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魔法使いの旅には人がつきもの  作者: あましん てく
最終章 魔法使いの旅には人がつきもの
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5話 機械は小さな一歩を踏み出していた

未来を変える一歩を踏み出す少年と少女の物語

 4月 午前9時24分


 朝は人の往来が特に多い。


 ジェニたちが立ち寄ったカフェのテラス席、その近くに浮かぶホログラムには、速報が表示されていた。


 ――『最新型ヒューマノイド研究中止 有名開発者に捜査令状』


「何が気に入らないのかねぇ」


 近くの席から、若い男の声が聞こえた。


「研究中のヒューマノイドには、心があるって話だ」


 向かいに座る丸眼鏡をかけた男が、ホログラムを見上げた。


「何だそりゃ。機械に心なんかあるわけねぇだろう」


「そうかな……」


 ロボットが運んできたサンドウィッチを両手で小さくかじりながら、結城澪(ゆうきみお)は不服そうに(?)人工皮膚の眉間に皺(しわ)を寄せていた。


「うーん! やっぱり、ここのオムライスはいつ食べても美味しいねぇ」


「朝食は済ませたんじゃなかったのか? あと、散歩をするんじゃなかったのか?」


「少し歩いたら僕の腹が減ってね。あと、澪ちゃんがまだ何も食べていないようだったからさ」


「いや、澪は食べなくても問題は……」


 ちらっと、ミティックの目が隣の澪を捉えた。


 さっきよりも深く眉間に皺(しわ)を寄せ、丸テーブルに肘をついていた。

 片手でグラスを握り、残り少ないクリームソーダを『ズズーッ』と音を立てながら啜っていた。

 その背後には、黒いオーラのようなものが、ぐるぐると渦巻いていた。


 ストローから口を離すと、澪は――愛らしくも禍々しい雰囲気を放って言った。


「人間、うるさい」


「えっ」


「あ、違った。あ(・)の(・)人(・)た(・)ち(・)、うるさい」


 言い直したところで、意味は殆ど変わらない。

 ミティックは紅茶のカップを持ったまま、珍しく困惑した。ジェニは久方ぶりの外食に夢中らしく、銀のスプーンでオムライスを次々に口へと運んでいた。


「き……気になるなら、聞いてやろうか? 僕も、お前が気にしていることは知りたいからな」



 〇 〇 〇



  4月 午前9時29分


 カップをソーサーに置き、席から立ち上がると、ミティックは近くのテラス席の男たちへ話しかけた。


「ニュースについて?」


「ああ。声が聞こえて、少し気になった」


 2人の男は、顔を見合わせると、自然とミティックの左腕についた銀の時計へ視線を移した。

 派手な赤色のパーカーを着た男が、キャップの鍔(つば)をいじりながら、わずかに顔をしかめた。


「俺たちも詳しくは知らねぇよ」


「それでもいい。教えてほしい」


 ミティックは空いている椅子を両手で引き、2人の間に腰を下ろした。

 するともう1人の、チェック柄のシャツを着た男が、丸眼鏡のブリッジを整えてから話し出した。


「研究中止の指示と、黒石真琴(くろいしまこと)さんという開発者に国の捜査が入るって話だよ」


「くろいしまこと?」


「黒石真琴さん。既存の自立型ヒューマノイドを、一般企業や個人でも扱える技術にしたすごい人だよ。ただ、彼が試作した新しいヒューマノイドには心があって、捜査対象はたぶんそこだろうな」


 丸眼鏡の男は低く答えた。


「お前が機巧(きこう)で働いてたのは知ってるけど、やっぱ信じらんねぇよ。夢見んのはいいけどさ」


 パーカーの男に突っ込まれ、丸眼鏡の男は弱々しく相槌(あいづち)を打った。


「うん……」


 丸眼鏡の男は、分厚いパンケーキのてっぺんにのった正方形のバターがとろけていくのを眺めた。ミティックが次の言葉をじっと待っていると、男はふと顔を上げて言った。


「あぁ……えっと。実は俺、昨日までその黒石真琴さんがいる機巧(きこう)って会社で働いててさ。今日、辞めたばかりなんだ」


 ミティックは、首を傾げながら尋ねた。


「なぜ、辞めたんだ?」


「それは俺も気になるなぁ」


 嫌味っぽくミティックを見ていた派手な赤色のパーカーを着た男が、わざとらしく頷いてみせた。


 丸眼鏡の男は少しだけ笑った。


「俺は、学生の頃に黒石さんの研究を知った時から、機巧(きこう)で働こうと決めたんだ」


 その声には、名残惜しさのようなものが入り混じっていた。


「でも、例の試作ができてから、会社は研究よりも『誰の権限で、どう管理するか』って話ばかりになった。俺のやりたいことも、だんだんできなくなってさ」


 丸眼鏡の男は、紙煙草を取り出すつもりで胸ポケットへ手を入れた。

 しかし、触れた指先の感触に男の動きがぴたりと止んだ。


「どうした?」


 ミティックが、沈黙する丸眼鏡の男の顔を覗くように見上げた。

 丸眼鏡の男は胸ポケットから徐(おもむろ)にそれを取り出すと、しばらく見つめて言った。


「……カードキー、返すの忘れてた。ちょっと行ってくる」


「電話で呼び出しておいて、次は急用かよ。俺は都合のいい男ってか?!」


「悪い! 今度いい店で奢るからさ!」


「仕方ねぇなぁ……焼肉で手ぇ打ってやる」


 丸眼鏡の男は、お冷を一気に飲み干してから席を立った。


「じゃぁ、またな!」


 2人に手を振り、丸眼鏡の男は小走りでその場から去って行った。

 遠ざかる背中と、殆ど手つかずのパンケーキを、ミティックは黙って交互に見つめた。


「んじゃ、俺も行くわ。配信しねぇと」


 派手な赤色のパーカーを着た男は、芝居っぽく軽く手を上げて席を立つと、そのままどこかへ行ってしまった。


「ああ。教えてくれて、ありがとう」


 返事をしながら、再びパンケーキへ目を落とした。


 ――食べても、いいのだろうか。


 数秒後、甘味への未練をひとまず断ち切り、ミティックは席へと戻った。

 ジェニは、戻ってきた息子の顔を確かめるように一度だけ視線を向けた。


 ミティックは席に着くなり、男たちの言葉を思い返すように、両手を顎に添えて考え込んだ。

 その隣の澪の眉間の皺(しわ)は多少、浅くなっていた。しかし、まだ悶々としているのか、リスのようにサンドウィッチを頬張っていた。


 ジェニはそんな彼らを見守りながら、静かに食事を終えた。


「――じゃあ、そろそろ行こうか」


 そう言ってから、ジェニは右腕の時計を一瞥(いちべつ)して席を立った。時刻は午前10時を指しており、オムライスは綺麗に平らげられていた。


 レジが置かれたカウンターで会計を済ませるジェニの側には、澪が立っていた。

 その表情は、すっかり和らいでいた。


「食べなくてよかったのかい? 甘いものは好きだろう。パイとか」


「他人の食べかけに手をつけるほどではない……待て、どうしてパイが好物だと知っている」


「我が子の好きな食べ物を知っているのは、親として普通だろう?」


 釈然としない様子で唇を小さく尖らせるミティックを連れて、ジェニたちは散歩を再開した。


 その頃、『機巧』の研究施設には国の捜査の手が迫っていた。


 ――丸眼鏡の男は、カードキーを持ち、機巧(元・職場)へと向かっていた。

【次の更新】

仕事をしながらのため、不定期になります


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