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断罪直前の悪役令嬢、領地の税帳を読み上げただけで王子派閥が崩壊しました  作者: 花守りつ


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死者代理欄は、北方の返事を候補者馬車へ積めません

返書札の裏に浮いたガレン・リードの名を、夜門の灯は青く照らした。


馬丁が息をのむ。


「ガレンさんは、去年の冬に橋番所で亡くなっています。兄の交代表にも、弔いの薪代が残っています」


それでも侍従は、濡れた札を候補者馬車の荷台へ戻そうとした。


「代理欄です。北方では亡くなった者の名を慣例的な箱名に使うことがあり――」


「慣例なら、誰が返事を読むのですか」


エレノアは荷台の端へ手を置いた。馬車には、ミリア様とシェリアを帰すための外套、温乳の小壺、夜門札が二人分そろっている。けれどその隣へ、死者の代理欄を積めば、北方から来るはずの声まで「帰ったこと」になる。


「候補者馬車は人を帰すものです。死者の名で返事を閉じる箱ではありません」


セリムが夜門通過簿を二枚に分けて置いた。


一枚目は候補者帰還馬車。ミリア様、シェリア、外套二着、温乳二つ、馬丁名あり。


二枚目は北方返書便。第三見張り小屋、凍傷薬箱封蝋、灯油一灯、受領者空欄。そして、ガレン・リード代理欄。


イーダが薬箱封蝋札を指で押さえた。


「薬箱は、亡くなった方の代理欄では飲めません。今夜読む人の名がないなら、温乳と同じ盆へ乗せないでください」


シェリアは白手袋を外し、返書便の行へ自分の名を書き添えた。


「私はこの馬車で帰ります。でも、私の帰還時刻で北方の返事を済みにしないでください」


ミリア様も青札へ筆を落とす。


「候補者帰還と北方返答は別の生活到着条件です。私は、死者代理欄を読了済みにしません」


その一行で、夜門の空気が少しだけ変わった。二人は敵対候補ではなく、同じ荷台へ載せられそうになった未完了の返事を、別々の名で押し返した。


エレノアは濡れた札を閉じず、青い保留板へ移した。


――ガレン・リード代理欄、本人死亡後のため閉じない。


――北方返書便、現受領者名確認まで未完了。


――候補者帰還馬車、飼葉出所分離済み。帰還は継続。


馬丁には、候補者馬車を門の内側で半刻だけ待機させるよう命じた。待機賃金は飼葉袋からではなく、王子府夜門予備銭から仮払いにする。彼の兄が北方へ送る短い証言も、返書便の灯油札に結ばせた。


「返事を待っている人の名を、死者の箱へ戻さないでください」


馬丁の声は震えていたが、青い札にははっきり残った。


侍従は唇を噛む。


「その保留板は、王子府礼法監の処理済み印に反します」


「処理済み印が反しているのは、生活の到着条件です」


エレノアは濡れた代理欄を拭き取らなかった。死者の名は、犯人を飾るためではなく、閉じてはいけない返事の席として残す。


そのとき、札の端に押された小さな薔薇略印の下から、もう一つの角印がにじんだ。


――リオネル机印、夜門積載確認済み。


時刻は、ミリア様とシェリアがまだ外套棚の前にいたはずの九刻三分だった。

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