写し番号二十七は、誰の夕食前に乾かす返事ですか
返書写し台の奥には、紙を置く机ではなく、紙を乾かす棚があった。
細い銀の砂時計が、晩餐会開始までの残りを静かに落としている。棚板の上には、返答不要印台、乾き砂皿、青い封筒糊の粉、そして紐で結ばれた貸出票控えが並んでいた。
控えの端には、薄い角印の跡だけが残っている。
――リオネル机印、返答不要印台へ貸出済み。返却時刻、晩餐会開始前。
式典係は、砂時計を指で弾いた。
「印台は返却予定です。晩餐会前に乾いた文書は、進行表へ編入できます。兄君の机印も戻りますから、本人承認追記予定は問題ありません」
「戻るのは印台ですか。それとも、机の持ち主ですか」
エレノアは貸出票を破らず、角印の跡へ青い細線を引いた。
「貸出中の印は、本人の机が読んだ証拠ではありません。乾いた順に承認へ編入するなら、まず乾かそうとしている生活を読ませてください」
乾き棚の一段目には、北方返答封筒があった。封蝋は割れているが、返答者名の欄はまだ空白だ。
アレンが封筒を両手で持ち直す。
「これは使節本人の返答です。私の通訳控えが乾いても、使節の名はまだ入りません」
二段目には、候補者本人承認追記予定と書かれた小札があった。ミリアの名を書く余白に、砂が薄くかけられている。
ミリアはその砂を払わず、余白の下に自分で一行を書いた。
「封筒を読んでから返します。兄の机印で、私の返事を夕食前に乾かさないでください」
三段目には、第二候補帰宅馬車の時刻札が挟まっていた。返答保留中のまま、晩餐前配膳係へ引き渡し、と細字である。
シェリアは唇を結び、時刻札を小さな真鍮台へ移した。
「私は帰る確認をしてから食卓に戻ります。返事が乾いたことにされても、私の帰宅馬車と外套がまだここにあります」
エレノアは、三段の棚の前に青札を三枚置いた。
北方返答封筒――返答者名未記入。
候補者本人承認追記――本人未読。
第二候補帰宅時刻――帰宅確認未了。
「写し番号二十七は、同じ番号でも同じ生活ではありません。返事、承認、帰宅。どれも夕食前に砂で乾かしてよいものではありません」
式典係が声を尖らせる。
「では、リオネル様の机印はどう扱うのです。貸出欄に名がある以上――」
「犯人欄には入れません」
エレノアは静かに遮った。
「机印本人不在札を立てます。机の印がここへ来たことと、リオネル様が誰の返事を読んだかは別です。別にしなければ、兄の不在も、妹の承認も、北方の返答も、全部同じ砂で固まります」
アレンが封筒糊の粉を保全紙へ包み、ミリアが本人未読の青線を小札へ引く。シェリアは帰宅時刻札を胸元へ戻さず、真鍮台に立てたまま自分の名を書き足した。
砂時計の最後の粒が落ちる前に、乾き棚の三段は閉じられなかった。
食事が始まる前に、返事を終わったことにしない。
それだけの小さな青札が、晩餐会前の廊下で三つ灯った。
その時、乾き砂皿の下から、さらに薄い順番紙が滑り出た。
――写し番号二十七、乾燥順指定。
一、北方返答封筒。
二、候補者本人承認追記。
三、リオネル机印返却確認。
ただし食事配膳前に読了済みへ編入。
エレノアは順番紙を青布で覆い、まだ乾かない墨の匂いを確かめた。
「次は、誰の食事盆が、誰の読了より先に運ばれようとしているのかを読みます」




