表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪直前の悪役令嬢、領地の税帳を読み上げただけで王子派閥が崩壊しました  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/50

配膳前読了済みは、銀盆の温度より先に書けません

晩餐会場の脇廊下には、拍手より先に湯気が並んでいた。


磨かれた銀盆が三つ。蓋の縁にはまだ水滴が残り、肉皿の香草、薄粥の白い湯気、紙包みの温かさが、それぞれ別の時刻を持っている。


配膳小姓のルークは、三つを一枚の進行表へ載せようとして、指を止めた。


進行表の欄外には、乾き棚から移された細い文字がある。


――写し番号二十七、食事配膳前に読了済みへ編入。


式典係が羽根ペンを差し出した。


「盆が席へ着けば、読了前提で進められます。温かい料理を止めるのは非礼です。北方使節にも、候補者にも、第二候補にも、同じ順で運びなさい」


「同じ順で運ぶと、誰が先に食べたことになりますか」


エレノアは銀盆に触れず、蓋の温度を一つずつ指先の横へ写し取った。


一つ目の肉皿は、北方使節用だった。封筒を読めるようにと添えられた指温石は、まだ布の中で温まりきっていない。


アレンはその布を押さえ、配膳順札の横へ自分の名を書いた。


「返書を読む指が戻るまで、食事開始印は押しません。肉皿の湯気で、返事を読んだことにはしないでください」


二つ目の薄粥盆には、候補者席用の小さな銀匙が添えられていた。食前礼の唱和欄が、ミリアの本人承認追記欄へ細い線でつながれている。


ミリアは銀匙を取らず、唱和欄の下へ短く書いた。


「礼の言葉は、承認の声ではありません。私は、食前礼を本人読了へ転用させません」


三つ目の紙包みは、第二候補帰宅待ちの携行食だった。シェリアの帰宅確認札が未了のまま、食べ残し処理棚へ回す朱線が引かれている。


シェリアは紙包みを胸へ抱えず、盆の横に青い保留札を立てた。


「これは食べ残しではありません。帰宅確認が終わるまで、帰る人の携行食です」


ルークの喉が小さく鳴った。


彼は羽根ペンを受け取り、進行表ではなく配膳順札に自分の名で一行を書いた。


――三盆一括不可。読了、承認、帰宅確認、各本人到着待ち。


「小姓の判断で止めたことになりますが」


式典係の声が低くなる。


「いえ」


エレノアはルークの名の横に、青い細線を引いた。


「小姓が、盆の到着条件を読めるようにしただけです。料理は冷めます。けれど、読んでいない返事、言っていない承認、帰っていない人を、温かいうちに済ませることはできません」


湯気は少し薄くなった。それでも、三つの盆はまだ生きている手順として残った。


アレンの指温石が温まり始め、ミリアの礼の言葉は礼のまま保全され、シェリアの携行食には帰宅確認未了の札がついた。


ルークは震える字で、もう一つ小さな丸をつける。


配膳順札の裏に、見慣れない部署名が浮き出ていた。


――候補者本人承認追記・北方返答封筒、晩餐会進行表第二束へ統合。配膳責任者読了済みとして扱う。


エレノアは銀盆の蓋を戻した。


「次は、誰が配膳責任者として、人の声まで読んだことにされたのかを読みます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ