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第2章 イシスの影 5

 「どうした、マクシミヌス?急に不気味な笑いを浮かべて!アンジェリーカを養女にする決心が付いたのか?」

 ラーマクリオスは、マクシミヌスの顔を覗き込んだ。

 マクシミヌスの不気味な笑いは、更にその不気味さを増した。

 「ふっふっふ、ラーマクリオス君。俺はい事を思い付いたのだよ」

 「良い事だと?勿体振もったいぶらずに早く話せよ」

 「これが上手く行けば、四方しほうが丸く収まる」

 「四方?オレとお前とアンジェリーカと・・・もう一方は誰だ?」

 ラーマクリオスは、マクシミヌスの言葉に首をかしげた。


 「ベリガウス殿さ」

 「ベリガウス殿だと?それは一体、どう言う事だ?」

 マクシミヌスは、又、ふっふっふと笑いたく成ったが、それは流石に執拗過しつこすぎるので止めにした。

 「ベリガウス殿は愛する孫娘のサフィーネが俺に館に越して来たから、言葉には出さないが精神的には寂しい筈だ。それにこれからは、ダンケも我が館で暮らすからな」

 「ダンケとは誰だ?」

 「ああ、お前はだ知らなかったな。ダンケはサフィーネの愛犬だ」

 「う~ん・・・」

 「そこで、アンジェリーカを養女にして貰って、ベリガウス殿の寂しさを慰めて差し上げるのだよ」

 「何だと!」

 ラーマクリオスはマクシミヌスの提案に、心底、驚いた表情に成った。


 「サフィーネはこれまで通り、週に一度はベリガウス殿の元に行かせるが、サフィーネは俺の許嫁いいなづけだから、ベリガウス殿の性格だと何かと彼女に気を遣うだろう?」

 「う~ん・・・」

 「何か不満が有るのか?ラーマクリオス。先刻からうなってばかりだが」

 「いや、ベリガウス殿の養女なら不満が有るどころか願ったりだ。お前の養女に成るよりずっと安心だし・・・」

 「おい、それはどう言う意味だ?」

 「アンジェリーカがお前の養女に成って、お前の館に泊まる事にでも成って見ろ?お前の事だから彼女に夜這いを掛け兼ねん」

 「あのなぁ」

 こんな大変な頼み事をしに来ているのに、良く俺に変態扱いが出来るな!

 「あっ、冗談だよ、冗談。お前を揶揄からかうのが楽し過ぎて・・・すまん。いずれにしても、一番の問題はベリガウス殿がアンジェリーカを養女にして呉れるかどうかだ。何かとベリガウス殿が困られるかも知れんしな」

 「確かにそれが問題では有るが・・・そうだ、アンジェリーカには林檎を買い占めさせる能力以外に、何かの特技は無いのか?」

 「マクシミヌス君、あのね、林檎はオレが勝手に買ったの!まあ、良い。アンジェリーカは若いが、あれで料理に関しては腕が良い職人なんだ!」

 ラーマクリオスは、誇らしげにそう言った。


 「何だって?アンジェリーカが料理人?」

 「そうだ。去年、アンジェリーカがエディルネに戻って来るまでは、5年間もローマのピアチェーレの厨房で修行を積んでいたんだ」

 「ピアチェーレ?宮中からの注文も受けると言う、あのローマ随一のレスタウラントゥム 、栄光のピアチェーレなのか?」

 「そうだが」

 それを聞いたマクシミヌスの顔が、一瞬で明るさを増した。

 「そうかそうか。ラーマクリオス、アンジェリーカ嬢を直ぐここに呼びなさい!」

 「おいおい、どうしたんだ?マクシミヌス。急に」

 「ここエディルネ市には、信頼が置けるローマ料理の店が無いだろう?だから、俺達の披露宴でどんなローマ料理を出すかを悩んでいたんだ」

 「そう言う事なら、アンジェリーカはきっと頼りに成るぞ」

 「彼女の養女話は後回しだ。先に俺の問題から解決するぞ」

 「ちぇ、分かったよ。どうせ、お前にはアンジェリーカを会わせる積りでいたからな。ここで待っていろ」


 暫くして、この部屋にラーマクリオスと共に入って来たアンジェリーカは、馬子にも衣装なのかも知れなかったが、とてもマルギ広場で林檎を売っている娘とは思えない美しさだった。

 「ブルガリア侯マクシミヌス総督様に、アンジェリーカがご挨拶を申し上げます」

 アンジェリーカは、ドレスの裾を両指で摘まんで持ち上げると、マクシミヌスの前で片膝を付いた。

 これじゃまるで、淑女じゃ無いか!この娘だったら、ベリガウス殿も気に入るかも知れないな。

 流石はルフィアだ、人を見る眼が有る。

 マクシミヌスは、アンジェリーカを見初みそめたラーマクリオスの眼よりも、ルフィアの眼の方を褒め称えた。

 「アンジェリーカさん、ようこそ。さあ、こちらの席に座って下さい」

 マクシミヌスがそう言うと、ラーマクリオスはアンジェリーカの片手を取って、席まで案内した。

 やはり超一流のレスタウラントゥム 、栄光のピアチェーレで修行しただけの事は有る!

 アンジェリーカの貴婦人を思わせる身の動きに、マクシミヌスは感銘を受けていた。


 「アンジェリーカさん、貴女はお酒はたしなまわれますか?」

 マクシミヌスは、アンジェリーカに先刻さっきから敬語を使っている自分に驚いていた。

 「多少は」

 「おい、アマリウス!極上のワインとオリーブの塩漬けをここに持て!」

 「かしこまりました」

 マクシミヌスの側に控えていたアマリウスは、奥の厨房の方に向かった。

 「ラーマクリオスから聞きましたが、貴女はローマのピアチェーレで修行をされたとか?」

 「ええ、父もソフィアで店を出している料理人でしたが、叔父がピアチェーレで副支配人をしていた関係で、幸運にもピアチェーレで厨房に入れて戴く事が出来ました」

 「そうでしたか」


 「アマリウスの奴、やけに遅いな」

 そう言ってマクシミヌスは席を立つと、ラーマクリオスを手招きして自分の側に呼んだ。

 「ラーマクリオス、良い娘じゃないか!驚いたよ」

 「今の所はな」

 「???」

 「その内、かぶっている猫が取れる」

 「猫が取れるって?」

 「オレは、猫を被らないのアンジェリーカが大好きなんだ」


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