リオネルの机印は、本人が帰る前に夜門積載を済みにできません
夜門の積載台には、まだ温乳の湯気が残っていた。
候補者馬車の脇に置かれた毛布は二枚。ミリアとシェリアが帰るためのものではない。北方返書便を待つ馬丁が、夜明けまでここで眠らずに立つための仮寝毛布だった。
「積載確認済み、九刻三分」
セリムが読み上げた札には、リオネル・アシュベリーの机印が押されている。
だが、馬丁が首を振った。
「その時刻、リオネル様の馬車は戻っておりません。夜門の帰着札にも、まだ名がございません」
エレノアは積載札を破らなかった。青い紐で札の角だけを留め、隣に空欄の帰着札を置いた。
「机が戻っても、人は戻ったことになりません。机印は、本人の帰着と夜門の生活到着を同時に読んだ責任を示すものです」
ミリアの指が、兄の印影の上で止まった。
「兄が押したのではなく、兄の机が押したことになっている……?」
「まだ断じません。けれど、未帰着の人の机印で、毛布も温乳も馬丁の待機賃金も閉じられません」
エレノアは税帳を開き、積載済みの行を三つに割った。
一、北方返書便の灯油。
二、夜門待機者の仮寝毛布と温乳。
三、リオネル本人の帰着確認。
「この三つがそろうまで、積載確認済みは生活到着未完了です」
イーダが温乳の壺を抱え直し、ノラが毛布の端に小さな札を縫いつける。馬丁は震える指で、自分の名と半刻分の待機賃金を帰着待ち欄へ書いた。
「馬は出せますか」
シェリアが問う。
「候補者を帰す馬車は出せます。北方の返書を積む馬車は、返書を受け取る名が来るまで出しません」
エレノアが答えると、ミリアは兄の印の横に自分の名を書いた。
「リオネルの机印を、私の兄の罪名で埋めないでください。まず、兄が帰っていないことを、帰っていないまま守ってください」
その一行で、夜門の空気が少しだけ変わった。
犯人を呼ぶためではない。帰っていない人の席を、帰ったことにしないための署名だった。
財務卿が、積載台の奥に立てかけられていた小箱を見つけた。箱には王子府式典倉庫の赤い封緘があり、表札だけが新しい。
――リオネル私室机、九刻前返却済み。
エレノアはその表札を読んで、青い紐をもう一本取った。
「では次は、戻ったはずの机が、どの扉から夜門へ来たのかを読みます」




