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第2章 イシスの影 4

 「おい、マクシミヌス。カンネ侯マニウス総督からの返事は来たのか?」

 「ああ、俺とサフィーネの婚約披露宴には出席するとの返事が来たよ」

 「それは良かったな。お前の父親と親友だったのは、随分と昔の話だろう?」

 「そうだが、マニウス侯は義理堅い方でな。俺が出征からエディルネに戻る度に丁重な便りを呉れる」

 「今時、ローマでお前と損得抜きで付き合う人物なんていないから、カンネ侯には感謝をしなきゃな!」

 「分かってるさ、ラーマクリオス。マニウス侯はローマからお呼びする唯一の方で、俺達の披露宴の主賓しゅひんだからな」 

 「ローマからは、マニウス侯だけなのか?」

 「そうだ。マニウス侯はセウェルス現皇帝陛下の側近中の側近だ。陛下にこの披露宴の事が伝わりさえすれば、それで万事が良いのさ」

 「お前が怖いのは、陛下からじかに賜る縁談だからな」

 流石に、ラーマクリオスは俺の心を見抜いている。 

 それにしても、今日は珍しく昼下がりの早い時間から、ラーマクリオスは俺の館にやって来たが・・・?

 こんなに早い時間から奴が来ると成ると、ラーマクリオスのお目当ては俺の秘蔵酒では無さそうだ。

 マクシミヌスは、いぶか眼差まなざしでラーマクリオスを見た。

 

 「マクシミヌス、実はな」

 「何だ?」

 「今日はオレの馬車に或る娘を乗せて来たんだ。今は館の前に待機させている」

 「或る娘を?」

 「マルギ広場で林檎を売っている娘だ」

 「ああ、この前、お前が林檎を買い占めた店の娘か?」

 「ゲホゲホ」

 ラーマクリオスは、急に咳き込んだ。


 「名前はアンジェリーカ。サフィーネとは気質は異なるが、やはり純粋な娘なんだ」  

 「ほう?だが、この前、お前が林檎を買い占めた時が初対面なんだろう?」

 「そうだが、それが何だと?」 

 「いやいや、俺も会う前からサフィーネと婚約したから他人ひとの事は言えないが、その娘をここに連れて来て俺に紹介するのは、流石に少し早過ぎないか?」

 「アンジェリーカは、ルフィアの紹介なんだ」

 「何?」

 ルフィアは縁結びの女神だ。

 ルフィアの紹介なら、この二人は案外うまく行くかも知れないと、マクシミヌスは内心ではそう思った。

 

 「お前も知ってる通り、オレの両親は頭が固い。俺の放蕩はもう諦めているが、結婚と成ると話は違う」

 「結婚だと?」

 マクシミヌスは驚いて、ラーマクリオスにき返した。

 「ああ、そうだ。オレとアンジェリーカとの結婚だ」

 ラーマクリオスは真面目な顔でそう言った。

 「お前は、ルフィアを自分の物にするとか言っていなかったか?」

 「それは、アンジェリーカに出会う前までの話だ」

 ラーマクリオスは真面目な顔付きを変えなかった。

 マクシミヌスは念の為に訊いて見ただけだったのだが、ラーマクリオスが毅然としてそう言うのなら、それはきっと本当なのだろう。

 と言う事は、ルフィアの競争相手がいなくなる訳だから、ラーマクリオスの恋路を応援してやっても良いかな?とマクシミヌスは思った。

 しかし幾ら何でも、昨日の今日では早過ぎるよな!他人の事は言えないけど。


 「アンジェリーカの気持ちは確かめたのか?」

 「だだ!」

 「未だだって、そっちの方が先だろう?」

 「アンジェリーカは、オレを好きに決まっている」

 ラーマクリオスは、更に真面目な表情に成った。

 「はいはい、分かりました。恋は盲目もうもくって言うからな。今はそう言う事にして置いてやるよ。所でラーマクリオス、お前達は何で俺の館に来たんだ?」

 マクシミヌスの話が終わらない内にラーマクリオスは、ぐぐぐいっと自分の顔をマクシミヌスの顔に近付けた。

 「お、おい、それ以上、顔を近づけるな!怖いだろ」

 「実は、お前に頼みが有ってな・・・」

 「頼み?話はちゃんと聞くから、兎に角、俺から離れろ!」


 「要は、俺の両親の手前、アンジェリーカにはれなりの家柄が必要なんだ」

 今時、家柄なんて関係無いだろう!と言いそうに成ったが、ラーマクリオスの両親の顔が浮かんで、マクシミヌスはその言葉を飲み込んだ。

 「まあな。お前は俺と同じで一人息子だもんな」

 「だろ?そこでお前にお願いなんだが、アンジェリーカをお前の養女にして呉れ!」

 「へっ?」

 「マクシミヌス、オレに何度も言わせるな!お前と養子縁組をしてアンジェリーカをお前の養女にするんだよ」

 マクシミヌスには、ラーマクリオスの言葉を正確に理解する為に、数秒の時間が必要だった。

 「がははは。俺は結婚もしていないのに、お前はアンジェリーカから俺を父上と呼ばせる気か?」

 「細かい事は気にするな」

 「気にする!」

 そう言った後、マクシミヌスはひょっこりと良策を思い付いた。

 最近、ルフィアやサフィーネと一緒にいる時間が長いからか、俺の策士としての才能が、覚醒し始めて来たのかも知れないな。


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