ではありません」


式典係が机印写しを取り戻そうとした。


「しかし、リオネル様の机印が」


「机印は、机がどこにあったかを示します。本人がどこで読んだかは示しません」


わたくしは青い保留札を一枚、机印写しの角へ重ねた。


机印本人所在未確認。


代読効力保留。


封蝋未開封。


「この紙は犯人名ではありません。誰かの机が、誰かの返答を先に閉じようとした証拠です。消してはいけません」


北方使節のひとりが、厚い手袋のまま胸へ手を当てた。


「待つ側の夜も、記録に入れていただけますか」


「入れます」


わたくしは温石返却籠を、門番の足元から使節席の火鉢の前へ戻した。


「温石は返却済みではなく、返答待機中。蜂蜜水は即答用ではなく、本人が読んでから声を出すためのもの。馬車灯は閉門の灯ではなく、帰る人と待つ人の灯です」


門番が木札を三枚に分けて、夜門の柱へ掛け直した。


封蝋未開封。


本人読了待ち。


帰路灯保持。


鎖はそれ以上、下りなかった。


ミリア様は蜂蜜水を受け取り、飲まずに両手で包んだ。


「急いで返事をするためではなく、あとで読める喉を残すために」


「はい」


アレン様は封蝋に指を置いたまま、夜門帰着簿を見た。


「この机印写しが使われた時刻を、帰着簿と照合してください。リオネル様の机が読んだというなら、その時刻、本人はどこにいたのか」


式典係の顔から色が抜けた。


帰着簿の一行だけ、墨が濃い。


リオネル机印写し使用時刻。


本人帰着記録より、半刻早い。


夜門の灯は残った。


けれど、閉じられなかったのは返書だけではなかった。机にいるはずのない人の印が、門の内側で、先に返事をしたことになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ