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断罪直前の悪役令嬢、領地の税帳を読み上げただけで王子派閥が崩壊しました  作者: 花守りつ


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配膳責任者読了済みは、声合わせ鈴を本人の返事にできません

乾杯前の声合わせ台には、料理より先に音が並べられていた。


銀の小鈴が三つ。復唱譜が一枚。料理温度札が五枚。北方返書筒と、候補者本人返事欄の写しが、同じ黒革の台紙に重ねられている。


配膳責任者のマルクは、白手袋の指を鈴の紐へかけたまま動けなかった。


台紙の右上には、前の配膳順札から転写された一行がある。


――配膳責任者読了済みとして扱う。


式典係は笑みを薄くした。


「責任者が鈴を鳴らせば、席全体の読了確認になります。料理は冷める前に声を合わせるものです。候補者様も、第二候補様も、北方使節も、進行に遅れは出ません」


「鈴の音は、誰の返事ですか」


エレノアは鈴へ触れず、台紙の下へ料理温度札を一枚ずつずらした。


一枚目は北方使節席の肉皿。添えられた指温石は、まだ布の中で半分しか温まっていない。


アレンは返書筒の封蝋を押さえ、低く言った。


「私の指が返書を読めるまで、この筒は読了済みではありません。配膳責任者の鈴で、北方の返事を鳴らさないでください」


二枚目は候補者席の薄粥。復唱譜には、食前礼の文言と本人返事欄が細い線でつながれていた。


ミリアは譜面の端を震える指で押さえた。


「礼の言葉は、返事の声ではありません。私が唱える前から、配膳責任者の鈴で私の声を作らないでください」


三枚目はシェリアの携行食だった。食べ残し棚へ回す朱線は、前話の青い保留札で止まったままだ。


シェリアは小さく息を吐き、紙包みの横へ自分の名を置いた。


「帰宅確認が終わるまで、これは私の帰り道です。鈴が鳴っても、帰ったことにはなりません」


マルクの喉が上下した。


彼は式典係を見た。責任者の鈴を鳴らせば、会場は進む。鳴らさなければ、料理が冷めた責任は彼の名で残る。


エレノアは台紙の空いた欄へ青線を引いた。


「責任とは、他人の声を先に読む権利ではありません。あなたが見たものだけを書いてください」


マルクは白手袋を外した。


鈴の紐から指を離し、料理温度札の一番下へ、震える字で書く。


――配膳責任者マルク。料理の到着と温度のみ確認。候補者本人の声、第二候補の帰宅、北方返書の読了は未確認。


式典係の顔色が変わった。


「それでは進行表第二束が閉じません」


「閉じない束が、今夜の安全です」


エレノアは銀鈴を三つ、台紙の端へ並べ替えた。鳴らさない鈴にも、役目はある。まだ読まれていない声を、勝手に済ませないための重しになる。


アレンの指温石はもう少し温まり、ミリアの礼の言葉は返事欄から切り離され、シェリアの携行食は帰宅確認未了のまま台へ残った。


マルクは初めて、息を吸ってから自分の名前を読み返した。


そのとき、声合わせ台の裏面から薄い紙片が滑り落ちた。


――王子府式典声譜係。第二束標準声写し。配膳責任者・候補者・第二候補・北方返書、同音扱い。


ミリアが唇を結んだ。


エレノアは紙片を折らず、青い保留札の下へ挟む。


「次は、標準の声という言葉が、誰の沈黙を同じ音にしたのかを読みます」

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